これは報われない恋だ。

朝陽天満

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81、フラグをたてないでください

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 とりあえず、一旦砂漠都市で図書館と農園をはしごすることにした。

 トレの図書館はいつも活用してるんだけど、砂漠都市の図書館は実は初めて行くんだ。

 古代魔道語の何か、ないかな。

 とワクワクしながら足を踏み入れる。



「古代魔道語で書かれた本は、ここには置かれておりません」



 入口の司書さんみたいな人に古代魔道語の本のことを訊くと、そんな答えが返ってきた。がっかりだ。

 各街の図書館の蔵書がすごいから、俺はいつでも入り口で司書さんに見たい本のことを聞くことにしてるんだ。だってピンポイントで場所を教えてくれるから。

 肩を落とした俺に、司書さんも申し訳なさそうな顔をして、謝ってくれた。いやいや、司書さんのせいじゃないですよ。



「古代魔道語で書かれた本はとても貴重ですし、今古代魔道語を読める方もなかなかいないですから。ですが、セィ城下街の図書館になら置いてあるはずです。もしセィ城下街に向かう用事があるようでしたら、ぜひご活用ください。ただし、持ち出し不可の場所に置かれておりますので、閲覧のみとなってしまいます」

「え、ハイ! ありがとうございます! 絶対行ってみます!」



 あんまりにもがっかりしていた俺が哀れだったのか、司書さんは俺にそんな朗報をくれた。うわあ、いい人だ。っていうか他の街の図書館情報も頭に入ってるのかな。司書さんすげえ。

 薬師レシピのこともさらっと聞いて、その棚をしばらく読み漁って、薬師レシピを増やしたところで、俺は図書館を後にした。速読がここでも役立った。

 次は農園かなあ。実はここの農園も初めてだった。砂漠都市はほんとにゆっくり見て回ったことなかったから。

 街の景色を見ながら足を進めて行くと、街の隅の方に、お目当ての農園はあった。



「こんにちは――」

「いらっしゃい」



 声を掛けると、真っ黒な肌の色をした農園主さんらしきおじさんがにこやかに出てきた。さすが砂漠都市。肌の色が半端ない。



「何か入用かい?」

「はい。見せてもらってもいいですか?」

「もちろんだよ」



 どうぞどうぞと農園の中に案内してくれる農園主さんは、服の上から見てもとんでもなくガタイがよかった。っていうか農業関係の人、ほんとに体つきがすごい。がちがちだ。力仕事だからなあ。

 後をついて、奥の畑の方に行くと、サボテンに占拠された一画があった。サボテンも何かに使えるのかな。砂漠都市近くにぽつんぽつんと生えてるサボテンと、大きさは全然違うけど同じ形してるし、じゃあ外に生えてるのも実は素材だったのか。



「うちの自慢はあそこに生えているヴィンティカクトゥスだよ。先が太くて丸いのがヴィンティカクトゥス、太さが同じで枝分かれしているのがカクトゥス。ヴィンティカクトゥスは上の実から茎と中身、根まで食用で、焼いても食べれるし煮ると中身が蕩けて美味なんだよ。種も柔らかいから、そのまま食べれるし、実を絞ればジュースにもなる。水がない所でも育つから、非常食としてとても喜ばれるよ。今は時期じゃないけれど、咲く花もなかなかに綺麗でね。薄いピンクや白や黄色とバリエーションも豊富なんだ。観賞用としても人気が高いよ」

「食用ですか」



 農園主さんは丁寧に教えてくれた。食用。これは買わないとだろ。

 外に生えてるのとここのじゃ、大きさと艶が全然違うんだよ。絶対こっちの方が美味しいだろ。サボテンって食べたことないけど。外のと比べてみてもいいかも。

 ワクワクしながら、足を進める農園主さんの後をついていく。



「こっちのカクトゥスはね、根が『腹痛、下痢、頭痛、発熱』に効くんだよ。煎じて飲んでもいいし、実や身を絞って飲ませてもいい。茎は薄く切って怪我や打撲に張り付けるととても治りが速いし綺麗に治るんだよ。勿論こっちも食べれる。棘がちょっと危険だけど、棘は焼けばなくなるから、表面を一度サッと焼くと扱いやすいよ」

