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77、古代魔道語VL1
しおりを挟む結論から言おう。
ヴィデロさんには会えなかった。
俗にいう出張みたいなもので、今、セィの城下町に行ってるらしい。あっちの門番さんと貴族街の所の門番さんがなんか揉めて、代打でヴィデロさんが行くことになったんだって。
「ま、これで功績が認められれば、もっと上に昇れるってことで、いいことじゃねえか」
なんて、俺をいつもチビ呼ばわりする門番さんがガハハと笑う。
そうだよな。出世だよ。でもなんでヴィデロさんが。
「揉め事を丸く収めるのがめちゃくちゃ鮮やかだからな、ヴィデロは。結構いろんなところに目を付けられてるみたいだぜ。マックがここに住んでるわけじゃなかったら、もしかしたらもうここにはいなかったかもな」
「え……」
もしかして、ヴィデロさんが出世しないのは、俺のせい、とか……?
呆然と門番さんの言葉を反芻していると、門番さんも余計なことを言ったな、と苦笑いした。
「そこらへんはヴィデロの考えなんだから気にするなよ。ヴィデロはマックとあは~んな関係になる前から、お前にご執心だったんだから。わざわざマックが通ろうとすると一歩前に出て挨拶するなんて姑息なことまでしてな。わかるけどよ。マックは、俺らを物扱いしないからな。俺だってマックと挨拶するのはすげえ気持ちいいから」
「え、それ、初めて聞いた」
「あいつマックの前じゃめちゃくちゃ取り繕ってたからなあ。かっこいい自分を演出しようとか頑張ってたよ笑えるくらい。だからこそ、ここの門番は皆ヴィデロを応援してたんだよ」
そうだったんだ。すごくフレンドリーで優しくていい人だなって、好きになる前から思ってたけど。
たぶん俺を庇って死にそうになってた時に俺は完璧落ちたわけだけど。
それより前から、俺を好きでいてくれたんだ。
「じゃあ、ヴィデロさんの栄転を喜ばないといけないよね……」
だって、出世だし。喜ばしいし。
と俯くと、バン、と門番さんに背中を叩かれた。地味に痛い。
「何て顔してるんだよ。今回は短期の派遣だから、戻ってくるって。なんかあるにしても、マックにだけは言わねえはずねえし。今回は急だったからな。笑顔で出迎えてやれよ。帰ってくるのわかったら教えてやるから」
「うん、ありがとう。ごつくてデカくてちょっと顔怖いけど、いい人だね門番さん」
「こら、顔怖いは余計だ」
怒るでもなく豪快に笑った門番さんは、俺が角を曲がるまで手を振っていてくれた。
そっか。ヴィデロさん、しばらく会えないんだ。
もしかして、レガロさんもクラッシュもヴィデロさんが特別って言ってたの、この栄転があるからなのかな。でもヴィデロさんは俺のせいでここから動く気がないから、違うって否定してたとか。なんか自惚れた考えになっちゃったけど、考えれば考えるほど、そうとしか思えなくなる。
俺はトボトボと歩きながら、溜め息を足元に零していた。
気分転換にクラッシュの所に行って古代魔道語でも習ってみようかな。お土産は魔女風薬草鍋で。小さい鍋に作って、そのままインベントリに入れてあるから。
クラッシュの店に行くと、珍しく、そこにはエミリさんがいた。
「こんにちは。古代魔道語習いに来たんだけど、取込み中なら出直すよ」
俺に注目していた二人にそんな風に声を掛けると、エミリさんが「そんなんじゃないわよ」と自分の横にある椅子をポンポンと叩いた。座れってことかな。カウンター越しにはクラッシュが、おいでと手招いている。
「ようやく習いに来たんだ。待ってたよ」
「マック古代魔道語をクラッシュから習うんですって? 私も少しは知ってるから、教えられるわよ。クラッシュも完璧に近いから、たんと習ってね」
あ、そういえばクラッシュは古代魔道語をお母さんから習ったって言ってたよな。ってことは。
「エミリさんも魔法陣を使えるってことですか?」
俺の言葉に、エミリさんは首を横に振った。
「私は構築がまるでセンスなくて、全然使えないのよ。自分で剣で切って直接魔法を撃った方が早いじゃない。だから魔法陣はまるっきり出来ないの」
「そうなんですか」
「俺はセイジさんに習ったから、母さんよりはマシ。でも魔力が段違いに低いから、それほどすごいのは出来ないんだ。世の中ままならないよね」
クラッシュは、人族達から比べると魔力は高いけれど、エルフたちから比べると、子供並の魔力しかないらしい。セイジさんとエミリさんは無限大ってくらい魔力があるからもう別世界の人って感じだそうだ。魔力ってMPとかじゃないよな。もっと違う魔力ってものがあるのかな。
