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196、リア充たちめ
しおりを挟むここら辺の魔物は、馬が走ろうとなんだろうとお構いなしに襲ってくる。
でもヴィデロさんは馬の上から俺を抑えつつ剣を振り、しっかりと魔物を倒していた。
セィからオットに行くときもそうだったけど、それまでの道は騎乗で移動だとエンカウント率が低かったことを考えると、やっぱり先に進むのはレベルを上げて行かないと難しいってことだよな。火力火力。
時に馬から降りて魔物を倒すため、オットからセッテへの道はかなり時間がかかってしまった。朝に出たのに、夕方にセッテに着いたような感じだ。
なので、セッテに一泊して、明日から移動、という話だったんだけど。
「明日はもしかしたらずっと寝たきりになっちゃうかも」
「……ああ、マックの世界で、何かあるのか」
ヴィデロさんが俺の所を話題に出す。途端に心臓が跳ねた。だって、ヴィデロさんがそういうふうに言ったの、聞いたことなかったから。
俺も極力向こうのことは話題に出してなかったから。
「うん、今日が一年の一番最後の日で、明日が一年の始まりなんだ。だから、ちょっとここに来れるのが、遅くなるかもしれないんだ」
「そうか。セッテから砂漠都市までは一日がかりの移動だから、馬に乗ってから眠ることも出来るが」
「……俺、ヴィデロさんと一緒に景色を見たいから、移動は俺が起きてる時がいい……これは、我がままだけど」
ヴィデロさんに抱えられたまま馬の背で寝てしまった俺が言うことじゃないけど。とヴィデロさんを見上げていると、ヴィデロさんはふっと表情を緩めて、俺の頭を撫でて、ローブを少し直してくれた。
「じゃあ明日は移動しないことにしてもいい。何も慌てて移動しなくても、日程の決まっていない旅程なんだから」
「うん。ヴィデロさん好き」
微笑むヴィデロさんについつい突っ込んで抱き着くと、ヴィデロさんも俺をハグし返してくれた。好き。
今日は早めにログアウトしないといけないのがつらい。そのことを言うと、ヴィデロさんは早めに宿屋に移動してくれた。
先に休めよと言って椅子に座るヴィデロさんに見送られながらログアウトして、下で年越しの用意をしている両親のもとに向かった。
「あ、健吾。よう!」
下に行くと、リビングには、父さんと、なぜか雄太とユイがいた。
「何で?」
思わずそう呟くと、ユイがあわあわして「だって雄太が行くって強引に……!」と言い訳していて、ちょっと和んだ。
「初詣に誘おうと思ってきたんだけどな」
「え、マジで? 今年は絶対に雄太はユイと二人で行くから誘われないと思ってた」
思わぬ誘いに驚いて本音をぶちまけると、ユイが雄太の隣で困ったような焦ったような顔をしていた。まあ、俺の家に来るとは思わなかっただろうし、初めて来る家で緊張してるんだろうな。
母さんがにこやかに二人にお茶とお菓子を勧めている。
「ちらっと歩いてるところを見かけてはいたんだけどね。雄太君、唯ちゃん可愛い子ね」
「うん。めっちゃ可愛い」
母さんの言葉に軽く答える雄太に、ユイが顔を一瞬にして赤くしてる。それを見て楽しんでる雄太は結構イイ性格してると思うよ。
「一緒に年越し誘ったんだけど、ゲーム仲間と初詣行くんでしょ? 健吾も行くの?」
「ここまで誘いに来たんだから断れねえよな、健吾」
雄太の言葉に苦笑して頷く。
初詣って言っても、近所のちょっとだけ大きい神社に行くくらいだから。学校の近くにあるんだ。
でもゲーム仲間ってことは。
「増田とブレイブも来るんだ」
「ああ。現地集合。ブレイブが出店のチョコバナナ食べたいって言ってたから。唯も食うよな」
「え、あ、私も?」
「食うよな。奢るから」
ためらいがちに頷くユイを、俺と母さんと父さんが生暖かい目で見る。雄太がこんなに溺愛する人だとは思ってなかったらしい。っていうか俺には雄太がユイにエロ攻撃しているようにしか聞こえない。
願わくば、うちの両親がその攻撃に気付かないでくれますように。
コートを着込んでマフラーで顔を半分埋め込んで、俺は雄太たちと外に出た。寒い。
雄太を挟んで向こうにユイ、こっちに俺で三人で並んで歩く。
「今日はずっとデートだったのか?」
「ああ、辺境街でな」
うん、同じだった。きっと勇者に扱かれてレベル上げかな。
「健吾は何してたんだよ」
「オットからセッテに移動してた」
「何でそんなところに」
俺の答えに雄太がちょっと驚いたような顔をしていた。
「冬休みに入ってすぐに宰相のクエストをクリアするためにセィに移動し始めて、そこから色々あって、中央付近をひたすら馬で縦横無尽に移動してた」
「連携クエストか?」
「うーん。そうなのかな。宰相のクエストをクリアするときにちょっと教会と揉めてさ、そこから」
「省くなよ。気になるだろ」
雄太のデコピン攻撃をサッと避けて、俺は教会であったことを雄太に話した。
拉致されたこと、石像のこと、そして教皇が実は悪者でしっかりと裁かれたことまで。
「だから今俺のインベントリには石像の欠片がゴロゴロと入ってるんだ。あとはジャル・ガーさんの所に持って行ってくっつけるだけ」
「なんか面白いことになってるな。俺らは今度皆が一斉に時間が取れたら北の方にある洞窟に行くって勇者に言われた。『白金の獅子』も一緒に。野営の準備を怠るなって」
「勇者結構いろんなところに連れてってくれるんだな。もしかして引率の先生?」
勇者が旗を持って集団を引き連れている図が連想されてしまった。
でも実際には俺なんかついていけないくらい凄いことになってるんだろうなあ。
暗い中歩きながら神社を目指す。
ちらっと見たら、お隣組さんは手を繋いでいた。
俺はヴィデロさんを一人置いてこんなところを歩いているのに。心が寒い。
神社に着くと、そこには既にブレイブと増田が待っていた。合流して、さらに心が寒くなる。俺、必要なくね?
