これは報われない恋だ。

朝陽天満

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254、物理攻撃ダメ絶対

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 魔法陣を出した俺が多分一番今の音にビビったと思う。

 ヴィデロさんも驚いて目を見開いてたくらいだし。お、俺たちまで感電しなくてよかった!

 も、もしかしてこれがコンセントを濡れた手で触ると感電する系の反応?! にしては凄くない?!

 一帯に白煙が広がり、そこから出てきたのは、HPが結構減っているさっきの魔物。やった!

 ……なんて喜んでる場合じゃない。

 俺の目の錯覚じゃなかったら、さっきまでの電気よりさらに大きな電気を纏っていた。え、俺、ヤバいことしちゃった⁈

 それでも魔物の頭上のHPはバーの半分ぐらいまでなくなっていて、今の化学反応的攻撃が魔物自身にも効いたんだっていうことをうかがわせた。でももうやりたくない。さらに電気が大きくなったらもうシャレにならない。

 今のうちに、とマジックハイパーポーションを飲んでMPを全回復させて、早速次の魔法陣を描く。水もだめとなると、次は土魔法陣!

 またも魔法陣を飛ばして頭上から岩を落とすと、魔物の周りの電気が防御して、全く攻撃は通らなかった。詰んだ。

 俺あんまり攻撃魔法って思い浮かばないし手数も持ってないんだよおお!

 苦し紛れにインベントリ内の目潰しを出して投げつけると、魔物がひらりと躱す。



「マック、下がってろ」

「でもこの魔物、物理攻撃すると感電するから!」



 ヴィデロさんは俺の言葉にわかってる、と頷いた。

 構えて俺に向かって一直線に飛び掛かって来る魔物を、サッと間に入って剣でいなす。

 途端にまたもヴィデロさんの身体がビリビリとなって、ヴィデロさんが苦痛の表情を浮かべた。

 攻撃魔法がダメならバフ掛けなら!

 キュアポーションをヴィデロさんに掛けると、俺は今度は防御をあげる魔法陣を構築した。でも防御までまだいってないんだよな……!

 基本は防御力向上、だけだったような。必死でヴィデロさんが帯電しないように言葉を並べていく。そして魔法陣を飛ばす。

 ああ、MPごっそり持ってかれた! どこかがダメだったんだ。でもちょっとは防御力上がってるかな! 魔法防御力向上とかも入れたんだけど!

 ヴィデロさんは再度魔物の攻撃を剣で防ぎ、やっぱりビリっとしていた。ダメだ、雷防げてない。

 ヴィデロさんの陰で急いでMPを回復して、一緒に取り出したキュアポーションでヴィデロさんの身体に纏った雷を消す。

 そのまま剣で攻撃しても、間一髪で逃げられてしまうから、あまり有効打も入らない。

 どうしよう!

 と頭をフル回転させていると、後ろの方で甲高い笛の音がピィィィィィと鳴った。



「……っすまない、助かった……っ」



 後ろから声がする。騎士団の人が起きたらしい。そして今の笛で居場所を知らせたらしい。

 すぐに立ち上がって俺たちの横に来たけど、大丈夫なのかな。

 俺はすぐさま剣をしまい、インベントリからハイパーポーションを取り出して騎士団の人に渡した。



「すぐに飲んでください。回復します」



 騎士団の人は受け取ると一気飲みをし、ちょっとだけ目を見開いてから顔を綻ばせた。



「この味は……」



 飲み干した瓶をポイと投げ捨て、ヴィデロさんの横に立つ。



「こいつは最悪に剣と相性が悪いんだ。直接触れるとさっきまでの俺みたいになるから気を付けろよ」

「わかってる」

「遍く火の聖霊よ、鋭き矢となり邪なる物を貫け! 行け! ファイアアロー!」



 ヴィデロさんの返事にニヤリとした騎士団の人は、次の瞬間には魔法を飛ばしていた。

 魔物が炎の矢を次々躱していく。でも数個被弾して、今度は狙い目を騎士団の人に変えたらしい。

 そっかファイアボールじゃなくて矢にすれば細くて鋭くてもっとスピード出るのかも。

 ダメもとで!

