これは報われない恋だ。

朝陽天満

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163、ゲームじゃないよ

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『ディスペルハイポーション:ランクC 呪い状態を解除できるポーション 複雑な呪いは解けない』



 これは、あれだ。

 俺が求めていた奴だ。

 ランクがCなのは、きっと火酒とキュアポーションのランクが高いからだ。

 調薬レベルと薬師のジョブレベルが上がってる。

 開けた酒瓶の中には、まだ火酒がかなり入っている。この瓶一本でポーション瓶五、六本分くらいはとれるから。

 ドキドキしながら、今度は一つ一つ煮詰めてみることにする。

 どれから入れればいいのかな。

 今度は火酒を先に入れて、火にかけてからキュアポーション、聖水の順番で入れて、グツグツしてみる。



『ディスペルハイポーション:ランクD 呪い状態を解除できるポーション 単純な呪いしか解けない』



「さっきとはまた違う……火酒を最初に入れちゃダメってことかな。それにしても単純な呪いとか複雑な呪いってなんだ! どんなカテゴリ分けしてるんだよ! 今度図書館で呪いの種類の書かれた本を熟読しとかないと!」



 一通り叫んでから、気を取り直してまた作業にはいる。

 火酒が一本分なくなるまで、順番を入れ替えてみたり入れる時間を変えてみたり、入れる量を変えてみたりして最終的に出来上がったものは、ランクCとランクDがそれぞれ三本ずつだった。

 紙を取り出して、そこにアルコールを飛ばしてはダメ、と書き入れる。

 そして、聖水が少ないとランクが下がった。

 もっと火酒が欲しいなあ。ここらへんでアルコール分が高いお酒ってあるかなあ……そもそも成人してないから買うのが難しいか。ちょっとヴィデロさんかブロッサムさんに訊いてみようかな。

 とりあえず出来上がったディスペルハイポーションをインベントリに突っ込んで、明日は門にお酒のことを相談しに行こうと決めて、ログアウトした。







「雄太ぁ。もっと火酒って送れない?」

「おう。いいけど、何を代わりにくれる?」



 ダメもとで頼んでみると、雄太からは二つ返事を貰えた。

 でもそのあとの言葉がいただけない。

 またタルトって言われたら、ピエラの澄果実がなくなることが確実だから。



「……何が欲しい?」

「いっぱいありすぎるほどあるけど……そうだな、ああ、情報とかもいいな。たまに健吾は恐ろしくレアな情報を手に入れて来るからなあ。石像とか」

「レア情報? が、報酬?」

「ああ。極秘がいい。結構すごいの、あんだろ」

「ん……まあ、ないことはないけど」



 雄太の欲しい物の内容に、それはそれでありすぎて困るんだけど、と考え込んでしまう。ある意味物よりも難しいよ情報なんて。

 俄然乗り気になった雄太と放課後約束をして、俺は前を向いた。

 絶対に掲示板になんか載せれない極秘情報がありすぎて、どれを雄太に教えたらいいのか、絶対教えたらヤバい奴はどれなのか、放課後までに整理しておかないと。でも雄太なら何を言っても胸ひとつに収めてくれるのは知ってるから、その点は安心だ。

 でも、それでも、ヴィルさんが教えてくれたあのことだけは、どうしてもまだ雄太に教える気にはならなかった。

 俺自身がまだ半信半疑だからなのか、夢みたいな狐につままれたような話だからなのか。でも、ヴィルさんがヴィデロさんのために頑張るって言ってくれた事だけは信じてる。でも、その後どうするのかをまだ一つも考えられないから雄太に言いたくないんじゃないかなって、自分でわかる。俺は、どうやってヴィデロさんの隣に立っているんだろう。それも俺の課題の一つだよな。言葉すら通じないって言ってたし。







 放課後、久々に雄太と帰路に着いた。そのまま雄太がうちに来ることになったから直に俺の家へ向かう。雄太の家にはお母さんがいるから、流石に騒ぐのは悪いし。俺んちは今日は二人とも仕事だし。

 ということで、途中で飲み物を買って帰り、雄太は早速俺の部屋でくつろぎ始めた。



「で、極秘情報ってなんだ?」

「どれを話したらいいのかわからないんだけど」

「そんなにあるのかよ極秘情報」



 呆れたような雄太の視線から目を逸らす。そんなにないよ、ほんの数個。



「『高橋と愉快な仲間達』のメンバーにも今は黙ってて欲しい内容と、ちょっと心強い内容と、聞くのも顔を顰める内容のどれがいい?」



 解呪の事とレガロさんの事と教会のことを言葉をぼかして言ってみると、雄太は顔を顰めた。



「うっわどれも聞きてえ。情報のレートはどれくらいだ? 基準はタルト一個で火酒十本の換算でよろしく」

「一つ目は、タルトよりめちゃくちゃヤバい。二つ目は、結構重要だから同じくらいかもう少し上か。最後は一本でいいし、ちょっと助言も付けちゃうくらい」

「うっわ最後の話題、カス情報感たっぷりだな。じゃあ、まずは火酒一本のやつ」



 指を一本出してきたので、俺は教会の現状を伝えた。ついでに、呪われたときに払った額も。別に極秘情報じゃないんだけど、ちょっとした腹いせに。そして、肝心の極秘情報の内容として、あの図書館にあった仕掛け絵本のような本の話をしてみた。その本の内容もしっかりと。



「……待て、それのどこが火酒一本なんだよ……どこがカス情報なんだよ……!」

「だって、教会の事だから。俺としてはあんまり近寄りたくないし、雄太の所なんて教会はもう朽ち果ててるんだろ。あんまり重要じゃないじゃん」



 あのギミックは見ものだったけど、内容は笑えたもんじゃない恐ろしい内容だったし。そういえばあの司書さんは知ってるのかな。知ってて置いてるなら図書館もちょっと要注意な場所かもしれない。