「郷野! 休み中何してた?」
「想像してくれ。多分それだ」
「フルタイムログインねわかります」
ふざけながら神社の中に入って行く。普段は人っ子一人いないような神社なのに、今日は人だかりが出来ていた。それでも多分映像で流れるような人しか見えない境内満員電車状態まではいかないからましな方なんだろうなあ。
まだ年が明けてないからか、人の流れはあんまりなく、皆がそれぞれに新年になるのを待ってる風だった。これが年明けした瞬間移動するのかと思うと、ちょっとだけげんなりする。潰されないかな。
「そうだ、郷野。タルトのお礼、まだしてなかったんだけど、何がいい? 雄太が酒を送っちゃったんでしょ。じゃあ違うほうがいいのかなって思って」
「うーん、そうだなあ。何かないかなあ」
はっきり言って、雄太から火酒をたんまり送って貰ってたせいか、増田がそう言ってたのをすっかり忘れていた。
どうしようか悩んでいると、ユイが「あ、あれは?」と声を上げた。
「健吾君珍しい物好きでしょ。今度遠征するとき、まだあんまり人が行かないところに行くって勇者が言ってたから、そこで変な素材を採ってきたらいいんじゃないかな」
「え、それマジ? 欲しいかも」
ユイの素晴らしい提案に乗ると、増田が気合いを入れた。
「たんまり取ってくる。ただし、すでに郷野が持ってたらごめん」
「いいよ、それでも素材のランクは全然違うだろうから。何が送られてくるのか楽しみにしてる」
「任せといて」
そんな話をしているうちに、除夜の鐘が鳴り始めた。煩悩を消すんだっけ。ゴーンと響く鐘の音を聴いていると、確かに頭が空っぽになるような気がする。
人だまりがだんだんと列をなし、動き始めたので、俺達も流れに逆らわずに動き始める。
結構前の方にいたので、そこまで時間もかからずにお参りできた俺たちは、境内を抜けたところで解散することになった。これからブレイブは増田の家にしけこむらしい。親公認なんだってさ。
雄太はユイを家に送ってくとか。はいはいお二方爆発してください。
俺は。
俺はログインしてヴィデロさんの寝顔を堪能しようかな。楽しいって、今までにないくらい楽しいって言ってくれた最愛の人を一人放っておくなんて俺が辛いから。
ちゃんと、神様に祈ったんだからさ、ヴィデロさんの無病息災。お賽銭奮発したんだから頼みます。って、違う世界の人はここの神様の管轄外なのかな。
家に帰ってくると、テーブルの上に書置きがあった。
曰く、「父さんと母さんは○○神社にお参りに行ってくるね。キッチンテーブルにおせちが用意してあるから、お腹すいたら食べてね」だそうだ。
デートにいそしむことにしたんだな。車が外になかったし、かなり有名な神社に向かったみたいだから、帰ってくるのはかなり遅くなると見た。
俺は一通り身の回りのことをすると、深夜、ギアを被ってログインした。
ヴィデロさんは、寝てる顔もかっこよかった。好き。
俺はヴィデロさんを起こさないようにもそもそと起きだして、インベントリの中を見た。
簡易調理キットを出すと、ここに来るまでに結構ゲットした魔物肉、そしてオットの街で手に入れた野菜を取り出し、小さなテーブルの上で調理を開始した。
ここで新年をちょっとばっかり祝ってもいいじゃん。なんて思って。
さすがに簡易調理器具だと複雑な物は作れないのが悔やまれる。工房でおせち作りたかった。
そのままインベントリにも収納できるような物をたくさん作ると、満足して俺は手を止めた。
全てインベントリにしまい込むと、俺はもそもそとヴィデロさんの横にもぐりこんだ。
途端に筋肉の腕が俺を引き寄せる。
「……おはよう、もう朝か……?」
ちょっとだけまったりした口調なのがたまらない。
「もう少し。まだ外は暗いよ。起こしちゃった?」
「マックが起き出した辺りでな。それより、マックいい匂いがする。美味そう……」
「お腹空いた?」
「食ってもいいのか……?」
すんすん匂いを嗅ぎながらそんなことを言うヴィデロさんにきゅんとしつつ苦笑する。まだ寝ぼけてるのかな。
「起きたら食べる?」
「もう起きてる」
結構料理を作ったから、とヴィデロさんに視線を向けると、ヴィデロさんはじっと俺を見つめていた。
「なんて、冗談だ。獅子の石像が治ったら、ゆっくりと食べる」
ちゅ、と一つキスを落として、ヴィデロさんが俺の髪を手で梳いた。
ヴィデロさんの「食べる」が俺の事だったって気付いたのは、ヴィデロさんがベッドから立ち上がって行ってしまってからだった。
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