これは報われない恋だ。

朝陽天満

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151、ユニークボス出現の爪痕

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「あの店、入手個数決まってんじゃん。今さっきまでナスカ村ってところに行ってたんだけど、そこでこの間魔物の襲撃があって、今そこで回復魔法使えるのが一人だけなんだよ。俺らのパーティーが魔物を何とか追い払ったんだけど、回復薬が足りないからって、俺が代表で買い出しに来てさ。よければ個数関係なく売って欲しいんだけど。そのことを、そこの門番さんにも伝えててさ」

「ナスカ村って、もしかして渓谷から東に行くとあるってギルドの職員さんが言ってた村?」

「そう、それ。丁度みやげを持って行ってた時に見たこともない魔物が来たんだ。そしたらいきなり臨時クエスト入ってさ。あそこの村、あんまり戦える人がいないみたいで、結構怪我人が出たんだよ。ほんと、俺ら行っててよかったって思ったよ」

「その魔物って、ユニークボス……?」



 それそれ、と頷くプレイヤーさんに、俺とヴィデロさんとマルクスさんが顔を見合わせる。

 あのユニークボス襲来の余波は、小さな村にまで行ってたらしい。もしこの人がいなくて、村人たちだけだったらと思うと、ぞっとする。



「俺、その村に行くよ。ありったけのポーション類持って」

「それはありがたい。ユニークボス倒しても、ぽつぽつ魔物が出るからイマイチ心配で今まで村を離れられなかったんだ」



 ヴィデロさんがマルクスさんに目配せして、マルクスさんがさっと詰所の中に入っていく。

 すぐにブロッサムさんが出てきた。後ろに門番さんの鎧じゃない鎧を着込んだ人を連れて。



「おい、詳しい話を中で聞かせてくれねえか? 場合に寄っちゃ、魔物対策に人を派遣することになるから」

「わかった。派遣はありがたい。俺達もずっとあそこで村を守ってるわけにもいかねえから。薬師、場所わかるなら、すぐ行ってもらってもいいか?」

「もちろん」



 頷くと、安心したようにその人が詰所に入っていった。



「ヴィデロさん、じゃあちょっと行ってくるね」

「待て、俺も行くから、マックはとりあえずクラッシュに納品出来ないことを言いに行った方がいいんじゃないか?」

「あ、そうだね。でもヴィデロさん抜け出せるの? 今、仕事中だろ」

「何言ってるんだ。俺はマックの護衛だろ」



 え、アレって、セィに向かうときの護衛じゃなかったの?

 ヴィデロさんの言葉に驚いていると、マルクスさんが、「マックの護衛は特例の最優先事項なんだよ。ブロッサムが仕切ってる」と教えてくれた。



「……なんか俺、すごく重要人物になってない……?」



 恐れ多くて身震いすると、マルクスさんが声を潜めて「ブロッサムはお前に未来を託したんだとよ。つうか俺もロイもな」とのたまってニヤリと笑った。

 やっぱり重い言葉だった。とブロッサムさんに言われた言葉と、今のマルクスさんの言葉を噛みしめる。

 最終的には宰相の人にお任せになっちゃうのかもしれないけど、薬師も動いて宰相の人も動いてついでに教会も動き始めちゃったりしたら、ちょっと世界がひっくり返りそうで怖い。一大プロジェクトじゃん。

 え、それのスタートを切るのが、俺? マジで? 

 ふと気付いたことの重大さに、一気に肩が重くなった気がした。

 宰相の人なんてモノを俺に託してるんだよ……。と、吐きそうになる溜め息を飲み込む。

 やらなくてもいいって宰相の人は言ってた。でもこれをやらないと、いつかヴィデロさんが呪いとか穢れに苦しむかもしれない。酷い傷を負ったとき、市販のハイポーションで治らないかもしれない。それが致命傷になって、命を落とすかもしれない。そんなのやだ。それにやるって決めたのは俺だ。やり通して、いつか、俺がここに来れなくなっても、ヴィデロさんが元気で何の心配もなく暮らせるようにしないと。



