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174、転移魔法陣
しおりを挟む「……あ、はは。さすがに予想外の物が出て来たわ。でも確かに面白いわね。キラキラしてるし本当に聖水ね」
恐る恐るカップを持ち上げて、匂いを嗅いでみたり覗き込んでみたりしたエミリさんは、そっと口をつけてみた。
「美味しい。これ、月光草のお茶? 身体に染みるわ」
うっとりと目を閉じてお茶の味を堪能する。月光草はMP回復の時に使う草だから、魔力がほんの少しだけ回復するお茶なんだ。ほんと微々たるもので、三分くらい座って回復する量とあんまり変わりないんだけど。
癖で祈りのレベルを上げる時は何かしらのお茶を作って置いておいたから、他にも何種類かの聖水茶がある。一度聖水を沸かせてお茶を淹れてみたことがあるんだけど、その時はこんな形にはならなくて、聖水は聖水のまま、ただお茶の色になっただけだったんだ。
「ところでマック。ナスカ村の件、ありがとう。クラッシュから聞いたわ。せっかくの火酒を村のために使ってくれたんでしょ」
「いえ、それはあまりお礼を言われることじゃないです」
「でもそれがなかったらしばらくの間村の人たちが穢れで苦しんでるところだったってニコロ君が言ってたわ。マックが来てくれてとても助かったって。しかも魔物が入らないようにしてくれて、その後のことまでって。あの村は、私にとってもとても大事な村なの。ありがとう」
本当はその時すでに穢れを消せるアイテムを作っていたんです。でも出せなかったんです。
火酒しか出せなかったんです。
「そのことで、エミリさんに託したい物があるんです」
俺はインベントリから、ディスペルハイポーションとディスペルポーション、そしてそのレシピを取り出してエミリさんの前に差し出した。
「明日から宰相の所に向かって、これを宰相に出してきます。宰相は俺が作った新しいアイテムを公開して引きこもってる薬師連中に発破を掛けるつもりなんです。でもこれって薬師連中だけじゃなくて教会まできっと刺激しちゃうだろうから、エミリさんも保存していて欲しくて。すぐに誰でも作れるんです。そこら辺の材料で作れるし」
エミリさんはディスペルハイポーションを手に取って、薄い青色の液体をマジマジと覗き込んだ。
「クラッシュの言っていた、マックが作ったとんでもないものね」
「とんでもないことはないんですが、呪いを解く物です。俺はまだランクBまでしか作れないので、これからもっとランクの高い物を目指していろいろやってみる予定です。これは複合呪い以外は解ける物です」
「それ、ほとんどの呪いが解けるやつじゃない。確かに教会が黙ってないわね。わかったわ。これは預かっておく。もし宰相に認証されたら、ギルドにも置かせて欲しいわ」
「全体的に出回らせたいです。すぐに誰でも買えるように。秘匿してちゃ今までと変わらないから。だから逆にそこらへんもエミリさんにお願いしたいくらいです」
ふふ、とエミリさんが笑ってお茶を飲んだ。
俺も一緒に聖水茶を飲んで、ほっとする。これで何とか旅立てる。行先はセィだし、クイックホースを使えないから、ヴィデロさんと馬で行くようになるんだろうな。何日かかるかなあ。でも二人旅だから楽しいよきっと。
でもその前にリアルバイトの用事だ。
「じゃあそろそろ行きますね」
「あ、待って待って、呼び出したのはそれだけじゃないのよ。ナスカ村の村長から預かりものがあって持ってたの」
「ナスカ村の村長から?」
サラさんのお父さんってことだよな。
首を捻って続きを待っていると、エミリさんが小さな袋を差し出した。
「あの村長、実はサラのお父さんなの。あなたがサラの持ち物を見て大喜びしていたから残っていたサラの物を出してきて、もし会うなら渡して欲しいって」
「え、でも報酬は前に貰いましたよ」
「いいの、貰って」
開けてみてもいいか訊くと「もちろん」と返ってきたので、そっと袋を開ける。
中を覗き込むと、そこには数個の宝石のような物が入っていた。
「宝石ですけど!」
「それはサラが作ったものなのよ。サラのあの謎素材がわかるマックなら、もしかしたら同じような物を作れるかもしれないわ」
「……って、これ、こんな物が錬金で作れるってことですか……?」
「私が見たのは、変な釜に素材を入れて、鼻歌を歌いながら釜の中をぐるぐる掻き混ぜるサラだったわ。すごく楽しそうに作ってたわ。液体の中に変な物を次々入れるのに、最後に残ったのはそういう石が一つっていうのが不思議でならなかったの」
「鼻歌を歌いながら……」
これは、俺に錬金をもっとやれと尻を叩いているってことかな。エミリさんも村長も好意で差し出してくれたのはわかるけど、俺、こういう石類ってまだ作ったことないんだ。
もっと頑張れってこと、かな。
「あの、頑張ります。頑張って、錬金の腕上げます」
もらった宝石類をインベントリに入れて、エミリさんの部屋を辞去する。
カウンター横をスルーして、メッセージに『もう話は終わりました』と打って送ると、丸まって寝ていた鳥が立ち上がって目を開けた。
『話し合いはもういいのか?』
ピヨと鳴く鳥に頷く。
ギルド内にいるプレイヤーたちが俺の肩を見て「テイムって出来るのか?」「そもそもあんな鳥見たことねえよ」「私も欲しい」などなど呟いてるのが聞こえてくる。
話しかけられる前にそそくさとギルドを出て、門の方に向かった。
門にはロイさんと名前の知らない門番さんが立っていた。俺を見た瞬間、ロイさんが手を挙げてもう一人の門番さんが呼び鈴を鳴らす。
なんていうか、門番さんたちの連携が凄い。俺、この門を門番さんに気付かれることなく抜けることなんて出来ない気がする。
感心している間に、ヴィデロさんが帯剣して出てきた。
俺を見た瞬間俺の名前を呼んで顔を綻ばせるヴィデロさんが今日も可愛い。好き。
「ヴィデロさん」
「今日はどこまでデートだ?」
近寄っていくと、ヴィデロさんが冗談めかしてそんなことを言った。
「今日のデートは石像前。あと、午後はここで、ダメ?」
「ダメなもんか」
俺の肩を抱き寄せて、微笑みながらヴィル鳥を指で掬いあげる。
ヴィル鳥も大人しくヴィデロさんの指に乗った。そしてピヨと一つ鳴いた。
『顔つきがだらしないぞ弟』
そのメッセージを読んで、思わず吹きそうになる。
ちょ、お兄ちゃん、待って。もしかして、すぐログアウトせざるを得なかった腹いせ?