ハーフエルフってのもなかなか大変だよ、なんてクラッシュは笑って言ってたけど、じゃあ、もう一人のハーフエルフであるレガロさんはどんな感じなんだろう。すごく謎が多いよなあの人も。
「まずはこの古代魔道語の本を読めるようにならないとなんだけど」
クラッシュは早速分厚い、重厚な装丁の一冊の本を出してきた。
目の前にドンと置かれたんだけど。ぺらっとページをめくる。うん。わからない。
お、覚えられる気がしない……。でもこれを覚えて魔法陣が使えるようになったら、ちょっとでも火力不足を補うことが出来るかもだし。
意を決して、俺は最初のページの読解に乗り出した。
『まそを ためて まものは からだを つくる
まものの いのちを けすと まそは そらに かえる』
たどたどしいけれど、俺が読んだ古代魔道語の一文だ。
最初はクラッシュに指さし読解してもらってたんだけど、なんていうか法則がわかると、読み方が頭に浮かんでくるような変な感じで、あ、これ、理解できてる、ってなって。
ふとスキル欄を見たら『古代魔道語Lv1』ってついてた。それで読めるようになったんだと思う。スキルってホント便利。レベル上げよう。
「マックすごい。一日で理解するとはさすがに思わなかった。絶対センスあるって」
剣術では全くスキルを覚えられなかったのに、こっちは一日なんて。剣術のセンスがいかにないかを改めて突き付けられたよ。
覚えたのはいい。でも、そこからが難題だった。
「この文字、形が難しい。ちゃんと形にならないんだけど」
「それは慣れだよ。たくさん書けば綺麗になるって」
そうだといいけど。今度、毎日書き取りしてしっかり書けるようにしよう。
だって綺麗に書けないと魔法陣を書きようがないし。読むより書き取りが魔法陣の基本だもんな。
ってそんなことよりも。
と俺はいったん本を閉じて、カウンターの隅に置いた。
「お腹空いた。ご飯にしない? エミリさんもどうですか?」
そう言って、蓋の乗った小鍋をカウンター横のテーブルに乗せた。
二人とも歓声を上げて早速椅子に座る。
蓋を開けた瞬間の顔が見ものだよ、なんてワクワクしながら早速お披露目すると。
クラッシュは、俺の思い描いた表情をしてくれた。でもエミリさんは全く違った。
「うそ、やだ。またこれが食べれるなんて……」
と目をウルウルさせて口元を手で押さえていた。あれ?
「何よマック、どんなご褒美よ。私これ大好きなのよ。いつもサラが作ってくれて」
なんか、偶然にもサラさんとの思い出の品を作ってしまっていたらしい。この鍋を作るなんて……サラさんって強者?
「え、そうだったんですか? そ、そのサラさん、豪快な人だったんですね……」
「ええもう、何に対しても豪快な子だったわ。ルーチェに対する気持ち以外。恋愛方面だけはどうも奥手だったのよ。見ててイライラするくらい」
「そうなんですか……」
サラさんはルーチェという人に恋していたらしい。ところでルーチェって誰だっけ。聞いたことあるような気がするんだけど……。と思いつつ、思い出に浸るエミリさんを見守っていた。
その後すぐ嬉しそうに食べ始めたエミリさんを、何か変な物でも見るような胡乱な目つきで見つめた後、クラッシュも恐る恐る鍋に手を伸ばした。
クラッシュはお約束にも、ちゃんと俺の欲しかった反応をくれた。満足。
「ヤバい。美味しい。何で?!」
「そうよね。私も最初はそう思ったのよ。でも見た目と味のギャップがね、癖になるのよね」
ズバリそう言い切るエミリさんの方が豪快だと俺は思った。ギャップって。そういうところ女性って強い。
皆ですっかり薬草鍋を完食すると、エミリさんは満足したように手を振って帰っていった。偉い人が気さくなのって、何だかいいよな。ギルドが好きになるよ。
クラッシュと二人になると、またも俺は古代魔道語の本を開いた。
「マック。勤勉なのもいいけど、ほどほどでちゃんと肩の力を抜きなよ。じゃないと、俺も心配になる。教えといてなんだけど」
肩の力って。いつでも抜いてると思うんだけどな。
大丈夫、と返事をすると、クラッシュが「じゃあ」と無理やり本を閉じた。
「俺から依頼。食後の美味しくて見た目もいいお茶を作ってください。一緒にお茶飲もう」
クラッシュの言葉に反応するように、クエスト欄がピコン、と光った。
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