これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
235 / 830

232、一波乱の帰路

しおりを挟む

 話しながらもしっかりと索敵するスノウグラスさんは、何でもそつなくこなすタイプに見えた。俺にはない器用さが光ってる。

 大分目的地に近くなり、魔物がそろそろ強くなってくる場所に差し掛かっても、スノウグラスさんの索敵はとても冴えていた。ほんと俺、さっきから途中生えてる素材の採取しかしてないよ。でも今日はレアものが多かった。やった、今日はついてる。



「この素材は俺が採ると使い物にならないんだけどどうすればいいんだ?」

「それは根っこから手で優しく掘り起こすようにして、長く地面に刺さってる根を少しだけ残して採るんです。そうすると、その根が育ってまたそこにその素材が生えますから」

「ああ、わかったやってみる。って、採取レベルが上がった。マック君は凄いな」

「慣れです。俺、素材集めと生産しかしてないですから」



 うまく採取できたものをそっとカバンにしまい込んだスノウグラスさんは、横にあった同じ素材をさらに練習とばかりに採っている。

 魔物が強くなった辺りからは素材もいい物とかレア物に変わってくるから、採取してる人にはこの変化は楽しい。用心棒がいればだけど。

 マルクスさんは俺達がしゃがみ込んで色々やってるのを暖かく見守りながら、来る魔物来る魔物をひたすら剣で切っていた。そして急かすようなことは一切言わなかった。



 ようやく目的の花の場所に着くと、俺は持っていたハイパーポーションをマルクスさんに渡した。今はもうハイポーションはクラッシュの所に納品する分しか作ってないから。そしてマジックハイパーポーションをスノウグラスさんに渡す。二人とも味と回復量にひたすら驚いていたけど、だって薬師だからで押し通してみた。マルクスさんは「まあマックだしな」で済んだけれど、スノウグラスさんは笑顔で薬師を強調する俺の意を汲んだのか何なのか、突っ込まれることはなかった。何か言いたそうな顔をしていたのは見なかったことにした。さ、採取採取。



「この花は採取しちゃうと丸一日で枯れちゃうものなんです。だから今日の日没までっていう時間指定があるんです。俺もこの間採取した物をそれで数本ダメにしちゃったので。だから帰りは採取しないで全速力で帰りましょうね」



 花の取り方を伝授しながらそう言うと、スノウグラスさんは神妙に頷いた。そして既定の本数分採取した花をしっかりとインベントリに入れてホッと息を吐いて、表情を緩めた。



「んじゃ、帰るか」



 というマルクスさんの言葉を合図に帰路についた俺たちは、順調に足を進めていた。

 そして少し進んだところで、マップのマークに異変が起きてることに気付いた。

 ハッと顔をあげると、スノウグラスさんも気付いたらしく、俺と目を合わせた。



 俺達が進む進路上の一か所に、異常に敵マークが集まっていた。まるで誰かがトレインしちゃったみたいなそんな感じの動きだった。

 だって先頭はプレイヤーマーク。その後ろから魔物のマークが後を追うように動いている。



「トレインだ……」

「トレイン、か?」



 俺とスノウグラスさんが同時に呟く。それを聞いたマルクスさんが顔を険しくした。手を腰の剣に伸ばしている。



「こっちに向かってんのか」

「来てます」



 スノウグラスさんの返事に、マルクスさんは一歩俺たちの前に出た。

 魔物の数は十を超えているのがわかる。位置的には弱い魔物を引き連れてるんだと思いたい。でも微妙な境界線なんだよなあ。姿が見えれば魔物のHPバーの色で弱いか強いかわかるのに。でもまあ強い魔物だったら、あんなふうになる前に死に戻ってる気がする。でも数が多いなあ。

 俺もインベントリから目潰しを取り出して、すぐに投げられるようにした。

 迂回するって手もないわけじゃないけど、今魔物から逃げてるプレイヤーの動きがかなり無軌道だからどこに進むのか読めないんだよな。地形的に酷いところでバッティングしたらヤバい。



「奥に眠りし力よ、目覚めろ、活力向上アクティブアップ。何事にも動じない精神になれ、胆力向上ブレイブアップ」



 スノウグラスさんの呪文で、ステータスが底上げされる。そして威圧耐性が付いた。支援魔法すごい。



「うわ、やる気出てきた。とりあえずここら辺なら通れる道が決まってるから、魔物が多くても一気に囲まれることはねえな。うまいことこっちに逃げて来いよ」



 舌なめずりしそうな勢いでマルクスさんが剣を構える。結構近い距離まで来ているトレインは、索敵がなくてもそろそろ俺達がマップに映り込む位置まで来ているみたいだった。迷わずにまっすぐこっちに向かい始めた。

