これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
116 / 830

116、一人より二人だよ

しおりを挟む

 結局はログアウトまで失敗作を作り続けた俺は、固まった身体を解しながら近くのベッドに転がってログアウトした。

 そしてその日見た夢は、理科の実験で毎回黒い失敗作を作る夢。辛い。



 朝起きて朝食を食べて、俺は部屋に戻った。

 いやな夢を見たせいか、なんか調薬キットを見たくない気分だ。

 溜め息を吐いて。仕方なく教科書を開く。

 だってもうすぐテストだし。少し勉強してからログインしよう。

 数学の教科書を開きながら、頭の中で考えるのは、ADOのこと。

 何も書かれていないノートの一ページに、ADO内では大分描けるようになった古代魔道語を落書きしてみる。



「ええと、『しこうかいろ、かいてんじょうしょう、きおくちゅうすう、ようりょうかくだい』っと。これでこっちでも魔法陣とか効いたら笑えないよな。ってか汚い字」



 それっぽくは書けたけど、こんなんだったっけ? と疑問の残るわけわからない文字に、思わず苦笑する。何やってんの俺。

 描いた文字のようなものを消しゴムで慌てて消して、ようやく教科書に視線を向けた。







 なんだかんだで午前中は勉強をしてしまった俺。

 もう頭がパンパンな気がする。

 気分転換にログインしよう。

 ギアを被り、精神的にぐったりと疲れた体をベッドに横たえる。

 ああ、こんな時はヴィデロさんに会いたい。ヴィデロさん、ちゃんと休み貰ってるのかな。働き詰めはよくないのに。疲れてないといいなあ。っていうか、ヴィデロさんとエッチしたい。二人でくっついて、気持ちいいことしたい。ヴィデロさんのヴィデロさんで、心身ともに満たされたい。

 ヴィデロさんの胸筋に顔を埋めて、ヴィデロさんの背中を堪能しながら、二人で気持ちよくなりたい。

 なんか最近すごくすれ違いが多い気がする。

 仕方ないんだけど。



 「う~」と唸ると、俺はログインせずに頭のギアを外した。

 ログインする前に、ちょっとだけ。昼間っからなんて、どうなんだよ、なんて思うけど。

 ヴィデロさんのことを考えて元気になってしまった俺の息子に視線を向けて、俺はそっとそこを治めるべく手を伸ばした。





 結局ログインしたのは2時過ぎだった。

 結論。一人より二人。早く帰ってきてヴィデロさん。気持ちよかったけど、物足りない。でも、まだ自分で後ろを何とかするなんて、無理。何より、向こうでは俺は清い体のままだから。

 ローブを羽織って溜め息を吐く。

 調薬をする気にもならなくて、俺は昨日の薬の効果を見るために、農園を目指した。



「カイルさーん。昨日のどうなった?」

「お―マックか。待ってたぜ」



 外で作業をしていたカイルさんは、俺の姿を見るとこっち、と手招きした。

 二人で昨日『混合植物魔力栄養剤』を与えた木まで行く。すると、その木が昨日より一回り大きくなっていた。



「おお! 元気になってる!」



 生っていた実も、ほんの小指程度だった大きさから、二回りくらい大きくなってる。そして、赤かった実の色が、ちょっとだけ赤黒くなって、熟れてる、っていう感じを醸し出していた。



「実を食ってみろよ。味がな、すげえ濃厚になってるんだ」

「うん」



 一粒もいで、口に放り込む。

 すると、今までは、甘いなあ、って感じだったのが、「うわ、確かに濃厚……」と思わず呟くほどに味に深みが出ていた。まるでお高いメロンを食べてるみたいな。いや、食べたことないんだけど。

 思わずもう一つ手が伸びる。



「うまぁ……。幸せ」



 もごもごと実を噛んでいると、カイルさんもその実に手を伸ばした。

 少しの間、二人でその実の甘さを堪能する。

 はー、なんか、お腹があったかい。結構食べたからなあ。

 満足していると、カイルさんも表情を緩ませてお腹をさすっていた。



「あ、なんか、普通に手が伸びて沢山食べちゃった。実は一粒いくら?」

「んー、『混合魔剤』分は食ったか? もっと食うか? もっと食いたいときは追加でお代を貰う」



 なんかもうお腹が満足しちゃったので、食えません。

 あの薬代だったんだ。この実の値段。

 それにしてもお腹からポカポカする。



「ちょっと鑑定してみてもいい?」

「おう。もう栄養不足ではねえはずだ」

「じゃあ、鑑定」



『ジェソの木:赤くて甘い実をつけるトレの森に生えている木。実は料理、調薬に使える。『混合植物魔力栄養剤』を与えたため、実に魔力を宿している。実を食べると魔力上昇(小)』



