これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
260 / 830

257、『喰雷の義玉』の取り扱い説明

しおりを挟む


 次の日ログインした俺は、身体がもとに戻っていることを確認してから、昨日作った装備品用宝石を取り出した。

 何度鑑定してみても、雷吸収ってなってる。吸収したらどうなるんだろう。やっぱりHPとか回復するのかな。これを付けた装備品を着てる人に向けて雷魔法を打ち出したら回復魔法と変わりなくなるのかな。打たれる人はすごく嫌だろうけど。

 俺はその宝石をインベントリにしまい込んだ。もう使い道は決めてるんだ、と部屋の隅に置かれているヴィデロさんの黒い鎧をチラ見する。

 問題はどうやってこの鎧を防具屋さんに持ち込むかだよ。鎧って重いんだよなあ。

 インベントリに入れば楽なんだけど……。



「って、入ったし」



 インベントリって自分の物か持ち出してもいい物しか入らないんじゃなかったっけ。誰か他の人の所有物とかは入らないんじゃなかったっけ? これ、ヴィデロさんの鎧なのに。俺のインベントリに入っちゃった。

 でもラッキー、と俺は早速行動を開始した。







 工房を出て、軽い足取りで防具屋さんを目指す。

 早朝だっていうのに、防具屋さんのドアには店が開いていることを示す札がぶら下がっていた。



「おはようございまーす」



 ドアを開けて入って行くと、カウンター横の作業台で、防具屋のおじさんが何か作業をしていた。何かを調整するようなつまみとかがついてる見た目が少しゴツイ眼鏡をかけて、手には薄手の手袋をして、昨日俺とヴィデロさんで持ち込んだ布を手に持っている。早速加工してくれてたんだ。

 防具屋のおじさんは、俺の声に手を止めた。そしてゆっくりと顔を上げて、苦笑した。



「何だマック君。ちょっと性急すぎやしないか。まだ出来上がってねえぜ。早く欲しいところ悪いが、もう少し待ってくれないか?」



 俺が出来上がったか確認しに来たんだと思ったらしい。違うから。ちゃんと言われた日に取りに来るから。



「それじゃなくて、今日は違うことを頼みたくて来たんだ」

「なに、違うこと」



 防具屋のおじさんは、手に持っていたものを作業台の上に丁寧に置くと、カウンターの方に移動してきた。



「頼みってなんだい?」

「ええと、これを」



 インベントリを操作して例の宝石を取り出した俺は、それを手に乗せて防具屋のおじさんに見せた。

 やっぱりこのパチパチがいつみてもすごく神秘的だ。

 おじさんもその宝石に目を奪われたようで、掛けていた眼鏡を操作して身を屈めるようにして俺の手のひらの宝石を覗き込んだ。あ、眼鏡が伸びた! ピント調整とかしてるのかな。横のねじを回した! 俺もそういうの欲しいかも。どこに売ってるのかな。

 おじさんはしばらく石を観察してから、ほう、と息を吐いて眼鏡を外した。



「手に取っても?」

「もちろん」



 俺が頷くと、おじさんは恐る恐る宝石に手を伸ばした。



「『喰雷の義玉』か……なんつーもんを持ってるんだマック君は……」



 そんなことをしみじみというおじさんは、鑑定が使えるようだった。そうだよな、こういう店を開いてるってことは鑑定できないと話にならないよな。

 ありがとう、と言っておじさんはそっと宝石を俺の手のひらに乗せた。



「もしかしてその義玉を今作ってる腰巻につけるのかい?」

「あ、違うよ。違うのにつけて欲しいんだ。これなんだけど」



 一度カウンターに宝石を置くと、俺はインベントリから今度はヴィデロさんの黒い鎧を取り出した。



「辺境で買ってきた鎧なんだけど、これにこの宝石を付けて欲しくて」

「これは、マック君の鎧じゃないだろ。ああ、もしかして、ヴィデロ君のか?」

「うん。これを着てるとすごくかっこいいんだ」



 ヴィデロさんの姿を思い出してついついにやけると、防具屋のおじさんが肩を揺らした。笑いをこらえているらしい。



「でもなあ、この鎧、闇属性無効がついてるだろ」

「うん。それにプラスして雷吸収とか出来たら、かなり防御面で安心だよね。二つの属性が無効になるんだから!」

「ああ、まあ……この鎧なら、大丈夫か……」

「ダメなのとかもあるの?」

「もちろん。素材が弱い物で出来ている鎧は、強い属性を着けてもそれを最大限に発揮する前に壊れちまったり、その属性最大のメリットを十分に発揮できなかったりするんだ。例えばだ。ウノの街で手に入る革製の鎧。あれにこの義玉を付けたとしよう。その状態で雷の魔法を受ける。すると、その鎧の耐久値分だけは雷を吸収するが、もしそれよりも強大な雷だったりしたら、その耐久値以上の物を吸収する前に装備がダメになるんだ。ってことは本来強い鎧につけたら100すべての雷を吸収できるはずが、10も吸収しないうちに鎧がダメになって、残りの90の雷はいつも通りのダメージになっちまうってことなんだよ。わかるか? 鎧が死んだら着いてたもんもダメになっちまうからな。それに、吸収作用と耐久値は違うからな。そこんとこは肝に銘じとけな」



 おじさんの説明に、俺は感嘆の声を上げた。そんなの考えたことなかったよ。こういうのを付けたらそれでもう大丈夫なんだと思ってた。そうだよな。革の鎧につけたって猫に小判状態だよなあ。



