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114、情報交換
しおりを挟む雄太にこれから行くからという連絡を入れたら、逆にこっちに来てくれるらしい。俺の足を気遣ってのことっぽい。そんなことを本人はひとっことも言わないけど。ほんと、親友ありがたい。
ということでやってきた雄太は、勝手知ったるで俺の部屋まで勝手に入ってやってきた。手に飲み物とお菓子を持って。
「何があったんだよ健吾。とうとう門番さんに襲われたのか? まだ未成年だからなんも出来ねえだろ」
あ、それは大丈夫。もう「済」だから。ラブラブだから。とは言えない。うっと視線を逸らして「違う」とだけ言っといた。
「変なクエストをセイジさんから貰ったんだ」
「変なクエスト? セイジさんって言うとダンジョンサーチャーのセイジだろ?」
「ああ。クエスト失敗すると世界がヤバいよみたいなクエスト。魔の復活とか書いてあったから、もしかしたら失敗したら魔王が復活しちゃうかもしれないやつ」
「おお! すげえ! 内容詳しく!」
大興奮の雄太に、クエスト内容を説明すると、雄太はそれが薬師のクエストだとしって「ちっ」と舌打ちした。
「同じような行動を取れば俺もそういうクエスト受けれると思ったのに。俺もそのクエストまぜろ」
ジト目で言う内容に、俺は思わず笑ってしまった。だってそんなこと言ったら、まぜるどころか、レベル上げとか協力してもらうよ。エルフの里に行けるようになるまで。
かくいう雄太たちは、今まさに辺境街まで行こうとしているところらしい。
前にレガロさんから受けたクエストをようやく消化できる、と雄太は握り拳を握っていた。
「敵は強いんだけどな、エルフの里までの道のりよりイージーモードっていうか、あれを経験しちまったら、そこまで苦戦しないんじゃないか、なんてメンバーで言っててさ。明日全員揃ったら辺境街に向かうことになったんだ」
「ふうん、雄太もとうとう辺境街かあ。頑張れよ。俺はブルーテイルの巣の撤去作業を頑張るからさ」
「何だそれ」
渓谷の水を塞き止めてる原因を教えると、雄太は目を細めて「すっげー平和だな」なんてしみじみと呟いていた。
「ただし洞窟は全然平和じゃなかった」
「え、あのダンジョン、外れダンジョンの最たるものだって掲示板には載ってたぜ」
俺が一言そう呟くと、驚いたように雄太が口を開いた。ってもうチェックしてたんだ。
「俺まだ掲示板とか見てない」
「まだ、じゃなくていっつもじゃねえ? たまには覗いとけよ。面白い情報が入ってきたりするからさ」
「そうしよう」
「ほら、パソコン点けてやるから今すぐ見ろよ」
そう言うと、雄太はすっと立ちあがって机のパソコンの電源を入れた。そして、キャスターのついてる椅子を俺が座ってるベッドまでガラガラと引いてきてくれた。
えっと、こういうの、至れり尽くせりっていうのかな。ちょっと照れくさいんだけど。
思わず目を合わさずに小さい声で「サンキュ」というと、雄太はニヤリと笑って「俺に惚れるなよ」という最悪の冗談を飛ばした。
「ない。ないから」
「俺も健吾から真顔で付き合ってくださいとか言われたらドン引きして無理だから」
「だったら言うなよ」
俺の突っ込みに「お約束だろ」とわけのわからない返しをしながら、雄太は慣れた手つきでADOの掲示板を開いた。
そこの「珍しいものみぃつけたNo、45」を開く。
ここでは色々情報を共有してもいいよって人が、変な物を見つけたら書き込むんだって。俺がいつも見てるのは「こんな素材があったよ」の掲示板だから、この掲示板は初めて見た。
「結構面白いのあるぜ。ある日砂漠でデカい馬に乗ったやつが爆走していたとか」
「は?」
えと、何で俺が載ってんの。ニヤリと笑ったところを見ると、なんか俺だってばれてるみたい。何で?
