これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
12 / 830

12、意趣返し

しおりを挟む
 糸に絡まないように間を抜けて、今度は違う方向に向かう。

 ジャンピングスネークがどこにいるのかイマイチわからなかった俺は、今度はヴィデロさんに案内されて森を走った。

 途中二人でスタミナポーションを飲み、俺の鞄に入っていた街の屋台で買っていたパンを二人で食べ、腹ごなししたところでまた進む。

 俺達のデートはスタミナが命だな。スタミナが切れたらイって(逝って)しまう。ごめん、思春期なんだよ。規制かかってるから余計にな!



 途中出てきた狼やらウサギやらを蹴散らしながら、ようやくヴィデロさんの言う蛇地帯にたどり着く。なんでも、ここでジャンピングスネークに襲われて、毒に侵されながら瀕死の状態で街にたどり着く人が結構いるんだとか。だから門番さんは毒消しは必須なんだって。今も腰のポーチに入ってるらしい。毒消しと、ハイポーション。道中足を動かしながら聞いた話によると、門番さんのところには国から薬類が支給されるらしいんだけど、その薬類がかなり粗悪なもので、良心的な衛兵の上の人の場合、こっそりギルドやクラッシュの店から仕入れているらしい。今ヴィデロさんの上についている上司はそういうの理解がある人で、クラッシュの店からこっそり仕入れているんだそうだ。使い終わった粗悪品の瓶を洗浄して、クラッシュにこれに作れと頼み込むらしい。やるな。

 だから一瞬だけ俺が作ったポーションを使ってくれてるのか? なんて嬉しくなったけど勘違いだった。俺は普通の瓶に入れてるからなあ。今度俺の印でも作って貼り付けてみようかな。「M」とか。……まんまマックになるからやめとこう。雄太にスマイルも売るのかよとかツッコまれそうだし。



 少しだけ歩調を緩め、ツタのぶら下がる木々の下を早歩きで歩く。探さなくても勝手に襲ってくるらしいんだけど。



 一瞬がさっと音がした瞬間、上からシャーっと口を開けた蛇がとびかかってくる。



「わっ!」



 俺が驚いてる間に、蛇はヴィデロさんの剣の餌食になっていた。ヴィデロさんは倒した後、さっき俺がしていたみたいにポーチを開けて中を覗いた。



「この蛇は『毒蛇の皮』というものを落としたぞ。これじゃないよな」

「あ、うん。欲しいのは『管毒素』っていう錬金術用素材だから、たぶん俺が倒さないと手に入らないんだ。でも攻撃方法はわかったし、ヴィデロさんはそっちを襲う蛇を相手しててもらってもいい?」

「わかった。もし何かあったらすぐに言ってくれ」

「ありがとうっ! っと」



 話してる間にも蛇は次々襲ってくる。これは確かにやられるよ。っていうかどうしてこんな危ない道を通るんだ? その瀕死で街にたどり着く人。

 だってこんな迂回しなくても街道はしっかりと整備されてるし。

 それにしてもNPCもちゃんとドロップ品は直に荷物に入ってるんだなあ。解体とかないからどうなのかなって思ってたけど、一つ謎が解けた。

 なんてことを考えてる間にも、間をおかずに蛇が降ってくる。これは一撃で殺らないと囲まれる系だよな。そしたら身体中がぶがぶ噛み付かれてゴーゴンの頭みたいな状態で死に戻り……あ、想像したら鳥肌が。ウネウネ怖い。

 心の中で、ウギャーやべえよーやだよー! と悲鳴を上げながら剣を思わず突き出すと、狙いが完璧に正確な蛇は、正確に俺の剣に自ら飛び込んできた。あれ。

 これってもしかして。



 ふと思いついたことを実行してみる。

 がさっと音がして、出てくるところを一瞬前に教えてくれるんだから、そっちに剣先を向けたらいけるんじゃね?

 と、がさっとした瞬間剣を向けると、出来たよ、蛇の串刺し。これは面白い。反応が遅くなると剣が上がりきる前に攻撃されて噛みつかれると思うけど、レベルが多少上がって反応速度早くなってたら、この蛇そんなに苦戦しないんじゃね?

