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109、隠しダンジョン奥には
しおりを挟む持ち物オッケー。
装備オッケー。替えの装備と武器も突っ込んで。
よし、と俺は立ち上がった。
今日は一日渓谷を歩き回る。そしてあのダンジョンももう少し奥に行ってみる。
……まだ水が少なかったらだけど。
ということで、インベントリを確認して、俺は工房を後にした。
宰相のクエストを忘れてるわけじゃないんだよ。でもまだ雄太からの素材も届かないし、まだまだここら辺の普通の素材すら集めてないし。
なので、急を要する方を先に。
北門に向かって歩き、今日も立ってる門番さんに挨拶をして。
「気を付けてな、マック」
「はい。無理なく行ってきます」
門番さんに見送られて、渓谷の方に足を進めた。
途中目についた素材を拾いつつ、出てくる魔物を倒して、昨日の帰りよりは時間をかけて渓谷までついた。
やっぱり水は少ないまま。
早速昨日の所から下に降りた。
そして、またしてもダンジョンの前で少しだけ考える。
上流に行くかダンジョンに行くか。
上流に行って、もし俺でもなんとかできる原因で水が流れなかったら、その原因を取り除いた瞬間また河はいつもの流れに戻っちゃうんだよな。まあ、そんな簡単な原因じゃないとは思うけど。
ってことは、その前にこっちに入ってみた方がいいのかな。
という結論に達して、俺はダンジョンを優先した。
昨日と同じようにじめじめした洞窟を進む。
出てくる敵はやっぱり、上のフィールドと同じ強さの魔物。一人で入ってたら、普通に索敵できるしおかしいと思わなかったかも。中学生たちに感謝だな。
昨日と同じように、また生えていた水切苔をゲットしつつ、今度こそ細い道の先に進む。
開けた場所に出ると同時に、見た目が同じウルフがとびかかってきた。
「うあ……っ!」
慌てて避けて、ウルフに剣を向けると、またすぐとびかかってきた。それに合わせるように剣を振る。ここら辺の敵だったら、それでだいたい光になるから。
でも目の前のウルフは、お腹を切られても鳴きもしないで後ろに飛びのくだけだった。零れていく血が片っ端から光になってるんだけど、まだ戦闘の意志があるかのように、俺を見ている。
やっぱり思った通りだった。一段階強くなってる。
もう一撃追い打ちを掛け、動きの鈍くなったウルフに止めを刺すと、ウルフは光になって消えていった。
インベントリに入っていたドロップ品は、やっぱりウルフの毛皮。上質でもないごく普通のやつ。
でもまだ剣だけでいけるな、と先に進むと、横道に採取場所があった。
今度は何かな、と足を向ける。
「採れるものも前の所と同じ。でもランクが上がってる?」
しっかり鑑定をしてみると。前の所で採れた水切苔はランクC、ここで採れた水切苔はランクBだった。
ってことは、もっと先があって、敵も強くなって、水切苔はもっとランクが上がるってことかな。まさか。
出てくる魔物はだいたい3発で倒して、スタミナを気にしつつ進む。
すると、またしても細い道があった。
これは行くしかないよな。
細い道を歩き、出口でそっと先の様子を伺う。
広い部屋のマップには、魔物がうろうろしている赤い点が数個しっかりと示されていて、今度は各個撃破できないかも、なんてちょっと身を引いた。
手に目潰しを持ち、深呼吸して、広間の入り口に立つ。
二匹がうろうろと近付いたタイミングで、俺は手に持った目潰しを投げた。
途端に、その目潰し範囲外の魔物がとびかかってきた。
ウルフの軌道上に剣を突き上げると、身を捩ってその攻撃をかわしてくる。
仕方ないからもう一つ目潰しを出して目の前の魔物に投げつけた。
唸りながら苦しんでる魔物は、攻撃を仕掛けても反撃してこないまま、俺の剣によって光になって消えていった。うん、目潰し必須。
一匹倒しても、残りの二匹が目潰し効果でふらふらしながら唸っている。
それも難なく剣で倒していく。
「ここからは目潰しがないと進めないってことかな。爆弾とか効くかなあ……無理だろうな」
目潰しを多用しながら先に先に進んでみる。
もう一つの細長い道を通り抜けた時には、魔物は目潰しがないとすぐに死に戻りしそうなくらいの強さになっていた。
「これは……昨日進まなくて正解だったな」
さすがにトレに来れるようになったばっかりの中学生では太刀打ちできないかもしれないという素早さと回避能力のウルフに、必死で目潰しを投げつける。
当たらなくても近くに落ちれば効くっていうのが救いだった。
もがいてる魔物に止めを刺して、肩で息を吐く。
マップは最初の所とほぼ同じような感じだから、素材採取場所もしっかりとある。
ここまで来ると、素材がランクSになっていた。おいおい大丈夫かよって感じだ。
普通採取できる素材は、大体上限がBランクなんだよ。まれにAランクが紛れてるくらいで。それなのにこの採取場所はランクSって。え、何、ここ、誰かの手が入ってるのか?
