これは報われない恋だ。

朝陽天満

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320、俺の身長は関係ないよな!?

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「あとで健吾んちな」



 雄太はほんとに小さく呟くと、ヴィルさんを見てから「いただきます」と手を合わせて、ハンバーガーを食べ始めた。

 ヴィルさんは、その呟きが聞こえたのか聞こえなかったのかわからないけど、口元をくっと持ち上げてから、飲み物に口を付けた。



「詳細は健吾から聞いていると思うけれど、よろしく。ところで、今回の神殿クエスト、いつ頃行こうか。メンバーが多いから、日程を合わせたい。その日はちゃんと健吾のバイトも休みにするから」

「俺らは明日から夏休みだから、いつでもいっすよ。あとはメンバーに予定を聞いとくけど、ただ『白金の獅子』は社会人だから、あらかじめ行けそうな日取りを聞いとかないと」

「そうだな。俺もいつでもいいんだが。天使と弟とギルマスには予定を聞いておかないといけないな」

「天使? 弟? メンバー変わったんすか?」



 ヴィルさんの言葉に雄太が首を傾げたので、「クラッシュとヴィデロさんのことだよ」と教えると、雄太がまたも何かを考える顔をした。



「っつうか店主さんが天使って。見た目はすっげえ綺麗だけど、中身はしっかりと商人だろ?」

「うん。結構エグイよ。顔はいいけど」

「しかも弟って? 健吾の彼氏だろ。顔はそっくりだけど、弟?」



 ひたすら顔を顰める雄太に対して、ヴィルさんは楽しそうに笑っている。

 ちらりとこっちに目配せするのは、俺が雄太に何も話してないってことがわかったからかな。



「まあそこらへん、詳しくは健吾に聞いてくれ。多分説明してくれると思う。信じるかどうかは君次第だけどな」



 ヴィルさんがそう言ったことで、雄太になら話しても大丈夫、とヴィルさんが言ってくれてる気がした。



「んじゃあとで健吾を問い詰めることにします」



 雄太もそれで引いてくれた。あとの追求が凄そうだけど。でもこんな高校生がいっぱいの店で話せることじゃないしなあ。プレイヤーとか結構いそうだし。



「そのクエスト、内容はさっぱりわからないんすよね」

「ああ、そうだな。3人以上ってところがちょっと引っかかるから、きっと中に何か3人以上じゃないとダメな仕掛けがあるんだろう。それと、入り口の岩場が、全員は乗り切れないくらい狭いんだ。でも15人って制限がついてるってことは、どうにかしてそのメンバーは中に入れるってことだろうと思うから、その検証もしていきたい。中の様子と、どんな感じでアイテムを手に入れられるのかがわかったら、内容的にアウトな物じゃなければ公表していく方向で考えているそうだ。秘匿すべき情報ではないからな」

「いいんすか? それで」

「何せ俺が発見者だからなあ。情報開示は俺が考えるべきかと思うんだ。でも、流石にこれは公開すべき、ってことで、噂だけ流したんだろ? 君たちで」



 あの根も葉もなさそうな感じで流してもらった噂、やっぱりヴィルさんは出所をしっかりと把握していたんだ。って、そうだよね。今回声を掛けたメンバー以外知らないし。ってことはそこから以外流れないし。



「それにしても、何とも心強い助っ人が多数だな。安心して低レベルでも一緒に入れる」

「つうか今レベルどれくらいなんすか?」

「レベルは、そろそろ50に行くくらいかな」



 ヴィルさんの言葉に目を剥いた俺。だって、この間レベル1から始めたばっかりのヴィルさんがもうすでに50って。そんなに簡単に上がるものじゃない、はずなんだけどなあ。俺のレベルの上げ方がダメなのかな。って、雄太たちだってこの半年でレベルを100近く上げてるわけだから。ああ、俺のやり方がダメなんだきっと。でもパーソナルレベルを上げるよりジョブレベルとかスキルレベルを上げるほうが重要な気がするんだけどな。



「50か。健吾に聞いたときには始めたばっかりってことだったっすけど」

「弟とか天使に手伝ってもらったんだ。自分一人じゃそこまでレベルが上げられなかったからね。何せ、街を出て一匹目の魔物でHPを削られてリスポーンするくらいだ。健吾もそれを見てすごく変な顔をしていたしな」