「そうなんですか。こっちは薬用かぁ。欲しい」



 にこにこと説明してくれるから、俺までニコニコしてくる。



「欲しいものはあったかい?」

「カクトゥスとヴィンティカクトゥスぜひ売ってください」

「ありがとう。見たところ、君は薬師の様だが、薬草月見草の類はここの気候では育ちにくいから、ないんだけれど」

「それはカイルさんのところで買ってきたので大丈夫です」



 そうかい、カイルさんのところでかい、と農園主さんが目を細める。あ、そういえば名乗れって言われてたんだった。

 今更だけど、名乗っといた方がいいのかな。

 でも全農園がバックアップしてくれるっていうし、お礼しておかないとかな。



「あの、俺、マックって言います。農園全体で俺を応援してくれるってカイルさんに聞いて、一言お礼を言いたくて」



 と口に出した瞬間、農園主さんは驚いたような顔をして、その後、破顔した。今までのニコニコ顔が目じゃないくらい。

 「そうか」と頷いた農園主さんは、俺の右手を取り、両手でギュッと握りこむ。



「そうか、君がマック君か。カイルさんの所と、トレアムさんの所、本当に助かったよ。農園従事者一同、とても感謝しているよ。各街には農園が一つずつしか作れないきまりがあるから、トレアムさんの農園が閉鎖されたら、そうでなくてもギリギリの薬草栽培がとても追っつかなくなるところだったんだよ。外に自生している薬草は、近年とみに効果が薄くなっているから。あそこが一旦閉鎖されてしまったせいで、回復薬が出回らなくなってしまったからねえ。それだけじゃなくて貴族たちが数少ない回復薬を買い占めてこれ幸いと王宮に献上していたようだっていうのも原因の一つなんだけどね」

「あ、だからクラッシュが自らセッテまで馬車を走らせることになったのか。貴族がポーション買い占めて王に献上って。ポイント稼ぎとかでしょうか?」

「そうだね。我先にと回復薬を持ち込んだらしいねえ。しかも外の方からも回復薬を手に入れてきたようだから、ここら辺だけじゃなくて、王国全体が回復薬不足に陥っていたようだよ」



 トレでは俺がひたすらクラッシュの所に卸していたから、そんなことわからなかったよ。外にも目を向けないとだめだってことだな。



「セッテの冒険者ギルドには、トレの雑貨屋の店主さんと結構沢山のポーションを納品したんですけど。それも貴族に買い占めされたのかなあ」

「ギルドに卸したのなら大丈夫だよ。ちゃんと管理してくれるからねえ。でも納品までしてくれていたんだ。じゃあ、マック君が全てを潤滑に回るようにしてくれたんだねえ。ほんとに感謝しているよ」



 それは俺がやったんじゃなくて、クラッシュががんばったんです。俺は単なる護衛。でも護衛とも言えない体たらくだったけど。何度クラッシュを危ない目に合わせたか。反省。

 それにしても、単純に農園が閉鎖されたから薬草が手に入らなくてポーション不足に陥ったと思ってたけど。貴族たちの買い占めがポーション不足にしてたなんて。

 なんか、酷いなあ。



「ただねえ、マック君が回復薬を運んでいたことが貴族に知れると、ちょっと危険な気がするねえ。それは黙っていた方がいいかもね。流通を回復させたのが点数稼ぎ出来なかった貴族に知れると逆恨みされるかもしれないからね。もしセィ城下街に行くことがあっても、貴族街には近づかないことだね」



 ハイ、それクラッシュにも言われました。って、ほんとこれ、フラグか何かなのかな。



「もしセィ城下街に行って貴族と何かあったら、農園に逃げ込むんだよ。セィの農園主のモントくんは、貴族相手も慣れてるから、何とかしてくれると思うからね。もちろんこの街で何かあったら、僕も微力ながら手を貸すから、遠慮なく頼ってくれていいからね」

「はい。その時は頼りにさせてもらいます」



 っていうか俺、この人にセィに行くって言ってないよ。なのにこの忠告。

 品物が安くなるくらいかなと思ったバックアップは、思ったよりも強力だということはわかったけど。だって貴族と揉めたら助けるからねって言われてるようなもんだろ。それ、農園に迷惑がかかるんじゃ。



「僕たちにとっては、農園従事者は皆仲間なんだよ。その仲間を助けてくれた子を全力で守るっていうのはおかしいかな?」



 にこやかにそう言ってくれる砂漠都市の農園主さんは、とても頼りがいのあるおじさんに見えた。







 サボテン各種を手に入れて農園を出ると、すでに日が傾いていた。今日セィに向かうのは無理だなと思って、宿屋を探す。

 早速見つけた宿屋に入って、寝るにはまだ数時間あるという時間を、クラッシュから出された宿題に費やすことにした。

 一文字も間違わずに、魔法陣を描く。クラッシュの綺麗な文字を追うようにして、ひたすら覚える。文字は読めるから、それを綺麗に描くように、指を動かす。

 しばらくの間集中してそれをやっていると、ふと、しっかりと描けたところだけ文字がふっと光るようになった。え、これすごい。

 驚いたせいか、集中が切れる。



「えっと、ちょっとだけ、魔法陣を描くことに成功してた、ってことでいいのかな」



 だってMPが減ってるから。文字が光らなかったときは満タンだったから、あの光る文字に魔力が乗ったって感じなのかな。

 うわあ、覚えたい。なんの魔法陣かいまいちわからないけど、覚えてみたい。描いて、魔法陣操りたい!

 と興奮したところで、空腹ゲージが点滅を始めた。あ、物を食べるの忘れてた。



 俺は魔法陣をインベントリにしまうと、下の食堂に向かって足を進めた。

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