これは報われない恋だ。

朝陽天満

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19、雄太非童貞疑惑

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 気分転換に、俺は雄太の家に向かってみた。

 きっとログインしてるだろうなと思っていた雄太は、意外にも普通に出迎えてくれた。

 ただし、これから出かけるからあんまり時間がない、とのこと。



「だってこれから唯とデートだもん」

「……唯って、あの、愉快な仲間たちの一人? あれ、付き合ってたの?」

「ああ。それと、ブレイブと海里も付き合ってる。そして、ブレイブはネナベで海里はネカマ」

「え、ええええーーーー!!」



 初めて聞く新情報に、俺は愕然とした。ゲーム一筋だった雄太に彼女がいたこともそうだし、ユイ、ブレイブ、海里ってみんな『高橋と愉快な仲間達』のパーティーメンバーなんだけど、二組のカップルがパーティーとか。

 何それリア充パーティーだったのか。

 しかもブレイブって盗賊風のひょろっとした男キャラなんだけど、中身女って。そして海里っていう美人の双剣女性キャラが、ネカマ。あの素敵な胸は、まあ、アバターだから盛れるけど。

 俺だって今よりちょっと背を盛ってるし、ちょっと一見顔立ちのわからない国籍不明(アジア圏)風ちょっと美形にしてるけど。実物はしっかりと童顔日本人だし。

 あ、全部にちょっとが付くのはがっつり変えるのが怖かったから。現実に戻ってきてがっくりするじゃん。あ、俺童顔だって。だからちょっとだけ。

 目の前の雄太なんかは強者つわもので、顔は髪と瞳の色以外ほぼ変わらず。筋肉は結構盛ってるけど。現実でも背は高いんだよ羨ましい。



「なんか、友情に亀裂が入った気がする」



 がっくりと項垂れて俺が呟くと、雄太は無情にもその言葉を笑い飛ばした。



「健吾だってしっかり恋愛楽しんでんじゃん。門番さんと」

「あれ、ゲームの中だし。現実には存在しないし」



 拗ねたままそういうと、雄太は首を傾げた。



「でも健吾はゲームと現実で割り切って恋愛できるほど器用じゃねえだろ。ゲーム内だからはっちゃけてるだけ? 違うんじゃね? 門番さん死にそうなとき、本気で必死だったろ健吾」



 だよな。ばれてるよな。さすが長い付き合いだ。



「でもまあ、割り切らねえとな。現実にも誰かと付き合ってみるか? 唯に紹介してもらおうか?」



 心配そうに雄太が覗き込んでくる。

 それも、一つの手ではあるんだろうな。

 俺がその紹介してくれるって子を好きになれるんなら。



 でも、たぶん無理。



 だってなんか現実に戻ってきても、がっつりヴィデロさんが胸に巣食ってるもん。忘れられない。

 だから、俺は力なく首を振った。



「いらない。だってたぶん、好きになんないもん」

「付き合ってみないとわからないんだけどなあ。でもまあ、そうだろうな。でも、NPCだぜ? それ忘れんなよ」



 そんなの、片時も忘れたことないよ。

 ヴィデロさんが唯一無二の人で、でも俺なんかのためにためらいなく命かけてくれるような人で、だからこそ、NPCって忘れちゃいけない。死に戻り出来ないんだから。

 ちょっとだけ沈んだ気分を振り払おうと、俺はうつむいてた頭を上げた。そこでふと目に入る、箪笥の横からはみ出した、ADOのパッケージ。俺はもうどこに置いたかわからないんだけど。



「雄太、それ、ちょっと見せて」



 パッケージを指さすと、雄太はほらよ、と渡してくれた。

 説明書なんかはネットを見ないとなんだけど。

 年齢制限云々の何かを書いてないかなって。

 思って裏を見てみたんだけど、ゲームの基本操作とステータス画面の基本説明がちょっと載ってるくらいだった。



「なあ雄太。このゲーム、18歳超えたらどうなるんだ? 今は未成年枠でやってるだろ?」

「さあ? 俺もあんまり調べたことない」

「ちょっとパソコン見せて」



 机の上にあるノートパソコンを開き、雄太と一緒にADOの公式ページを探す。

 すぐに見つかったそのサイトには、しっかりとアンダー18、オーバー18の内容について書かれていた。



「ああ、これ、体感が半端ねえと思ってたら、オーバー18でエロいことも出来るようになるんだ」



 雄太がへーと感心したように呟く。その落ち着きっぷりに、雄太非童貞疑惑が俺の中で湧き上がってきた。

 目で、オーバー18の項目を追いながら、ちらりと一瞬だけ雄太の顔を見た。

 スポーツ系爽やか少年。はい、非童貞ですね、決定。っつうかこいつモテてた、忘れてた。女っ気なかったから気付かなかったよ。ゲーム内で愛を育んでるんじゃ、気付くわけないよ。行動全然共にしてないし。



