これは報われない恋だ。

朝陽天満

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110、集団移動中

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『3…/23  ■■…3

 ……がしんで もう3かが たった

 どの……をさがしても なにも てがかりが ない

 どうしたら ……を もとに も…せるのか けんとうも つかない





 3…/24  ▲■

 こおりの ……にはいる ……はとてもうつくしい

 はやく このつめたいから…を じゆうにして

 あのかがやく ……おをみたい



 3…/30  ■■

 もしかしたら わたしはとても ……をしているのかも しれない

 しかし つみ…かいとおもうことは ……をあきらめるのと おなじ

 たとえ このいのち つきようとも ……を かならず



 4…/48  ■▲▲

 いにしえの ひやくとは

 もしかしたら わたしの も…めていた ものかもしれない

 ぐうぜんだい…しょかん みつけ…



             こ…いちゅうのは  ■

           へそのわ…みず

    ちょうじゅみ……がのち

       ふし…ょうの……う』





 最初の辺りを読んだ時点で閉じたくなった。

 全然わからない。ある程度は読めるけど、読めない文字もあるし、言い回しが全然文字にならない感じ。もっと古代魔道語のレベルが上がらないと読めない文字なのかな。この日記は持って行けるのかな。

 素直に日記を閉じて、インベントリに突っ込むと、『■■■▲●』と言う感じでその日記があらわされ、インベントリに収まった。うん、全然文字が読めない。なんなんだこれ。誰か知ってる人いないかな。

 古代魔道語知ってる人っていったら、クラッシュとエミリさんとセイジさんくらいしか俺知らないんだよな。一度クラッシュに相談でもしようかな。

 溜め息を吐いて、他の引き出しを開けてみる。あとはさっきみたいにインベントリに入らないメモのような紙ばかりだったので、一応一通りスクショするとそっと引き出しを閉じた。



 次は、と壁に沿うように置いてあるチェストみたいな箱を開けてみる。

 そこには、外套のようなものと、軽めの装備一式、そして、短剣が入っていた。

 鑑定してみると、かなり性能のいい装備だってことがわかる。でも、耐久値がことごとく低い。これは修理に出さないと身に付けれないレベルの耐久値だった。

 インベントリには収まったから、持って行ってみることにした。それにしてもこの短剣、なんか灰色のサラサラしたものがくっついてるけどなんだろう。鑑定できるかな。

 と鑑定してみて、後悔した。



『ルミエールダガー(耐久値:14%)攻撃力:37……光属性の短剣。切っ先に古い血痕が付着している。初代魔王時代に作られた古代の短剣』



 この灰色は、血痕だったらしい。血って時間が経つとこんな灰色のさらさらしたものになるの? は、初めて知ったよ怖い。

 これは持って行っていいのかな。

 血痕が付いた短剣をそのまましまうのもはばかられて、俺はウルフの毛皮を一枚取り出した。

 そっと短剣を包んで、それをインベントリにしまう。ちゃんとインベントリには『ルミエールダガー』って出るんだけど、それを取り出すとしっかりと毛皮に包まれてるのが不思議だった。





 あらかた部屋を調べ終えて、ふと気付く。ここって、どうやって出るんだろう。魔法陣で飛ばされて部屋の中央に出ただろ。部屋から出るときは?

