これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
38 / 830

38、叶いそうもない

しおりを挟む

 今日の趣向は、キスのしやすい対面座位。この間もしたけど、ベッドじゃなくて、椅子の上で致された。

 俺が動かないといけないから、精神的にかぁぁっとクルものがあった。



「恥ずかしがりながらも耐えられなくて腰を動かすマック最高……」

「い……言わな、いで……んん、あ、や……っ!」



 ヴィデロさんは、俺の尻たぶを掴んで揺すってくるんだけど、それだけの動きじゃなんか足りなくて、でもお互いの腹に挟まれて擦れる俺のナニが気持ちよくて、わけがわからなくなってくる。



「ここ、じゃ、や……っ」



 ベッドで激しく求めて欲しい。

 もっと、奥をガンガンと。そしてねっとりとしたキスと抱擁が欲しい。

 だから、こんな動きに制限のある椅子なんかじゃなくて。



 物足りなすぎて羞恥に染まりながらも必死でヴィデロさんに訴えたら、ヴィデロさんはわかった、と頷いて俺の口にキスをした。

 次の瞬間、俺のナカに挿入したまま、ヴィデロさんは俺を抱っこ状態で立ち上がった。



「あぁああ!」



 自分の体重で結合が深くなり、思わず声が出る。

 っていうか、ナニコレ! 歩かないで、その振動が全部中で響くから……!



「う、ううんん、あ、待って、ヴィデロ、さ……っ、やば、深……っ」



 必死でヴィデロさんにしがみつく俺の耳元で、ヴィデロさんのくぐもった笑い声が聞こえる。

 さすがに力強くて、すごく安定してるんだけど! でも、でも!



「あぁ、あ……っいく、イく」



 一歩歩くたびに奥に突き刺さって、進むごとに目の前に火花が飛ぶ。

 イって、とささやかれて、俺を支えている腕を動かされ、中を擦られて、俺は声にならない喘ぎを零して、ヴィデロさんに抱き着いたままイってしまった。

 びくびくしてる中、ヴィデロさんはそっと俺の身体を持ち上げて中から熱を引き抜くと、ようやく俺をベッドの上に下ろし、そのままギシ……と伸し掛かってきた。

 真っ白になった頭で真上のヴィデロさんを見上げた。

 息が切れる。心臓がバクバクしていて、腹の奥で熱がグルグルと渦巻いている。



 ベッドに転がされると、それはそれで身体が離れるのが寂しい。

 と、自分の出したモノでぬるぬるする腹を撫でた。



「……ここも、くっつけていたい」

「……っ、マック……」



 すっかりぬかるんだ俺の尻に、俺を転がすために一度抜かれたヴィデロさんのヴィデロさんがまたも潜り込んでくる。結構性急なのが妙に嬉しかった。



「煽られたら、我慢効かなくなるだろ……」

「我慢、しないで……っ」



 もっと欲しい。

 愛されたい。愛したい、ヴィデロさんを。

 家族、なりたい。



 切実に思うのは、絶対に叶いそうもない願い。

 ふと、家族になれないんだ、と思い出し、鼻がつんとした。

 ヴィデロさんとこんなに近いのに。

 こんな、恋人でもないと絶対できないことをしてるのに。

 ここは、夢のような世界だから。

 現実じゃ、ない、から。



「マック……? ごめん、痛かったか? 我慢できなくて」



 ヴィデロさんがちょっとだけ慌てたような顔をして、俺の頬に唇を寄せた。

 鼻がつんとしてたから、涙でもこぼれたのかな。



「そんなんじゃないんだ、ヴィデロさんが好きだなって思ったら、すごく、胸が」

「マック……っ」



 ヴィデロさんが、耐えきれないというように、俺を貪るように抱きしめて来た。

 俺も負けずにヴィデロさんの背中に腕を回してしがみつく。

 好き。

 なんでこんなに好きなんだろうって我ながらおかしいと思うくらい好き。

 ヴィデロさんの全身からも、俺のことを好きって言ってるオーラが出てるような錯覚に陥るけど、俺の身体からもそういうオーラ出てるのかな。

 出てるといいなと思う。ちょっとだけ恥ずかしいけど。







 こんなにもヴィデロさんを帰すのが名残惜しいと思ったのは初めてかもしれない。

 お別れのキスに、胸が熱くなる。その後、ずきんと小さく痛みを伴った疼きが生まれた。

 見送られると心配で離れられないから、とヴィデロさんは玄関までの見送りしか許してくれず、俺はヴィデロさんの消えたドアをしばらくただぼんやりと見ていた。



 好きだって自覚すればするほど、痛切に感じる。俺は、ここが自分の世界じゃないってこと。

 だって、今もログアウトしろっていうアラームが頭の中で鳴り響いてる。

 ちょっと辛いなあ。でもだからって離れろなんて言われても無理のような気がする。



 腹の奥のヴィデロさんの名残を紛らわせるように、俺は目を閉じてログアウトした。







 次の日は、なんとなく夢見が悪くて、眠りが浅いまま学校に行った。

 教室に入ると、雄太がいい笑顔で「健吾!」と声を掛けてくる。相変わらず雄太は元気だ。



「よお健吾。お前さ、最近何してるんだ?」

「ええと、農園と門と雑貨屋と工房をグルグルしてる」



 俺が素直に答えると、雄太はあははと笑った。



「ほんと完璧生産者してるな。でもって門番さんとは順調なんだな。さすがマッチョ好き」

「待て待て待て、俺はマッチョが好きなわけじゃないぞ?!」

「だって行くところに門とか入ってる時点で笑えるだろ。門番さんたちってよく見るとすごくいいがたいしてるし。顔が見れないのが残念だけど、マックの彼氏を見る限り顔はたいていの人がいいと見た」



