これは報われない恋だ。

朝陽天満

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14、クエストクリア!

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 カイルさんが真ん中に立って、駆除剤の入った薬瓶をひっくり返す。

 綺麗なエメラルドグリーンの液体は、どぼどぼと土に染み込み、染み込んだ土が少しずつ緑色になっていった。

 なんか薬を撒く前よりヤバ気な色になってる。



「きっちり耕せたらちゃんと健康な土色に戻るから、緑色がなくなるまで耕せ!」



 カイルさんの声とともに、まず元気な畑との境目から、緑色を消すために鍬を振るった。

 三度ほど鍬で混ぜると、緑色が本当に黒目の土色になっていく。これは面白い。

 カイルさんは一度でしっかりとしたこげ茶色にしていたし、ヴィデロさんも二度ほどで色を変えていた。たぶんきっとこれは腕力の問題なんだろうな。俺が一番腕力ないから。でも適材適所っていうし、と無理やり自分を納得させて、俺は地道にざくざくと土を混ぜ返した。

 しばらくは無言で耕す、耕す、耕す。

 あまりにも夢中でやっていたから、カイルさんの「よーし終わりだ!」っていう声が聞こえた時、驚いてびくっとしてしまった。

 へ? と思って顔を上げて、見回す。

 土の上の緑色はきれいに消えて、しっかりと栄養の回った柔らかい土が出来上がっていた。

 え、俺、まだこっちの隅っこしか耕してないんだけど、と二人の耕した畑の面積を理不尽に思いながら手を止めると、カイルさんが山になった枯草に火を点けた。

 一瞬にして燃え上がる枯草。さすが枯れてる草は火の勢いが違うね。こういう焚火の時は芋を入れたいところだけど、害虫が燃えた火、と考えるとその芋を食えなくなるからやめとこう。



「やっぱり元気な畑が一番だなあ」



 すっかり綺麗になった畑を見回して、カイルさんが満足そうに息を吐いた。

 その時、ピロンと小さな音が鳴り響く。クエストクリアのお知らせだった。

 ヴィデロさんとカイルさんが畑を見ながら話をしていたので、俺は早速通知を開けることにした。



 『カイルの農園を救え! 



  カイルの農園が害虫に襲われている! 

  放っておくと農園中の作物がダメになってしまうぞ!

  害虫を駆除する薬を作って散布しよう!

  タイムリミットは3日間!



  クリア報酬:三日月の滴

  クエスト失敗:カイル農園一か月の閉鎖



 【クエストクリア!】



  カイル農園の害虫は段階2ですべて駆除された。



  クリアランク:A



  クエスト報酬:三日月の滴、活性薬剤レシピ、特製料理レシピ』



 やった。ランクAでクリアだ。そっかまだ依頼を受けてから23時間しか経ってないから。

 でもこれ、段階2ってなってるけど、段階1ってどれくらいだろう。最初から持っていて即対処出来ていたらっていう状態なのかな。まあ、そんなことは無理だっただろうけど。

 これが俺の一番最善のクリアだ。ドラゴンの時とは違う。



 結果に満足して一人顔を緩めていると、何やら視線を感じて顔を動かした。

 畑を見て話をしていたはずの二人と目が合った。

 あれ、なんで俺を見てるんだ? 土でもついてるのか? さっき軍手でぐいぐい顔を拭ってたから。



「俺、顔汚れてる?」



 思わず訊くと、ヴィデロさんが吹き出した。



「真っ黒だ」

「まじか!」



 慌てて手で頬を隠してみるけど、その手にはさっきまで作業していた軍手がまだついているわけで。俺はさらにヴィデロさんの笑いを誘うことに成功してしまった。うん、笑顔最高。



