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106、たまにはまったり素材集め、したいなあ
しおりを挟む久しぶりのトレの森は、すごく帰ってきた! っていう感じがしてすごく楽しかった。
最近の森はすごく敵が強くて、俺にはちょっと敷居が高かったから。
俺でも一人でガンガン進めるこの森最高。そして、森の中は素材の宝庫! 最近こうやって採取してなかったからなあ。楽しい。ヴィデロさんが帰ってくるまでにどれだけの素材集められるかな。
そんな感じで森の中をガンガン進んでいくと、通知が一つ届いた。
「あれ、母さんだ珍しい」
ゲーム中に連絡を取れるようにと、ギアに設定されたアドレスに、端末からメッセージを送ることが出来るようになってるんだ。
それの通知が届いたんだけど。
開いてみると、母さんからだった。
『足の調子どうなの。あとで病院にお金払いに行ってくるけど、保険証は持って行ったの?』
あ、俺を心配してくれてたんだ。ありがてえ。
ということで、俺もその場で返信する。
『松葉杖借りた。保険証もお金もあとでいいっておっちゃん先生が言ってたからよろしくしていい? 足はゲームしてれば痛みを忘れる。ははは』
『ははは、って。大丈夫そうで安心した。今日は早めに帰るから。明日と明後日が学校休みでよかったね』
即レスされたメールを見て笑う。明日明後日は週末ゲーム日和だからね。でもそろそろ少しはテスト勉強しないとなあ。
古代魔道語くらいサクサク覚えられたらいいのに。
インベントリも結構溜まって来たので、俺は一旦工房に帰ることにした。
ここだとトレから徒歩で1時間くらいの距離かな。あいまいだけど。
ここで転移魔法陣を使ったら、工房まで行けるかな。
そんなことを思いついて、俺は早速実践してみることにした。MPは半分くらい減っていたから、マジックハイポーションを出して一気飲みする。
回復したのを確認して、魔法陣を描いてみた。
「……やっぱりだめか」
最後まで書ききったのに、スキルをキャンセルされたような感じでフッと文字が消えた。MPが足りないんだ。これ、もしかしてMPが増えたらヴィデロさんのところまでひとっとび、なんてことも出来るのかな。まあ、無理だろうけど。MPって上限あるのかな。最近MPを使うことばっかり覚えていくよな。楽しいけど。
諦めて歩いて帰ることにして、森を一人進んでいく。
たまにプレイヤーが歩いていたりするんだけど。お互いがただ散策してるだけのような感じの時は、軽く挨拶をして横を通り過ぎていく。
相手も軽く挨拶して、去っていく。走っていく人とか魔物とエンカウントしてる人はスルーで。
大分トレの街が近くなってきたなあってところで、俺は周りを見回した。よし、今のところ人はいない。マップにも映ってない。
ってことで、もう一度転移魔法陣を発動させてみることにした。
まだまだ慣れないせいか、ゆっくり書かないと文字が光らないんだよな。
少しだけマップを確認しつつ、文字を描き切ると、ふわっとした感覚の後、工房の中に立っていた。よし、成功。そしてMPはほぼ底をついてる。まだまだ先は長いなあ。セイジさんレベルになるには、MPが化け物並みに欲しいって感じなのかな。食べ物でHP上限上がったんだから、MPが上がる食べ物とか、もしかしたら作れるのかもなあ。でも材料を集めるのがものすごく恐ろしい気がする。クエストとかでしか手に入らないような超レア素材が必要とか。
インベントリ内の素材をまたも倉庫に詰め込んで、今度はドゥエの街の方にも行ってみようかな、なんてふと思いつく。
トレの森が主流だったから、始まりの街の方に逆にたどることなんてほとんどしたことなかったから。
今日はまだまだ時間があるから、と空になったインベントリにポーション類だけ詰め込んで、今度はいつもとは反対側の北門に向かってみた。
こっちの門はなかなか通らないから、あんまり門番さん知らないんだよな。
二人立っている門番さんの間を、頭をペコリと下げて通ろうとすると、門番さんの一人が「気を付けて行って来いよ、マック」とフレンドリーに声を掛けてくれた。な、何で名前知ってるんだ?! と驚いた顔を向けると、反対側の門番さんが「今日は川の辺りがちょっと変な感じらしいから、気を付けて行って来いよ」と情報をくれた。
「ありがとうございます。変な感じって、大物がいるっぽいんですか?」
「いや、なんかな、川の水が少ないんだ。いつもよりかなり水位が低いらしくて、上流の方で何かあったのか、なんて話を聞いてな」
「そうなんですか。ありがとうございます。ちょっと調べに行ってみようかな。今日は暇だし」
「ヴィデロ、早く帰ってくるといいな」