 草を掻き分ける音が聞こえてくる。俺たちは足を止めて逃げているプレイヤーと魔物を待った。



 そう間を置かずに、結構ボロボロになった鎧姿の人が木の間から飛び出してきた。そして魔物の群れも。鎧の人が俺たちの間を抜けた瞬間、マルクスさんは剣を薙ぎ、俺は目潰しを投げた。

 魔物の阿鼻叫喚が聞こえる。それをマルクスさんが難なく葬っていく。

 横からくる魔物も、マルクスさんは危なげなく剣で切り捨てた。



「お前は……!」



 後ろでスノウグラスさんの険のある声が聞こえてきたけど、まだ魔物はいるから振り向いていられない。

 トレ周辺にいる弱い魔物だから、俺でも対処できるのが救いだよ。

 未だ下手くそな剣を振るいながら目潰しで弱らせ、消した魔物が十を数えたころに、新たな魔物が飛び出してきた。トレ周辺の魔物のHPバーは赤、もしくは黄色なんだけど、その魔物の頭上には緑色のバーが見える。

 弱い中に強い魔物も入ってたのか。

 残り魔物四体。これが全部強い方だったらちょっと危ないかも。



「なあマック」



 剣で魔物を切り付けながら、マルクスさんが口を開いた。



「ヴィデロはこの魔物、瞬殺してたか?」

「さっきまでのなら出来たけど、流石にこれを一撃では倒せなかったよ」

「そうか。最近訓練であいつに負けっぱなしで、な!」



 だってヴィデロさん、獣人さんたち相手にすごく鍛えてたもん。人族と獣人じゃ身体能力が全然違うから、まさにレベルの違う訓練をしていたってことだよ。

 魔物の牙を剣で押さえ、そのまま下あごを切り裂いたマルクスさんは、一瞬だけ俺に視線を向けた。

 何か言いたげだったけれど、魔物に集中することにしたらしいマルクスさんは、その後は口を開かず、ただ剣を揮った。

 ふと後ろから揉める声が聞こえてきたので、後ろを向くと、逃げてきた鎧の人がスノウグラスさんに掴みかかっていた。

 と同時に魔物が二体横から出てきた。



 必死で魔法陣を描いて、魔力を凝縮したファイアーボールを飛ばす。そしてもう一体に目潰しを投げる。

 先に戦っていた魔物に止めを刺したマルクスさんは、「くそ!」と舌打ちしながら目潰しでもがいてる魔物に向かった。



「ちょっとそこ! 何してるんだよ!」



 魔法陣を描きながらスノウグラスさんに掴みかかっている人に怒鳴ると、その鎧の人は「うるせえ!」と怒鳴り返してきた。

 違うことをしながら魔法陣を描くと入れ忘れるワードとか出てくるから効果が低くなっちゃうんだよ! まだ初心者だから! 



「まずこの魔物を何とかしろよ! あんたが連れて来たんだろ!」



 そう叫んでる間にも、マルクスさんの腕を魔物の爪が掠る。

 それを見たスノウグラスさんが息を呑んで、自分を掴んでいる鎧の人にガン! と蹴りを入れた。



「まず状況を読めよ! エイシンが連れて来た魔物だろ! 俺にこんなことしてる前に、まずは向こうを何とかする方が先だろうが!」



 スノウグラスさんのもっともな言葉に、鎧の人が舌打ちして手を離した。

 自由になったスノウグラスさんはこっちに走り寄ってきて、俺とマルクスさんにまた支援魔法を掛けた。今度は魔力アップのやつだ。助かる。



「魔力アップ嬉しい! 自由な風よ、そこに集まり形と成し、標的を押しつぶせ! ストムプレス!」



 効果アップの風魔法は、さっきのファイアーボールよりよほどHPを削った。まだまだ改善の余地ありだよ魔法陣魔法。



「サンキュ! でもスノウグラスは前に出て来るな! こいつら、さっきの所に出た強さの魔物だ!」

「でもマルクスさん傷が!」

「これくらいなんでもねえよ!」



 マルクスさんが身体を動かし、魔物とスノウグラスさんの間の軌道に入るところに移動する。

 手からは血が流れているけど、もう一体俺が必死に魔法で抑えてる状態だから回復が難しい。全然削れないよ、魔法陣魔法! レベル低いからかな! それとも構築が悪いのかな!



「エイシン! 何でそこで突っ立ってるんだよ!」



 魔物にデバフの魔法を掛けながらスノウグラスさんが叫ぶ。やっぱり知り合いだったんだ。でもその人、立派な鎧を着てるくせに武器持ってない。

 顔をゆがませてるから、きっと武器がなくなったんだろうなと思う。



「武器が耐久値なくなって使えなくなったんだよ! そんな状態で戦えるわけねえだろ!」



 ああ、やっぱり。それを聞いていたらしいマルクスさんも、呆れたような表情を一瞬だけ浮かべた。





しおりを挟む
感想 503

あなたにおすすめの小説

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...