これは報われない恋だ。

朝陽天満

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192、ヴィデロさんの魔法かっこいい!好き!

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「次は、砂漠都市の下の方にある二つのバツ印かな」

「うん。一度砂漠都市に寄ってから行く?」

「ああ。ここで野営して、明日の朝砂漠都市に向けて走れば、その日のうちにこの近場の一か所には行けるかもしれない」



 野営! 野営といえばクラッシュと森の中を逃げた時にして以来だ。

 旅の醍醐味だけど、野宿って言ったらゆっくり休めないイメージしかないよな。

 きっとヴィデロさんの事だから、俺を寝かせて後は一人でずっと起きてそうだし。

 ムムム、と考えていると、ヴィデロさんはその顔を野営が嫌なのかと思ったらしく、屈みこむように俺の顔を覗き込んできた。



「ここから砂漠都市まではずっと砂だから、ここら辺の森があるところで休まないと、大変だぞ? それとも強行軍で砂漠を突っ切るか? ただ、今借りている馬は砂漠があまり得意じゃなさそうな体格をしているから、明日ゆっくり移動しようと思ったんだけど、どうする?」

「あ、え、野宿でいいよ! ただ、ちゃんと交代で見張りをしようね。絶対ヴィデロさん、俺が交代時間に起きなかったらそのままずっと見張りをしてそうだもん。明日も俺は乗ってるだけ、馬さんを走らせるのはヴィデロさんなんだから、ちゃんと交代で休もう。俺だってここら辺の魔物だったらちゃんと倒せるんだからね」



 覗き込むヴィデロさんをガン見しながらそう言うと、ヴィデロさんは苦笑してわかったと答えた。

 砂地からちょっとだけ横に移動して森に入り、森の中で枝を集める。

 枯葉と枝を組み上げて、ヴィデロさんがそこに手をかざした。



「この世のあらゆる事象の中で一番尊き炎を司る聖霊よ、ここに舞い降りて我々にその気高き炎の欠片を与え給え、ファイア」



 枯葉にボッと火が付く。

 うわ、ヴィデロさん、魔法も使えたんだ! 初めて知った!

 すごいヴィデロさんが魔法なんてすごくかっこいい! 剣も使えて魔法も使えるなんて、ほんとヴィデロさんなんでもできるなあ。好き。あ、でも料理が出来ないのも可愛い。好き。しかも唱えた呪文がなんかすごく騎士っぽい!

 俺が感動して火を見ていると、ヴィデロさんがくすっと笑った。



「俺は剣馬鹿だから、こういう小さい魔法しか使えないんだ。だからそんな感動した様な顔するなよ。マックの方がよっぽどすごい。転移は使えるし古代魔道語を読めるし最上級の薬を作れるし。でも剣がダメなところも可愛くていい」

「俺は可愛くないよ。でもヴィデロさんが魔法使うの初めて見た」

「こういうちょっとした魔法は、騎士になるときに叩き込まれるんだ。隊列を離れてしまって一人でいても生き残れるようにと。ただ、俺の場合水と雷の魔法だけは全く使えなかったな。素質がないんだろうなあ」

「そうなんだあ。もし水が出せるんなら、ヴィデロさんの出した水で聖水を作ってみたかったなあ、って今ちょっと思ったんだけど。きっと最高ランクの聖水が出来そうだなって」



 気持ちの込め方が全然違ってきそうだからね。でも出せないなら残念だなあ。

 パチパチと火の粉を飛ばす焚火を見ながら隣に座るヴィデロさんにもたれると、ヴィデロさんが俺の頭を一つ撫でて「……魔法、覚え直すかな」と呟いた。

 インベントリに入っている食べ物を取り出してそれをヴィデロさんに渡すと、俺はついでにインベントリから空の瓶を取り出した。

 そこに水魔法を唱えて水を貯めると、調薬用の台を取り出した。それを焚火の端にセットして、瓶を乗せる。

 沸騰したらそこに茶葉を入れた。

 二人の共同作業お茶、出来上がり。



「そういえば、聖水って飲み続けるとどうなるんだろう。聖属性とかが身体に宿ったりするのかな」



 お茶の瓶をアチチとヴィデロさんに渡しながら思いついたことを呟くと、ヴィデロさんも首を捻った。



「まず聖水をお茶にしようと考える人がいないんじゃないか? それにそんなものをずっと飲み続けようって思う人がまずいない。聖水っていうのは穢れをとる物、としか認識がなかったからな」

