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314、夢のドリームチーム結成!
しおりを挟むヴィルさんが流暢なこっちの世界の字で、クエスト内容を紙に書き出し、クラッシュとエミリさんに見せる。
すると、エミリさんがんー、と首を傾げた。
「エルフの里に、似たような伝承があったけど、それかしら」
「伝承?」
「ええ。内容はね、『あらゆる力を望む者、東の果ての霊峰にてそのあらん限りの力を持って試練を乗り越えし時、望む先の力を得ることが出来る』って感じだったかしら。でもここじゃなくて、今は魔大陸になってしまった大陸で伝わっていた言葉がエルフの里で残っていた、っていうかなり古い言葉らしいのよ」
「東の果ての霊峰……ギルドマスター、魔大陸も含めて、この世界全体の地図という物は、ここにありますか?」
「ないわ。それに誰もそんなものは欲しがらないしね」
世界地図ないのか。残念。もしここが東の果ての島だったら、その言伝えが本当かもしれないのに。
でも待って。ヴィデロさんと一緒に見たこの場所の地図、魔大陸は西の方にあるんだよな。
東側には何も書かれていなかったし、魔物も魔大陸から離れるから弱くなるんだよな。ってことは。
「ここが東の果てかも」
俺が呟いたと同時に、クラッシュも同じ呟きを零し、ハモる。
「だって、魔大陸から離れていくからウノの街付近の魔物は弱いんですよね。ってことは、東側には魔大陸に繋がる大陸がないってことでしょ。ここが最後の地なんだから、だったら、この地が東の果てだと思う。そして霊峰って、中央の山脈のことですよね。じゃあ、その言伝えの神殿かも」
俺の言葉に、エミリさんが頷いた。
「単なる言伝えだと思ってたわ。場所も内容も漠然としていて、全然信憑性がなかったんだもの。でも、この内容を見る限り、本物っぽいわね」
ヴィルさんの書いた紙を手に取って、エミリさんが口元をニッと緩めた。
「この入れる人数が限られるっていうのがちょっと気になるけれど、もう人数はいっぱいかしら?」
エミリさんは、身を乗り出すようにヴィルさんに問いかけた。あ、そうだった。雄太からの伝言を伝えていなかった。
「そうだ、ヴィルさん、ええと、参加人数、『高橋と愉快な仲間たち』と『白金の獅子』の8人、それと、勇者が一緒に行きたいそうなんですけど。なので、『マッドライド』は誘ってません」
「アルも参加するの? じゃあ私が参加しない手はないわね。まだ枠があるなら、私も連れて行って欲しいわ」
「え、母さんも行くの? 俺も行きたいんだけど」
「遊びじゃないのよ」
「でもアルさんも母さんも参加するなら、安全ってことだよね。じゃあ大丈夫だよ絶対。回復はマックがいるし、高橋たちは結構強いし」
「こういう時にセイジも呼べたらいいのに。って、もう人は足りちゃってるかしら」
首をかしげるエミリさんに、ヴィルさんが「天使とギルドマスターを交えても、14人なのであと一人は大丈夫です」 と答えると、クラッシュが目を輝かせた。
「じゃあ俺、セイジさんを呼んで誘ってみるね」
まるで遊びに行く誘いをするような顔つきで、クラッシュが魔法陣を描く。そして、「セイジさん」と宙に向かって呼びかけた。
こういう物が発見されて、勇者も母さんも行くみたいで、俺も、とか色々宙に向かって説明している。念話、みたいなものが出来るんだ、魔法陣魔法。すごいなあ、覚えたいな。でもまだ基本構築すら上手くいかないからMPばっかり馬鹿食いするんだよなあ。
こっちに来るって、とクラッシュが伝えるか伝えないかのうちに、目の前にセイジさんが現れた。……のはいいんだけど、すごくボロボロだった。
姿を現すなりその場にしゃがみ込んで、見るからに満身創痍っぽい状態で肩で息をしていた。
慌ててハイパーポーションを取り出して、セイジさんに渡す。
セイジさんは差し出された物を見て、それから俺の顔を見て、そして素直にそれを受け取った。
一気に呷ってぷはあ、と息を吐く。
「やべえ死ぬかと思った……」
「もしかしてダンジョンに入ってたんですか? あまり無茶はしないでくださいね」
「大丈夫だって。一緒に入ったやつらも何とか全員帰還したし」
はずれだったけどな、と苦笑しながら、所々穴が開いて擦り切れたり焼けこげたりしている外套を脱いだセイジさんが、それを丸めてカバンに詰め込む。もう補修も無理かな、なんて呟いてるってことは、また直して着る気だったのかな。
「ところでそっちの奴は? 見ない顔だな。『幸運』……とは違うな。強さがまるで違う」
