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昔の話 (※はR-18)
凶暴な仔猫 #1
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彼女......ではなく彼に呼ばれたので、シアンはまた、人形屋に来ていた。
「ロロ姉の店を教えたとはいえ、急に『来い』だなんて......」
なんの用件かなど明かさず、ただ「うちで待ってる ニコ」とだけ書かれたメモが、アンティークショップのポストに入れられていた。シアンは急用かと思って、慌てて人形屋に来たのだった。その割には呼び出した張本人はまったく現れない。
「遅いなぁ」
若干お腹が空いていたし、今日はいつもより冷え込んで、じっと待つのにそろそろ疲れてきた。
「今日はもう帰ろ......」
「ごめーん、待たせたね。さぁ行こう!」
シアンは人形屋のドアの方を向いて待っていたのに、彼__知り合ったばかりの妖精ニコは背後から現れた。
「......遅いよ。帰っちゃうところだった」
ニコは今日は、初めて見たときのようなスカートのドレスではなくて、パーカーにジーンズのパンツというラフな格好だ。長いブロンドだけはそのままで、後ろで無造作に束ねていた。男の子の格好だが、それでも美人だ。
「支度していたら、ね。ぼく、あんまりこういう服着ないから」
「今日はなんで呼ばれたの?オレ」
「え?デート」
「???」
彼にとってはこのラフな格好の方がお出かけ着らしい。
*
「ぼく、自分より小さい子と仲良くなるの、はじめてだから」
デートだと言い張る彼はシアンを引っ張って街のクレープ屋台に直行した。クレープなど食べたことがないと言うシアンに驚きつつ、店で一番クリーム盛り盛りのチョコバナナクレープを買ってくれた。
「小さい子って?」
「え、シアン。6歳くらいなんじゃないの?」
「......9だよ」
「嘘ぉ!?」
シアンはニコをちらっと見上げた。並んで歩く彼は、誘拐犯のノートによると今10歳だ。ジーンズを履いた足はすらりと長く、スカートを履いていたときよりもスタイルの良さが際立つ。ただでさえ発育が遅いシアンは、そりゃあ......
「どうせ子供だよ、オレは」
「うーん......」
ニコは隣で考え込んでしまった。その眼差しもやっぱりシアンよりずっと大人びている。だが、クリームたっぷりのクレープを頬張る口元には無邪気さがあり、シアンの一つ上くらいの子供だと思える。
「人間じゃないぼくたちはね」
「ん?」
唐突にニコが喋り出した。いつのまにかクレープはなくなっていて、口の端にクリームがついている。
「気持ちで、成長が速くなったり、遅くなったり、するらしいよ」
喋り出すのが唐突なら、内容も唐突だ。シアンは首をかしげる。
「誰に聞いたの?」
「うーん、おじいちゃんだったかな。見た目は若かったけど」
見た目は若かった。そういえばシアンがもっと小さい頃から知っている天使はずっと見た目が変わらないし、ポロロッカは何歳なのか全く分からない。全く不思議には思っていなかったシアンだが、そういえば人間は老いるのだった。
「気持ちがそこで止まってたらね、身体も成長しないけど、気持ちが『大人になろう!』って思ったら、身体も成長できるんだって」
「気持ちが、成長......」
「難しいことは、ぼくも分かんないけど。シアンが『成長したい!』って思ったら、きっと大きくなれるよ」
そう言って笑うニコの笑顔は、とても眩しい。オレもニコくらい大きくなれたらな、見上げなくて済むようになるな。シアンはそう思った。
「あ、猫」
「猫?」
「シアン、手元!クレープが」
「えっ」
猫、というには大きな影。目で追えないほどのスピードで何かが目の前を通り過ぎ、気づくとシアンの食べていたクレープは消えていた。
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