 さっきのファイアアローを思い出しながら、魔力を凝縮して細く鋭利な弓矢を装飾する文字を紡いでいく。

 描きながら二人の後ろから一歩横に動き、魔法陣を完成させた。

 魔法陣から矢が数本飛び出していく。本数を設定したときにMPが一気にググっと減ったから、もしかして本数でMPも変わってくるのかも。ってことは、MP全部注ぎ込めばその分の炎の矢が出せるってことかな。すげえ、魔法陣すげえ。

 でも残念ながら、魔物に被弾したのはたったの一本だった。ちょっとしか削れなかった。でもやってみる価値あり。

 魔物の攻撃を防ぐのはヴィデロさん。剣で爪を牙を防ぎ、弾き返している。



「ヴィデロさん大丈夫?!」

「ああ、さっきマックに掛けてもらったやつのおかげか、最初程効いちゃいない!」



 爪と剣が交差するたびに、金属音と共にバチバチと電気の散る音がするのが耳に痛い。

 その間にも、騎士団の人は魔法を飛ばして攻撃している。ヴィデロさんを攻撃しながらも飛んでくる魔法をひらりと躱すこの魔物、どれだけ素早いんだよ!

 なかなか減らない魔物のHPバーは、未だに緑色をしている。まだまだ元気ってことだ。強すぎだろ!

 決定打がないまま必死で魔法を紡いでいると、マップにマークが現れた。

 現地の人とプレイヤーの混合の集団だった。

 すごいスピードでここに向かっている。





「母なる大地の聖霊よ、お前たちの顔を踏みつける邪なる物を捕縛せよ! グランドプリズン!」



 騎士団の人の声に合わせて、地面が地鳴りと共に持ち上がる。一瞬にしてガキン! と牢屋の様な物が出来上がったけれども、中には魔物がいなかった。

 魔物の帯電の光が木の上から見える。一瞬でジャンプして上に逃げたらしい。ほんと速い。

 そして魔物は木の上から身を低くしてこっちを伺っているのか、足を止めた。



 魔物が木の上でグルルルしてる間に「くそ、魔力切れそうだ……!」と呟いた騎士団の人にマジックハイパーポーションを渡して、ヴィデロさんにもハイパーポーションを渡す。

 手が触れた瞬間、静電気がバチっとしたから、ヴィデロさん今結構辛い状態なんじゃないだろうか。



「くっそ美味いなあ! もしかして最近辺境に薬卸してくれる薬師って、お前か?」



 様子見をしている魔物から目を離さずにそう問いかけて来る騎士団の人に「そうだけど」と答えると、騎士団の人は「くそ」と吐き捨てた。



「最悪な巻き込み方しちまった……! お前が死んだら俺ら終わりも同然だから、逃げろ」

「いやだ」

「いいから逃げろ。俺のせいで薬師を失ったらもう俺生きる資格がねえよ」

「大丈夫。俺、死に戻り出来るから。だからもし最悪の時は俺を囮にして逃げてね。もちろんヴィデロさんも」

「マック!」



 ヴィデロさんが咎めるような声を発するけど、これだけは絶対だよ。俺は大丈夫だけど、二人は死んだらそこで終わりだから。こういうときは魔素の身体便利だよね!



