これは報われない恋だ。

朝陽天満

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11、デート? いいえ、素材集めです

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 道中急ぎ足で森にむかいながら、俺はカイルさんの農園のことをかいつまんでヴィデロさんに説明した。

 そして、必要になる物と、倒すべき魔物のことも。

 それを説明しつつ、俺はメインジョブを錬金術師にチェンジした。



「マックが錬金術師……」



 ヴィデロさんが、知らなかったとばかりに驚く。

 そのことに俺が驚いた。だって、NPCって俺が錬金術師だってこと気付いてるから、錬金系のクエスト出してくるんじゃないのか?

 そう思っていたら、ヴィデロさんは首を振った。



「俺たちは異邦人たちが何の職に就いているのか、全然知らないし、特に知る必要もないと思っている。でも、クラッシュが専属薬師と言っていたから、マックは薬師だとばかり思っていた」



 じゃあ、そういうゲームの仕様なのかな。ジョブ自体はわからなくても、自然とそういうクエストを割り当てられる、みたいな感じかな。

 少しだけ難しい顔をしているヴィデロさんと並んで走りながら、俺もつられるように眉尻が下がってく。

 何も質問しないで欲しいなあ、たぶん「それがゲーム的仕様です」ってしか答えられないから。

 そんな俺の意をくんでくれたのか、ヴィデロさんはそれ以上ジョブについて質問しては来なかった。空気読める美形まさにハイスペック。



 そんなこんなで、小走り森の探索デートもメインイベントを迎え。

 目の前にはちょっと俺の二倍くらいのデカさのある蜘蛛が。基本色が黒で、模様が黄緑色という何とも目に鮮やかな色合いで、俺を威嚇してくれている。

 ヴィデロさんは油断なく剣を構え、蜘蛛の様子を見ている。

 なぜ攻撃しないのかというと、俺がストップを掛けたから。



 この蜘蛛とは。必要な素材を提供してくれる協力魔物、土山蜘蛛という。もう一つ蜘蛛素材を入手しないとなんだけど、そっちの蜘蛛は薄茶色っぽい土に紛れるような色合いと額にビリビリと光る魔石を持ち合わせた地味派手な外見で、集団で木々の間にビリビリとした巣を作って暮らしている蜘蛛だ。

 この土山蜘蛛は、攻撃力こそ高くないけれど、出す糸が強力で触った瞬間絡め捕られてどう頑張っても刃物じゃ切れないっていう特性があるんだ。糸に捕まっちゃダメ、絶対。ちなみにこれ、魔物鑑定知識ね。鑑定半端ねえ。



「マック、どうしてこいつを倒さないんだ。こいつはこの森ではかなり上位に位置する蜘蛛だぞ」



 目が何個もある土山蜘蛛と真正面でにらみ合ってるヴィデロさんは、何もせずに牽制するだけなのが納得できないらしい。

 でも俺の目的は糸だから。殺さず糸を絡めとるのが一番なんだよ。失敗すると何個も糸を飛ばしてくれるし。最悪、身体に巻き付いた瞬間に逃げればいいだけだから。

 俺は、インベントリから拾い集めておいた『木の棒』を取り出して、剣のように構えた。



「くらえ、小爆弾!」



 発火草と砂鉄と粘着剤を錬金して作った小瓶の爆弾を、でかい蜘蛛の腹に投げつける。もちろん全然HPは削れない。でもいいのだ。

 短い毛の生えた腹部分を攻撃すると、この土山蜘蛛はその刺激で餌を捕獲しようと糸を吐くから、それをすかさず木の棒で防ぐ! でもってくるくる絡めて出し切るまで棒で受け止める!

 これで素材一つゲット。

 しっかりと手元の棒が『山土蜘蛛の糸』というアイテムに変わったのを確認すると、俺はそれをさっさとインベントリにしまって、またも木の棒を構えた。

 さてもっと糸を吐いてもらおうか!



