これは報われない恋だ。

朝陽天満

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248、ヴィデロさんのお休みは俺がいただいた!

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 今日は二人とも名前の知らない門番さんだった。



「お、マック。朝っぱらからどっかいくのか?」

「マック、今日の森は魔物量が多いみたいだから気を付けろよ」



 でも俺の名前は浸透してるんだよな。



「おはようございます。ヴィデロさんに会いに来たんですけど……」



 きょろきょろしながらそう言っていると、後ろを通るプレイヤーが「なんだ今日はくっついていかないのか」と揶揄ってくる。



「何、俺らにも抱き着くのか。ほら、来い」



 ふざけに乗って両腕を開く門番さんと笑いながら見ているプレイヤーに「しないよ!」と文句を言っていると、詰所のドアが開いて、ヴィデロさんが顔を出した。

 そっちにダッシュして突っ込んでいくと、ヴィデロさんが極上の笑顔をくれた。朝から眼福だ!



「なあ、お前もしかして、この鎧着た人たち、完璧に見分けてねえ……?」



 俺がためらわずに突っ込んでいったのを見届けたプレイヤーが驚いたような顔をして訊いてくるけど、そんなの無理に決まってるじゃん。



「俺がわかるのはヴィデロさんだけだよ」

「じゃあ、お前は門番さんが100人くらい同じ鎧を着て立ってても、その人がわかるってのか?」

「多分ただ動かないで立ってたらわからないと思う。でも動いてるんだったらわかるよ」



 俺の答えに、そのプレイヤーは戦慄していた。隣にいたプレイヤーも。

 だって好きな人の行動って目で追っちゃうから、癖とか見慣れるとわかるよね。



「悪かった。野暮なことを訊いた。俺は誰が何と言おうとお前とそこのイケメン門番さんのことを認めるよ。なんか、うん。そういうのちょっと羨ましいな」

「うん、顔が隠れてても見分けてもらえるのって、ちょっと理想だよな。俺もそう言ってくれる可愛い子いないかな……」

「ここでだけでもいいからそういうのしてみたいな……」



 プレイヤーたちが遠い目をしながらはははと力なく笑う。

 頑張ってADO内彼女見つけろよ、と心の中でエールを送って、ヴィデロさんを見上げる。



「今日は早いな。どうしたんだ?」

「ちょっと珍しい物を手に入れたからスープを作ってみたら美味しくて思わず沢山作っちゃってさ。門番さんたちに差し入れを」



 俺がそう言った瞬間、鎧を着て立っていた門番さん二人がああああああと頽れる。



「何でそういうときに俺はこんなところに立ってるんだ!」

「くっそ交代時間まだか!」

「さっき立ち始めたばっかりだろ。そういうことならおいで、マック。中に入ろう」



 門番さん二人に苦笑してから、ヴィデロさんが俺を中に迎え入れてくれた。

 俺たちの分も残しておいてくれぇぇぇという嘆きを背に、俺は食堂に通された。

 食堂にはかなりの数の門番さんたちがいた。丁度朝ご飯が終わった時間帯らしかった。北門の方の門番さんたちも一緒にご飯を食べていたらしい。



「あいつらは飯を食ったばっかりで腹いっぱいだから、放っといていいからな」

「でも結構大きい鍋に作ってきたんだよ。ヴィデロさんも食べたばっかりだった?」

「俺は食堂に来た瞬間呼び鈴が鳴ったから、まだなんだ。ラッキーだったな」



 にこやかに椅子を勧めて、その横に自分も腰を下ろしたヴィデロさんの目の前に、じゃあ、と大きな鍋をインベントリから取り出してドンと置く。

 未だに鍋はぐつぐつと煮立っていた。

 蓋を開けると、すごく食欲を刺激させる匂いが食堂に充満する。



 鍋を覗き込んできた門番さんたちが、鍋の中身を見て目を見開く。

 そこかしこから「これ食い物なのか?」「毒じゃね?」なんて声が聞こえてくる。ほんのり紫チックだけど、ちゃんと青っぽいじゃん。それにすっごく美味しいのに。って、青いからダメなのかな。食欲減退の色だし。

