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46、一難去ってまた一難
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ピンチっていうのは、こういう時のことを言うんだろうか。
ピンと張り詰めた空気と、物理的に圧力がかかっているかのような重い圧力。
これ、ダメなやつだ。
瞬殺されるやつだ。
「クラッシュ……だめだ、下がれ……」
存在自体に威圧され、圧倒される。
雄太の言っていた、レベル120超えでもやられた魔物って、絶対こいつだ。
丸くなり、寝息をたてている、小山のような、魔物。
クラッシュと二人、音をたてないようにじりじりと後退する。
「マック、絶対手を出しては、ダメだからな……」
「わかってる……俺じゃ瞬殺レベルだから」
「あれ、魔力が半端ない……魔力の圧力で心臓止まりそう……寝てて、よかった……」
あまりの強さのせいか何なのか、俺の索敵レーダーにこのヤバい魔物の敵影は映らなかった。安心して進んで、何か空気が変わったな、と思ったらこれだ。
もっと索敵レベル上げないと今後辛いかもしれない。それに、パーソナルレベルも、上げないと。だからって戦闘で強くなるわけじゃないけど。
山賊にやられるんじゃなくて、魔物にやられるってのはほんと勘弁してほしい。
もし昨日俺があいつに負けてたら、クラッシュ一人でここに来てたかもしれないってことか。
さっきの空気が変わったところまで、何とか魔物が起きる前に逃げないと。
は、と浅い息を吐いた瞬間、魔物の目がカッと開いた。
ヤバい気付かれた!
さっきなんか全然目じゃない圧力がズン、と体にかかる。皮膚という皮膚が何かにずっとチクチクされているような、不快感が身体を覆う。
そっとなんて言ってられない事態に陥り、俺とクラッシュは今度こそダッシュでそこから逃げに入った。
「ヤバいヤバいってこれ! クラッシュ、何とか、逃げ切るぞ!」
「……うん……!」
樹の間を全速力で駆ける。圧に負けそうになってるのか、自分の足が思うように動いてくれない。もつれそうになるのを何とか堪えて、クラッシュと共にひたすら逃げた。
『グアアアアオオオオオオオ‼』
威圧来た!
まるで金縛りにあったみたいに、身体が動かなくなる。完璧威圧が効いちゃったよ! 横を見ると、クラッシュも硬直してるみたいだった。
倍以上レベル差があるのって、こんなにも怖いんだ。
心の底から恐怖が沸いてくる。その後、絶望も。
ダメだ。俺たちは、ここで、こいつに消される……。
「マック……」
歯を食いしばったクラッシュが、俺を呼んだ。
その小さな声に、俺はハッとなった。
ダメじゃん、ここで諦めたらもうクラッシュと馬鹿な話とかも出来なくなる。
そんなのは絶対に、いやだ!
そう思った瞬間、金縛り状態が解けた。威圧解除されたらしい。
横目でちらりとインベントリを見て、手に目潰しを握る。
こんなレベル差の大きな魔物に効くとは思えないけど。ないよりはまし。
見られてるだけで額から汗が出てくるって、ほんとどういうことなんだ。トレの森に出たドラゴンがそこらへんにいる小さな子供みたいに思えてくる。
「クラッシュ、絶対前に出るなよ」
「でもそれだとマックが!」
「だから、俺は生き返れるから。絶対に俺を盾にして逃げろよ。絶対だ」
魔物から目をそらさずにそういうと、クラッシュはハッと短く息を吐いて、「わかった」と返事をくれた。
まずは初手だけでも防がないと。クラッシュが逃げる隙もない。
剣を構え、手に持った目潰しをギュッと握る。
次の瞬間、初動もなく魔物の爪が飛んできた。
「うわ!」
慌ててバックステップを踏んで、回避する。
距離があったはずなのに、一瞬で詰められた。でも距離が近くなったってことは、目潰しが当たるかも。
ヒュン、という空気の音とともに、爪が来るのを死に物狂いで躱して、手に持った目潰しを投げる。
鼻先に当たった目潰しが魔物の顔の周りでぶわっと広がり、魔物が甲高い咆哮を上げた。
「いまだ、クラッシュ、逃げるぞ!」
暴れてもがき苦しんでいる魔物に背を向けて、俺たちは走り出した。
デカい魔物にも有効な目潰し、ほんとすごい。もっと作っておこう。
しかし。
やっぱり強い魔物にはあまり効きはよくなかったらしい、そこまで逃げることも出来ずに、追い付かれてしまった。後ろからの爪攻撃に、俺のローブが引き裂かれる。
それに引っ張られるように足がもつれた俺は、地面にしりもちをついてしまった。
「マック!」
「大丈夫! 俺がここで引き留めるから、クラッシュは」
逃げろ! という前に、目の前から飛び出してきた人たちがいた。
「マック! 無事か!」