 同じことを数度繰り返し、一匹からは5本の糸しか取れないことに気付くと、最後は普通に剣でヴィデロさんと一緒に魔物退治をした。もう二匹くらいは会いたいんだけど。一匹から錬金一回分の素材しか取れないって、ほんと今回のクエスト辛い。だってほんとにエンカウントしづらいんだよこの土山蜘蛛。これはもうヴィデロさんの幸運に賭けるしかない。俺の幸運はそこまで高いほどじゃないから。必死で上げてはいるんだけどな。



 無事土山蜘蛛を倒して、雑魚を蹴散らしつつ先に進むと、今度は痺れスパイダーが群れを作っていた。うーん、一区画全部ビリビリいってる蜘蛛の巣だらけなんだけど。でもこっちはいっぱい素材取れるかも。

 隣でヴィデロさんは毛を逆立てんばかりに警戒してるし。

 数が半端ないからなあ。俺も最初のころはこれを見ただけで卒倒しそうだったもんな。虫系の魔物の群れとか。ほんと鳥肌物だったよ。

 今は慣れたからなんてことないけど。この蜘蛛は糸に触ったり剣で直接攻撃すると、麻痺になる結構厄介な蜘蛛なんだ。麻痺してるところを生きたまま食われるというおぞましい蜘蛛だ。もちろんこれも魔物鑑定知識。ヴィデロさんもそれを知っているから、あれだけ警戒してるんだと思う。



 欲しい素材は麻痺袋だから、とりあえず一匹倒してみて、麻痺袋が手に入るかやってみるか。たくさんいるし。

 ということで、俺はインベントリから睡眠薬を取り出した。紫色をした瓶に入ったそれを痺れスパイダーに投げつける。

 取るに足らないものだからと、脚でガードしたつもりなんだろうけど、その場で瓶が割れて、痺れスパイダーにちょっとかかった。

 シャー、とこっちを威嚇していた痺れスパイダーは、だんだんと動きを鈍くして、最後糸からブラーンと垂れ下がった状態になった。両手万歳状態。うん、寝てる。効果てきめん。



 そっと近づいて行って、麻痺消しを握りしめながら、痺れスパイダーにてを伸ばす。

 いつもビリビリしてる眉間の宝石みたいな魔石が光ってないから、大丈夫なんじゃないかな、という憶測の元、指を蜘蛛に近づけた。



「マック! 何するんだ!」



 慌ててヴィデロさんが止めに入ったけれども、すでに遅し。俺はべたっと痺れスパイダーに触っていた。もちろん、痺れてない。これ、下手に剣を使うと起きちゃうんだよな。だから手で触っとく。ちなみに、触った瞬間鳥肌が立った。

 安心して手に持った剣で膨らんだお腹部分を一刀両断し、頭部分も切り離す。なんの抵抗もなく切られた蜘蛛は、そのままキラキラと消えていった。

 インベントリを確認すると、『痺れ糸』。あれ、もしかして麻痺袋ってレアドロップ?



「ヴィデロさん、この蜘蛛、寝たら触っても痺れないみたいだから安心して」



 そう言ってヴィデロさんに笑いかけると、ヴィデロさんは険しい顔のまま、油断なく他の痺れスパイダーたちを警戒しながら口を開いた。



「だからって自分が触るやつがあるか! 危ないだろ! そういうことは俺に頼め!」



 怒られた。でも俺が触った方が何かと効率がいいんだけど。ヴィデロさんが痺れてる間に俺がとどめを刺すより、俺が痺れてる間にヴィデロさんがとどめを刺す方が生存率も高いし。

 と説明したら、ヴィデロさんは「お前ってやつは……」とがっくりを肩を落とした。



 さて、と気を取り直して、お隣のおうちの痺れスパイダーにさっきと同じ睡眠薬を投げる。またも万歳状態でブラーンとなったので、今度は胸部分を最初にザクッとしてみた。

 一発でキラキラと蜘蛛が消えていく。インベントリを確認すると、今度こそ『麻痺袋』となっていた。よし!

 すっかり一人で蜘蛛を片っ端から片づけていき、わかったことは、とどめを刺した部分でドロップしやすいものが変わってくるってこと。今までそういうの考えたことなかったから、ゲーム開始二年目にして、俺は初めてドロップの謎を解き明かしたのだった。あとで雄太に教えてやろう。

 胸をザクザクして麻痺袋をたんと手に入れた俺は、手元の睡眠薬が心もとなくなったところでようやく手を止めた。今回はヴィデロさんの出番はなし。ごめんな。


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