「はい……うえええ? ど、どうして」
どうして北門までそんなことが浸透してるんだ……。
目を見開いて口をパクパクさせていると、門番さんたちがはははと笑った。
「あのな、俺ら、宿舎は同じところなんだぞ? 北門はシンプルだろ。詰所はあるが、宿舎があるのは南門だけなんだ。こっちに配属されると行き帰りがめんどくさいんだ。いつも差し入れありがとな。マックのおかげでどれだけ助かったか数知れずだ」
「あ、そ、そうだったんですか……」
「忘れてるかもしれないが、ヴィデロが初めてマックを宿舎に連れ込んだ時、俺非番であそこにいたんだぞ。二人して真っ赤で、ちょっと笑っちまった。ようやくヴィデロが行動に移したって、皆ホッと胸を撫で下ろしてたんだ」
もうやめて……。恥ずかしいからやめてくれ。初めてってあれだろ。ヴィデロさん瀕死だった日のことだろ。い、いたのか、あの時……。
ぐわわわっと顔に血が上るのを自覚したけど、どうしようもないから、その場を逃げることにする。
「あ、あの、川、もし何かあったら報告しますね。あ、情報料……今日はあんまりポーション持ってきてないんだった。どうしよう」
いつもはそういう話を訊くときは大抵ランクの低いポーションを持ってたから。今日は自分の使う分くらいしか持ってきてないしな。とちょっと考え込むと、門番さんが苦笑した。
「いらないって。そのかわり、川の情報が何か手に入ったらその時は詳しく話してもらえると助かる。でも、何も持ってきてないってことはあれか。非常食も持ってきてないのか? それは、何かあった時ヤバいんじゃないのか?」
「うーん、あんまり遠出する気はなかったし、素材集めが主なことだったから、軽装で来ました。あんまり物が詰まってると素材が手に入れれないから」
「なるほどな。でもちょっと待て。手ぶらの旅人には無料で配ってるんだが、簡易非常食だけでも貰ってけよ。単なる水とパンだし、あまりおいしいとは言えないが。トレの領主様のご厚意なんだ」
そんな話をしている間に、もう一人の門番さんが革袋を一つ渡してくれた。
中には水の入った袋とパンが入ってる。これは遭難したときの強い味方だ。これを無料で配ってるって、トレの領主さんすごい。あのおっさんがここの領主じゃなくなってよかった。ほんとよかった。
ホクホクして非常食をインベントリに入れる。そうすると、簡易非常食という一つのアイテムとして扱われるらしい。ここに水を目いっぱいとか素材を目いっぱい詰め込んでも、インベントリ内は袋一つになるのかな。そしたらもっと素材を持ち帰れるかもな。
初級クラスの装備を付けた人たちを見ながら、先に進む。
ドゥエの街とトレの街の間には、長い吊り橋が一つあって、その下に渓谷があるんだ。いつも勢いよく川が流れてて、落ちると死に戻りするらしい。落ちたくないから試したことないけど。でも橋から少し川沿いに歩くと、下に降りれるようなところもあって、崖の途中にある広い棚に素材採取場所があるんだよな。比較的ポピュラーだから、結構人の行き来があったはず。俺も結構通った。ああいう秘密基地っぽい場所楽しくて。
で、その採取場所ぎりぎりまで水があったから、水補給場所にもなっていたんだけど。
そこからもっと下に行けるのかな。行けるといいなあ。ワクワクするなあ。
水位が低いなんて、初めて聞いたよ。
鼻歌交じりで歩いて、辿り着いた渓谷は、上から覗き込むと確かに水がかなり減っていた。
「うわあ……水面低いから、さらに吊り橋が高く感じる……」
風が吹くと、心臓がヒュンとなる。高い所は別に怖くないはずなのに、それでもなんかハッとして、あんまり覗き込みたくないような気分になる。
頭を引っ込めて、吊り橋から離れる。渓谷沿いに上流に向かってポツポツと樹が生えてる野原を進んでいく。道はしっかりと整備されてるからついつい道を歩きたくなるけど、この世界フィールドはこういう野原っぽい所は案外どこにでも行けるから、楽しいんだよな。プレイヤーがいけないところは、ちゃんと行けないよう崖になってたり、茨とか編み込まれた木とかで行けないってわかるようになってるから。何もない所がいきなり進めなくなるっていう、他のゲームでありがちな違和感が全くないんだ。だからこそ渓谷に落ちたりするんだろうけど。
渓谷の途中まで降りれる道を、前来た時のように降りていくと。
そこには、前と変わらず草系と鉱石系の素材があった。
でも、すぐそこまでなみなみと流れていた川は姿を消し、さらに深い渓谷が姿を現していた。
端に行って覗き込むと。
そこには、下に降りれるような蔦が、下に伸びていた。
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