これは報われない恋だ。

朝陽天満

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139、解呪!

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『二度と生きてるやつとこういうふうに触れ合うことは出来ねえと思ってた。ありがとよ、薬師の兄ちゃん』



 恋人繋ぎのように指を絡めて、そっと離れていく。握手ではなかったけどジャル・ガーさんの表情がとても満足そうだったからいいか。

 どっかりと座ったままのジャル・ガーさんの足が石化していく。今度は座った石像になる気なんだ。



「また酒を持って遊びに来ます。それと、古代魔道語は今誰も読めないので、今度こっちの言葉に訳したアクセサリーを持ってきますね」



 俺がそう言うと、ジャル・ガーさんは声を出して笑った。



『この『稀代の英雄』ってのは消してくれるとありがてえな』

「考えておきます」



 俺の答えに、ジャル・ガーさんがさらに笑った。



 完全に石化した足に手を伸ばし、失礼します、と断って、それに触る。

 するとぞわっと不快感が身体を駆け抜けた。

 これが呪いなんだ。

 ちらっとステータスを見ると、しっかりと「沈黙」という呪いのバッドステータスが付いていた。



「マック、帰るよ」

「……」



 わかったと言おうとして、声が出ない。

 これ、魔法使いが掛かったら詰む呪いだ。俺はあんまり関係ないけど。

 口をパクパクさせてクラッシュに声が出ないことをアピールすると、「わかったからしゃべらなくていいよ」と頷いた。



 クラッシュに手を繋がれて、二人でジャル・ガーさんに手を振る。

 ジャル・ガーさんも手を振り返してくれたのを視界にとらえながら、俺達はクラッシュの転移の魔法陣で、トレの街の教会まで跳んだ。



 いきなり現れた俺たちに、教会の人たちは驚いているようだった。



 教会って最初のころにウノの街の教会に一度入ったきりで、それ以来近寄りもしなかったんだけど、中の装飾はもしかして街ごとに違うのかな。

 ウノの教会はもう少しこじんまりとしていて、白かった気が。白い壁にステンドグラスが入っていて、すごくそこだけが目立っていたから。そのステンドグラスの記憶しかない。

 トレの教会は、もう少し親しみがあるというか、木で出来た建造物で、一面が自然の色合いをしていて、目に優しい。

 司祭たちの服も落ち着いた色合いで、あまり教会って感じはしない。

 ウノの教会は司祭の服も白かったからなあ。病院みたいな雰囲気で、いまいち行きたいと思えなかったんだ。

 そんな感じで教会の中を見ていると、クラッシュが俺の手を掴んだまま、司祭の一人に話しかけた。



「すいません、連れが呪いにかかったので、呪いを解いて欲しいんですが」

「呪い、それは大変でしたね。ああでもどうしましょう。今日は解呪の魔法を使える司教様が隣町まで出てしまっていて。この時間から馬車はもう出ませんので、帰りは明日になってしまうのです」

