これは報われない恋だ。

朝陽天満

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105、クラッシュの魔力レベルアップ!?

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「まずは、人気のない場所を探さないと。マック、どこか知ってるところある?」



 門を離れたクラッシュは、首を傾げて俺にそう質問してきた。



「俺農園と宿屋を行き来くらいしかしてないからさっぱりだよ」

「あ、それだ」



 全然街を歩いてないから、と返すと、クラッシュはパッと笑顔になった。



「農園に行って、あの人に場所を借りよう」

「一体何をしたいんだよ。物壊したりとかそういうことは絶対手を貸さないからな」

「全然違うって。俺そんな凶悪じゃないから」



 笑いながら、ずんずん農園の方に進んでいくクラッシュの後を慌てて追っていく。

 あ、トレに帰るなら、もう少しモントさんの所で仕入れもしていきたい。買ったドライフラワーの元になる花、それも欲しいし。ここには油の取れる花とかはないのかな。つくづくセッテで買い物できなかったのが悔やまれる。

 そんなことを考えているうちに、農園に着いた。

 ベルを鳴らすと、やっぱり太い音が農園に響いた。



「おうマック、と兄ちゃん。どうしたんだ。買い物か」



 すぐにモントさんが出てきてくれた。

 とりあえず、俺は出来る限りのモノをモントさんから買い付ける。

 途中、クラッシュが「あれ? 値段違わない? やっす」と呟いてたのが聞こえたから、モントさんが色々融通してくれてるのがわかる。

 ほんと色々お世話になったのに、さらに値引きとか、いいのかな。申し訳ない。



 インベントリも潤って、懐がちょっとだけ涼しくなって満足。

 そんな俺を見て、クラッシュが一歩前に出た。



「あの、人目につかない場所を貸してください。マックとトレに戻るんですけど、誰かに見られるのはちょっとよろしくないんで」



 そう言って頭を下げるクラッシュを見たモントさんは、ひとつ溜め息を吐いて、「来い」と家に招待してくれた。



「何をする気なんだ、兄ちゃんは」

「ええと、なんか俺、魔力が底上げされたみたいで、トレまで一気に跳べるかをマックを添えてやってみようかと思って。一人でなら十分に跳べるんですけど、二人だと魔力がどれだけ違うのか、やってみたくて。でもこんなの頼めるの、マックしかいないんです」

「跳ぶ……?」

「転移の魔法陣で」



 え、クラッシュ、そんなに魔力が増えたのか?! と横で聞いていた俺が驚いた。

 俺が貴族街からここまで跳ぶのにMP半分近く使ったんだけど。トレまで一気に、とか。どれだけMP増えたんだクラッシュ。羨ましい。



「それは危なくねえのか。途中魔力がなくなったりしたらどうなる」

「跳べないだけで、場所を指定しなおさないといけないくらいですね」

「そうか。んじゃ、気を付けて帰れよ」



 クラッシュの言葉に納得したのか、モントさんは目元を緩ませた。そして、手を振る。

 クラッシュは宙に文字を書こうとして、そうだ、と手を止めた。



「成功したら、また4日後、ここに来てもいいですか? マックの恋人を強奪しに来ないといけないんで。でも三人だとたぶんまだ跳べないから、俺一人でここに来ても大丈夫ですか?」



 本気でヴィデロさんを迎えに来てくれるみたいだ。クラッシュ、いい子。

 俺も一緒に来たいけど、人数でMP減少度違うのかなあ。そうしたら迷惑かかりそうだからダメだな。あとでマジックハイポーションランクS沢山差し入れよう。MP大量に使うみたいだし。