 まあ、第三の街の森でそこまで苦戦する魔物ってのも勘弁なんだけど。

 だんだん面白くなってきて、思わず刺さった瞬間あははと笑いながら次々串刺しにしていった俺は、たぶん100年の恋も冷めるレベルのヤバい奴だったと思う。ちらっと見たヴィデロさんは、ちゃんと剣で切って優雅にかっこよく立ち回ってたから俺一人でとってもヤバい奴。救いはヴィデロさんも蛇をいなすのに必死でこっちを見る余裕がないことじゃないかな、コイもサメルからな!

 そして何匹倒したかわからないほどの蛇もそろそろ品切れらしく、だんだんと降ってくる頻度が減ってきた。

 そしてやっぱり終わりに差しかかり気の抜ける俺。

 ちゃんと素材が手に入ってなかったらヤバいなあ、って思ってインベントリをちらっとしたのが悪かったらしい。がさっとした方向に剣を向けるのが間に合わず、蛇が俺の腕に嚙みついた。痛え!



「マック!」



 ヴィデロさんが慌てて俺の手に食いついていた蛇を切って捨てた。 

 噛まれたところがちょっと変色してるから、毒になったな。毒消し出さないと。なんて思いながら蛇をさばき、とうとう一匹も降ってこなくなったところでこの場所を移動することにした。

 インベントリはしっかりと確認。あったよ、管毒素。かなーりインベントリに詰まってたよ。一番多いかも。こんなに要らない。



 湿地帯を抜けたあたりで、少し足を緩めた。瞬間、くらりとめまいがする。

 揺れた身体を、ヴィデロさんが支えてくれた。



「毒を受けていたならそう言ってくれ……!」

「ごめん、ありがと。今キュアポーション出すから……」



 言い終わる前に、ヴィデロさんがポーチの中から毒消しを取り出した。 

 そして、瓶のふたを開けて。



 あれ?



 なんで自分の口に含んでるの、ヴィデロさん?

 でもって、なんでこんなところでキスするの、ヴィデロさん?

 あああー……口の中に苦い毒消しが流し込まれてくる。これってあれかな。前にハイポーションを口移しで飲ませたことの意趣返し?

 苦いよーー……。でも全然毒くらってないヴィデロさんも苦いのかと思うと、申し訳ないというか苦いのなんか関係なくなるというかなんて言うか……ヴィデロさんの舌が気持ちいいよ……。



「あ……っ、ンぅ……」



 毒のくらくらは引いたんだけど、なんか違うくらくらが襲ってくる。

 ええと、ここ、フィールドなんだけど。誰かに見られる可能性大なんだけど。



 途中から明らかに俺の舌を味わってるヴィデロさんの腕を叩くと、ヴィデロさんはハッとしたように口を離してくれた。



「すまなかった。頭に血が上って……」



 頭に血が上るって……怒ってたの? ヴィデロさん怒ってたのか?!



「マックがあんまりにも無茶をするから」

「あ、ええと、すいません……」



 確かにヴィデロさんの活躍はほぼなかったけれども。と素直に謝ったら、ヴィデロさんは少しだけ苦い笑顔で「違うんだ」と答えた。



「マックが思った以上に強いのはわかった。でも、戦い方が無謀すぎるのが心配で。でも俺はいつもは一緒に行くことも出来ないし、そんな自分に腹が立って。誰よりもマックを守りたいのに……」

「ヴィデロさん……」



 謝らせるつもりはなかったんだ、と苦笑するヴィデロさんに、思わずべたっとひっつく。

 なんかもう。この間から思いっぱなしだけど、ヴィデロさんいい男過ぎて胸が痛い。こんな人が俺を好きでいてくれるなんて、どんな奇跡。同性だとか全然関係ないくらい、嬉しい。



「じゃあ、はやい所薬を作ってカイルのところに持って行こうか」

「うん!」



 気を散らすためにヴィデロさんが本来の道筋に話を戻してくれたんだけど焦った。俺、今自分がどういうクエストしてるのか忘れるところだった。一刻を争うんだった。幸い昨日の夕方にクエストを受けてからまだ一日も経っていない。これから錬金して薬を持っていけば、少なくとも農園全体が枯れるってことはないはずだ。

 俺たちはまたも全力で俺の工房まで走った。



しおりを挟む
感想 508

あなたにおすすめの小説

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...