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112、超豪華パーティー
しおりを挟む「渓谷のダンジョンで隠し部屋を見つけた?」
ダンジョン奥の部屋のことを話すと、クラッシュもエミリさんも興味津々で耳を傾けた。
「あそこ、冒険者ギルドでは外れダンジョンって噂があったのよ」
「今朝奥まで潜ってみたら、偶然というかなんというか、奥まで行けて。なんか「蘇生薬」とか言う薬を研究している部屋みたいでした。で、そこで見つけたのがこれで」
と文字化けしているような日記を取り出すと、エミリさんが目を丸くしていた。
クラッシュは首を傾げていたから、もしかしたら読めてないのかもしれない。
「この文字、すごく古い文字よ。たぶんエルフの里でくらいしかお目にかかったことがないわ。中を見てもいいかしら」
「勝手に持ってきちゃったんで今更なんですけどね。どうぞ」
エミリさんは俺の返事に苦笑すると、日記を丁寧に開いた。
「三満が月の23、齢日3の時、連れ合いが亡くなってからもう3の日が経った。どの文献を探しても全く手掛かりが掴めない。どうしたら消え去ろうとしている命をもとの身体に帰してあげることが出来るというのか、見当もつかない」
エミリさんがスラスラと日記を読んでいく。全然俺の訳した内容と違う。まるで小学生の作文と大学生の論文の違いってくらい違う。
唸りながら聞いていると、エミリさんはちらりと視線を俺に向けた。
「この、三満が月っていうのは、まだ魔物の大陸が存在する前に使われていた暦だったはずよ。そしてこの齢日っていうのが、時間を表してるの。この日付がいつので何時なのかはいまいちわからないけど、この暦を使っていた頃から生きている里の大長老はなじみのはず」
ほええ。そんな御歳のエルフがまだ生きてるんだ。一体何歳なんだろう。エルフの神秘だ。
「当たり前のようにこの暦を使ってるってことは、大昔の人の研究室ってことね。あの渓谷は、昔はあそこまで深くなくて、そこら辺の小川みたいな感じだったって言われてたことがあるけれど、もしかしたらそのあたりの時代にこの人物が作った洞穴と隠し部屋ってことかもしれないわね」
次々と推論を話してくれるエミリさんは、日記をぱたんと閉じた。
「一度その部屋に行ってみたいわね」
「俺も行きたい」
クラッシュもハイっと手を上げた。連れて行くのはやぶさかじゃないんだけどね。二人とも忙しい人たちじゃないのかな。
「俺の場合、店を閉めればいいだけだし」
「私は現地調査ね。ギルドでは必須よ」
おお、素晴らしい言葉が返ってきた。
「一旦長老にこれを見せてみたいわねえ。でもクラッシュはエルフの里を知らないし……セイジはこの間行ったって言ってたけど、こういう時にセイジに連絡を取れないのが痛いわ。それに、私の都合でいちいち出向いてもらうのも悪いし」
「あ、俺、セイジさんと連絡とれるよ。あの念話、セイジさんに教わったやつだから」
親子の会話を見守っていると、クラッシュが一瞬にして小さな魔法陣を描いた。
魔法陣が光ると、クラッシュは徐に口を開いた。
「セイジさん、ちょっとお願いがあるんですけど」
視線を動かしたり頷いたりしているクラッシュは、セイジさんと話をしているみたいだった。クラッシュの声しか聞こえないのが、電話してる人の横に立ってるみたいでちょっと居たたまれない。
「あ、はい。ごめんなさい、忙しいでしょ……ううん、じゃあ、待ってますから」
クラッシュの言葉と共に、魔法陣が光になって消える。
穏やかに笑っているクラッシュに、セイジさんが来てくれることになったのがわかった。っていうか、セイジさん本気でクラッシュの保護者みたい。
「セイジさんって何歳なんだろ。俺達とそう変わらない見た目なのに、どうしても言動がクラッシュのお父さんっぽい」
俺がそう独り言をつぶやいた瞬間、エミリさんがふふっと笑った。
「本人は保護者のつもりよ」
「そうなんですか? セイジさんって、何でクラッシュの家に居候しているんですか? ってこれ、聞いていいことかな」
つい出ちゃった質問にも、エミリさんとクラッシュは特に気にした様子もなく教えてくれた。
「別にマックならいいよ。俺さ、あの店、育ての親から継いだんだよ。もう高齢だからもっと穏やかなところで二人で余生を過ごすって言ってその人たちが出て行ってからさ、セイジさんがふらっとうちに来たんだ。母さんの古い友人だって言って。それからうちに良く来るようになって、俺が困ってないかいっつも心配していてくれるんだよ」
やっぱりセイジさんは心の親だったか。と納得していると、エミリさんが自分より背の高くなった息子の頭を少しだけ撫でて、目を伏せた。
