これは報われない恋だ。

朝陽天満

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2、俺も会ってみたいなあ

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 HRが終わった瞬間、俺は席をがたっと勢いよく立ち、雄太のところに駆け寄った。



「さあ帰ろうすぐ帰ろうとっとと帰ろう!」



 地団太を踏んで急かす俺に笑いながら、雄太も椅子から立ち上がる。

 中学時代は同じような身長だった雄太は、高校に入ると同時にすくすくと育ち、今ではうちの欄間に頭をぶつけるくらいになっている。

 俺はというと、背伸びをしながら欄間を通り抜けてもかすりもしない。この差が憎い。



 幼稚園から同じだった雄太の家は、言わば俺の第二の我が家で、雄太のお母さんが俺の第二のお母さんのようなものだ。

 「ただいま~」と入っていけば、専業主婦である雄太のお母さんが「あら健ちゃんおかえり」と迎えてくれた。それが日常。



 雄太の部屋に上がり込んで、「で!」と昼休みから途切れていた話題の続きを促す。



「貰ったオーブがグリーンオーブで、中に「飛翔」が入ってた」

「まじかー羨ましい! で、そのオーブはどうなったんだよ!」

「4回の使用制限があって、そのパーティー全員がオーブに入ってる魔法を必ず覚えられる仕様だった。俺も覚えたぜ、「飛翔」。でもMP少ないから、少しだけ浮いて移動するくらいしかできないけど」

「あぁぁああ! いいな飛翔! ちょっと高いところにある素材とか、取りに行くのが楽になりそうだな! っていうか剣士なのに飛翔使えるってどうなんだよ!」



 雄太のお母さんが持ってきてくれた飲み物を飲みながら、口を尖らす。



「で、シークレットダンジョンをクリアして、トレの街に戻ったんだよ。そしたらいつもは立って「ようこそトレの街へ」って言ってるだけの門番がすげえフレンドリーに話しかけてきてさ、そっと「あいつ金欠だから飯奢ってやってくれないか」って言うんだよな。びっくりしたよ。つうかそのダンジョン捜索者。「セイジ」ってんだけどそいつは絶対中に人入ってるって。あの話し方絶対NPCじゃねえ」

「あー……仲良くなると対応変わるよな、街の人たち」



 しみじみと語る雄太の言葉に、俺はうんうん頷いた。

 普通、NPCっていうと定型文みたいに決まったことしか言わないんだけど、このゲームでは一定以上仲良くなると、それまでと全然違う接し方をしてくるんだよ。

 いろいろ薬を作って、雑貨屋に買い取ってもらってて、なんだかんだでその店の人と仲良くなってったら、なんか今では普通にこっちで話す人と同じように話できるからさ。いつもは「いらっしゃい!」って声かけてくれる雑貨屋の兄ちゃんがたまたま卸しに行ったとき「あ、待ってたんだ。品薄なもんがあるんだけど、作れるか?」って声かけてきたときはかなり驚いたから。



 っていうか、「セイジ」って名前、俺一人心当たりがあるんだけど。その人、銀髪美人でローブ姿なんだけど。……まさかな。



「なあなあ、ダンジョン探索者に会える条件ってなんだと思う?」



 俺がそう訊くと、雄太は首を捻りながら、頼りなく口を開いた。



「運と、パーソナルレベルじゃねえ? だって俺が会ったのって、ユイがちょうどレベル70超えたすぐあとだったし」



 運、か。LUCK値が関係してくるのかな。と自分のステータスを思い出す。雄太は戦闘職だし大剣だから、あんまりLUCK値が関係しないんだけど、俺の場合、作るときにどうしてもそこが低いと成功率下がるから、装備とかアイテムとかで結構LUCK値はあげてるんだ。

 パーソナルレベル、かあ。



「俺まだ59しかない」



 溜め息を吐くと、雄太が難しい顔をした。



「あれは健吾は入んない方がいいと思う。なんつーか、シークレットなんだなってしみじみ思うようなギリギリの戦闘を余儀なくされたから。終わった時はほんとみんなぼろぼろのギリギリだったぜ」

「雄太が? あー……それは、確かに俺無理かも……」



 何せ一応戦闘は出来るけど、生産職だし。それにしてはパーソナルレベルは高い方だけど、レベル高くないと取りに行けない素材もあるから仕方なく上げただけだし。何せソロだからな! 初期からやってる人たちはすでにいろいろパイプがあるから、自分は生産だけしてトップランカーに素材を融通してもらってるらしいけど。でも後組の俺はそのパイプに乗っかれないんだ。