「スクショついてた。クイックホースが早すぎてブレブレだったけど、あのローブは健吾だなってなんとなくわかった」
「く……黙っといてくれ……」
「こんなおもしれえ事言わねえよ。あいつら以外にはな。でも唯がすげえ羨ましがってた。あいつ基本馬好きだから」
雄太察しよすぎる。
口を尖らせながらパソコン画面内を見ると、あのダンジョンの詳細を上げてくれてる人がいた。しかも超詳しく。魔物のドロップ品から経験値までしっかりと載っていた。
すごいなあ、こんなデータを取ってる人もいるんだ。
そこには、「最奥まで行っても宝箱も何もない行き止まり。魔物はウルフオンリー。強さだけが上がっていくけれど、経験値ドロップ品全く変わらず。採取場所と思われるところから『水切苔』が出るが、採取レベルが低いと全く採れない。「水切苔」とは水分を飛ばす調薬素材。扱えるレベルは調薬レベル50より上。扱いが難しい。ただし売ると高値」と書かれていた。最奥の写真まで上げられていて、ちらりとウルフが「ん?」って顔して映っている。あ、なんか犬みたいで可愛いかも。下のほうまでずらっと「可愛い」というコメントがついてる。
「ほんとに詳細が載ってるなあ。ウルフ可愛い」
「他に言うことは? 健吾も外れだと思ったか?」
「あそこの最奥に行くのに必要なのは、『古代魔道語』『感知』スキル。感知は上位スキルで、『古代魔道語』はもしかしたら誰かに習わないと習得不可能かも。読もうと思っても最初は全然文字に見えなかったから」
「何かあったんだな」
結構真剣な顔で、掲示板に載っている画像を覗き込んでいる雄太の視線の先に指を出して、行き止まりと言われたところを指す。
「ここで「感知」スキルを使用すると、ここに古代魔道語が出てくる。その指示に従って行動すると、奥の違う部屋に跳ばされる。そこに、「蘇生薬」の失敗作があったんだ。誰かの研究室みたいだった。エミリさんが言うには、そこが使われていたのは初代魔王が生まれた辺りの時代だってさ」
「なん、だと……」
「他に『古代魔道語』スキルを持ってるやつを知らないから、他の人にとってはここは外れダンジョンだよ。ただ、俺にとっては大当たりダンジョンだったって感じ。ここに行ったから、ダンジョンサーチャークエスト発生したような感じだし。あ、エミリさんとクラッシュとセイジさんと4人で行ってきたんだけどな」
「何だその夢のコラボレーションは……ダンジョンサーチャーと英雄、でもって英雄の息子とか。ありえなさ過ぎて笑える。かくいう俺もNPCと一緒に行動することになったんだけどな」
辺境街に行く話をノヴェの街の冒険者ギルドでしていたら、連れて行ってくれっていうNPCがいたんだそうだ。
話を聞いて、ちゃんとしてそうなNPCだったから連れていくことにしたとか。
「雄太そういうとこ人がいいからな」
「いや、唯がな……そいつの話を聞いて同情しちまってな……断れなくなっちまったんだ。っていうか人一人守って先に進むのって、結構難易度跳ね上がるんだけどな。まあ、パーティークエストだったから仕方ねえなってブレイブと」
「あ、ブレイブとそういう相談するんだ……」
「だって増田は唯と同じ反応するから……」
「ああ……」
増田の中身はきっと女子だな。そしてブレイブは思った以上の男前だということが端々から感じられる。女の子だよね? ブレイブさん、女の子だよね?
「そいつな、成人して間もないらしいんだけどな。15年前魔物に襲われたところを魔王討伐隊が通りかかって助けて貰ったらしいんだ。で、その時一緒にいて、辛うじて一命をとりとめた父親に、将来英雄たちの役に立つ人間になれって言われ続けて育ってきたらしくて、本人もまさにその気満々で、成人したから絶対に英雄率いる辺境街の騎士団に入るんだって鼻息荒くてな。腕はまあ、強い。俺とどっこいの強さだったんだ」
「そ、それは強いな。ってか俺も一人でエルフの里行けるくらい強くならないと」
「エルフの里に行くときは付き合うから声かけろよ」
画面を閉じながら、雄太がサムズアップしてくる。
その時はもちろん声かけるけど、いつになるかわからないよ。本格的に剣を習ってみようかな。それとも、攻撃系の魔法陣を使えるようにするとか。構築が出来ればどんな感じも出来るらしいし。普通の魔法よりかなり幅広いよな、魔法陣。
「だからそいつを交えて、辺境街の騎士団を目指すことにした。俺もさっさと騎士団長に物を渡したいしな」
「あ、レガロさんのクエストか」
「ああ。クエストずっと抱えてるのって結構気になるよな」
わかる。今まさにそんな感じになっちゃったから。いつ全部のクエスト消化できるんだろう。あと2年くらいはやってないとたぶんセイジさんのクエストは無理な気がする。まあ、ずっとやる気満々だけどな。
「今日はまたログインするのか?」
「色々してからする。寝るまでかなあ」
雄太の質問に答えると、雄太が「じゃあ次は中でチャットでな」と言って、腰を上げた。
「前にセッテの街でクエストが変わったってやつ、あっただろ。雑貨屋の兄ちゃんと健吾を助けたやつ」
帰り際。雄太がいきなりそんなことを言い出した。
そういえば、依頼の内容が違ってきたからクエストが変化したって言ってたよな。あれがさらに大事になったからヴィデロさんがセィの門番として出張してるんだし。
ちょっと気になる。
「あれな、『積み荷の確保と盗賊に襲われて行方不明になった者たちを冒険者ギルドまで連れてくる』っていうクエストだったんだよ。それが『盗賊に命を狙われた者たちを確保』に変わってクリアになったんだよ。その後のクエストが、『辺境街にいる勇者に今回の詳細を話す』ってやつだったんだよ。だから、そっちのクエストも消化できるんだよな。あー、これでスッキリする」
そんなクエストに変わったんだ。
「勇者かぁ……そういえば騎士団って、辺境街に一つしかないのかな。雄太どの人が勇者なのかわかるのか?」
「あれだろ、オープニングで魔王と戦ってた人だろ。赤い髪の。顔ははっきりとは見えなかったけどな、たぶんすぐわかるんじゃね? かっこいいし。雰囲気ありありだし。実はそれもちょっと楽しみなんだ。あの勇者を生で見れるってのが」
「いいなあ。俺も会ってみたい」
「健吾は英雄の息子と超仲いいからいいだろ」
じゃあな、と雄太は手をひらひらさせて部屋を出ていった。
勇者かあ。
俺も一度見てみたい。たぶんADOをやってる人なら絶対にそう思ってると思う。
雄太が勇者に会ったら、どんな人だったか絶対に聞こうそうしよう。
俺はそう心に決めて、椅子に座ったままガラガラとギアの置いてあるベッドまで移動した。
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