「おう来い。いつでも歓迎する。俺はモントってもんだ。よろしくな」

「俺は、トレの雑貨屋を継いだ、クラッシュです」



 自己紹介を済ませると、クラッシュが俺の手を取った。



「成功するかはわからないけど。帰ろっか、トレに」



 そう言って笑うと、クラッシュは俺なんかよりよほど速いスピードで、魔法陣を描き上げた。





 次の瞬間には、通いなれた雑貨屋の中にいた俺達。

 すごい、成功してる。

 驚いていると、横に立っていたクラッシュが俺にどや顔を向けてきた。

 いや、素直にすごい。けどその顔なんか、悔しい。



「どうだ。俺の魔力も捨てたもんじゃないでしょ」

「すごい。本気でスゴすぎる。何で魔力増えたんだよ。俺も魔力増やしたい」

「ん――、魔力暴走させれば増えるんじゃないかな。俺がそうだったみたいだし」



 はい、恐ろしいことを提案してきやがりましたねクラッシュさん。無理。魔力暴走なんて無理。っていうかどうやっていいのかすらわからないよ。



「地道にレベル上げすることにする……」



 MPが伸びやすいレベルのあげ方ってあるのかな。今度調べてみよう。







 クラッシュの店でも買い物をして、俺も魔法陣を使ってみることにした。

 行先は、勝手知ったるわが工房



 指の動きは早くないけど、宙に描く文字が光るのはとんでもなく嬉しい。



「じゃあねクラッシュ。連れ帰ってくれてありがとう」



 手を振るクラッシュにそう言うと、俺は最後の文字を描き込んだ。瞬間、さっき感じたのと同じような感じが身体を襲った。

 よし、成功。

 そしてMPを見ると、クラッシュの店とこの工房が近いからか、一人で跳んだからか、MPはさほど減ってはいなかった。

 もしかして、クラッシュの店に行くのに転移を繰り返してたら、そのうちレベルも上がるのかな。上がって欲しいな。便利だし。







 帰ってきて俺が一番にやったことは。

 無造作に詰め込まれていた素材やら何やらを、種類ごと、希少性ごとに分けることだった。

 今迄色々集め続けて1年半。

 余った素材とかはすべて倉庫にぶち込んでいたから、すごくごちゃごちゃしていてわけわからなくなっていたんだ。

 カバンのインベントリに入っている素材も全部倉庫内に突っ込んで、まずは整理整頓。

 整理をしてわかったことは、俺はあんまり魔物素材を持っていないってことだった。

 魔物素材は、かなりが錬金術に使う素材だった。錬金術用と普通に調薬する素材って、全然別のカテゴリーになるみたい。錬金窯には調薬用素材をぶち込めるけど、錬金用素材はどう頑張っても錬金でしか使えないんだ。っていうか、錬金素材、他の人には全部「謎の素材」って見えるらしいんだよな。不思議。



「魔物を狩るときは変な素材が手に入って面白いからって錬金術師ジョブにしてたのがあだになった……」



 これは、薬師として魔物を狩ってこないと何も始まらないってことかな。

 それとも、誰かと取引すればいいのかな。



「どうしようかな。自分で手に入れるか……」



 あ、そういえば、最初の街はプレイヤー同士の取引とかが主流だったっけ。



「欲しい素材を書いて、買い取りますって札置いといたら、売ってくれる人とかいるかな。いるかも。あ、でも、取引をほとんどしたことないから、そこら辺のマナー知らないや」



 となれば早速。

 と俺は雄太にチャットを送った。



『素材取引のやり方知ってる?』



 戦闘中とかだったら返事も来ないだろうと思って、倉庫整理の続きを始める。

 そういえば、セィの図書館に行くの忘れてたなあ。すごくバタバタしちゃったから。次に行った時に色々探そう。

 レシピももう少し増やしたい。あああ、錬金術も試したい!

 倉庫整理に飽きてきて、俺はしばしば手を止めて、とりとめもないことを考えていた。



 すると、ピロン、とメッセージが届く。

 雄太からのチャットだった。



『俺の素材買え。俺金欠。ノヴェに売ってる新しい装備が買えない』



 あまりにダイレクトな内容に、思わず吹き出した。

 俺はあんまり買い物をしないから、金欠ってほぼなったことないんだよな。クラッシュがめっちゃ高く買い取ってくれるから。

 笑いながら、返事を送る。



『内容如何による。でも魔物素材はたんまり欲しい。金ならある。ブツを出せ』

『大量のブツを出してやる。だから金を出せ』

『金はギルドで振り込む。受け取りやがれ。ブツはギルド経由でトレまで。さっさとよこしやがれ』

『すぐにでも』



 こうして交渉はまとまった。

 俺は早速大金を手に、ギルドに向かった。雄太が倒した魔物の数々……あ、もしかしてレア素材ばっかりだったりして。



 ギルドに登録していると、物を送ったりお金を送ったりもできるのが便利だよな。こっちで払えば違うところのギルドで相手に渡してもらえるんだよ。銀行みたいで便利。

 雄太にこれくらい、と指定された金額をギルド窓口で払って、物の届く日数を確認してもらって、俺はそのまま門に向かった。自分でも素材を集めないとな。っていう気晴らし。



 門を通ると、いつも俺とヴィデロさんを冷やかしていた門番さんが立っていた。

 俺の顔を見た瞬間、パッと顔を輝かせて、「マック喜べ!」と近寄ってきた。

 これぞまさにうちの街の門番さんだよな。このフレンドリーさにほっとする。



「お久しぶり。どうしたの?」



 足を止めて門番さんに向きなおると、門番さんは満面の笑みで、両手を広げた。



「お前の旦那さんが、もうすぐ帰ってくるぞ!」



 うん、知ってるよ。でも、ありがとう。

 門番さんにつられるように、俺も顔の筋肉を緩ませた。



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