 でもヴィデロさんは顔を綻ばせたまま、早速お椀を持ってきてよそっている。まあ、俺の料理に慣れてるから。

 綺麗と言えば綺麗なスープを一口飲んで、ヴィデロさんは目を輝かせた。



「今まで食べた中で一番美味い……! それにこれを飲んだら、なんかここら辺がすごく熱くなる気が」



 そう言うと、ヴィデロさんは片手で鳩尾の辺りを押さえた。

 胃にも効果あるのかな牙の発熱作用。寒い所に行くなら凄くいい料理になったかも。

 ってそうだった。まだこれの鑑定とかしてみてないや。



「……スタミナ上昇、力上昇、耐寒作用、聖属性付与のスープなんだって」



 出てきた説明を読みながら、ヴィデロさんに説明する。

 すると、周りからわっと声が上がった。

 色合いを見てドン引きしていたはずの一人がさっとお椀を差し出して、「俺にもくれないか?」なんて言いだしている。

 それにつられるように全員がお椀を持ち出してきた。慌てて乞われるままにお椀を出してくる食堂の人が大変そうだ。



「これは俺の!」

「ヴィデロ一人で食いきれる量じゃねえだろ」

「俺も欲しい! マック! いいよな!」

「ああ、うん。皆用にたくさん作ってきたから。じゃあ、一列に並んで」



 俺がそう言った瞬間、塊のようだった筋肉たちは綺麗に一列に並んだ。

 さすが騎士団、統制が取れてる。

 差し出されるままに一人一杯ずつよそう。

 貰った人はおとなしく空いている席について食べ始めた。

 そこかしこから美味しいの声を貰ってホッとする。残りはすべてヴィデロさんが完食してくれたのが嬉しい。



「ごちそうさま。美味しかった」

「お粗末様でした」



 その後、俺はスープを食べた一人一人にお礼と次の催促を貰いながら椅子の間を縫い、ヴィデロさんに手を引かれて奥の居住区に向かった。



 ヴィデロさんは、部屋に入ると俺をベッドに座らせて、隣に腰を下ろした。



「今日は朝から嬉しいことばかりだ。マックの今日の予定は?」



 すごくいい笑顔を浮かべながら訊いてくるヴィデロさんに、俺はその顔に見惚れながら首を振った。



「特に決めてないよ。ヴィデロさんは今日はお休み?」

「ああ。今日と明日は休みだ」



 やった。今日早めログインしてよかった!



「ヴィデロさんは予定は?」

「特には……。裏で鍛錬するくらいしか思いつかなかったな」

「やった! じゃあ俺と二日間お出掛けしようよ!」

「勿論」



 二日もあるなら、転移を駆使して二人で辺境まで行けるってことだよ!

 マジックハイパーポーションを大量に持って、辺境デート!

 ワクワクしながら行先を告げると、最初は驚いた顔をしていたヴィデロさんの顔が、苦笑に変わった。



「二日で辺境に行って帰ってこれるっていうのも、かなり贅沢だな」

「使える力は使うよ。その方が腕も上がるしね」



 気合いを入れるためにぐっとガッツポーズをすると、ヴィデロさんが小さく「可愛い」と言ったのが聞こえた気がした。

 何はともあれ、ヴィデロさんと辺境デートだ! 嬉しいなあ!



 





 ヴィデロさんはしっかりと外泊届をブロッサムさんに出して、しっかりと許可を貰うと、腰に帯剣し、いつもの軽装で詰所を後にした。

 まずは工房に行って、お出掛け用意をしてからそこから跳ぶ。二人だったらどこまで跳べるかなあ。砂漠都市まで行けるかちょっと試してみよう。クラッシュとかセイジさんのようにはいかないのが残念だけど、転移が使えるだけましだと思うことにしよう。普通だったら自分の足を使わないといけないんだし。

 ハイパーポーション各種を詰め込んで、ちょっとした食べ物も詰め込む。何かあった時用にと調薬キットも。一つ一つ確認してインベントリに詰め込んでから、隣に立っていたヴィデロさんを見上げた。



「準備おっけー」

「そうか。でも無理だけはするなよ」

「しないよ。大丈夫。っていうか、二人でどこまで跳べるかの実験もしたかったから手伝ってね」



 ヴィデロさんと手を繋いで、砂漠都市の農園を指定した魔法陣を描く。

 サボテン畑が目に入ったから、二人で砂漠都市までは跳ぶことに成功。残りMPは微々たるものだった。

 早速マジックハイパーポーションを一瓶呷って一気に回復させて、今度は辺境街を指定。

 ぐぐと魔力が減って、描き切った瞬間魔法陣が消えた。さすがにあそこまでは跳べないか。

 少しだけ心配そうな顔になったヴィデロさんに大丈夫、と視線を送って、もう一度MPを回復させると、今度はオットの街を指定した。

 今度こそ成功。農園はほぼ誰もいないから、跳ぶのにはすごく重宝するなあ。いつもお邪魔してます。

 MPを回復させて、今度こそ辺境に跳ぶ。

 大きな壁が遠くに見えたことで、辺境に来たんだと実感した。

 三度の転移魔法陣で来れるっていうのは凄く便利。

 ヴィデロさんは周りを見回してから、感嘆の吐息を吐いていた。



「こんなに早く辺境に着くなんて、すごいな……」

「遠くでもすぐに来れるし、二人だと魔法陣魔法のレベルが上がるのも早くなるから一石二鳥だよ。ただし、俺が行ったところじゃないといけないんだけどね」



 本当は、何かの法則があるらしくて、座標の様なものを描き込めばそこに跳べるらしいけど、その座標とか全然わからないから使えないんだ。変なところに出ちゃったら生死にかかわるから。



 しばらく二人で、遠くに見える大きな壁を眺めていた。



「あの壁があるからこそ、この大陸に一斉に魔物が入って来れないようになっていると父から聞いたことがあるんだ」

「そうなんだ。端が見えないね。すごく大きい」

「ああ。この国一画すべてを覆っているらしいからな」

「ここからあの壁まで、どれくらいあるのかな。ここら辺の魔物、すごく強そう」

「俺はここら辺の魔物と戦ったことはないから何とも言えないが、父が魔物の大群が押し寄せてきた時にこの前線で戦ったらしくてな、セィ付近の魔物四体同時に戦ったとしても、辺境の魔物一体の方が苦戦するって言ってた」



 ヴィデロさんのお父さん、めちゃくちゃ強かったんじゃなかろうか。ここの魔物を一人で一体倒しちゃうんだ。そして、セィ付近の魔物も一人で四体とか普通に倒しちゃう人だったんだ。親子そろって強いとか、すごくかっこいい。



「じゃあ俺が10人くらいいても、辺境の魔物一体も倒せないってことだね」

「マックが10人……。そ、それは全員お持ち帰りしたいな……」



 俺が思わず呟いた言葉が、ヴィデロさんのツボにはまったらしい。ヴィデロさんはしばらくの間、肩を震わせていた。

 全員お持ち帰りって。いらないって言われても全員でくっついてくけどね。



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