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239、パーティー行動楽しい!
しおりを挟むスノウグラスさんと二人で森を歩く。
歩きながら色々話したんだけど、スノウグラスさんはADOを始めてまだ一年くらいだそうだ。パーソナルレベル40くらい。
「どうして支援魔導士を選んだんですか?」
「意気込んで始めたはいいけど、何をしたらいいか迷ったときにジョブおじさんに声を掛けられたんだ。お前は支援魔導士なんてどうだって」
「なるほど。あの人が言ったことなら間違いないですね」
「うん。そして近くにいたパーティーに声を掛けてくれて、こいつを育ててやってくれないかって紹介してくれて。今もそのパーティーメンバーはいい友達なんだ」
「そっか。俺はずっとソロでやってきたからそういうのちょっと憧れるなあ」
その人たちがいたからこそ、親戚に捕まってもやめないでいられたとか。
蹴散らして戻って来いとか言われたんだそうだ。そのパーティーは今現在砂漠都市付近で活動してるとか。
「マック君はパーティーとか入る気はないのか?」
「俺は基本トレで活動しているので、パーティーを組んじゃうと相手に迷惑を掛けるか先に進めなくなるんですよ。それに今はヴィデロさんと付き合っているので、トレから動く気もないですし」
俺がそう言うと、スノウグラスさんはハッとした様な顔をした。
「そういえばマルクスさんがそんなことを言っていたな。相手は門番さんだろう? ……そういう設定で遊んでいるのか?」
「設定とかそんなんじゃなくて、本気で好きなだけです。あの人たちは、NPCなんかじゃなくて俺達と同じように生きてる人たちなんです。かっこいいし面白いし、贔屓するし、それに人を揶揄って笑うし……っ」
ふと顔を背けて肩を震わせるヴィデロさんの横で転がって大笑いしていたマルクスさんの笑い声を思い出す。思い出したらイラっとしてきた。あんなに笑うことないじゃん。
ぐっと拳を握りしめていると、それに気付いたスノウグラスさんが小さく笑った。
「確かにそうだ。彼らはNPCで括るには表情がありすぎる。普通、感情のない物は、どれだけスムーズに話を出来ても、どれだけ優れた身体能力を持っていても、目が一切の感情を映さない作りものの様な感じなんだ。でも、彼らは表情もそうだけど、目が、生きていた。このゲームを始めた時から気になっていたんだが、皆、目が生きてるんだよな。そんなリアルすぎるゲームがあったなんて、と衝撃を受けた憶えがある」
「俺も最初はそれで驚きました。NPCってこんな表情が出来るんだって。だって最初に向かった冒険者ギルドの受付の人が、俺を慈愛の目で見るんですよ。まるで小さい子を相手にしてる時みたいに」
憤慨したことを思わず暴露すると、スノウグラスさんが笑い出した。
「もっと身長を高く設定して始めればよかったのに」
「それは思ったんですけど、ここにログインしていい気分で遊んで、ログアウトした後に絶対に最大級の虚しさが訪れると思うと、どうしてもそこまで高く設定できなかったんです」
「そ、それは現実的なんだな……ゲームはゲーム、と割り切ればいいのに」
「俺、そんな器用な性格じゃないですよ。あ、でも顔は作ってますよ。……現実は、もっと童顔なので……」
チーン、という擬音が聞こえてきそうな沈黙だった。
捨て身のネタとかじゃないのが伝わったみたいだ。スノウグラスさんにまで慈愛の目で見られてしまった。
「あ、向こうに魔物が」
空気を変えるようにスノウグラスさんが斜め前方向を指さす。
確かに二匹の魔物がいる。これは魔物で憂さを晴らすべきか。
よし、と気合を入れて、俺達は魔物の方に向かった。
魔法陣魔法で火球を二発飛ばして一匹を葬る。もう一匹には目潰しを投げて剣で突っ込む。
魔物は、剣一撃で光と化して宙に消えていった。バフが掛かってるからね!
「マック君は一人でも戦えるんだね」
「ソロでしたから、これくらいはね。とはいえ剣が強くなったからこそなんですけど。魔法陣魔法もまだまだレベルが低いので、威力が低いんです」
「魔法陣魔法か。昨日色々と調べてみたんだけど、そんなスキルをゲットした人はいないみたいだった」
「俺も偶然教えて貰ったような物なので。最初は古代魔道語を無理やり覚えさせられて、そこからこれだけは覚えておいてって転移の魔法陣を教え込まれたんです」
「そうか。それはもしかして、英雄の息子にか? 昨日、見つけてしまって。マック君が載ってる掲示板を。有名人だったんだな」
有名人?! ちょっと待って。俺、どんなことを掲示板に書かれてるんだよ。
そんなにすぐ見つけられるくらい載ってるってこと?!
