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146、なにこれヤバいギミック
しおりを挟むというわけで日参してます図書館。
俺は今、呪いの本を読んでいる。
鍵付きの本は、闇魔法はまるっきり資格なしで読めなかったけれど、呪いの本に関しては二冊だけ資格アリと判断されて、司書さんに出してもらって、読書中。
水晶に触ったとき、その水晶が光ると資格があるとみなされるらしい。司書さんが言うには、その人がその本にかかわる物事の造詣が深いと資格アリと判断されるらしい。俺たちにしたらスキルレベル的なアレかな。
丁寧にしまわれていた本を読んで薄っすらとわかったことは、穢れは案外すぐに発生するけど、呪いは一定以上の魔力量が常にかかわっているようなそんなことが書かれていた。はっきりとじゃなくて言葉が濁されててちょっとわかりにくいんだけど。
ジャル・ガーさんもそういえば石化する魔力が洩れてそれの余波で呪われるとか言ってたよな。獣人とエルフは呪われない、って呪いをかけた本人が設定した条件の元、呪いが発動したりするのかな。そういえば人族には呪い方面になるとか言ってたもんな。本には魔力が高い人は魔素が干渉しにくいから呪いにはかかりにくいとか書いてあったけど。
本格的に魔法とか魔力関係を勉強していないとほぼわからない内容になっている本に、溜め息を吐きたくなった。俺は魔法方面からっきしだから、一回魔法の講義を受けてみようかな、なんて思ってみたり。職業訓練所みたいなところがあるんだよな、ウノまで行くと。まあ、行かないんだろうけど。魔法を今覚えても、幅を広げすぎて器用貧乏みたいになっちゃって極めるのがさらに困難になりそうだし。
でもなんというか、人族が書いたものらしく、ジャル・ガーさんの教えてくれた話とは微妙にずれてる内容だったのがちょっとどころか結構残念だった。
ジャル・ガーさんは簡単に呪いは解けると言っていたのに、この本は聖なる魔道の力でのみ解呪される、ってなってる。もしかして、教会関係者が書いてたりして。
俺が作ったディスペルポーションで、ジャル・ガーさんの話の方が正しかったってのは大分証明されたけど。ちなみに、ディスペルポーションを作ったら、薬師レベルが一つ上がった。新しい物を作った時の経験値のおかげだろうな。
何にせよ、鍵付きの割にはあまり期待した内容じゃなかった。
小さく溜め息を吐いてその本を閉じ、司書さんにしまってもらう。そして、もう一つの本を取り出してもらって、それを手に席に着いた。
ぺら、ぺら、と文字を睨みつけながらページをめくる。10ページほど進んだところで、端の方に小さな落書きのようなものが書かれていた。
古代魔道語で、『魔力注入』と。
古代魔道語に疎い人には、子供の落書きにしか見えないような、すごく崩した古代魔道語だった。まるで、読める人しか気づいちゃダメだって言ってるような。
顔を上げてちらりと司書さんを見ると、司書さんは視線を下に落としたまま、ひたすら手を動かしていた。司書って仕事多いのかな。忙しそう。
こっちに意識を向けていないのをいいことに、そっと、本に鑑定をかけてみた。
すると『偽本:何かが隠蔽された書物。魔力を注入することで、文字が作り変えられる』という文字の上に、『古い書物:昔人族の手によって描き上げられた呪いに関する書物』という文字がかぶさっていて、ものすごく鑑定の文字が読みにくかった。もしかして、俺の鑑定レベルでギリギリ本物を鑑定できるレベルの隠蔽が掛かってるのかな。今までずっと鑑定レベルは上げてきたから、結構高いはずなんだけど。この間の洞窟の採取とかと同じようなレベルかな。
ぞくぞくしながら、本の上に手を乗せた。中途半端な知識程邪魔なものはないから、とMPをほんの少しだけ残して他をすべて本に移動させる。
「……っ!」
声を出しそうになって、思わず口を手で押さえて、堪える。
目の前で、紙に描かれていた文字がぞろぞろと並び替えられていく。
何だこれ、すごい。
まるで生きてるかのように紙の上を這いまわる文字群に、俺は瞬きをするのも忘れて見入っていた。
文字が並び終わると、ようやく紙面が静かになった。変な表現だけど、本当に静かになった、というのがぴったりくるくらい、文字が踊っていたというか這いまわっていたというか。文字が動かないって本当に目に優しい、とちょっと思ったよ。
ドキドキする心臓を抑えながら、俺は一旦本を閉じて表紙を見た。
さっきまでは『呪いの種類』となっていた本の表紙は、『呪い発動の条件と種類、解呪方法』に変わっていた。
