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141、夜狩り行きたい!
しおりを挟む「それにしても解呪のアイテムを作ろうとは、また面白い発想ですね」
ほんのり甘いお茶にまったりしていると、レガロさんがそう言いながら茶菓子を出してくれた。どうぞと俺とクラッシュの前に差し出されたそのお菓子は、花の形を模した仄かにピンクがかったクッキーのようなもので、とても美味しそうだった。っていうかこれ、絶対にレガロさんの手作りだよな。すごく綺麗。食べるのもったいない。
「はい。ジャル・ガーさんという石像からヒントを得まして。それにしてもこれ、すごく綺麗ですね。レガロさん、ほんとなんでも作れそう」
花のクッキーを摘んで、まじまじと見る。目に楽しいそれは、香りもまた花の香りがしていた。トレアムさんの所でもらったバターみたいなので作ったのかな。俺も作れるかなあ。ヴィデロさんにこういうのあげたら喜ぶかな。
そんなことを思っていたら、レガロさんがくすっと笑った。
「ヴィデロ君はマック君からなら何をあげても喜ぶと思いますよ。レシピをお教えしましょうか?」
「は?! え……あの、はい、教えて欲しいです……」
レガロさんの言葉に、顔に熱が上がっていく。もうこれは完っ璧考えてることを読まれてる。は、恥ずかしい。でも、レガロさんの場合、全然嫌な感じがしないのは何でなんだ。だけどレシピは素直に嬉しい。段々とヴィデロさんに食べさせたい料理のレシピが増えていくなあ。嬉しい。
ご飯を出した時の嬉しそうなヴィデロさんの顔を思い出して、顔が緩む。好き。
「クラッシュ君もレシピを知りたいですか?」
「んー、俺はいいや。マックに作ってもらう。こういうの多分作っても下手くそだから。よろしく、マック」
クラッシュはいい笑顔で俺にそう言い放った。
クラッシュの分も作ることに否やはないけどね。俺こういう作業嫌いじゃないし。
いいよと返事をしていると、目の前に紙が差し出された。
「クラッシュ君の分も作らないといけないようなので、これの報酬はクラッシュ君から貰いましょうか」
冗談めかしてレガロさんがそんなことを言う。クラッシュも笑いながら「え、俺?」と驚いたふりをした。
仕方ないなあ、払ってやるよ、とクラッシュが太っ腹なことを言うと、すかさずレガロさんが「では、10万ガルで」とぼったくりの値段を答えていた。すぐに「冗談ですよ。マック君の下ろしたハイポーション一つで手を打ちましょう」と返していたけれど、一瞬クラッシュが真顔になったのを俺は見逃さなかった。面白い。
クッキーも美味しくいただいて、俺達は席を立った。
羽根のアクセサリーは、大体7日後に出来上がるらしい。ぜひヴィデロさんも一緒に連れて来るよう言われたので、俺は力強く頷いて、クラッシュと共にトレの雑貨屋に戻ってきた。
絶対にあのクッキーを作ってねと約束させられて、俺はクラッシュの店を、裏側から出た。
だって表、まだ人が溜まってるんだもん。もう遅い時間なのによくやるなあ。
そっと裏路地から大通りに抜け出して、俺は門への道を急いだ。まだヴィデロさんいるかな。でももう交代して中に入っちゃったかな。いるといいな。
だってヴィデロさんをデートに誘わないといけないから。
まだ7日以上先だけど、予約しておかないと。
門に着くと、すっかり遅い時間だったせいか、すでにヴィデロさんは中に引っ込んで、違う人が立っていた。
もう少しでアラームが鳴るっていう時間だから仕方ないか。でも、一目だけでも顔見たいな。
呼んでもらっても、いいかなあ。もう寝てたりして。明日も早いだろうし。
どうしよう。
逡巡していると、立ち止まっている俺に気付いた門番さんが手を振ってきた。
挨拶すると、門番さんが出ていくプレイヤーに手を振りながら口を開いた。
「ようマック。ヴィデロと夜狩りデートか? 今日の夜は森にイノシシが出るらしいからな。肉食いてえなあ、イノシシ。あの弾力と力強い味。マックはイノシシ食ったことあるのか?」
「イノシシ……? いえ、ないです。っていうか、トレの森にイノシシなんて珍しくないですか?」
っていうかヴィデロさんと夜狩りデート? 何それ楽しそう。それにイノシシ狩りって面白そう。強くなきゃだけど。
狼と鳥、そして虫が主流のトレの森は、あまり他の魔物は入ってこない。ヴィデロさんと付き合うきっかけになったドラゴンなんて、珍事中の珍事だ。
「イノシシを倒すと稀に肉が手に入るんだけどな、それがもう美味いのなんのって。俺もこれから仕事じゃなかったら狩りに行くのに。他のやつらも狩りに行くとか張り切ってたぞ。ちょっと待ってろ。ヴィデロも今用意してるから。一緒に行くんだろ?」
「うわ、行きたい。約束してなかったんだけどいいのかな」
「大喜びだろ。ヴィデロ、仕事終わったらイノシシ狩ってマックに肉食わせたいってすげえ張り切ってたし」
「え、ヴィデロさんが……」
門番さんの言葉に胸が高鳴る。それは嬉しい。嬉しすぎる。喜んで肉を焼きますとも! トレアムさんに教わったソースかけて、極上にしますとも! ヴィデロさん好き!