 見回しても扉のようなものは一切なく、本棚以外は岩肌がむき出しの状態になっている。



「感知」



 スキルを使って、ようやく壁の一部にそれらしき文字を発見した。

 入るときと同じような魔法陣だった。

 感知しないと魔法陣が見えない辺り、徹底してるよ。



 もう一度部屋を見回して、取りこぼしがないか確認する。ここはきっと、水が戻ればもう入れないダンジョンだろうから、今のうちに。



「大丈夫かな。紙類はスクショしたし。持ち出せるものは詰め込んだし。何百年も前の場所ってことは、もう持ち主もいないだろうし……」



 よし、と頷いて、俺はMPを確認しつつ魔法陣に手を添えた。

 MP減少と共に光に包まれる。

 光が消えていくと、俺は森の中に立っていた。



「え、ここどこ?」



 てっきりさっきのダンジョンの中に出るもんだと思ってたけど、予想外のことにちょっと慌てる。

 地図を確認すると、渓谷沿いのちょっと上流の方にある森の中だったみたいだ。

 確かに、物好きでもないとこんなところまでは人が来ないもんな。安全な場所に出るってことかな。



「安全でもないけどね」



 木の間からとびかかってきた魔物を躱して、剣を構える。

 俺でも倒せる強さでよかった、とホッとしながら、渓谷の方に戻ってみた。

 下を覗くと、かなり下流の方にダンジョンの入り口が見えた。中のダンジョンが上流の方に伸びていて、その奥に隠し部屋があったって感じかな。

 そして何やらダンジョン入り口が人で賑わっていた。とうとう皆に見つかったんだ、あのダンジョン。まあ、あれだけ堂々と口を開けてたらそうだよな。



 上流の方に出たんだから、とついでに河の水が少なくなった原因を探るため、さらに上流に行くことにした。

 先に進むと、一段高くなった岩肌があって、どう頑張っても登れそうもない壁がそびえ立っていた。ここら辺から向こうには行けません、って言われてるような岩の壁だった。

 足を掛けれそうな出っ張りもない、なだらかなつるつるの岩に、溜め息が零れる。



「ジャンプ力が高くても、さすがに登れないよな……」



 これはもしかして、渓谷の下を歩いて行かないといけないのかもしれない。フィールド側からは行けないから。



「一旦降りれるところに戻ろう」



 歩いてきたところには、全然降りれそうなところはなかったから、やっぱりあの採取場所から降りるしかできないのかも。







 戻って、採取場所から下に降りる。

 そして上流に向かって進んでいった。となると、ダンジョンの方に向かうわけで。

 やっぱりわんさか人が集まっていた。

 それにしても気になるのは、プレイヤーに交じってしっかりとこの世界の人もちらほらといるってことだった。しっかり装備を身に着けてるってことは、冒険者ギルドに登録とかもしてそう。

 ダンジョン付近に近付くと、一番端にいたプレイヤーが俺に気付いて、声を掛けてきた。



「あんたも掲示板を見てここに来た口か? でもここ、外れダンジョンみたいだぞ」

「掲示板?」

「ああ。今日、水の少なくなった渓谷でダンジョンが見つかったって書き込みがあってな。近くにいたから来てみたんだ。でも先に入ったやつらが、奥は行き止まりだったって。特に何も手に入らないし、敵はウルフだけ。だんだん強くはなってくけどドロップ品は同じものだったって。経験値もそこらにいるのと変わりないって話なんだ。俺もこれから入ってみようとは思ってたんだけどな」

「そうなんですか」



 俺的に大当たりダンジョンだったんだけど、それは言わない方がよさそうだよな。



「あんたはどうするんだ?」

「いえ、俺は……」



 答えようとしたとき、丁度中に入っていたパーティーがガヤガヤと出てきた。



「やっぱり行き止まりだったよ。しかも最後の所のウルフが、砂漠都市にいるあたりの魔物くらい強くて結構苦戦した」

「めぼしいものあったか?」

「あ、俺採取上げてたから、最初の所だけ結構いいもの取れたよ。『水切苔』ってやつ。これ、たまに出回るけど結構高値で売ってるんだ。使い方わからないから売るけどね。でも取れたのは最初の所ともう一つ先の所だけ。もっとレベル上がってれば先の所も採れるのかもしれないけど、『水切苔』しか出てこなかった」

「なに、それ俺に売ってくれねえか」



 水切苔の話が出た途端、この世界の人が挙手して交渉に入った。採ってきた人も、笑顔で値段を決めている。そんな風に一種お祭り騒ぎっぽかったので、そっと人だかりの後ろを抜けて、さらに上流に行こうと足を進めた。



「おい、そこのやつ。何でそっちに行くんだ?」



 人ごみから離れた途端、誰かに声を掛けられてしまった。

 振り向いて声を掛けた人を見ると、プレイヤーじゃなくてこの世界の人だった。



「水が少なくなった原因が何かわかったら教えてくれって門番さんに頼まれてまして」



 本当のことを答えると、その人が人ごみを抜けて、こっちに歩いてきた。



「なら一緒に行く。俺も気になってたんだ。こんな風に水が少なくなるなんて今までなかったから気になって来てみたんだ」

「そうなんですか」



 断るのもあれだし、と並んで歩き始めると、外れダンジョンにがっかりしていたプレイヤーたちも、何だ何だと俺たちが進む方に歩き始めた。

 え、集団移動?

 振り返ると、興味津々の人たちが、一丸となって俺たちの後ろをついてきていた。



「皆で行くの……?」



 思わず呟くと、隣を歩いている人が笑った。



「原因が分かった時、人手があった方が効率いいやり方ができるかもしれないだろ」

「まあ、確かに」



 ということで、俺達を先頭に、総勢50人くらいの団体さんが渓谷移動を始めた。







 騒がしく集団移動をすること一時間くらい。

 目の前には滝がそびえ立っていた。

 そして、目を凝らすと、滝の上の方に何やら木がごちゃっと詰まっているっぽいのが見える。

 まるでビーバーが木の枝で作ったダムみたいな、そんな感じのモノだった。規模は全然違うけど。

 隣を歩いていた人も、上を見上げて困ったように肩を竦めた。



「あれだな、水の減った原因は」

「どうするんですか、アレ。ここからだと何も出来なそうですよ」

「上に行って、あれを崩すしかないな」



 なんて話をしている間に、他のプレイヤーの人が大声で叫んだ。



「お――い、ここに上に上がれそうなところがあるぞ――」



 声に従って移動してみると、降りてきた時と同じような蔦が、大岩に隠れるようにして壁に絡まっていた。その先には岩の出っ張りがある。見つけた人は早速上に向かっていた。



 我先にと一斉に蔦にへばりつく人たちの「いて、蹴るなよ!」「早く行けよ!」「押すなよ!」という声を聞きながら、俺は最後でいいや、とただただそこに突っ立って上を見上げていた。

 あの集団に紛れ込んだら真っ先に潰されるのは俺だって知ってるからな。

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