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90、株分けしてもらってしまった
しおりを挟むなんか、頭が痛い。
なんでゲームの中で頭痛を味わわないといけないんだ。
ヴィデロさんに宿屋まで運んでもらって、ヴィデロさんの隣でいい気持のまま寝たのはいいけれど。
学校が終わってログインしてきたら頭痛なんて、一体どういうことだ。
ステータス画面を見ると「宿酔しゅくすい」となっていた。宿酔ってなんだっけ。
ずきずきする頭をすっきりさせようと、カバンから「クワトロ森林の湧水」を引っ張り出して一気飲みする。
あー美味しい。
なんとか立ちあがって、俺は荷物を整理した。
そして、クエスト欄を見る。
まだモントさんのクエストがクリアになってないのはどうしてだろう。まだ何かあるのかな。この「???の苗」っていうのも気になるし。
今日もまた、行ってみよう。
そもそもこの街に来たのがヴィデロさんに会うためと、モントさんのクエストをクリアするためだし。
他に移動する意味はないからなあ。あと、図書館にも行きたいな。
荷物を確認して、俺は宿を後にした。
まだ頭の後ろの方がずきずきする。
農園の門のところでベルを鳴らすと、太い音が頭に鳴り響いて思わず頭を抱える。
「ようマック。昨日は大丈夫……じゃねえみてえだな。入れや」
「はい……」
ベルが鳴らないようにそっと門に入り、そっと閉める。
まっすぐ家の方に入っていくモントさんの後をついて、俺も家に入っていった。
「で、どうしたんだ」
「頭痛くて。『宿酔』って何ですか?」
「ああ、そりゃあ、二日酔いだ」
「二日酔い……? 俺、酒とかまだ飲んだことないんですけど……昨日、間違って飲んじゃったのかな?」
首を捻っていると、モントさんが慣れた手つきでお茶を淹れ始めた。
「あれじゃねえか。万能薬の素。濃すぎて酔っぱらった状態にでもなったんじゃねえか? 待ってろ。今二日酔いが一瞬で飛んじまうハーブティー淹れてやるから」
「お願いします……頭痛くて何も考えられない……これが二日酔いか。俺、酒には呑まれない。こんなの二度と体験したくない……」
ソファに座って頭を抱えていると、すっきりした香りの透明な緑色のお茶が出された。見た目緑茶みたいで美味しそう。
熱いまま、一口含む。
すっきりするハーブの味が、胃にしみる。美味しい。
思わず一気飲みして、はぁ、と息を吐くと、スッと頭痛が引いていった。
「す、すげえ! ほんとに頭痛いの治った!! すいませんモントさん、このお茶っ葉売ってください」
「おうよ。裏に生えてるから好きなだけ売ってやる。乾燥もあるぜ。最高の出来だ。どっちがいい?」
「とりあえず、両方で」
「ははは、毎度」
早速茶葉をその場でもらい、ほくほくと注いでもらったお代わりのお茶をすする。うまい。これ、クワトロ森林の湧水で淹れたら味が変わるのかな。
ふとそう思い立った俺は、カバンから湧水を取り出し、モントさんに渡した。
「それ、クワトロ森林の湧水なんですけど、これでお茶を淹れたら味が変わりますか?」
「なんだその貴重な水は。味どころか成分まで変わるな。待ってろ。淹れてみる」
モントさんが早速水を持ってお茶を淹れに行く。
出てきた同じ茶葉で淹れたお茶を飲み比べてみると、味はそのままだけど、香りが湧水の方が強い気がした。そして。
「わ、スタミナ回復」
お茶でスタミナ回復出来た。さっきのは状態異常緩和だったんだけど、それにプラスしてスタミナ回復。どんなお茶なんだよこれ。
「お、これは畑仕事にいいな。マック、まだこの水あるか? よければ売ってくれ」
モントさんも気に入ったらしく、目を輝かせてこっちを見ていた。
でも売ってくれって。これ、流れていた水を汲んできただけなんだけど。
瓶代が一本10ガルだから、瓶代だけ貰うとして。
「10本で100ガル」
と料金を言った瞬間、モントさんに「お前さんはバカか」と突っ込まれた。
「こういうその場所でしか取れない素材はすげえ貴重な物なんだ。それを、なんだ10本で100ガルって。10000とか言っとけよ。払うから」
「だって、これタダだったし。10000ガル払うって、マジふざけてません?」
「ふざけてねえ。大体そんなもんだ。他ではそんな値段で取引すんなよ。いいカモだと思われて騙されるからな」
知らない人には売らないよ、さすがに。と口をとがらせても、モントさんはジト目で俺を見て、信じていなそうだった。でも。
「モントさんにはかなりお世話になっちゃったし。値段は変えません」
瓶を10本取り出しながらまっすぐモントさんを見返して口を開く。
トレに戻ることになったら、帰りにまた寄って汲んでいくからいいんだよ。
すると、モントさんが諦めたように溜め息を吐いた。
「わかった。マックの流儀で行くとするか」
「俺流儀?」
ってなんだろう。と思っていると、モントさんが何かを出してきた。
不思議な模様が入っている深緑色の大きな巾着みたいな物を目の前に置かれて、戸惑う。
「実はあれから色々試してみたんだ。俺はあんまり魔力がねえから自分の魔力で実験とかは出来なかったんだけどな。タルアル草はマジックポーションでも育つことが判明してよ」
え、ってことは、俺が飲んで魔力を提供するよりも、マジックハイポーションを掛けた方が全然早かったってこと?! 何たること……!