「今日は現実でエロいことする予定?」



 思わずそう訊くと、雄太はニヤリと笑って、意味深に俺を見た。



「彼女と二人で会うんだぜ? しないと思ってるのか?」

「す、するのか……!」



 何かで殴られたような衝撃だった。

 こんな雄太の顔、初めて見たよ。雄って感じがプンプンしてて、ちょっと引く。



 そんな俺の顔を見て、今度はいつもの顔で、雄太が笑いだした。



「しねえよ。冗談。今日は健全デート。だってホテル代ねえもん」

「ほ、ホテル代」

「ゴムもちょっと切れちまったし。でも小遣い来週なんだよ」

「ゴ、ゴム……!」





 

 俺はふらふらと、雄太の家を後にした。

 気分転換なんてもんじゃない。

 なんか、一人すごく後れを取った気分だった。

 でも、だからって誰でもいいからシたいとか絶対思えないのが自分でも溜め息だよ。



 でも、オーバー18で、エロいこと可能という事実を知り、それだけが救いかなと、俺は遠い目をした。



 行くんじゃなかった、と思いながら家に帰ってくる。

 親たちは曜日関係なくランダムな休みだから、さっさと仕事に行ってしまったらしい。

 シーンとした家の中を突っ切り、自分の部屋に戻ると、俺はヘッドギアを持ち上げた。





 ふわっとした感覚ととも、ADOの世界に戻ってくる。

 横にあるテーブルには、大変なことになってる薬草があったので、それを片付けて、今度は錬金釜のほうに移動した。

 ステータスを開いて、カイルさんの家で覚えたらしいレシピで作れそうなものを探す。

 このゲームの生産スキルは、初めての物を成功させると、通常の経験値にボーナスがプラスされるんだ。だから、レシピが手に入ったらとりあえず作れそうだったら作ってみることにしている。

 レベルが足りないレシピの場合、推奨レベル-5から作れるようになって、推奨レベル+10を超えると、経験値の入りがぐっと減る仕様になっている。

 昨日作った害虫駆除剤は、ほんとギリギリレベルだったらしくて、制作過程にあれだけ時間がかかったんだと思う。疲れたし。魔力もいつもなんかよりかなり消費したし。

 もしかして、俺のジョブレベルとかが反映されてクエストが起こったりするのかな。それとも、そんなの関係なしにクエストは起こって、もしそれへの推奨レベルが足りな過ぎると失敗になってとんでもないことが起きるのかな。

 そこらへん、公式もはっきりとさせていないから、一応基本レベルは上げるようにはしてるんだけど。だってレベル関係なしにクエストが起こって、それが失敗したら、下手したらNPCがわんさか消えるっていうのもあるかもしれないし。この間の突発クエストでドラゴンが出たのもそうだし。

 備えあれば憂いなしっていうだろ。





 そんなことを思いながら、手持ちにある素材で作れそうな錬金レシピを目の前に開いた。

 一つ一つ丁寧に錬金釜に入れていく。

 綺麗に全部解けたら、撹拌かくはん開始。

 茶色い液体をグルグルしていると、ふと、あの時一緒にこの棒を握ってくれたヴィデロさんの手を思い出した。

 力強くて、すごく頼りになるあの手のひらに、俺は、俺は。

 朝の行為がまざまざと頭に浮かんで、顔が一瞬にして熱くなった。

 次の瞬間、目の前の錬金釜の液体もピンク色にさあっと変色する。



「ぅあ! 色が変わった!」



 慌てて錬金釜を持ち上げて、横に置いていた違う容器に流しいれた。

 釜を置いて、その液体を確認する。

 錬金の場合失敗すると、釜からボンっと煙が出て中身が空っぽになっちゃうから、これは成功でいいのか?



「ええと、『細胞活性剤 中』? なんだこれ。鑑定」



『細胞活性剤(中):生物の体内の細胞を活性化し、成長を促進させる。ただし使いすぎは逆効果 範囲:一個体』



 うわあ、最初からすごいの来た。

 これを何かに掛けると、それが育つのが早くなるのか。

 これは使ってみたい一品だ。売らないで自分で持ってよう。

 作り方がそんなに難易度高くなかったのはきっとこの『一個体』ってところにあるんだろうな。

 量がどれくらいなのか書いてないのが気になるけど、それはまあ、要検証ってところかな。工房にプランターでもおいてみるかな。カイルさんに相談しよう。



 その一つをテーブルの上に置いて、俺はまた『細胞活性剤』を作るため、錬金釜に向きなおった。

 調子よく何個も成功する。さっきの調薬の失敗が嘘みたいだ。

 俺はしばしヴィデロさんのことも忘れて、錬金に集中していた。

 作り出した『細胞活性剤』が二桁に上ったあたりで、ふっと俺の集中が解けた。



「あ、なんか喉が渇いてる」



 腹が減ってものどが渇いてもバッドステータスが付くこの世界。俺は肩をぐるっと回してから、飲み物を求めて立ち上がった。

 その途端、手が横のテーブルにぶつかった。

 ガタンとテーブルが揺れ、乗せていたものの一つが、転がり落ちた。



「あ、ぶな……っ」



 と咄嗟に手を出したのが悪かったのか。

 さっきノリノリで作った『細胞活性剤』の一つが、蓋が甘い状態で落ちたらしく。

 受け止めようとした俺の身体全体に、ピンクの液体がかかってしまった。





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