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67、ヴィデロさんにもプレゼント
しおりを挟むお昼過ぎまでヴィデロさんと愛し合って、ふと、立てていた計画を思い出した。
ガバッと起き上がり、高くなった陽を見て、がっくりと項垂れる。
「マック?」
「そうだったよ忘れてたよ。今日はヴィデロさんをクワットロまでデートに誘う予定だったんだよ……」
ヴィデロさんのむき出しの筋肉質な胸に額をくっつけて溜め息を吐くと、ヴィデロさんはよしよし、と俺の髪を撫でた。
「これから行くか? それとも今日は二人で1日裸で過ごすことにして、明日、行くか?」
「ん――どうしよう」
はっきり言って、裸で過ごすというのもやぶさかではない。
でも2日しかない非番。俺も学校休んでしっかりログインできるのが2日間だけ。
時間が勿体ない。という結論が、俺の中でチーンと浮上した。
「裸もいいけど、でもデート! とうとうあのレシピのお代が出来上がったんだよ!」
ヴィデロさんにも一つプレゼントしようと思ってたんだった。
起き上がってごそごそと服を身に着けると、部屋に入ってから投げ捨ててたままだったカバンから一つ『薬草の色とりどり薬膳スープ』を取り出した。
下だけ身に着けた素晴らしい腹筋のヴィデロさんの目の前に立ち、それをハイと差し出す。
ヴィデロさんは驚いたように、俺を見つめた。
「これ、ヴィデロさんにプレゼント。いざというときに飲んで」
「マック、これ」
「完成品が出来たから、ひとつ、ヴィデロさんに持っていて欲しくて。あと一つは、店主さんに」
瓶を傾けても変わらない層のスープを手に取って、ヴィデロさんが瓶をじっと見る。
口が何かを言いかけて、そして、閉じ、ふっと目元を緩ませた。
瓶を持ってない方の手のひらを、俺の頬にそっと這わせる。
ちゅ、と軽く、唇を啄ばまれて、思わずヴィデロさんの手に自分の手を重ねた。
「こんな、大事なものを」
「ちょっとした保険。状態異常無効とスタミナ減少無しになるスープだから、もしすごくヤバい敵が出てきても、時間内ならずっとトップスピードで逃げられるから。あと、見た目と味でも楽しめるって」
その説明に、ヴィデロさんが息を呑むのが聞こえた。
前に作った未完成品はとにかく全てにおいて凶悪な感じだったからなあ。今回は見た目はすごくいいから。ヴィデロさんが息を呑むくらい性能は凶悪だけど。
としみじみ成功したことを喜んでいると、はぁ、と息を吐きだしたヴィデロさんが、おでこをこつんとくっつけてきた。美形アップ目の保養ですか。大変に保養になりますありがとうございます。
「これは、人前では飲めないな。というか、マックはこういうものを不用意に外で出すなよ。変なやつに因縁付けられて拉致とか、死ぬまで閉じ込められて薬を作らされる毎日になってもおかしくないからな。そんなのは嫌だろ。俺も嫌だ。あ、いっそ俺が外に部屋を借りてマックを監禁……」
ヴィデロさんの呟きを聞いて、ヴィデロさんになら監禁されてもいいってちょっと思った俺は病んでるんだろうか。不治の病に侵されてるんだろうか。
「なんてのは冗談だけどな、マックのその手にはそれくらいの価値があることを、自覚してくれ」
「うん」
ヴィデロさんが俺を心配してくれるのが嬉しい。嬉しさのあまり目の前の立派な胸筋に抱き着くと、そこまで太くないけどしっかりと締まっている腕で抱きしめられてしまった。
「じゃあ、今日はクワットロまで行こうか、夜までには帰ってこれるだろ。もしくは、クワットロで一晩明かすのもいいかもしれない」
お泊りデートですねわかります! どんとこいです!
大いにはしゃいだ俺によって、その後すぐに俺達は隣町まで出発することになったのだった。
馬屋さんで馬を借りて出かけるという案もあったけれど、お泊りデートも出来ることが判明した俺は、ゆっくりでもいいよと値段的に半分以下になる乗合馬車でクワットロまで行くことに決めた。
だって。だってだよ。今日は、多分チビ扱いされないから! ちゃんと育ってるから。だって今、ヴィデロさんとの身長差が10センチ弱くらいまで縮まってるから。
途中馬車に向かってくる魔物をヴィデロさんとともに倒しながら、のんびりと馬車デートを楽しむ俺。
乗り合わせた人に「お兄さんたち強いなあ」って言われて舞い上がった俺。チビ言われないことがこんなに嬉しいとは! と喜んでる俺を見て、ヴィデロさんが笑いをこらえているのが目に映る。
大きい人にはこの苦労はわかるまい。くそ。でも笑いをこらえるヴィデロさんもいい。
大きな問題もなく、夕方には俺たちはクワットロの地に降り立った。
この街の名物を出してくれるという食堂に寄ってから、裏路地へ。
年季の入った建物が、俺達を迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました」
そしていつも通りにイケメン執事さんが出迎えてくれる。
「保留になっていた本の代金が出来上がったので、持ってきました」
早速はい、とイケメン執事さんに完成品を渡すと、執事さんはほぅ、と感嘆の吐息を吐いた。
「これは……素晴らしいです。さすがはお客様。では、こちらも」
イケメン執事さんは早速薬膳スープをしまいに行くと、手に何かをもって帰ってきた。
ふわり、とそれが目の前に置かれる。
綺麗なレース編みの四角い布だった。
「どうぞ鑑定してみてください」
「あ、はい」
これが俺が欲しいものなのかな、と首を捻っていると、執事さんが勧めてくれた。
なので早速レースを鑑定すると。
『マジックセーブドイリー:魔力を吸い貯めておく習性のある蚕の糸から紡がれたドイリー。マジックアイテム。これを使うと魔力消費が半分に抑えられる』
「あ、これ欲しい奴だ」
すごい、MP少ない俺の悩みがこれでかなり解消される。
なんでこういうのわかったんだろう。この間もヴィデロさんを呼んでくれるし。
と、びっくりして執事さんを見ていると、執事さんはにっこりとほほ笑んだ。
「お気に召してくださったようで何よりです」
「はい! ありがとうございます! それにしても、これ、すごく綺麗ですね」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると作ったかいがあるというものです」
あ、これ、イケメン執事さん作だったんだ。どれだけ手先器用なんだ。それに糸が高そう。
俺こそこれ、過剰に貰ってないのかな。
とちらりとイケメン執事さんを見ると、それに気付いた執事さんが「問題ありませんよ。かかっているのは糸代のみですので」と口を開いた。考えてること読まれてる気がするよ。
店を出ようとすると、イケメン執事さんがにこやかに、「またお二人でのご来店をお待ちしております。順調にそのアミュレットも育っているようで何よりです」と頭を下げてきた。
そういえば何パーセントまで溜まったのか、全然気にしてなかった。俺の胸元に羽根が下がってることで満足してたよ。
と、ヴィデロさんと一緒に羽根を覗き込む。
「……32%」
この短期間ですごく溜まったな、とにこにこしてたら、隣からヴィデロさんが「もっと愛し合わないとなかなか溜まらないな……」と呟いていた。いやいやいやいや、急成長してるからね?! もっと愛し合うのはやぶさかではないけど!!
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