「でもな、マジックハイポーションで育てると、花の色が白になるんだ。花が白いとめしべから万能薬の素があんまりでねえんだよ。少しは出るからまあ悪かあないんだが、やっぱり人の手で育てた方が元気に育つってこったな」
「白い花。昨日は綺麗なピンクでしたよね」
「ああ。あれは花が素材を溜め込んでる状態ってこったな。あの後畑に見に行ったら、すっかり色が落ちてたから。素材が溜まってくるとまた色づくんじゃねえか、と俺は推測してる」
一晩でこんなに調べるモントさんがすごい。
感嘆の眼差しで話を聞いていると、モントさんが徐に俺の前に置かれた巾着を開け始めた。
そこには。
「土壌に魔力が満ちてりゃ、切って挿しこみゃ増えるらしい。普通の土とか砂じゃすぐ枯れちまうんだけどな」
と俺の前に持ってきたのは。
株分けされたタルアル草。
そこでハッと気付く。
もしかして「???の苗」ってタルアル草……?
「これな、器の大きさに乗じて大きさを調整させられるらしいんだわ。この小さい鉢植えだと、せいぜい伸びて腕一個分。吸い取る魔力もそこらへんで売ってるマジックハイポーション一瓶分くらいだった。でもな。これを地面に投げつけて魔力をやるといきなり昨日みたいに大きくなるから気を付けろ。小さいままなら育ちさえすりゃ万能薬の素一瓶分くらい採れるからよ。持って帰って可愛がってくれ」
「え、あ、いいんですか?」
こうしてみると、観葉植物みたいで可愛いんだけど。と葉っぱを突こうとして、止められる。
「触っちまったらまた魔力を吸って育つぜ。その布、一応魔力を通さねえ布だから、それごとやるよ。素材が欲しくなったら魔力をやって育てろな」
「わかりました。ありがとうございます」
それを受け取った瞬間、ピロンとクエスト欄にマークがついた。クリアだ。
ホッとしながら布に包み直してインベントリにしまい込む。
下手にそのまま置いておいて、触っちゃうとMPなくなっちゃうしな。それはちょっと困る。
でも。育った後は、あのウネウネと花が工房に飾られてるってことだよな……。
うん、考えて育てよう。
「もっと欲しいときはもっとやるから、そん時は遠慮せずに言えよ」
にこやかに笑うモントさんは、新しい植物が出来たのがとても嬉しそうだった。しかも有用なものだし。ちょっとウネウネ動くのがアレだけど、それが植物だというだけでモントさんには関係ないようだ。強い。
「これって誰かに言ってもいい植物なんですか?」
とりあえず俺は、一番大事だと思われることを聞いてみた。だってカイルさんの農園の例もあるし。
モントさんが俺の言葉に目をキランと光らす。
「そういえばカイルんところでおもしれえもん育ったらしいな。お前さん全部貰ったんだろ? 買取ならここでもできるぜ。持ち合わせがあったらな」
そっかやっぱり農園関係者には情報が回っていたんだ。だよな。じゃないと売れないもんな。
「今日は持ってきてないし、一応使うかもしれないので売らない予定です」
「そうかそうか。なんかおもしれえもんが出来たら見せてくれよ」
「あ、はい」
「で、だ。タルアル草だがな。素材だけを売りさばくことにして、株分けはしねえことにした。でもまあ、秘匿するとかそんなことはねえから、別に誰かに言ってもいいぜ。ただし、チビをやったのはマックだからだ。それだけは覚えておいてくれ。誰かがそれを見てなんか言ってきたら、こっちに回せ。丁寧に相手してやるよ」
モントさんの丁寧がどんな丁寧なのかは考えないようにして、俺はお願いしますと頷いた。
なんかやっぱりすごいものを貰った気分になりながら、俺は農園を後にした。ちらりと建物の裏に見えた畑には、昨日のように地面に葉を這わせた花が、確かに白くなって鎮座していた。白くても綺麗。
今日はヴィデロさんが来る前に農園を後にした俺。特に何もすることがなくなったので、ちょっと早めに宿に向かうことにした。外門の方に向かって、歩く。すると、遠くから「マック――――!」と俺を呼ぶ声が聞こえた。
え、この街、ヴィデロさんとモントさんくらいしか知り合いがいないんだけど。
と周りをきょろきょろと探すと、門のあたりで馬の手綱を持ってこっちに向かって手を振っている美形が目に入ってきた。
え、ここ、セィだよな?!
なんでクラッシュがこの街にいるんだ?!
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