 鑑定を読んで、俺は慌ててステータス欄を開いた。

 MPの数字の横に、(+22)とついていた。俺、22個もこの希少な木の実を食べたんだ。粒が小さめとはいえ食べすぎだろ。ってそうじゃなくて。

 これって恒久的に上がるのかな。それとも時間があるのかな。もしかして、この、お腹があったかいのは魔力上昇のせいなのかな。

 なんか色々わけわからない。お腹の暖かいのが治まったらもう一回ステータス見てみようそうしよう。ずっとだったらいいのに。でもカッコがついてる時点で、多分時間が経つと元に戻る系だよな。



「カイルさん。この実、買っていい? たくさん」

「お? おお。また明日には実をつけるからな。どれくらい必要だ?」

「沢山欲しい。カイルさんがこれ以上はダメだってくらい欲しい」



 俺の答えに、カイルさんはちょっとだけ考えて、「今日は100個くらいだな。もっと欲しかったら日を改めないと採れねえよ」と返してくれた。うわ、そんなに売ってくれるんだ!



「カイルさんもたぶん今魔力多くなってるから、魔法系で畑を耕すなら、今がチャンスだよ!」

「魔力付与ってそんな感じなのか。どれ。作業するかな。マックは適当に実を採って行けよ」

「わかった」



 示唆された分の料金を払って、俺は採取開始した。見えるところの実を採っていき、最後の実をもいだところで数を見ると、丁度100個だった。これが30とか言われたら、30しか取れるところに見えないってことなのかな。そこのところ気になる。カイルさんは、土魔法を使って土を耕している。俺もこの補正値があるうちに何かしてみよう。カイルさんに大声でお礼を言って、俺は工房に戻った。





 前にレガロさんから貰ったレース編みの敷物を敷いて、その上に錬金窯を置いてみる。

 そして、手には錬金レシピ集。



 まだ作ったことないけど素材はそろったよ、っていうのがないか一通り捲ってみると。

 一つだけ、素材が全部載っているのがあった。最初の方のだから難易度はそれほど高くないかな。素材もそこら辺にある物だし。

 何ができるのかな。とワクワクしながら倉庫から素材を取り出す。

 そして、窯にMPを分ける。

 あ、ほんとに少しで窯が謎液体で満たされた。このドイリーすごい。



 一つ一つ丁寧に窯に入れていく。

 融けるごとに色の変化が目に楽しい。

 5つの素材全部を融かして、グルグル混ぜる。MPが減っていくけど、前みたいにどんどん減ってくことがない。

 それほど経たないうちに、窯の中が光って、出来上がりを告げた。

 急いで窯を持ち上げて瓶にひっくり返すと、瓶の中にコロンとオレンジ色の物が転がり落ちた。



「おおー、固形物」



 出来たことで、レシピの欄に絵と物の名前が浮かび上がった。



「『香石』ってなんだ。この石を擦るとあらゆるものに香りが付く……って、何か意味があるのか……?」



 瓶からは、確かにふわっといい香りが漂ってくる。でも、意味不明の物を作ってしまった。

 そして減ったMPはほんとに少し。まだ材料があるから、今度はドイリーを引かないで作ってみるかな。

 と何も引かずに同じことを繰り返す。

 うん、最初に謎液体を満たす時点でかなり差が出る。そして、グルグルすると目に見えてぐいぐいMPが減る。ここまで違うんだ。きっちり倍のMPが減り、完成品は全く同じ物。さすがレガロさん作マジックセーブドイリー。活用させてもらいます!



「それにしても、これいい香り。なんだろう。ローズ系? の中にミント系? まったりするのに後味がいい感じが、すごくいいなあ」



 たぶん入れた素材が花と薬草だったから、それの香りなんだろうけど。

 気に入ったので、俺は一番活用するベッドの枕元に、少しだけこすり付けることにした。

 シーツでいいのかな、とおもいつつ、固形を手に取って、それをサッとこすり付ける。そしてまた瓶にしまって蓋をする。

 ふわっといい香りがして、思わず俺はベッドに転がった。

 あ、これ、安眠できるやつだ。一つヴィデロさんに贈ろう。そしてヴィデロさんを俺の香りに包ませようそうしよう。



 そんなことを思いながら、匂いを堪能すべく、目を閉じた。



 そして寝落ちしたのは言うまでもない。







 目を空けたら、すでに外は夕日の色に染まっていた。あれ、今日、何したっけ? とぼんやりした頭で考える。うん、寝た。

 寝たよ。

 ぼーっと起きだして、ローブを羽織る。

 失敗作で消えていった素材の一つをクラッシュの所に買いに行こう。

 そうしないとまた寝そうだ。

 気付けに水を飲んで、俺は工房を後にしたのだった。

しおりを挟む
感想 508

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...