「じゃあ、一緒にずっと飲み続けてみる?」



 ヴィデロさんを聖水茶仲間に誘うと、ヴィデロさんは冗談だと思ったらしく肩を揺らした。冗談じゃないのに。二人で飲み続けて何か変わりないか実験でもしようかと思ったのに。

 ヴィデロさんが瓶の口からふーっと息をかけて冷ましていたので、俺は早速手を祈りの形に組んだ。



「憎しみを愛に、悲しみを喜びに、絶望を希望に……」



 そっと祝詞を唱え始める。

 今は外だから我を忘れることはしない。MPがちゃんと減ってるかの確認を出来るくらいには祈りにも慣れた。

 一度祝詞を唱え終わると、瓶に入ったお茶がキラキラと輝いていた。

 ヴィデロさんは俺がいきなり祈り始めたことに驚いてお茶を飲んでなかったから、ヴィデロさんに渡したお茶もしっかりと聖水茶になった。



「聖水茶、どうぞ」



 ニヤッと笑って勧めると、ヴィデロさんが本格的に笑い始めた。



「ほんとマックは……ははは、これだから離れられないんだ」

「離れなくていいよ。ぴったりくっついてて」

「くっついてるだろ」



 いただきます、とヴィデロさんが聖水茶を飲む。味は変わらないからキラキラを気にしなければ普通に美味しくいただけるんだよ。

 俺も自分のお茶に手を伸ばして、フーフー冷ましながらお茶をすすった。



 先にヴィデロさんに休んでもらうことにして、俺は感知を発動させた。

 最初はごねていたヴィデロさんも、俺が引かないとわかると、仕方ないなとそこに横になった。

 外の世界は寒いのに、ここは年中同じような気候だから、野宿もかなりしやすい。

 ヴィデロさんが俺の横で目を瞑ったのを見ると、俺はインベントリから素材を取り出した。

 時間つぶしの材料は色々あるんだよ。道中手に入れた物とか、モントさんの所で買った素材とか。

 湧水もまだあるから、前に作ったリペアハイポーションをたくさん作るのもいいよね。ヴィデロさんが常にHP回復してるのを想像するだけで安心する。

 ヴィデロさんの出した火を使って作ったリペアハイポーションは、気持ちの籠り具合が違ったのか、ランクSが出来上がった。沢山作ってヴィデロさんに渡そう。作り方はハイポーションと一緒だからね。





 しばらくの間ついつい調薬を楽しんでしまった俺は、空が白んできたことで、朝近くなったことに気付いた。

 そして交代時間を忘れてた俺。っていうか俺も一旦ログアウトしないと。ちなみに魔物は3度ほど来たけど、赤い印が見えた瞬間そっちに目潰しを投げたら、近寄ってこなかった。

 ヴィデロさんは疲れていたのか、結構ぐっすり眠っていた。でもそっと肩をゆすっただけでパチッと目を開いたのはさすが騎士。むくっと起き上がったヴィデロさんは、周りを見て顔を険しくした。



「マック、交代時間とっくに過ぎてないか……? すまない、マックに抱きしめられて寝てる夢を見ていたせいか、起きれなかった……」

「全然大丈夫。だってヴィデロさんずっと手綱を取ってくれてたんだもん。疲れてたんだよ。少しは疲れが取れた?」

「ああ、すごく心地よかったな……ってこれ、マックの?」



 寒くないようにって夜中にヴィデロさんの上に掛けた俺のローブをヴィデロさんが持ち上げ、少しだけ嬉しそうな顔をする。

 目覚ましにどうぞと作ったばかりのリペアハイポーションを渡すと、ヴィデロさんは素直にそれを受け取って飲んだ。



「なんだか、腹の底から力が沸いてくるような感じがする」

「さっき作ってたんだ、リペアハイポーションっていう、しばらくの間ずっと体力が回復し続ける薬。もっとあるからヴィデロさんも何個か持ってて」



 瓶を10本くらい渡すと、ヴィデロさんは「え、は?」なんて戸惑ったような声を出していた。可愛い。好き。

 戸惑ってる間に、ヴィデロさんの腰に付けられたカバンの中に突っ込む。10本ほどの瓶が入ったかばんはちょっと重たくなったけど、ヴィデロさん力があるから大丈夫かな。今度このレシピも公開しようかなあ。でも湧水に人が集まっちゃったらちょっと嫌だな。馬さんたちの憩いの場かもしれないし。