「そうですか。隣町って、クワットロですか?」

「はい。クワットロの教会に呼ばれまして」



 解呪の魔法ってことは、解呪アイテムはないってことなのかな。

 聖水とかって売ってた気がしたんだけど。買ったことないからわからない。

 聞こうとして口を開いて、声が出なくてがっくりする。

 沈黙ならそこまで深刻にならなくてもいいかなって思ったけど、これ、思ったよりひどい。



「わかりました。じゃあクワットロに行きます」

「大丈夫ですか? 遠いですよ」

「大丈夫です、ありがとう」



 司祭の人が手を合わせて頭を下げるのを見ながら、またも視界が変わる。

 今度は、ちょっと照明を落とした風の、大人な雰囲気の教会の中に出た。大きな広間に置いてある長い椅子には、数人の人が座っていた。

 奥にでんと鎮座している立派な祭壇に向かって祈ってたみたいだ。

 いきなり現れた俺たちに、広間にいたすべての人が注目していた。

 司祭と思わしき人が近寄ってくる。



「いかがしましたか? 何か、お困りごとでも?」

「すいません、連れが呪いにかかりまして」



 俺です、と言おうとして、口をパクパクさせる。

 その様子を見た司祭が、痛ましそうな表情になった。



「その様子だと、沈黙ですね。わかりました。奥へいらしてください。お連れ様は、少々お待ちいただけますか」

「わかりました」



 こちらへ、と手で示された方に歩いていこうとすると、広間のドアがギィ……と開いた。

 そして、「おや」と聞いたことのある声が、広間に響いた。



「レガロ、久しぶり」

「クラッシュ君。今日はお店は閉めたのですか? 一躍有名になってしまったようですね。ご愁傷様。それにマック君も。どうしたんですか、こんなところで」

「……」



 口をパクパクさせている俺を見て、レガロさんは「ああ」と頷いた。



「沈黙ですね。なかなか楽な呪いにかかったようで何よりです。そうだ、マック君、あとで私の店に来てくださいますか? 少し用事が」



 用事があるのは俺です。でもレガロさんも俺に何かあるのかな。

 わかったの意を込めて頷くと、司祭の人に促される。

 二人に手を振って、司祭の人の後に付いていくと、祭壇の横手の、裏の方にあるドアに案内された。

 その先には、小さな祭壇が置かれていて、病院の診察室にあるような細長い簡易ベッドみたいな椅子のようなものが数個置かれていた。



「ここが解呪の間になります。ただいま解呪する者を呼んでまいりますので、お好きなところにお掛けになってお待ちください」

「……」



 声が出ないので、頷くことで同意を示す。

 そして、祭壇のよく見える椅子に座って、司祭の人の出ていった方に視線を向けた。

 重厚なカーテンが幾重にもぶら下がっていて、ドアというドアが全くここから見えない。きっとどの椅子からも見えないようになってるっぽい。

 照明は暗めなのに、祭壇だけがライトアップされたようになっているので、否応なく祭壇に視線を奪われる。

 誰もいないのをいいことに、思わず祭壇に鑑定をかけて見ると、「聖なる魔力で覆われた祭壇(小)」と出てきた。

 聖なる魔力って、聖魔法みたいな魔法もあるってことかな。回復魔法とは違うのかな。魔法は詳しくないけど、ちょっと気になる。

 今度は感知を使ってみると、祭壇からだけじゃなくて、部屋全体からぼわっと暖かい何かを感じた。なんていうか、かまくらでお餅を焼いて甘酒を飲んでるような感じの安心感。外は寒いけど、ここは暖かいよ、っていうようなそんな感じ。これ依存症とかになりそうな感じがする。心地いいんだけど、ここはいいよ、ってごり押しされているような不快感を感じて、俺はあまり好きになれなかった。



 ソワソワと待つこと五分くらい。

 ようやく司祭の人が来た。

 さっきの人より一段階立派な服を着てるから、もっと上の人みたいだった。

 そういえば解呪できる人は司教だってトレの街で言ってたから、この人は司教なのかな。



「……」



 よろしくお願いします、と言おうとして、声が出なくて仕方なくペコっと頭を下げる。

 すると、司教の人がにこりと笑った。



「お気を楽に。これから解呪を行います。少しだけ苦痛が伴いますが、それを過ぎると呪いは消え去りますので、安心してください」



 ええ、苦痛を伴うの? 痛いのはちょっとやだなあ、とドキドキしながら、司教の人の指示に従って長椅子に横になる。

 司教の人は、俺が横になったのを見ると、手に持っていた高そうな瓶の蓋を開けて、その中の液体を自分の手に注いだ。

 あれ、呪いを解くアイテムかな。

 一連の動きを見ながら、ひたすら鑑定を使う。

 その水は「清められた水」としか表されなかった。解呪アイテムじゃないんだ。

 司教の人は水のしぶきを俺の身体にピシピシと振りかけて、瓶の蓋をしめた。

 そっと瓶を足元に置くと、手を胸の前で組んで、言葉を紡いだ。



「身体の中に宿りし悪しき物よ、神の聖名において命ずる。この者の身体から剥がれ落ち、地に帰れ。解呪」



 呪文を唱え終わった瞬間、身体の表面から何かがべリべり剥がされてるような感覚が身体を襲った。

 いたたたたた。

 声に出ないので、心で叫ぶ。

 皮剥がされてるみたいな痛みが気持ち悪い。

 呪いって、こんな解呪の仕方するんだ。これはちょっと二度と経験したくない。痛いし、気持ち悪い。



 身体の奥から、ずるっと根っこを引っこ抜かれるような変な感触の後、ようやく痛いのが治まる。

 うわ、今のでスタミナがごっそり減った。

 呪い怖い。



「もう大丈夫ですよ。呪いは解除されました」

「……りがとうございます……」



 息切れしながら起き上がり、胸からお腹に掛けてを手で撫でてみる。

 何ともないのが変な感じだった。

 ステータスの呪いはしっかり消えていたけれど、今の時代、解呪は一仕事だっていうのがわかった。



「解呪の魔法を受ける方は、皆疲れますので、今日はごゆっくりとお休みください」

「はい、わかりました」



 司教の人が奥に引っ込んでいくと、今度はすぐに案内してくれた司祭の人が出てきた。

 そこでお布施の話をされて、かなりの額にびっくりする。

 慈善事業じゃないのはわかってるけど、ちょっと高くないかな解呪。

 今だからこそ払えるけど、ADO始めたばっかりの駆け出し君が呪いにかかったら、即借金か呪い付けたまま行動になるよこれ。

 だって、あの工房のお値段の半分くらいするんだもん。たっか!

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