誰かがこの洞窟で水切苔を育ててる、とか。な、ないよな。魔物が跋扈してるし。それに普段は水の中なんだし……。
ドキドキしながら先に進むと、細長い道があるはずの場所は、行き止まりになっていた。
なんかここのボス敵とかいるかと思ったのに。行き止まり……って、待て。レベルが低いと、何も感じない場所だった。
ってことは。
「感知」
スキル発動すると、行き止まりのはずの所が、ほんのり光っていた。
「ま り ょ く ほ う し ゅ つ」
古代魔道語で、「魔力放出」と書いてある。これ、探索レベル思いっきり上げて上位にして、さらに古代魔道語が読めないと先に進めないんですかそうですか。なんて俺向けダンジョン。ってことは、先に進めってことかな。
行き止まりの狭い所に立つと、その「魔力放出」と書いてある文字の下に、明らかに魔法陣だと思われる円が見えた。
「吸収、解放、解錠、認識、探知、収束、魔力、移動、増設、回路」
魔法陣に描かれている文字はそんな感じだった。たぶんここに手でも当てて、MP分ければいいんだよな。そうすれば、先に進める、と。
「行ってやろうじゃないか。ここまで来たんだし」
減っていたMPを回復させてから、HPスタミナをチェックして、俺はその魔法陣に手を重ねた。
途端、魔法陣が光る。
光に包まれて、どんどんMPが減っていく。うわあ、タルアル草の時と同じパターン?
手にマジックハイポーションを持っておけばよかったかな、なんて思っていると、ようやく周りの光が収束していった。MPは残り三分の一くらい。何とか大丈夫だった。
ホッとして、周りを見渡す。
すると、今までいたところとは全然違う部屋に立っていた。
「アレ? あの魔法陣、扉を開けるんじゃなくて転移だったの? クラッシュに教わってたのと全然違う」
隣の部屋だったとして、すぐそこまでの移動にこんなにMP使うなんて、すごく大変だよな。
マジックハイポーションを取り出して飲みながら、俺はあたりを見回した。
マップに敵影は全くない。
それよりもここ。
「何かの研究室みたいな感じが……」
古ぼけた机があって、その上には何かの実験をしてたと思われる器具が乗っている。壁には本棚が岩を削って木枠をはめた感じで作られていて、ぼろぼろの本が並んでいた。
もう何十年何百年たったような、そんな研究室。
うわあ……。
胸のドキドキが止まらないよ!
何だこのシークレット!
昔隠れ住んでいた誰かがここでいろんな実験とかしてたんじゃないかな!
棚に近付いて、本を手に取る。これ、落としたら即バラバラになりそうな朽ち果て方だよ。
本を開くと、すべてが古代魔道語。俺、古代魔道語覚えててほんとよかった。ありがとうクラッシュ。
これ、持って行ってもいいのかな。泥棒にならないかな。でももう何年も誰もここに入ってない感じだから大丈夫かな。
カバンに入れるようにインベントリにしまい込むと、『古ぼけた本』という名前でちゃんとしまい込めた。あ、なんか大丈夫そう。
片っ端から突っ込んでいくと、『古ぼけた本』が全部で65冊になった。重さを感じないインベントリに感謝だよ。マジで。
次に机に移動すると、使われたまま、何かの薬品が入っていたのを放置して、それが乾燥したような汚れが付いていた。
「鑑定……『失敗作……蘇生薬を作ろうとして失敗したものの残骸』。蘇生薬って」
この世界には、人を復活させるアイテムはなかったはずだ。魔法すら。だから。死に戻り出来るとは言っても、そこまでむちゃくちゃするような人は案外少ない。だって死に戻りの感覚が、ほんとに死んだ、って錯覚するほど生々しいんだもん。あれは一度味わうとニ度は無理、ってなるよ大抵の人は。俺もそうだったし。
でもこれ、失敗作なんだ。ってことはまだそういうアイテムはないってことなんだ。
散らばっている紙を手に取って覗く。すべてが古代魔道語ってことは、もしかしてこの研究をしていた人は、古代魔道語が主流の時に生きてた人ってことかな。一体どれくらい昔の人なんだよ。そのころから蘇生薬研究って。しかもこんなところに隠れてとか。なんか狂気を感じる。
その紙は、いたるところにメモがあり、ぐしゃぐしゃにペンで消されたところもあり、何が何だかわからないような感じになっていた。
これも何か必要になるかな、と、紙をインベントリに入れようとすると、なぜかその紙はカバンの中に入るだけでインベントリには表示されなかった。
あ、これは持ち出し禁止なやつだ、と一瞬でわかる。持ってったらやばいんだろうな、と思ってそっと机に戻す。ってことは、インベントリに入った本は持ってっていいんだ。ちょっとほっとしながら、紙の一枚一枚をスクショした。ほとんどが失敗したみたいでぐしゃぐしゃってされてたけど。
実験器具は普通にインベントリに表示された。なんと上級調薬キットだった。うわあ、いいものゲット。
机の引き出しとかも隈なく探して、そして見つけた、その人の日記。
開けて読んでみてもいいのかな。
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