「俺、しがないトレの薬師ですよ?!」
「英雄の息子専属薬師って言われていたな。あと、結構詳しい動向が載っていた。今日は雑貨屋に顔を出したからきっとハイポーション納品されてる、とかそんな感じで」
う、うわあああ。
雄太たちが一部の掲示板でひたすら話題になったのを見てニヤニヤしてたけど、自分がそんな立場になるなんて。
「何ていう掲示板ですか……?」
「『トレ街ハイポーション【マック作】情報』」
「名前まで載ってた……!」
「でも昨日飲んだマジックハイポーションの味と性能は確かに納得だった」
顔を両手で覆って天を仰いでいると、スノウグラスさんが真顔でそんなことを言って俺を慰めてくれた。でもあれは実はマジックハイポーションじゃなくてマジックハイパーポーションなのです。上位アイテムなのです。
「でも、そんな有名人なマック君がこんな簡単に俺とパーティーを組んでくれるなんてって思うと、とても嬉しかった。それにその掲示板のマック君情報を見ていると、もっとなんていうか、プレイヤーと話をしない真面目でつっけんどんな態度の薬師っていう感じを受けるし」
「話はしますよ。でも皆声を掛けるときは大抵「ハイポーション売ってくれ」なので、きっぱりと断ってるだけなんですけどね」
「個人的には売らないんだ」
「いいえ、売りますよ。気に入った人には。俺、えこひいきしますから。スノウグラスさんもパーティー仲間のよしみで安値で売りますから。ただし他の人には内緒ですけど」
「贔屓するんだ。ふふふ」
「もちろんです」
きっぱりと言い切ると、スノウグラスさんはまたもありがとう、と一言呟いた。
原価で売るよ。何せパーティーメンバーですから。
一緒に素材を集めて、出てきた魔物は俺が倒して、そして森を歩く。
薬草知識スキルがあるというだけあって、スノウグラスさんは素材の良しあしがわかるみたいだった。俺が鑑定を使って初めてわかる素材の良しあしを、素材を見た途端にわかる、みたいな。俺は薬草知識は持ってないから、ちょっと羨ましいかも。どうやったらスキルゲット出来るかなあ。でも採取はやっぱり俺の方が圧倒的にレベルが高くて、お互い教え合いながらかなりいい素材をゲットした。
「あ、待ってマック君。あの木の葉っぱ、『煎じて飲むと酔い冷ましの効能がある』らしいよ」
「え、知らなかった。じゃあゲットしないとですね!」
「そこの黄色い花、食用にもできるみたいだ」
「刺身に飾られてる花みたいですね。ゲット!」
二人で背伸びしては葉を採って、しゃがみ込んでは花を摘んで、っていう行動が楽しい。すごく楽しい。
スノウグラスさんも、戦闘よりこういう採取の方が楽しいらしく、始終笑顔だった。うん。さすがアバター、美形顔。こわばった顔をしているときはすごく硬そうなイメージがあったけれど、笑うといきなり柔らかくなるなあ。髪の色もほわんとした色で、ちょっと癖ッ毛が入ってるから、なんか、美味しそうな雰囲気なんだけど。
薬草知識のおかげか、新しい素材を見つけることもできて、ホクホクと帰路に着いた俺達。
帰りも素材を見つけると取り方を伝授してフラフラと寄り道をしながら歩を進め、気付くとトレに続く街道に出ていた。
「農園だと、森の薬草とか月見草よりランクが上の物を販売してくれてるのでお勧めですよ。そのまま調薬とかもやればいいのに。簡易調薬キットでも結構色々な物を作れますから」
「それも面白そうだな。英雄の息子の店に置いてあるかな」
「あります。っていうか俺のおさがりでよければ使ってない調薬キットあるのであげましょうか?」
「そこまではしてもらえないよ」
街道を歩いてトレの街に進んで行くと、向こうから見たことのある顔のパーティーがやってきた。
あれは、前に門の所で取り分がどうのって揉めてた人たちだ。
サッとスノウグラスさんの表情が固まる。そういえばトレイン君が言ってたな。こいつらは親戚ストーカーと繋がってるって。
向こうもスノウグラスさんに気付いたのか、こっちを指さして何か騒ぎ出した。
「もしかして、逃げた方がいいですか?」
「あまり、顔を合わせたくはないな」
「じゃあこっちに」
スノウグラスさんの手を取って、街道から森の方に入る。あいつらが来る前に門の近くまで逃げよう。
と、姿が見えなくなったところで手を取ったまま魔法陣を描く。
すぐさま視界がかわり、すぐ近くがトレの街への入り口、という森の中に出た。工房に行くと中から出て来たってことでヴィデロさんを心配させちゃうんだもん。
「やっぱりすごいな、転移。俺も覚えたいくらいだ。そうすればあいつが現れた瞬間逃げられるのに……」
真剣に呟くスノウグラスさんの本当に迷惑している気持ちがひしひしと伝わってくる。
願わくば、さっきの奴らが「あいついた!」なんてメッセージをストーカーに飛ばさないことを願うよ。
多分無理だろうけど。
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