そう言って一気に俺とクラッシュを背後に陣取って魔物と向き合ったのは、雄太率いる『高橋と愉快な仲間達』。
「え、何で……?」
地面にしりもちをついたまま、いきなり現れた助っ人を呆然と見上げた。
クラッシュが俺の手を取り、俺を引き上げてくれるまで、俺は座り込んでいた。
「ギルドで緊急クエスト出てた! お前らを探せってよ! 絶対こうなると思ってギルドで張っててよかったぜ。馬鹿かマック! なんで二人で歩いてんだよ!」
「……面目次第もございません……っていうか、こんなことになるなんてふつう思わないだろ!?」
「俺忠告しただろ! 絶対盗賊が襲ってくるって! 大方そこから逃げてこいつの縄張りに入っちまったんだろ?!」
「見てきたように言うなよ! その通りだよちくしょう!」
「しかもよりによって俺が聞いてた一番ヤバい系の魔物の前に出るなんて、何考えてるんだよ!」
「索敵レーダーに映らなかったんだよ!」
「レベル差考えろ!」
「出遭うときにレベル差なんて見えるわけねえだろ! いるのかどうかもわからないのにそんなこと考えるやついるのかよ! いいから早く魔物何とかしてくれ下さい! クラッシュの命かかってんの!」
「わかってるっての! じゃなかったらこんな怖いところまだ来ねえよ! あとレベル50は足りねえよ! 下がってろ!」
「ありがとう高橋! さすが親友! あとでアイス買ってやるからな!」
俺たちのやり取りに、クラッシュが驚いたように目を見開いていた。
まあそうだよな。教室でのやり取りのようになってしまったし。
本気で後でアイス買って持っていこう。雄太の好きな三色バー。
そんなやり取りの間にも、『高橋と愉快な仲間たち』の面々は、魔物と対峙している。
俺も参戦しないと。普段はあれだけど、こういう時の雄太って結構頼りになるから。逃げるっていう選択肢を選ばなくてもよくなったのかも。
なんて思ってた時期もありました。
魔物の一撃で雄太のHPが3分の1近く削れることに俺は戦慄した。
対して、魔物は雄太の綺麗な一撃が決まっても、HP減少は微々たるもの。まだHPゲージは元気なまま。じり貧だ。
どうしよう、どうする。
そして満遍なく後衛の俺たちまで攻撃を受けるから、地味に削れていく。怖いのは、クラッシュのHPゲージが相変わらず見えないこと。クラッシュは剣で器用に飛んでくる攻撃をいなしてるんだけど、自分が攻撃するまでは至らない。それは俺も一緒。剣で弾いたはずの爪にHPが削られたりして結構焦る。
雄太たちが来ても結局、逃げることすら出来ないのか?
そんなときだった。
ざっと目の前に、銀髪の美形が飛び出してきた。
あ、この人見たことある。クラッシュの店の居候のセイジさんだ。
「クラッシュ!」
「セイジさん……!」
いつもはのほほ~んとした体で店の奥に入っていく人が、鋭い目つきで俺たちの前に割り込んできた違和感に、俺は驚きを隠せなかった。
ピンと張り詰めた空気と、物理的に圧力がかかっているかのような重い圧力。
これ、ダメなやつだ。
瞬殺されるやつだ。
「クラッシュ……だめだ、下がれ……」
存在自体に威圧され、圧倒される。
雄太の言っていた、レベル120超えでもやられた魔物って、絶対こいつだ。
丸くなり、寝息をたてている、小山のような、魔物。
クラッシュと二人、音をたてないようにじりじりと後退する。
「マック、絶対手を出しては、ダメだからな……」
「わかってる……俺じゃ瞬殺レベルだから」
「あれ、魔力が半端ない……魔力の圧力で心臓止まりそう……寝てて、よかった……」
あまりの強さのせいか何なのか、俺の索敵レーダーにこのヤバい魔物の敵影は映らなかった。安心して進んで、何か空気が変わったな、と思ったらこれだ。
もっと索敵レベル上げないと今後辛いかもしれない。それに、パーソナルレベルも、上げないと。だからって戦闘で強くなるわけじゃないけど。
山賊にやられるんじゃなくて、魔物にやられるってのはほんと勘弁してほしい。
もし昨日俺があいつに負けてたら、クラッシュ一人でここに来てたかもしれないってことか。
さっきの空気が変わったところまで、何とか魔物が起きる前に逃げないと。
は、と浅い息を吐いた瞬間、魔物の目がカッと開いた。
ヤバい気付かれた!
さっきなんか全然目じゃない圧力がズン、と体にかかる。皮膚という皮膚が何かにずっとチクチクされているような、不快感が身体を覆う。
そっとなんて言ってられない事態に陥り、俺とクラッシュは今度こそダッシュでそこから逃げに入った。
「ヤバいヤバいってこれ! クラッシュ、何とか、逃げ切るぞ!」
「……うん……!」
樹の間を全速力で駆ける。圧に負けそうになってるのか、自分の足が思うように動いてくれない。もつれそうになるのを何とか堪えて、クラッシュと共にひたすら逃げた。
『グアアアアオオオオオオオ‼』
威圧来た!