「だって出てってすぐにキラキラって戻ってくるんですもん。びっくりしましたよ」



 口を尖らすと、ヴィルさんがその時の俺の顔を思い出したのか、くすくす笑い始めた。

 そんなヴィルさんを軽く流すと、雄太は食べ終わった包み紙を適当にぐしゃっと丸めてから、改めてヴィルさんに視線を向けた。



「んじゃ、なんかあったら俺らが護衛するってことでいいっすね。健吾は門番さんに守ってもらえ」

「え、やだよ」



 雄太の言葉に反論すると、雄太だけじゃなくて、ヴィルさんまで驚いた顔で俺を見た。



「なんでだよ。門番さん強いじゃん」

「でもヴィデロさんは死に戻れないじゃん。だから守ってもらわない。それくらいだったら俺が盾になるし」

「健吾お前……」

「健吾」



 二人同時に呟いた。雄太はちょっとだけ呆れ顔、ヴィルさんはちょっとだけ嬉しそうな顔をして。



 空になったトレイをまとめると、ヴィルさんは雄太に「直接会えて嬉しかったよ。次はADO内で会おう。姿はこのままだからすぐわかると思う」と手を差し出した。雄太はそれを一瞬じっと見てから、がしっと手を合わせて「俺も姿はそのままっすからすぐわかると思います。健吾と違って身長も変えてねえし」と返した。



「健吾の身長は他から見るとまだ可愛い方じゃないか? これくらいだろう?」

「いや、もうちょっと盛ってる」



 二人で親指と人差し指の間を思いっきり広げているのを見て、心のHPがぐっと減った。俺、そんなに身長盛ってた? まさか。5センチプラス2センチくらいだよ。そんな10センチ以上なんて盛ってないよ。だって向こうでもちびっこ扱いされるから。だからそんなに盛っては……。



「だって成人設定で身長伸ばしたろ」

「だから何でそんなこと知ってるんだよ……!」

「あ、本当に伸ばしてたんだ」



 かまを掛けられた……。ニヤニヤ笑いの雄太の足を机の下で蹴っても、雄太の顔は元には戻らなかった。くそ。



「その身長差はブーツだから……! ちょっと厚底のブーツだから! 俺に似合うからってトレの防具屋さんがおすすめしてくれたやつだから……!」

「防具屋の店主さんも健吾がちょっと背伸びしたいお年頃だってわかったんだな」

「ちっがーう! ……と思う」



 雄太の言葉を全否定しようとして、でもなんかそんな気もしないでもなくて最後に一言余計な言葉を付けちゃった瞬間、ヴィルさんが吹き出した。



「でも弟に可愛いって言われるからいいじゃないか。その身長だからこそじゃないか?」

「ヴィデロさんは同じくらいの身長だって好きって言ってくれます!」

「中身が健吾なら、なんだっていいってことか? 門番さんも徹底してるなあ。でも健吾、どうやって身長同じくらいにしたんだ? そんなアイテムあるのか? 教えろよ」

「違うから! でもって、そ、そんなの言葉のあやだし。身長同じくらいになんて……してないから」



 思わず漏らしてしまった秘密事案にすかさず突っ込んできた雄太を必死でごまかす。これもあとで追及事案になっちゃうんだろうな。やばい。

 冷や汗を垂らしながら「そろそろ出ますか!」とヴィルさんに声を掛けると、俺たちのやり取りを面白そうな顔をしながら見ていたヴィルさんが「そうだな」と含み笑いで立ち上がった。

 雄太もそれ以上はここで追及してくることはなく、素直に一緒に立ち上がった。

 二人とも身長がデカすぎるから間には立ちたくないな、と思う俺の気持ちもむなしく、2人に挟まれて店を出た。何で俺の周りの人ってみんなデカいんだよ。ちょっとだけ増田が恋しい。



「じゃあ、健吾。休み中は9時出社でよろしくな」

「はい。じゃあ明後日に。ごちそうさまでした」

「ああ、待ってる」



 車に乗り込んだヴィルさんは、胸元にあったサングラスを掛けて、俺と雄太にサッと手を挙げて車を発進させた。

 それを見送ってから、俺たちも自分の自転車を取りに駐輪場に向かった。







 まっすぐに俺の家に来た雄太は、椅子に座って頬杖を突きながら、俺を見下ろした。



「どこまで説明してくれるんだ? なんか色々と面白いことがありそうだけど」

「雄太がどこまで信じてくれるかによるんだけど」

「それ、上司も言ってたな。俺が健吾の言うことを信じられるかどうかってのがまず前提になってるのがちょっと俺的にムカつくんだけど。なんでも言えよ。全部信じてやるよ。健吾が嘘ついたときなんて一発でわかるしよ。身長伸ばすアイテムの時とかみたいに」



 じっと俺を見下ろしたまま、雄太が少しだけ眉間に皴を寄せてそんなことを言う。

 ホントに信じてもらえるのかどうかは……うん、賭けに近いけど。



「実はさ……」



 床に座り込んだまま、俺は雄太を見上げて、口を開いた。

 まずはどこから説明しようか。



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