ソワソワと待っていると、詰所のドアが開いて、ぞろぞろと見知った顔の門番さんたちが出てきた。皆、鎧を脱いだ軽装備で狩りをするらしい。腰には、自分の得物をぶら下げている。
そのなかに、ヴィデロさんの姿もあって。
ヴィデロさんは、俺の姿を視界に収めた瞬間、破顔した。
ものすっごい笑顔いただきました。あまりの衝撃につい反射でスクショ撮っちゃった。一人の時に眺めてすごそう。こういうスクショって、部屋に飾れないのかな。ヴィデロさんの画像、工房に飾りたい。パンツ張り付いてるからおかずには出来ないけど。
「マック! どうしたんだこんな夜更けに」
すぐさま近付いてきてくれたヴィデロさんに突進していくと、ヴィデロさんは俺の体当たりを難なく受け止めてくれた。好き。
「ヴィデロさんにデートの予約を入れに来たんだけど、これからの夜狩りに参加させて貰えないかなって。邪魔じゃなければ」
だって皆、森の向こう側から攻めてみるかとか、挟み込んだら楽に討伐とか相談してるから。門番さんたちでパーティーを組んで行く気なのかなって思ったんだ。
それだったら、俺は邪魔だろ。
「邪魔なもんか! むしろ二人で」
「お。マックも来るのか? 俺マックが魔物と戦ってるところ見たことねえ。よし、一緒に来いよ」
「やった、マックがいるとなると怪我しても安心だな!」
「おいヴィデロ、マックが危なくねえようにしっかり守れよ!」
「誰に言ってるんだ? 当たり前だろ」
「むしろヴィデロちょっと痛い思いしてマックに看病でもしてもらえばいいんじゃねえの」
冗談を言い合いながらぞろぞろと移動するヴィデロさん含めた4人ほどのむくつけき門番集団に手招きされて、俺は喜んで後ろをついていった。
森に入ると、いつもなら鳴いているフクロウのような魔物の声が、今日に限って全くなかった。
いつもの森と雰囲気違うなあ。イノシシってそこまで脅威なのかな。鳥が鳴かないくらい。
「マック、どうした?」
辺りをきょろきょろと見回していた俺の手に、そっとヴィデロさんの手が繋がれた。
心配してくれてるのかなと思うと、なんか嬉しい。でも大丈夫。
「何かいつもと森の雰囲気が違うなって思っただけ。あのドラゴンが出てきた時みたいだなって」
「ああ。あの、マックと初めてキスした時な。確かにそうだな。話ではそこまで大物は出ていないってことだったけど、もしかしたら集団のボスでも奥にいるかもな」
ヴィデロさんの言葉に、周りの門番さんがニヤニヤチラチラとこっちを見ている。何でそんなに楽しそうなんだよ門番さんたち。
「ボスを倒したら、肉はどれだけ手にはいるかなぁ。他のやつらの分も頼まれたんだよ俺」
先頭を歩いていた門番さんが伸びをしながらそんなことを言う。どれだけ狩る気だったんだろう。
視界の端に映るマップには、数個の赤い点が映っている。これ全部イノシシなのかなあ。
今はまだMP消費を抑えるために索敵しかしてないけれど。
「感知」
そっとスキルを使うと、トレの森の奥の方から圧力を感じた。
これ、大物がいる証拠だ。
さっきクラッシュと行った洞窟とはまた違う方向から感じるこの圧力は、結構なレベルの高さを感じさせるものだった。
思わず繋いでいた手に力を込めた。
「ヴィデロさん、大物がいる」
あっちのほう、と圧力を感じた方を指さすと、皆がその方向に視線を向けた。
皆、強さはどれくらいなんだろう。皆がヴィデロさん並の強さだったら、俺の出番はないかもしれないけど。
「何?! ほんとに大物がいるのか! 肉、塊で出てくれるといいなあ!」
「どれくらいかな。最近腕が鈍ってるから、正直楽しみだ」
鼻歌を歌いだしそうな門番さんたちは、大物だからと気負うところが全くなかった。それだけ腕に自信があるってことなのかな。頼もしい。
「これも何かの縁だ。街のやつらがそいつに傷付けられる前に俺らでやっつけて、戦利品がっぽり貰おうぜ」
「おお!」
皆が雄叫びを上げた瞬間、俺の視界の隅でクエスト欄がピコンと鳴った。
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