「あれ、マック待っていてくれたのか?」



 鎧を脱いで軽装備になったヴィデロさんに声を掛けられて、俺はハッと我に返った。

 ヴィデロさんの後ろには、ヴィデロさんと交代するために、門番さん用の鎧を来たもう一人の門番さんが出てきている。

 その門番さんがガチャリと鎧の顔の部分を上げて、目を細めた。



「ここは大丈夫だから、存分にヴィデロを連れ歩けよマック」

「ぅあ、ありがとうございます」



 お礼を言って、ヴィデロさんと共にクラッシュの店に向かう。

 店に着くと、今日は長蛇の列はなかった。

 ドアを開けて中に入っていくと、ハイポーション類の棚は空。

 クラッシュは空になった棚を拭いていた。



「あ、マック、いらっしゃい。納品大歓迎だよ」



 ぱぁっと花を飛ばすクラッシュに、俺はごめんと頭を下げた。



「今日はちょっと納品出来なそうなんだ。持って行くところが出来たから。それを伝えに来たんだ」



 ごめん、と頭を下げると、クラッシュはそっかあ、と残念そうな顔をした。でもその顔もすぐに引っ込める。

 仕方ないね、と笑い、俺の横のヴィデロさんに視線を向けた。



「ヴィデロさっきまで門に立ってたよね。もしかして何か問題ごと?」



 横にヴィデロさんがいることが不思議だったのか、クラッシュがヴィデロさんを覗き込む。



「ああ。ちょっとナスカ村に行ってくる。怪我人が多数いるらしくて、回復薬を欲しがってる人がいたんだ」



 ヴィデロさんが簡潔に説明すると、クラッシュが息を呑んだ。



「ナスカ村……? 何か、あったの……?」

「突然変異の魔物が出たらしい。異邦人のパーティが丁度滞在していたので、死者は出なかったらしいが、回復出来るやつが一人しかいなくて、手が回らないそうだ」

「待って俺も行く。3分だけ待って」



 クラッシュの顔色が、目に見えて青くなったのがわかった。ナスカ村に誰か知り合いでもいるのかな。

 クラッシュはカウンターの裏に回り込むと、カバンにありったけの薬と素材を詰め込み始めた。



「マック、向こうでも薬作れるよね……、何が必要かな。どんな魔物だろう……」

「クラッシュ、聖水とかってある? もしかしたら、穢れが残ってる人もいるかもしれないから」

「穢れ……! 聖水は、ない。ここでは扱えないんだ……あ、お酒……」

「俺、ちょっと火酒持ってくる。高橋があれで穢れが取れるとか言ってたから。ヴィデロさんはクラッシュの手伝いしてて」



 さっきからクラッシュの手が震えてるから。きっとナスカ村に大事な人がいるんだと思う。

 俺はサッと魔法陣を描いて、工房に跳んだ。火酒をすべてインベントリに詰め込んで、辛うじて残っていた聖水も一本持って行く。

 それにしても、魔法陣を描くのが楽になった気がする。とステータスをチラ見したら、魔法陣のレべルが一つ上がっていた。

 急いでクラッシュの店に戻ると、ヴィデロさんが店の鍵を閉めているところだった。



「マック、ヴィデロ、俺に掴まって」



 クラッシュの言葉に従って腕を掴んだ瞬間、景色が変わった。





 小さな村だった。

 多分住んでいるのが30人にも満たないような村。

 十数軒程建っている建物は、一軒一軒が畑の間にまばらに点在している。

 普段だったら、のどかだなあって思えるようなその村は、今は森に隣接した一部の建物が壊れ、畑が荒らされていた。

 家々を回るフルプレートの人は、マーカーがプレイヤーだから、きっとあの人のパーティーのメンバーなんだろうな。

 と辺りに気を配っていると、クラッシュが走り始めた。

 慌ててそのあとを付いていく。



「おじいちゃん、おばあちゃん?!」



 クラッシュは叫びながら、一軒の家に飛び込んでいった。

 必死で後に続いてその家に入ると、テーブルについている一組の老夫婦がいた。

 クラッシュが飛び込んできたことに、驚いたような顔をしていた。

 一応お邪魔しますと頭を下げたけど、クラッシュが二人に飛び付いてしまったので、それどころじゃなかった。



「魔物が襲ってきたって? おじいちゃん怪我してる。薬はないの? 回復の人は!」



 まくしたてるクラッシュを止めるように、お爺さんが「こら! 落ち着け!」と声を上げた。



「離れろ馬鹿モン! お前まで穢れたらどうするんだ! まずは冷静に状況を判断しろとあれだけ口を酸っぱくして教えただろ!」

「でもおじいちゃんとおばあちゃんが怪我したかも、って思ったら落ち着いてなんていられないよ! 現におじいちゃん怪我してるし! もう歳なのに無理して魔物と対峙したんでしょ!」

「当たり前だろうが。ばあさんが魔物に襲われて、黙って見てる男がいるか!」



 腕に怪我を負っているお爺さんが、泣きそうになっているクラッシュの頭をわしわし無造作に掻き混ぜる。お爺さん、お婆さんを助けて怪我したんだ。すごいかっこいい。男だ。



「おばあちゃんは?! 怪我は?!」

「ありませんよ。だってお爺さんに助けてもらったもの。大丈夫。お爺さんだって、ほんの少し穢れが残ってるだけだから、しばらく大人しくしていればよくなりますよ」

「ううう……よかったぁ」



 お婆さんの肩を抱きしめて、クラッシュが安堵の溜め息を吐く。

 そんなクラッシュに、またもお爺さんが「こらクラッシュ!」と声を上げた。



「お客さんを放っておく者があるか。あの方たちはお前の知り合いなんだろ。あんなところに立たせて何をやっておるんだ」



 お爺さんの言葉で、クラッシュは漸く俺たちの存在を思い出したらしい。

 そうだった、という呟きはハッキリと聞こえたよ。仕方ないけどね。



 お婆さんから離れたクラッシュは、老夫婦を「俺の、育ての親」と俺達に紹介してくれた。

 フォンディアさんと名乗ってくれた老夫婦は、クラッシュが俺たちを「親友」と紹介したことで、顔に笑みを乗せた。

 ようやく夫妻の笑顔を見たクラッシュは、俺に近付いてきて、とん、と肩を叩き、そっと耳打ちしてきた。



「あの店の元の持ち主で、賢者のご両親」

「え、あ……うん」



 思わず声を潜めて、セイジさんの、と口だけ動かす。

 その俺の口もとを見たクラッシュが、目を細めて、口角を上げた。



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