「マック、その手で拭いてもさらに汚れるだけだぞ。顔洗え顔。でもって、ヴィデロと二人で夕食食ってけ。特製の飯作ってやる」



 くくく、とやっぱり横で笑いながらそんな素敵提案をしてくるカイルさんの渋ダンディな顔をとりあえず拝む。

 だってほんと飯美味しいんだもん。今日も食べれるなんて俺は幸せ者だ。

 と目をキラキラさせてヴィデロさんを振り返ったら、ヴィデロさんはさっきとは一転、渋い顔をしていた。

 その顔を見て、さらにカイルさんが笑っている。



「ヴィデロさん? 本当にカイルさんのご飯、最高に美味しいよ?」



 カイルさんの料理の腕が不安なのかと思ってそういうと、カイルさんが今度こそ声を出して大笑いを始めた。



「バカだなマック。こいつはマックにそんな嬉しそうな顔をさせてる俺に嫉妬してるんだよ」

「いうなよカイル」

「嫉妬?!」



 驚いてヴィデロさんを見上げると、ヴィデロさんはきまり悪そうに眼をそらして頭を掻いた。



「俺は料理が作れないからな。だからマックにそんな顔させられないから……」



 うわあちょっとだけ拗ねが入ったヴィデロさんがすごく新鮮だ。いつもはもっとスパダリ美形な感じだから。

 か、可愛い。

 思わず頬を熱くして口元を隠すと、ヴィデロさんに「マック今変なこと思っただろ」と小突かれた。思ってないよ、ヴィデロさんが可愛いってしか思ってないって。





 お呼ばれした夕食には、ほくほくの蒸しジャガイモ丸っと一つにバターが乗ったものと、ニンジンのソテーコンソメ風味、インゲンっぽい豆の塩で煮たやつ、そしてメインが野菜ハンバーグだった。肉は一切使ってないらしい。全部カイルさんの農園から採れた野菜なんだって。めっちゃうまい! 

 ヴィデロさんもカイルさんのご飯は初めて食べたらしく、一口食べて唸っていた。



「これはマックにあの顔をさせるのも、悔しいがわかる……」



 と本当に悔しそうで、悪いとは思ったけど笑った。



「街の平和をヴィデロが守ってみんなの腹を俺が守る。そしてそんな俺たちをマックが守る。それでいいじゃねえか。適材適所だ」



 カイルさんがニヤリと笑いながらヴィデロさんを諭す。なんかカイルさんの言葉っていちいち重みがあるよな。







 ご飯も食べ終わり、晩酌となって、二人は秘蔵の酒を飲み始めた。

 俺は未成年だからってカイルさん特製野菜ジュースを貰った。実際にはあんまり野菜ジュースって好きじゃなかったんだけど、カイルさんお手製は全然違う。何入れてんの?! ってくらい美味しい。

 なんか、こんなにまったりした気分なの、すごく久しぶりな気がする。

 ヴィデロさんとカイルさんはまたしても二人で盛り上がり、どんどん杯を空けながら楽しそうに話をしている。街の様子がどうのこうの、最近の森がどうのこうの。こうやってみんな情報を共有してるんだなあ。俺たちはいつもチャットとかで終わっちゃってあんまりゲーム内ではしゃべらないから、なんかこういうのイイなって思う。



 ジュースを飲み、二人の話を聞くとはなく聞きながら、俺は久々にステータス欄を開いていた。今回のクエスト中はほぼ見る暇がなかったから。

 あ、パーソナルレベル60を超えた。しばらく59のまま上がらなかったのに。きっとあの痺れスパイダー無双とジャンピングスネーク無双が効いたんだろうな。ちょっと嬉しい。

 そして、スキル欄に目を通してみたら。

 あれ、なんかスキル増えてないか? 『速読』『農耕』『薬学レベル4』が増えてる。俺薬学レベル4の本なんて読んだかな。……もしかして、カイルさん父の書斎の中の山積みのどれか? 覚えてたんだラッキー。

 いつの間にやら『速読』を身に着けてたから途中からスピード上がったんだな。『速読』様様だ。

 そして薬師、錬金術師のレシピを何気なく開いてみて、俺は目を丸くした。



 なんか増えてる……。見たことないような栄養剤のレシピとか、品種改良用のレシピとか変なのがわんさか。これ全部、書斎の恩恵?

 どうしよう、なんか、嬉しい。

 そうだ。カイルさんに頼もうと思っていたことがあったんだ。



「カイルさん、ちょっとお願いがあるんだけど」



俺は顔を上げて、歓談中のカイルさんに話しかけた。
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