まるで金縛りにあったみたいに、身体が動かなくなる。完璧威圧が効いちゃったよ! 横を見ると、クラッシュも硬直してるみたいだった。
倍以上レベル差があるのって、こんなにも怖いんだ。
心の底から恐怖が沸いてくる。その後、絶望も。
ダメだ。俺たちは、ここで、こいつに消される……。
「マック……」
歯を食いしばったクラッシュが、俺を呼んだ。
その小さな声に、俺はハッとなった。
ダメじゃん、ここで諦めたらもうクラッシュと馬鹿な話とかも出来なくなる。
そんなのは絶対に、いやだ!
そう思った瞬間、金縛り状態が解けた。威圧解除されたらしい。
横目でちらりとインベントリを見て、手に目潰しを握る。
こんなレベル差の大きな魔物に効くとは思えないけど。ないよりはまし。
見られてるだけで額から汗が出てくるって、ほんとどういうことなんだ。トレの森に出たドラゴンがそこらへんにいる小さな子供みたいに思えてくる。
「クラッシュ、絶対前に出るなよ」
「でもそれだとマックが!」
「だから、俺は生き返れるから。絶対に俺を盾にして逃げろよ。絶対だ」
魔物から目をそらさずにそういうと、クラッシュはハッと短く息を吐いて、「わかった」と返事をくれた。
まずは初手だけでも防がないと。クラッシュが逃げる隙もない。
剣を構え、手に持った目潰しをギュッと握る。
次の瞬間、初動もなく魔物の爪が飛んできた。
「うわ!」
慌ててバックステップを踏んで、回避する。
距離があったはずなのに、一瞬で詰められた。でも距離が近くなったってことは、目潰しが当たるかも。
ヒュン、という空気の音とともに、爪が来るのを死に物狂いで躱して、手に持った目潰しを投げる。
鼻先に当たった目潰しが魔物の顔の周りでぶわっと広がり、魔物が甲高い咆哮を上げた。
「いまだ、クラッシュ、逃げるぞ!」
暴れてもがき苦しんでいる魔物に背を向けて、俺たちは走り出した。
デカい魔物にも有効な目潰し、ほんとすごい。もっと作っておこう。
しかし。
やっぱり強い魔物にはあまり効きはよくなかったらしい、そこまで逃げることも出来ずに、追い付かれてしまった。後ろからの爪攻撃に、俺のローブが引き裂かれる。
それに引っ張られるように足がもつれた俺は、地面にしりもちをついてしまった。
「マック!」
「大丈夫! 俺がここで引き留めるから、クラッシュは」
逃げろ! という前に、目の前から飛び出してきた人たちがいた。
「マック! 無事か!」
そう言って一気に俺とクラッシュを背後に陣取って魔物と向き合ったのは、雄太率いる『高橋と愉快な仲間達』。
「え、何で……?」
地面にしりもちをついたまま、いきなり現れた助っ人を呆然と見上げた。
クラッシュが俺の手を取り、俺を引き上げてくれるまで、俺は座り込んでいた。
「ギルドで緊急クエスト出てた! お前らを探せってよ! 絶対こうなると思ってギルドで張っててよかったぜ。馬鹿かマック! なんで二人で歩いてんだよ!」
「……面目次第もございません……っていうか、こんなことになるなんてふつう思わないだろ!?」
「俺忠告しただろ! 絶対盗賊が襲ってくるって! 大方そこから逃げてこいつの縄張りに入っちまったんだろ?!」
「見てきたように言うなよ! その通りだよちくしょう!」
「しかもよりによって俺が聞いてた一番ヤバい系の魔物の前に出るなんて、何考えてるんだよ!」
「索敵レーダーに映らなかったんだよ!」
「レベル差考えろ!」
「出遭うときにレベル差なんて見えるわけねえだろ! いるのかどうかもわからないのにそんなこと考えるやついるのかよ! いいから早く魔物何とかしてくれ下さい! クラッシュの命かかってんの!」
「わかってるっての! じゃなかったらこんな怖いところまだ来ねえよ! あとレベル50は足りねえよ! 下がってろ!」
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俺たちのやり取りに、クラッシュが驚いたように目を見開いていた。
まあそうだよな。教室でのやり取りのようになってしまったし。
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そんなやり取りの間にも、『高橋と愉快な仲間たち』の面々は、魔物と対峙している。
俺も参戦しないと。普段はあれだけど、こういう時の雄太って結構頼りになるから。逃げるっていう選択肢を選ばなくてもよくなったのかも。
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対して、魔物は雄太の綺麗な一撃が決まっても、HP減少は微々たるもの。まだHPゲージは元気なまま。じり貧だ。
どうしよう、どうする。
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雄太たちが来ても結局、逃げることすら出来ないのか?
そんなときだった。
ざっと目の前に、銀髪の美形が飛び出してきた。
あ、この人見たことある。クラッシュの店の居候のセイジさんだ。
「クラッシュ!」
「セイジさん……!」
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