 時間が経ったせいか、魔物の電気は最初のころくらいの大きさに戻った。

 もしかして木の上で俺たちを様子見しながら落ち着けていたのかな。

 お互いが一歩も動かず様子見しているところに、こっちに向かっていた集団が合流した。



「高橋! それに勇者も!」

「何でマックがこんなところで門番さんといるんだ?!」



 駆けつけてきたのが勇者率いる現地の騎士団数名、そして『高橋と愉快な仲間たち』『白金の獅子』なのに驚いていると、俺とヴィデロさんを見た雄太も驚いていた。

 まあ、そうだよね。

 一気に人数の増えた俺たち陣営を見た魔物は、スッと立ち上がり、すうっと息を吸う動作をしたかと思うと、いきなりものすごい咆哮を発した。

 咆哮と共に四方八方に雷の帯が走る。

 構えられなかった俺は、その咆哮で身体が竦んで動けなくなった。ヤバい、効いちゃった。

 直立している俺と魔物の目が合い、魔物は次の瞬間俺に向かって木の上から跳躍した。でも動けない!

 目を見開いたままただただ魔物が急接近するのを見ていると、身体が横に引かれるのと同時に身体中に電気が流れたような衝撃が来た。さっきの攻撃を掠ったみたいだった。そして俺を包む硬い物は、黒い鎧。助けてくれたんだ。でもヴィデロさんに腕を引かれて抱き込まれたってことは、ヴィデロさんも攻撃受けたってことだよな。



「……っ」



 ありがとうと声を掛けようとしても、声が出なかった。今度は起き上がろうとして、身体中がビリビリしていて動けないことに気付いた。もしかして、ヴィデロさんも動けないのかな! 動ければすぐにキュアポーション掛けるのに!

 視界に映るヴィデロさんは、苦悶の表情をしている。早く! 麻痺解けろ! ヴィデロさんを回復しないと! なんて焦ってもなかなか麻痺は解除されない。



「安らぎ運ぶ風の聖霊よ、目の前の二人に健やかなる癒しの風を! キュアヒール!」



 ドレインさんの声と共に、身体を光が包んだ。スッと痺れがなくなって、麻痺が解かれる。ヴィデロさんも麻痺が解けたようで、俺から腕を解いてスッと立ち上がった。



「暖かなる風の聖霊よ、そのその優しさ溢れる癒しの風で我らを包み込め、ハイヒール!」



 今度はHPが回復する。魔法すごい。

 完全復活した俺たちが立ち上がった時には、すでに魔物を取り囲む陣営が出来上がっており、ユイとユーリナさん、そしてブレイブが中心になって魔物に遠距離攻撃をしていた。うわあ、ぼっこぼこ。女性陣強い……。

 魔物の性質を知っているらしい騎士団の人たちは、魔法を使える人をガードするかのようにただ防御に徹していた。

 HPバーが赤くなった時にもう一度咆哮が来たけど、今度はわかってたから何とか一瞬で硬直を解き、俺も後ろで回復に徹することにした。あの女性陣に入るのはちょっと勇気がいるからね。

 ブレイブとユーリナさんは魔法の矢をひたすら弓から発射し、100パーセントの割合で魔物に命中させていた。これがトッププレイヤーの腕か。そしてユイはひたすら火力の強い魔法を打ちまくっていた。両手剣の雄太と双剣の海里は応援部隊と化していた。勇者はただ腕を組んで戦闘を見物し、ガンツさんと月都さんも一応構えてはいるけどユーリナさんの前でガードに徹していた。

 さっき助けた騎士団の人も魔物を逃がさないよう退路を断つ場所で構え、こうなると俺も見物部隊に入るしかなくなる。



 ほどなくして、女性陣(中の人のみも含む)の活躍によって、魔物は光と化した。

 雄太に教えて貰った話によると、あの魔物はここら辺のユニークボス的存在で、推奨レベルがパーティー単位だと120、単体だと140くらいなんだとか。うわあ、そんなのに挑んじゃったんだ。無謀過ぎた。でも見過ごせなかったしなあ。

 しかも遠距離攻撃が出来ない人が単体であの魔物に出会うと、そこで詰むとか。わかる。だって触れただけでビリビリだった。

 見た目は大きくないけど、纏った雷とあの素早さのせいで、危険度が凄く高い魔物だったみたいだ。

 しっかりと俺にも経験値が入り、レベルが上がった。

 それにしても、辺境、やっぱり凄いところだった……。



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