これは報われない恋だ。

朝陽天満

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280、ティソナドスカラス大喜び

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 岩の先に進むと、確かに覚悟をしないといけないような雰囲気になった。

 まず、敵がやたら強くなった。さすがの雄太たちとヴィデロさんでも一人で単独撃破することは出来なくなり、雄太とヴィデロさんと海里が接近戦で敵を足止めしている間に遠距離攻撃でHPを減らすスタイルに変更された。

 出てくるのは一匹ずつだけど、その一匹を瞬時に倒していかないと、次が来るっていう感じだ。なんていうか、ボスラッシュってこんな感じかなって。魔物のHPは最低でもバー三本分である緑色をしているし、進むにつれて防御力も上がってくるのか、HPの減りが遅くなる。

 前衛も段々と攻撃を受けるようになってきて、俺のハイパーポーションが大活躍し始めた。

 ついでに、『感覚機能破壊薬センスブレイクドラッグ』も大活躍。あれを投げつけると、ちゃんとここの魔物にもしっかりと効くから、倒し損ねて群がられたときにとても重宝する。何せ俺たちに攻撃することができなくなるからね。

 第二のポイントである大きな樹の根元に着くころには、大分みんなくたびれていた。

 樹の影だけはセーフティーポイントらしく、魔物に見つからないんだそうだ。ただし、夜みたいに影のない時や、陽の当たり具合で影が小さすぎる時は休む場所もないらしいんだけど。前にエルフの里に行ったときに雄太が狩りを生業とするエルフに教えて貰ったんだって。

 そこで俺たちはいったん回復することにした。

 宿屋の旦那さんに貰ったバスケットを開いて、中身を皆に配る。

 早速かぶりついた皆は、あまりの美味しさに表情を緩めた。



「それにしても、前に来た時より数段楽になってるな。さすが勇者仕込みのパワーレベリング」

「それに門番さんが想像以上に強いから。連携もすごく上手でさ」

「ほんとにね。それにマック君のアイテムがあるせいかすごく楽」

「薬がなくなってもう回復できねえ、ってこともないしな」



 『高橋と愉快な仲間たち』がニコニコとそれぞれの感想を口にする。

 そうだろそうだろ。ヴィデロさんは強いんだよ。

 うんうん頷いてると、雄太が「ドヤ顔してるんじゃねえよ」と苦笑した。いいだろ。ヴィデロさんの強さを自慢したいんだから。



「それを言うなら、お前たちだって今まで見てきた異邦人たちの中じゃ断トツの連携だ」

「連携だけ?」

「強さだけなら、多分他にも沢山いるんだ。だけどな、連携がうまいパーティーは実はそれほど多くない。どこかしら、誰かに力が偏ってしまうんだ。きっと実力が均衡していて、とてもバランスがいいんだろうな」



 さっさとご飯を食べ終えてしまって、剣の手入れをしていたヴィデロさんが、ふと顔を上げて雄太たちにそんなことを言った。

 その言葉に顔を見合わせた雄太たちは、一瞬後にお互いのパートナーと手を打ち合わせた。



「門番さんに褒められちまった。なんか、強いって言われるより嬉しいな」

「そうだね。私一番レベルが上がらなくて足引っ張ってたから、すっごく嬉しい」



 そう言って微笑み合う雄太とユイは、俺が見てもとても微笑ましかった。海里とブレイブもそれぞれ微笑み合っている。

 う、なんか一気にいい雰囲気になったぞ。ここはもっと気を引き締めないといけない場面のはずなのに。ずるいから俺もヴィデロさんにくっつこう。

 そう思ってヴィデロさんの真横でピトッとくっついて座り直すと、ヴィデロさんの含み笑いが間近から聞こえてきた。その声も好き。





 木の影が少し移動してきたので、俺たちは先に進むことにした。

 腹も満たされ、スタミナHPMP全快で、木の影を出る。

 途端に咆哮が聞こえて来て、木の陰から魔物が飛び出してきた。

 俊敏な肉食獣の魔物は、身をひるがえして尻尾を振っては丸い雷の魔法を飛ばしてくる。

 うわあ、今度は魔法もガンガン使ってくるのか。こわ。



 必死で逃げ回りつつ、果敢に挑んでいく前衛組を応援しながら魔法陣魔法のまだまだ改良の余地ありな魔法防御を繰り出す。前の三人に魔法が掛かったことを確認してから、俺は後ろに下がって必死で跳んでくる魔法から逃げ続けた。どうして爪と牙で前衛を攻撃しながら尻尾で魔法を繰り出せるんだよ。万能か!

 時間はかからずに魔物を消し去ったものの、ブレイブとユイはそれぞれ少しずつ魔法に被弾していた。俺は攻撃には混ざってないから逃げ回れたんだけど2人はそうもいかないから。