どんな種類の呪いが確認されているのかを書かれていた本は、その時の感情、そして呪いの魔術を掛けた術師の意志によってだいたい何の呪いに掛かるのかがかなりわかるようなことが書かれていた。
俺が沈黙の呪いにかかったのは、話したくても話せない本音が心の奥に隠れているから、っていう解釈なんだそうだ。
他には、恨みを持った人が呪いに掛かると、精神が侵されるような重めの呪いになり、平気で人をだませるような人が呪いに掛かると、運がガクンと下がって不幸に見舞われる系の呪いになるとかそういう色々と恐ろしい内容が書かれていて、背筋がぞくりとした。怖い。これって、掛かった呪いである程度その人の人となりがわかるってことかな。じゃあ、もしこれを教会が知っているんだとしたら、呪いを解きに来た人の人となりが、だいたい見当がついてしまうってことだよな。
この本の、この隠蔽。もし教会がかけていて、それを一般人に隠して、呪いを解きに来た人にピンポイントで助言なりなんなりしているとしたら。
「……まさかな」
落ち着くために深呼吸をして、小さく一言だけ呟く。
まさかな。そんなこと、ないよな。それに、助言したからってそれをもとに何かをするようなこと、ないよな教会。
ふっと思いついた考えを否定して、俺はさらに読み進めていった。
解呪方法は、聖魔法のみ。その魔法の内容も書かれているけれど、どこにも痛みを伴うとは書かれていなかった。やっぱりアイテムのことも全く書かれていなかったけれど。
こうなると、最初はどんな文章が書かれていたのか気になる。どれだけ改変されたんだろう、さっきの魔力挿入で。
ちょっとこっそりスクショとっておこう。
こっそりと読みながら各ページをスクショに残しておく。
そこまでページ数が多くないのが救いだよ。
最後の方は、呪いの発生する場所が文字で書かれていたので、それもスクショする。
うわあ、結構あるんだなあ。辺境街のほうまで書かれてるってことは、この本を著作した人が知る限りほぼ大陸の全体の呪いスポットがメモされてるってことか。これは、有意義な情報ってことでいいのかな。
と思ってる間に、文字がまたぞろぞろ動き始めた。
もう注いだ魔力が切れたってことか。速読がなかったら最後のほうまで見れなかったよ。
目の前でぞろぞろと動いている文字が、俺の目にはとんでもなくファンタジーに映った。これが画面の中だったりしたらそこまで神秘じゃないんだけど、古い紙の上っていうのがもう、俺の心の奥に眠ってる何かをビシバシ刺激してくる。ダメだ、目覚めたら俺、イタい奴になっちゃう。
並び直った文字をまた最初から目で追っていくと、ざっと呪いの種類とその症状、比較的楽な呪いと命に係わる呪いが分類されていて、全く違う内容に思わず笑いそうになった。
表の内容も裏の内容も、なかなかに充実した内容だったな、と俺は本を閉じた。
司書さんにお礼を言って、本を戻してもらった。こうなると闇魔法の本とかも気になってくるけど、他にはどんなギミックがこの世界に隠されてるんだろう。
何かをすればするほど変な物を見つけちゃうんだけど。
でも、一番知りたかった、昨日辺境でもここでもユニークボスが現れた原因はあんまりわからなかった。
昨日同様一緒に部屋を出て、礼を言って図書館を出ると、今日もまた、空に星が瞬いていた。
今日もカイルさんの所に行きそびれたよ。ランクの高い月見草が欲しかったんだけどなあ。そこらへんで生えている月見草ってだいたいがランク低いんだもんなあ。
工房までの道のりを歩きながら、ちらりと農園の方を見た。
明日こそは農園に行こう、と心に決めて、俺は工房のドアに手を掛けた。
瞬間、ピロン、とチャット欄にメッセージが届いた。
誰だろうと思いつつ、工房に入り、鍵を掛けてから椅子に座る。
そのメッセージを開くと、珍しく海里からだった。
『タルトごちそうさま。私も貰っちゃいました。高橋とは別にお礼をしたいけど、何か欲しい物はある? こっちで手に入る素材とか、必要なら送るから。ブレイブもお礼がしたいと言ってたので、何か考えておいてね』
「あ、よかった。タルト届いたんだ。昨日送ったのに早いなあ。さすがギルド、仕事が早い……ってまさか」
ふとあることに思い当たる。もしかしてエミリさん、クラッシュに届けて貰ったんじゃ……。
頭の中で、馬車を使った場合ここから辺境までかかる時間をざっと大雑把に計算してみて、あまりの速さに眩暈がする。
「絶対にクラッシュに跳んでもらったよこれ。一日で辺境まで着くわけないじゃん!」
ってことは俺宛の荷物もすでに届いてたりして。
まさかな。
チャット欄を閉じて、俺は入ったばかりの工房から、もう一度夜のトレの街に逆戻りしたのだった。
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