「じゃあ助言ってのはどんなのなんだ」

「古代魔道語覚えた方がいいってこと。その図書館の本も前に見つけた上級調薬キットを手に入れたところも石像も古代魔道語でこうしろって書かれてたし、結構重要な変化があるところは古代魔道語が多いから。今は古代魔道語がエルフと獣人にしか伝わってないようなことを石像さんが言ってたけど。どうにかして会得しとくと何かしら面白い物を発見できると思う」

「……考える。そう言われると覚えないと損するような気がしてくる」



 ああでもあの本のギミックの内容を考えると、多分本に仕掛けが施されたの、ここ15年内の事なんだよな。だって魔王がいたころはまだ教会もそこまでひどくなかったみたいだし。じゃああの古代魔道語は誰が誰に伝えるために書いたんだろう。もしかして教会では古代魔道語がそっと伝えられていたりして。なんて、まさかな。きっと仕掛けに気付いちゃった誰かが他の人に知らせるためにああいう風に教会にバレないように書いてたんだよな……こ、古代魔道語がわかる人が、うん、そう。多分。

 ちょっとした怖い考えが頭を過っていると、雄太が先を促してきたので思考を無理やり切り替えた。



「次、結構重要なやつくれ」

「毎度アリ。最初の教会の話にもつながってくるんだけど、前に雄太を連れていったクワットロの「呪術屋」の店主さんが教会を見限った」



 レガロさんの能力を知ってる俺にとっては結構重要な内容だったんだけど、雄太にとってはそうでもなかったらしい。怪訝な顔になった。



「あの人ってさ、人の思考を読んだりとか、未来を見通したりするのが得意な人っぽいんだよ。俺よく思考読まれて戦慄してるんだけど。そんな人が捨てたってことは、教会にはもう未来がないってことなんだ。でもってあの人、俺たちの味方になってくれるって」

「健吾たち? それってプレイヤーの味方ってことか?」

「違う違う。プレイヤー関係ない」

「余計にわけがわからねえ」



 だろうなあ。とペットボトルを呷った。喉を潤してから、口を開いた。



「詳しい話は他のパーティーメンバーにも黙ってて欲しい話になっちゃうんだけど、簡単に言うと、宰相と門番さんたちの集団プラス俺対教会って感じ」



 「はぁ」と呆れたような声を出した後、雄太もペットボトルの飲み物を呷って、一気飲みした。

 そして飲んだくれの様に空のペットボトルを床にターンと置く。



「健吾お前、何かやろうとしてるのか?」

「教会に喧嘩を売るアイテムを作って世に広める予定。あ、これ別料金ね」

「そんなことより続き」 



 結局全部の情報を買ってくれるわけか。

 急かされるままに、俺は最重要事項を教えた。



「解呪薬作った。呪いが解ける薬。それを宰相に出して、あの世界の薬師たちに浸透させて世に広く出回ってもらって、教会の意義をなくす予定。それの仲間になってくれたんだよ、あの店主さん。でもこれは絶対にメンバーにも言うなよ。情報が漏洩した瞬間きっと教会と全面戦争っぽくなるから」

「……」



 黙り込んだ雄太は、じっと俺の顔を見ていた。



「ADOがゲーム補正とか効くとは思えねえ。コンセプトは「自由に」だからいいとして、健吾がやろうしてるのはADO世界を変えるって内政ゲームのまねごとなのか? それとも興味本位か本気かどれだ」

「ADOにゲーム補正なんてものはないよ。そして俺は本気」

「健吾、あれは、ゲームだろ」



 俺の言葉に被せるように、雄太がゆっくりとそう言った。

 まっすぐに俺を見てくる。俺があんまりにもゲームにのめり込んでるように見えたんだろうな、雄太。そして心配してくれてるのもわかる。

 何よりヴィデロさんとのことを知ってるから、余計に現実を見せてくれようとしてるってのも、わかるんだけど。

 俺も雄太に負けないよう視線をまっすぐ返した。



「ゲームじゃないよ、あんなリアルな世界」



 真実を、そう取られないように冗談めかして口に乗せる。ちょっとだけ知って欲しい。あそこはこことはまた別の確立した世界だってこと。雄太にそのことをはっきりと言えるのはいつになるんだろう。ヴィルさん頑張れ。そして俺もどうするか考えないと。でもとりあえずは目の前の事だ。



「中の人たちが大切なのはよくわかるけどな、健吾の世界はここなんだ。そこだけは覚えてろよ」

「わかってるよ」



 前にわかってると答えた時とはまた違った気持ちで同じ答えを返す。

 口角を上げた俺の顔を真顔で見返した雄太は、溜め息を一つ吐くと「ならいい」と頭をガシガシと掻いた。



「健吾が俺に言えないことがあるのはわかった。でもまあ、今はADOを楽しもうぜ。火酒は適当に送る。呪いを解くアイテム出来たらそのうち一つ売ってくれ。勇者に自慢するから」

「わかった。ってもう試作品は出来てるんだけど、どの呪いまでは解けるのかとか、まだ検証できてないんだ。アイテムで呪いが解けなくてまた教会に行かないといけなくなったらことだから、検証が難しいんだよ」

「また無茶なことをしようとして。クソ、こういう面白い時になんで健吾と一緒に行動してねえんだ俺。アイテムはいつでもいい。だから俺も一枚かませろ。面白そうだ」



 雄太のその言葉を聞いて、自然と笑みが浮かんだ。

 俺が言えないことがあるのをわかっていてなおこの言葉に、雄太にはかなわないなという気持ちがちょっとだけ浮かんだ。すぐに打ち消したけど! 悔しいから!





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