「まあ、この鎧は最高級に近い出来の鎧みたいだからこの義玉を大部分使うことは出来るけどな。あんまりわかってないかもしれないが、マック君。この義玉、アーティファクト級の物だぞ」

「え、アーティファクト……?」

「ああ。ヴィデロ君から預かった魔物の皮もそうだが、ここら辺ではほぼ手に入らないかなり珍しいもんだ。二人がどんなヤバい魔物と戦ったのかを想像すると空恐ろしい物があるな」

「確かに魔物は強かったけど……」



 俺は手も足も出なかったし。

 ヴィデロさんも相性が最悪だったし。でもその宝石を付けた鎧を着てたら、もう一度あの魔物に会ってもこの間程酷いことにはならないんじゃないかな。他の魔物はどうかわからないけど。少なくともあの魔物でピンチになる率は格段に下がるってことだろ。

 防具屋のおじさんは、溜め息を一つ吐くと、じろりと俺を見た。



「いいか、無茶はするな。命を大事にしろよ」



 一言それだけ呟いて、防具屋のおじさんは俺の頭をわしわしと掻き混ぜた。

 防具屋の店主の言葉だけあって、かなり重みのある一言だった。



「わかった。この義玉はこの鎧に着けてやる。でもな、もしもっといい鎧が手に入ったら着け直せるから、とにかく鎧を壊すまで攻撃を受けるとかはやめとけ。鎧が壊れたら、この義玉も壊れちまうからな」

「うん。ありがとう」



 防具屋のおじさんは、鎧と宝石を受け取ってくれた。こっちはそれほど時間がかからないから、腰巻が出来る時に一緒に取りに来い、とのこと。わかった。二人で取りに来るね!

 トレの防具屋さんにも鎧は飾ってある。けれど、素材はここら辺近辺で取れる魔物の物か、北の山の麓で取れる鉱物を使った物がほとんどだった。確かにここら辺のに雷の宝石を着けてもあんまり強そうじゃないよね。

 と周りに目を向けて思い出す。



「そうだおじさん、鎧を立てるスタンドって売ってる?」

「甲冑台か? あるにはあるが、何でマック君が」

「ヴィデロさんが、その鎧を工房に置いて欲しいって言ってたから、無造作に置くよりは立てておいた方がいいかと思って」

「ヴィデロ君がマック君の部屋に鎧を。あの、あれか。君たちは一緒に住んでるのか?」

「住んでないよ」

「……独占欲、か、牽制か」



 そうかそうかと防具屋のおじさんは一人納得して、甲冑台を出してきてくれた。シンプルに台座に一本の棒が立っていて、上の方に横に短い棒がくっついている形状の物だった。



「これの使い方は……まあ、ヴィデロ君がわかってると思うから、やってもらいなさい。それにしても、な」



 防具屋のおじさんは、意味ありげな視線で俺のことを満遍なく見回した。



「これでクラッシュと同じ歳だもんなぁ……」



 あはい。小さいとか幼いとか言いたいんですねわかります。慣れました。

 甲冑台のお金を払って、受け取った台をインベントリにしまい込む。

 生暖かい目で見送ってくれる防具屋のおじさんに複雑な気分で手を振って店を出ると、俺は早速台を置こうと工房に戻った。







「どこに置こうかな。置く場所がありすぎて逆に悩む」



 うーんと唸りながら、一時的にキッチンの隅に台を置いた。でも鎧は防具屋さんに置いてきちゃったから、そこにあるのが台だけっていうのがちょっと寂しい。

 でも寝室はなあ。夜ログインして暗がりにあの鎧が立ってたら「ヴィデロさんが来てる?!」ってぬか喜びしちゃいそうだしなあ。鎧だって気付いた時の虚しさを想像して身震いした俺は、寝室は却下、と呟いた。やっぱりここでいいか。





 今日はヴィデロさんは仕事だから、と俺はまたも錬金のレシピを開いていた。

 辺境ではかなりの種類の錬金用素材が手に入ったから、もしレシピが埋まってるところがあったら積極的に作って行こうと思う。あの宝石はかなりのレアものだったらしく、あんまり上がってなかったジョブレベルが上がった。ってことは、ここで作れるやつを片っ端から作って行ったら、もう一レベルくらい上がるんじゃないかな。また変なのが出来たら楽しいんだけど。

 そんなこんなで、俺は一日マジックハイパーポーションとスタミナポーション片手に錬金をしたのだった。サラさんのレシピは10種類くらい増えたのが嬉しい。



 そしてなんと、ようやく俺の目潰しの正体が判明した。今日一番の収穫だ。

 辺境の魔物からゲットした『痛麻酔』っていう素材が本来の素材だったらしく、今まで痺れスパイダーの『麻痺袋』で作っていたこれを『痛麻酔』で作ってみたら、ちゃんとレシピに絵が現れた。『痛麻酔』なんて名前からして痛そうで、取り扱い注意なんだけど!

 出来上がった本物の目潰しの正式名称は『感覚機能破壊薬センスブレイクドラッグ』だった。こわ! なんて怖い物を使ってたんだ俺は。今までの目潰しは名称がなかったから勝手に目潰しって呼んでただけなんだけど、感覚機能破壊って……。

 まあでも錬金って代役の素材でも劣化版が出来るんだってことが証明されたってことだよな。でもこの薬、今度から怖くて対人には使えない。

 説明文に『激痛を伴う五感の破壊 激痛が去ってもバッドステータスが付与される』ってなってる。うわあ、これ、ボス敵にも効くのかな。効いたらかなり有利になるんだけど。でも対人に使うのはやっぱり躊躇うよなあ。

しおりを挟む
感想 508

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...