「あー……オーブは見てみたいけど、俺じゃダメかー。なんで俺戦闘職にしなかったんだろ」

「今から転職するか?」

「それもやだ。あー、ADOやりたくなってきた」





 あらかたの話を聞き終わった俺は、無駄話をするでもなく、即立ち上がった。



「じゃあゲームで会えたら会おう!」



 そういうと、俺は、雄太の部屋を後にした。

 とりあえずログインログイン。







 走って5分で家に帰りつくと、俺は即着替えてVRギアを手にした。

 雄太とゲームの話をすると、やりたくてしょうがなくなるんだよな。

 クラスの他の奴もやってるみたいだけど、今のところ誰がどのアバターなのか全然わからないし、確認するつもりもないから自然話すのは雄太のみ。

 ギアを装着してスイッチを入れると、機械の立ち上がる音が小さく耳に入ってきた。

 俺は、はやる気持ちを抑えて、目を閉じた。





 目を開けると、そこは、自分の工房でした。

 むくりと転がっていたベッドから起き上がる。基本このゲームはどこででもログアウトできるけれど、HPとMPを回復させておきたい場合は、ベッドの上でログアウトしないといけない。ログインしてすぐ動き始めたい俺は、自分の工房が手に入った瞬間、どこでもログアウトできるようにと各部屋にベッドを置いていた。もちろん、工房内にもだ。普段は背もたれを起こしてソファとして使ってるんだけど。



「さてっと。レシピやろうと思ってたけど、なんか狩りたい気分になって来たな」



 伸びをしてインベントリ内の剣を取り出し、腰にセットする。

 火の消えた炉を横目で見つつ、俺は工房を後にした。



 俺の工房があるのは、トレの街。始まりの街ウノから二つ先の、大体の人が三つ目に来る街だ。

 イタリア語の数字がそのまま街の名前になってるって、結構安直だとは思うんだけど、わかりやすくていいか。

 まばらにプレイヤーとNPCが行きかう街を、速足で進む。

 腰に剣を下げているけど、俺のメイン武器は錬金で作った道具類だ。爆弾を投げたり麻痺毒眠り薬の類を投げたりして、敵を弱らせてから剣でとどめがスタイル。腕力よりも器用さと運に振るから剣スキルを上げてもへぼいだけなんだ。

 雑貨屋に作りすぎた薬を売って、その後、フィールドに出て、と考えながら慣れた街を進む。



「クラッシューこんにちはー薬買ってー」



 雑貨屋のドアを開けるなり、俺は奥に向かって声を掛けた。



「あ、マック。今日は何を作りすぎたの?」



 店の奥から出てきた雑貨屋の兄ちゃんは、一目で人族じゃないとわかる、とがった耳をしている。

 なんていうか、性別の判別しづらい顔をしていて、こういう人を綺麗な人、っていうんじゃないかと俺はこっそり思ってる。仲良くなって知ったんだけど、クラッシュはハーフエルフなんだって。お母さんはギルドの偉い人とかなんとか。「母の冒険者ギルドをごひいきに」とか言われたよ。

 そして、マックというのが俺のゲーム内の名前。健吾、けん、ケンタッキー、とくればマックだろ。みたいな安直な名づけ方だったんだけど、雄太の「高橋」よりは全然ましだと思ってる。しかも雄太のパーティー名は「高橋と愉快な仲間たち」だ。その名前を聞いて、入れてって言わなくてよかったと心から安堵したのはいい思い出だ。



「マジックハイポ。月光草が育ちすぎちゃったって農園のカイルさんにひたすら買わされちゃってさ。もったいないからずっと作ってたんだけど、さすがに作りすぎた」



 インベントリからマジックハイポーションをひたすら取り出しながら説明していると。クラッシュが「ちょ、まってマック!」と制止してきた。

 ふと見ると、カウンターは瓶の山になっている。



「あ、ごめん」



 だってインベントリで一つのアイテム99個までまとめられるとは言っても、その99個のアイテムがそれこそ10マスくらい占拠してると邪魔なんだよ。

 でもそうだよな。こんなカウンターに山積みは片づけるの大変だよな。



「なんでこう、俺の周りには積み上げてく人が多いんだよ……」



 ため息とともに、クラッシュが瓶を片付け始める。



「ほかにもこんなことしたやついるのか?」

「まさに昨日された……ったく、何回言ってもわからないんだから。もちろんマックも」

「ほんとごめん、気を付ける」

「いいけど。もう諦めてるから」



 前はインベントリ内の薬を「売却する」にすればそのまま売れたのに、仲良くなったら品物を出してよく見せてと言われる様になって、料金上乗せされ始めたんだよな。どんなシステムなんだろ。錬金レベルが上がったから品質でも上がったのか?

 とりあえず300個くらいをクラッシュに売って、少しだけすっきりしたカバンに満足しながら、俺は雑貨屋を後にした。とはいえ、まだまだMPハイポ山ほど持ってるけどな。

 
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