「クラッシュを育ててくれたご夫婦はね、先の魔王討伐で、大事な一人息子を亡くした人たちなの。だから、その子の代わりにクラッシュを可愛がってくれたのよ。セイジもそのことを知っていてね、その方たちが田舎に引っ越したら今度は自分がって、クラッシュを気に掛けてくれて。だから私、その夫婦と、ふふ、息子さんには返しきれない恩があるの」
思い出すかのように、エミリさんが声を上げて笑う。そして、「それにね」と付け足すように、口を開いた。
「口は悪いけど世話焼きで優しい奴なのよ、セイジは。自分も色々あって忙しいのにねえ。マックも、よければセイジの力になってあげてね。きっとサラのモノを扱えるあなたなら、とても助けになるわ」
「どれくらい力になれるかわからないですけど。俺でよければ」
「ありがとう」
そっか。そんな事情があったんだ。一人になったクラッシュが心配だったんだろうなあセイジさん。
でも、これだけ歳が違いそうなのにエミリさんの古い友達ってのが不思議でならない。どっちかというとクラッシュと友達って歳なのに、どう頑張ってもそうは見えないんだよな雰囲気的に。
そんなことを考えていると、目の前にセイジさんが現れた。
「どうしたクラッシュ、って、マックもいたのか」
「ねえセイジ、ちょっとこれ見てみてくれない?」
エミリさんは、手に持ったままだった日記を現れたばかりのセイジさんに手渡した。
それを開いて覗き込んだセイジさんは、ハッとしたように目を見開いて、食い入るように文章を読み始めた。
「これは……一体、どこから……」
「俺が今日、見つけてきたんですけど」
そう言った瞬間、セイジさんはがしっと俺の腕を掴んできた。
真顔のセイジさんはまっすぐに俺を見ている。
「これのあったところに連れて行ってくれないか?」
「あ、はい、いいですけど……」
ブルーテイルが巣立つまでは河も堰き止められてるって言ってたから、その間はあのダンジョンに入れるんだよな。願わくば、人があんまりいませんように。
「すぐに行くんですか?」
そう訊くと、三人ともうんと頷いた。うわあ、すごく豪華パーティーの出来上がりだ。
時間が勿体ないということで、セイジさんがあの橋の所までは転移してくれたので、そこから採取場所を通って渓谷の下に降りていく。
エミリさんとクラッシュは、興味津々で蔦を眺めたり下から橋を見上げたりして、ちょっと物見遊山っぽい雰囲気が出ていて楽しそうだった。そっか、旅経験者だもんね二人とも。
でもセイジさんは、なんだかシークレットダンジョンに入った時のような切羽詰まった表情をしていた。
朝あれだけ賑わっていたダンジョン前は、ポツポツと人がいる程度で、中には誰も入っていないみたいだった。
誰かが外れダンジョンだって掲示板に書いたんだろうなあ。内容とかも詳細に書かれてそう。
中に入っていくと、ウルフが出迎えてくれたのでエミリさんが迎え撃ちつつ、今回は採取はしないでどんどん先に進んだ。
先頭に立つ剣を片手に持ったエミリさんが、ほんとに剣一振りでウルフを倒してしまうので、進むスピードが全く落ちないのが怖い。
俺、二つ目の部屋ですでに三振りはしないと倒せなかったのに。でもって、最後の部屋は小道具必須だったのに。やっぱりエミリさんは剣一振り。さすが英雄。
「なあ、マック。ここか? 例の部屋の入り口は」
普通に見る限り単なる行き止まりに見えるところに立って、セイジさんが俺を振り返る。
俺が頷くと、セイジさんが感知したらしく、壁には例の古代魔道語の魔法陣が浮き上がった。
「こりゃあ……なんも手を加えてない、最悪に燃費の悪い魔法陣じゃねえか。魔法陣が編み出された初期の物だ」
そうだったんだ。だからあんなにMP消費したんだ。それを一目で理解するとか。さすがとしか言えない。
「んじゃ、行ってみるか」
そう言うと、サッとセイジさんが魔法陣に手をついて、消えて行ってしまった。
「ちょ、セイジさん早すぎる!」
「置いてかれちゃったわね。どうする? 私、感知系の魔法は苦手なのよ」
二人とも、セイジさんが消えていったところを呆然と見つめていた。セイジさんが消えるとともに魔法陣もしっかり消えている。
この魔法陣も手を握ってれば一緒に飛べるのかな、と俺は二人に手を差し出した。
「感知。人数増えたら消費魔力も増えるんだよな。足りるかなあ」
一人だけでMP三分の一になったんだから、三人なんて難しいな、と触るのをためらっていると、魔法陣が見えているクラッシュが、先にそこに触れてしまった。
途端、視界の景色が一変する。
クラッシュの魔力でここに移動したらしく、俺のMPは感知分の量しか減っていなかった。
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