 二人を回復しつつ前衛を見ると、ヴィデロさんの鎧がさっきの魔法攻撃を吸収していて、さらに模様が光り輝いていた。カッコいい。

 雄太も同じことを思ったらしく、視線はずっとヴィデロさんの鎧に向かっていた。次魔物来てるから。

 次もまた、すばしっこくて直接攻撃と魔法攻撃両方を持つ魔物が出てきた。ここから先はオールマイティー魔物の縄張りなのかな。一人で来てたら何回死に戻ってたことか。

 すばしっこいから『感覚機能破壊薬』を投げつけても当たりもしないのが辛いところだ。



「って、そうだった。俺に向かってきたところに投げつければいいんだ」



 ふとそう気付いて、俺は腰の剣に手を伸ばした。それに気付いたヴィデロさんに「マック!」と叫ばれたけど、一回だけ試してみてダメかな。

 片手に例の薬を持って、片手で剣を抜く。

 構えた瞬間、周りを牽制するように咆えていた魔物の目が光って、俺に狙いを定めていた。おおう、効果抜群。

 一気に間合いを詰めようと俺に向かって飛んできたのを見計らって、俺は手の中の瓶を魔物にぶち当てた。

 魔物のスピードが速すぎてちょっと手に牙が引っかかったけど、例の薬はしっかりと魔物の顔にぶち当たり、魔物が苦しみだす。本当はもっと遠いところでぶつけようとしたんだけど、速すぎて投げた時にはすでに目の前にいたんだよね。結果オーライだからいいけど。痛いからすぐにハイパーポーションを掛けながら、他の人たちがザクザク魔物を攻撃するのをただ見ていた。これ、今までより簡単じゃない? だってすごく時短。寄ってたかってなぶり殺し。

 早速提案すると、全員が渋い顔をしていた。



「あのな、お前は薬師。俺ら戦闘職。っつうかなんだよ今の。いきなりマックに標的を変えたけど」

「この剣の性能」



 雄太にティソナドスカラスの性能を説明すると、海里が厳かに俺に告げた。



「私の剣をあげるから、その剣はインベントリにしまおうか」

「何で?!」

「真っ先に狙われる人がそんな装備で防御力すら一番低いって、かなり問題だからね? まず囮になりたいなら、せめて門番さんくらいには魔物を抑える力がないとダメよ。それとも、その剣は門番さんに渡して門番さんを狙ってもらう?」

「それじゃ狙われるどころか魔物が怯んじゃうけど」



 有無を言わさず剣を鞘に納めさせられて、海里のちょっと小さめの剣を俺の腰に下げられてしまった。何かあった時用にって持ってたけど、攻撃力が低いし軽すぎるし、双剣じゃないから使ったことがなかった剣なんだって。沢山回復薬を貰ったから、代わりにそれをあげると言われてしまった。それこそ俺は薬師なんだから、薬を出すのが俺の仕事なんだけどな。

 うーんと唸りながら仕方なく海里の剣を手にしようとすると、ヴィデロさんがスッとお父さんの剣を俺に差し出した。



「マック、交換だ」

「でもその剣とこれ攻撃力が段違いだから火力が落ちちゃうよ」

「そうでもない。俺の父がその剣でマックを守ってくれる。そして俺はそのマックの大事な剣でマックを守る。最高だろ?」



 あ、うん。最高です。でも本気で攻撃力は減っちゃうよ。

 俺はそっとティソナドスカラスを渡しながら、魔法陣魔法を描いた。ひたすら強さだけを重視で。強くなれ、と。

 俺の描いた魔法陣の焼き付いたティソナドスカラスは、ヴィデロさんが持って構えたら、前よりも威圧が凄くなった。

 雰囲気まで強くなったらしい。そして俺のMPはごっそりなくなった。

 MPを補充しながらヴィデロさんから預かった剣を持ち直す。重さを感じないそれは、俺の魔法陣魔法が効いているらしく、今も魔法陣が光っていた。



 ヴィデロさんが剣を構えたところに飛び出した魔物は、ヴィデロさんの威圧に呑まれて必ずと言っていいほど先制攻撃の足が止まった。

 一瞬だけ怯んだように足を止めるので、その隙にこっちのパーティーが先制攻撃をすることができる。俺が囮になるよりももっと効率のいい攻撃ルーチンが出来上がった。ただしやっぱりヴィデロさんの攻撃力は少しだけ下がっちゃったけど。相手が足を止めることで雄太が思いっきり大剣を振り下ろせるので、その分上乗せになってるっぽかった。

 あまり怪我人もなく、回復薬がなくなることもなく、順調に俺たちは足を進めた。

 海里が腰に下げてくれた剣は、なぜか俺のインベントリにしまい込まれている。

 返そうとしても、海里が「じゃあ魔法陣魔法の実験をする時用にしたらいいのよ」と言って、頑として受け取ってくれなかったんだ。

 俺の腰にはヴィデロさんのお父さんの剣がぶら下がっている。ヴィデロさんの腰にはティソナドスカラスの鞘がぶら下がっていて、ヴィデロさんは刀身まで黒くしっかりと装飾までされている筋肉スキー剣を構えている。もともとが黒い鞘のせいか、黒い鎧にすごく似合ってる。好き。剣もヴィデロさんの手に渡って、心なしか嬉しそうだ。多分きっと生き生きしている。俺が持つと変わらず『衰威』が発動してしゅんとするからね。



 攻撃ルーチンが確立したおかげで余裕を持って魔物を倒せるようになった俺たちの進みは、さらに速くなった。そして複数の魔物に囲まれることもなくなった。

 一番活躍しているのは、確実に筋肉スキー剣だ。だって大好きな筋肉たっぷりのヴィデロさんに使われてるから。いつもより余計に威圧を放っております。魔法陣のせいなんだけどね。ちなみに攻撃力の上がり方は微々たるものだった。

 魔物を倒してから次が現れるまでの間に、俺はつぎつぎ回復薬をふるまっていった。大量に持ってきたから、いくらでも出すよ。市販のハイポーションと違って一発で全快するから回復時間も短縮だよ。

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