「マック、この鳥はなんて言ってるんだ?」
「え、と。お、おはようって」
『健吾、嘘はいけない。しっかり伝えてくれ』
無理です。一言をメッセージに乗せて送り付ける。
そのままヴィデロさんの手を取って、工房に向かう道を進んだ。
「石像じゃないのか? 馬、借りようか」
「今日は跳ぼうかと思って。午後から詰所で話をしたいし」
「そろそろ向かえるってことだな」
「うん。だからブロッサムさんにも言わないとだし」
「そうか……でも見せて大丈夫か?」
「うん」
ヴィルさんはゲームをしている人じゃないし、ヴィデロさんのお兄さんだし。
佐久間さんはよくわからないけど。でも見せたからと言ってどうなる魔法でもないし。
スキルだから、機会があれば俺以外の人だって使えるだろうし。
工房の中に入ると、ヴィデロさんにドイリーを結んでもらって、手を繋いだ。鳥は俺の方に移動してもらう。
魔法陣を指先で描いていく。宙に浮く文字が光り、最後まで描き切った瞬間、俺とヴィデロさんと肩の鳥が、工房から消えた。
洞窟の前に跳んだ俺は、インベントリからマジックハイポーションを取り出して一気飲みすると、またも魔法陣を描いて、今度はジャル・ガーさんの目の前に出た。
鳥がピヨ、と鳴く。
『……健吾もその魔法が使えるのか……』
波長がどうしたのかわからなかったけど、俺はヴィデロさんに抱えられて、座り込んでいるジャル・ガーさんの頭から酒を掛けた。
口が開き、舌が周りの酒を舐める。目に光が宿り、じろりと俺たちを見る。
『その空っぽがいるってことは、糸の絡みを直せばいいってことか?』
視線はじっと俺の肩の上にいるヴィル鳥に注がれている。
「お願いします。報酬というか、火酒を20本ほど持ってきたんですけど、どこに置けばいいですか?」
『置くな。ここに来た命知らずが持って行っちまうから。とりあえず一本は飲む。あとはまた次の時にくれ。こういう美味い酒は小出しにするのがおつなんだよ』
そっか。アイテムだと思って持ってっちゃう人がいるのか。じゃあ置いておけないな。
もう一本を取り出してジャル・ガーさんに渡すと、ジャル・ガーさんの表情が嬉しそうに綻んだ。
足まで酒を掛けて立ち上がると、ジャル・ガーさんが手を伸ばして宙で指を動かす。
『ほらよ、直ったぞ』
3分くらい宙で何かをしていたジャル・ガーさんが、腕を下ろすとそう言ってこっちを向いた。
ナニをしていたのかは全く分からないけど、ヴィル鳥がピヨと鳴いて調整終了を告げた。
『それより健吾、その空間移動の魔法、その部屋ではあまり使わない方がいい』
そして、あとから付け足されたヴィルさんの言葉に、首を傾げる。
「何かあるんですか?」
『この間も、天使が使ったときおかしな波形が現れたんだが、健吾の時もちょっと何かが揺らいでるみたいだから、使わない方がいいと思う』
ヴィルさんのメッセージに目を丸くすると、ヴィデロさんが「どうかしたのか?」と心配げに俺を覗き込んできた。
「転移の魔法陣を使うと、何かが揺らぐんだって。だから使わない方がいいってヴィルさんが」
「揺らぐ……?」
『あー……あれは空間を歪めて跳ぶ魔法陣だからなあ。ここはそういうの影響出やすいからだろ。まあ、行先がはっきりしてるからそこまでは影響ねえよ』
俺の言葉を聞いていたジャル・ガーさんが酒瓶片手にそう教えてくれた。
その言葉に安心した俺は、帰りも転移の魔法陣で入り口経由で工房まで帰ってきた。
午後から行くから詰所で待っててもらうことにして、帰っていくヴィデロさんをお見送りしてから、奥の部屋に入ってログアウトした。
身を起こすと、ヴィルさんが俺を手招きした。ギアを外しつつそっちに向かうと、隣の開いている椅子を指さした。そこに座ると、ヴィルさんが何やらプリンターから紙を取り出してきた。
これを、と渡された紙には、心電図の波のような物が描かれている。
「ここが、直す前の波動、こっちが、直してもらった後の波動」
指さして教えて貰うと、確かに、直す前は少し波が乱れているのが、その後緩やかな波形になっている。ただし、二か所下に大きく振れた場所が目についた。
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