 朝陽が昇り切るまでは、今度は俺が休むことになって、調薬器具をカバンにしまい込む。

 コロンとその場に転がると、今度はヴィデロさんが自分の外套を俺にかけてくれた。

 あ、確かに、これはヴィデロさんに包まれてる感じがする。

 それを握って変質者の様に笑いながら目を瞑る。

 ヴィデロさんの手を頭と頬に感じながら、ログアウトした。





 部屋の時計は午前4時を指していた。

 今寝たら絶対に出発時間に起きれないから、とりあえず目覚ましのシャワーを浴びてくることにする。

 ダーッと風呂場に駆けこんで、ガーッと熱いお湯を頭から掛けて、身体中を洗って出ていくと、丁度母さんが起きてきたところだった。



「あ、おはよう」

「おはよ。健吾さては夜通しゲームしてたでしょ。ほどほどにね。冬休みの課題が終わったなら何も言わないけど。あ、ご飯、一緒に食べる?」

「食べる。課題は……大分、終わったよ」

「……ふうん?」



 母さんはちょっとだけ疑いの眼差しを俺に向けてから、キッチンに向かった。

 俺もついて行って、椅子に座る。

 早速弁当と朝ご飯を作り始める母さんの手つきを見ながら、俺は大きな欠伸をした。

 手際よくご飯を作った母さんは、三人分のご飯をよそってから弁当を包んだ。

 そこに父さんが大あくびしながら起きてくる。その顔を見た母さんが「おんなじ顔してる」と笑った。



「お正月におばあちゃんの所に顔を出そうと思ったんだけど、おばあちゃんたら「今年で最後になるかもしれないから、お友達と海外に行ってくる」って言って今いないらしいの。なんか去年も同じことを言ってた気がするけど。だから今年はどうする?」

「あ、俺正月、バイトと重なるかも」

「何だ健吾バイトなんてしてたのか。どんなバイトをしてるんだ?」



 父さんが興味津々で聞いてくるので、ちょっとだけ考える。

 あのバイトはなんていえばいいんだろう。



「ご飯作り、と、ちょっとした仕事の雑務? 知り合いの人に頼まれて」



 そうか、健吾もそんな歳になったのか、としみじみ語る父さんを見ながら、嘘は言ってないよな、とご飯を頬張る。

 父さんに行ってらっしゃいと声を掛けて、俺は部屋に戻った。

 うん、目が覚めた。

 持ってきた熱々のお茶を一口飲んでから、俺はギアに手を伸ばした。







 ログインすると、俺を見ていたらしいヴィデロさんが「おはよう」と声を掛けて来た。



「マック全然寝れてないんじゃないか?」

「んー、でもなんかすっきりしたから」



 むくっと起き上がって、肩の砂を払う。 

 パサリと落ちたヴィデロさんの外套を拾って、ポンポンと埃を払って返すと、ヴィデロさんがそれをバサッと羽織った。羽織る仕草もかっこいい。

 ちょっとした朝食を食べてから、ヴィデロさんは馬屋から借りた馬笛を吹いた。音は聞こえない。少し待つと、森の木々の間から昨日の馬が顔を出した。

 ほんとに来た。うわ、すごい。

 早速二人馬上の人となり、一路砂漠都市を目指す。



 途中、俺はやっぱりというかヴィデロさんの腕の中で寝てしまったのは言うまでもない。

 でも途中ふと目が覚めたり馬の振動で目が覚めたりして、強制ログアウトはしなかったよ。

 ごめんねヴィデロさん。



 砂漠都市でいったん宿屋の厩舎に馬を休ませるために預けると、俺達は砂地に強い馬を改めて借りた。

 地図を片手に道なき道を進む。

 砂漠と言いながらも、南下していくと、砂地だけじゃなくて岩場も増えてくる。

 しばらく南西に向かって進むと、ごつごつとした岩場がそびえ立っているところが見えた。



「多分あそこだな」



 手綱を握りながら、ヴィデロさんが岩場を指さす。

 岩場を奥に進んで行くと、そこには、岩の間にぽっかりと洞窟の入り口と思われる場所があった。







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