 門番さんたちは美形そろってるけどさ。笑えるって。もう、好きに笑えよ。

 それに彼氏って。彼氏って。

 顔が熱くなるのをごまかすように、俺は慌てて口を開いた。



「雄太は何してんの? 進んだ?」

「俺は最近セッテ付近でレベル上げしてる。でも一回初期からいるベテランさんに声かけられて、森の中ではあんまり遊ぶなって言われたよ。やばいのがいるらしいんだ」

「やばいのって」



 教科書の隅に落書きをしながら、雄太があのなと口を開く。



「パーソナルレベル120超えのトップランカーでも倒せない化け物らしい。でも最前線にいる人たちはレベル150越えたらしいけど、倒せんのかなあ。どっちにしろ俺達なんかじゃ絶対太刀打ちできないやつがいて、その人たち死に戻ったって」

「うわあ、その森、俺入らない。絶対。即死する」

「だろうなあ、健吾まだ60届いてないんだろ? 倍のレベルで太刀打ちできないって、どんだけなんだよなあ。いつかは倒してみたいと思うけど、道は長いなあ」



 ため息とともに出来上がった落書きは、それは一体何の魔物ですか? と聞きたくなるような微妙な動物だった。猫っぽいようなでも犬っぽいような、スライムがでろでろと擬態したらもしかしたらこんなのも出来上がるかもね、という代物。雄太は画伯だから。でもそれが面白いんだよな。笑いに事欠かない雄太の落書き。ちょっと和む。



「ごめん雄太。俺、レベル60超えた。あと、薬師が上位になった」

「うっそマジ? すげえ、何薬師になったんだよ」

「『草花薬師』。農園関係のクエストクリアしたらなった」

「『そうか薬師』? どんな薬師なのか想像もつかない」



 首を捻る雄太に教えるため、落書きされた謎動物の横に『草花薬師』と書く。



「農園関係に特化した薬師だって。レシピも農場関係に特化したやつばっかり」



 俺の説明に、「うわあ」と一言つぶやいた雄太は、首を捻って「それはすごいのか?」と言っていた。確かに、聞いてるだけだとすごくないよな。草とか花とかで薬を作るようなイメージしか出てこないような、平和な薬師上位。

 実際には全然平和じゃないけど!



「雄太はもっと先に進む気なんだ」

「とりあえず、辺境の街あたりまでは行ってみたいと思ってるけど、さすがにまだレベルが足りないんだ。あそこ推奨はレベル100らしいし。俺らまだ90に届かないから。全然レベル伸びなくて。またシークレットダンジョン誘ってもらえないかな。クソ強い魔物だらけだから、サクサクレベルが上がってくんだよ」

「セイジ、だっけ。ダンジョンサーチャー。ダンジョンは入りたくないけど、一回俺もオーブ見てみたいなあ。魔法とか俺全然取ってないし」

「魔法楽しいぞ。次もし新しいアバター作るときは魔法使いにしたいって思ってる」

「雄太が魔法使いになったら、杖で魔物を殴る系になりそうな予感しかしない」



 真顔で言い出す雄太にとりあえず突っ込むと、雄太も俺もだ、といい笑顔を返してきた。自分で言ってるよ。



「でも今回セッテまで護衛のクエストしながら進んだんだけど、やたらレベル高い護衛クエストだったんだよ。アレ、面白いのな。めっちゃ報酬がいい護衛物って、ほぼ間違いなく野盗とか山賊とかが襲ってくるんだよ。魔物じゃないから結構やりづらいんだけど、レッドネームだから倒すと報奨金とか出るんだよ。そのクエスト内容がさ『積み荷の残り金額により報酬が変わる』ってやつだったんだ」

「うわあ、そんなのまであるんだ。俺ほとんど冒険者ギルドのクエストって受けたことないからいまいち想像つかないけど」

「でも健吾いつでもクエストクエスト言ってるよな」

「街の人たちからかなり受けるよ。立ち話からクエスト出てくるし。だから冒険者ギルドに行く暇なくて」



 それに最近はヴィデロさんと会える時間はそっちに行くし。それでもクエストは発生するけど。



「健吾って変なゲームの楽しみ方してるなぁ。魔物をスカッと倒してレベル上げてなんぼだろゲームって」

「俺はどっちかっていうとそういうのよりなんでも作れるのが楽しくてゲームしてるからなあ。実験みたいでマジ楽しい。手順間違えて全然別の物が出来上がったりしたらテンション上がるし」

「うわあ、俺にはそういう作業無理だ」



 俺の言葉に雄太が情けない顔をした。ゲームなんだし、やりたいことやればいいんだって。誰も雄太に生産しろなんて言わないよ。ものすごく似合わないから。



「それよりもしセッテに来ることあったらちょっと連絡くれねえ? 健吾のハイポーションとマジックハイポ買い取りしたいんだけど」

「クラッシュ通さないと後で俺が怒られるんだけど。価格設定がどうのとかって」

「じゃあ雑貨屋の兄ちゃんに値段設定してもらっていいからさ。よろしく。市販のじゃ回復おっつかなくて」



 クラッシュと一緒に比較したハイポーションの質を思い出して納得した俺は、「じゃあクラッシュに値段設定してもらって売るから」と雄太と約束した。

 ちょうど同時に予鈴が鳴ったので、自分の席に戻る。

 シークレットダンジョンかあ。こんだけレベル差の開いてる雄太でさえひーひー言ってたダンジョンってどんなところなんだろ。

 とちょっと考えたけれど、圧倒的に戦闘力の足りない生産系な俺にはシークレットダンジョンなんて関係ないよな、とカバンの中の数少ない教科書を机の中に移動した。





しおりを挟む
感想 508

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

処理中です...