セイジさんはヴィルさんに目を止め、んん? と首を傾げる。そういえば前にセイジさんはヴィデロさんを見て一発で『幸運』だって見抜いてたっけ。やっぱりセイジさんって基本ステータスとか色々見えてそうだよな。何せシークレットダンジョンが見えるくらいだもんなあ。何より、ヴィルさんを見て強さが違うって。もしかしてヴィデロさんの強さも見えてるのかな。
「異邦人のヴィルと申します。『幸運』のヴィデロの実の兄です。まだ駆け出しなので確かに弟よりは断然弱いですが」
「セイジだ。エミリとクラッシュの馴染みだ」
よろしくな、とヴィルさんに声を掛けるセイジさんは、なんとなくだけどヴィルさんを見定めているみたいだった。
「んで、古代の神殿が見つかったって聞いたんだけど、本当か?」
「見てこれ」
エミリさんは内容の書かれた紙をセイジさんに渡した。それを読んだセイジさんは、マジかよ……と小さい声で呟いている。
「アルも参加したいって言ってるらしいのよ。だから、私もクラッシュも連れて行って貰おうと思って」
「アルもかよ……あとは誰が参加するんだ? マックもか?」
「俺は発見者の一人なので、参加必須なんです。あとは、ヴィルさん、そしてヴィデロさんと『高橋と愉快な仲間たち』と『白金の獅子』です」
「そうそうたるメンバーだな……」
セイジさんにとってもその二組は知らない仲じゃないからか、俺から名前を聞いた瞬間くくくと肩を震わせた。
んじゃいつ行く、なんて話になった瞬間気付いたんだけど。
魔王討伐メンバー三人勢揃いじゃん!
なんかメンバーが凄すぎて逆に何かありそうで怖いよ。
ヴィデロさんにメンバーのこと何も言ってないし、大丈夫かな。っていうか、あああ。ドリームチーム……。
とりあえず落ち着くために雄太にチャット入れよう。
狼狽えるあまり、俺はエミリさんとセイジさんが「私はいつでも行けるわよ」「っつうか仕事しろよエミリ」なんていう気安いやり取りをしてる間に、雄太についついチャットメッセージを送るのだった。
『夢のドリームチーム結成!』
送り付けてから思ったけど、これだけじゃ意味不明だよね。
無事? 15人のメンバーも決まり、詳細は後日詰めることにして、エミリさんとセイジさんは魔法陣で消えていった。エミリさんをギルドまで送るらしい。
それにしても、凄いメンバーだな。
「どう考えても俺付属以外の何物でもないよね……」
俺がポツリと呟くと、クラッシュが俺の肩にポン、と手を置いた。
「大丈夫。マックは手持ちの回復薬を際限なく提供してくれたら、誰よりも輝けるから」
「……クラッシュ……」
「もちろん、店になくなりかけてるディスペルハイポーションを納品してくれたら、俺の中でマックは断トツMVPだよ」
「……クラッシュ」
がっくりと肩を落としながら、あとで納品することを約束させられた俺は、ヴィルさんと一緒に工房に帰ることになった。悪い気はしないけどさあ……。
でもこういうふうに順調にディスペルハイポーションが売れてるってことは、ますますジャル・ガーさんの所に行く観光客が増えてるってことだよな。いいことだ。
「あ、途中門の方に寄って行ってもいいですか? ヴィデロさんにも誰が行くのか教えないとだから」
「もちろん。今日は門に立ってたぞ」
「あ、もう顔を出したんですね……」
もしかしてヴィルさん、ログインするたびに門に遊びに行ってたりして。クラッシュもいつの間にやら仲良くなってたし。
もしかしてヴィルさんこそ人タラシなんじゃないかな。
門には、ヴィデロさんとマルクスさんがいた。
思わずヴィデロさんに走り寄ると、マルクスさんが「お、今日はヴィデロに攻撃かまさないのか」なんて揶揄ってくる。お兄ちゃんがいるから自重してますよ。そんな視線をマルクスさんに向けると、マルクスさんはヴィルさんに「よう」と手を上げた。
「ヴィデロの兄ちゃん。マックとデートか? 止めとけよ。ヴィデロに殺されるぞ」
めちゃくちゃ仲良くなっていた。
苦い顔をするヴィデロさんとは対照的に、マルクスさんがすごく楽しそうな顔をして、ヴィルさんにヴィデロさんの日常の様子を話していく。俺もそれ聴きたい。と目を輝かせてマルクスさんの方を向いたら、ヴィデロさんに顔を挟まれて優しく視線を戻された。俺を見ろってこと? 見ますとも。ずっと見てますとも。好き。
「俺がちゃんと教えるから。だから、マックはこっちを見てろよ」
「うん。好き」
鎧越しに抱き着くと、ヴィデロさんも俺の背中に腕を回した。好き。
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