上 下
121 / 197
昔の話 (※はR-18)

凶暴な仔猫 #1

しおりを挟む




 彼女......ではなく彼に呼ばれたので、シアンはまた、人形屋に来ていた。

「ロロ姉の店を教えたとはいえ、急に『来い』だなんて......」

 なんの用件かなど明かさず、ただ「うちで待ってる ニコ」とだけ書かれたメモが、アンティークショップのポストに入れられていた。シアンは急用かと思って、慌てて人形屋に来たのだった。その割には呼び出した張本人はまったく現れない。

「遅いなぁ」

 若干お腹が空いていたし、今日はいつもより冷え込んで、じっと待つのにそろそろ疲れてきた。

「今日はもう帰ろ......」

「ごめーん、待たせたね。さぁ行こう!」

 シアンは人形屋のドアの方を向いて待っていたのに、彼__知り合ったばかりの妖精ニコは背後から現れた。

「......遅いよ。帰っちゃうところだった」

 ニコは今日は、初めて見たときのようなスカートのドレスではなくて、パーカーにジーンズのパンツというラフな格好だ。長いブロンドだけはそのままで、後ろで無造作に束ねていた。男の子の格好だが、それでも美人だ。

「支度していたら、ね。ぼく、あんまりこういう服着ないから」

「今日はなんで呼ばれたの?オレ」

「え?デート」

「???」

 彼にとってはこのラフな格好の方がお出かけ着らしい。




「ぼく、自分より小さい子と仲良くなるの、はじめてだから」

 デートだと言い張る彼はシアンを引っ張って街のクレープ屋台に直行した。クレープなど食べたことがないと言うシアンに驚きつつ、店で一番クリーム盛り盛りのチョコバナナクレープを買ってくれた。

「小さい子って?」

「え、シアン。6歳くらいなんじゃないの?」

「......9だよ」

「嘘ぉ!?」

 シアンはニコをちらっと見上げた。並んで歩く彼は、誘拐犯のノートによると今10歳だ。ジーンズを履いた足はすらりと長く、スカートを履いていたときよりもスタイルの良さが際立つ。ただでさえ発育が遅いシアンは、そりゃあ......

「どうせ子供だよ、オレは」

「うーん......」

 ニコは隣で考え込んでしまった。その眼差しもやっぱりシアンよりずっと大人びている。だが、クリームたっぷりのクレープを頬張る口元には無邪気さがあり、シアンの一つ上くらいの子供だと思える。

「人間じゃないぼくたちはね」

「ん?」

 唐突にニコが喋り出した。いつのまにかクレープはなくなっていて、口の端にクリームがついている。

「気持ちで、成長が速くなったり、遅くなったり、するらしいよ」

 喋り出すのが唐突なら、内容も唐突だ。シアンは首をかしげる。

「誰に聞いたの?」

「うーん、おじいちゃんだったかな。見た目は若かったけど」

 見た目は若かった。そういえばシアンがもっと小さい頃から知っている天使はずっと見た目が変わらないし、ポロロッカは何歳なのか全く分からない。全く不思議には思っていなかったシアンだが、そういえば人間は老いるのだった。

「気持ちがそこで止まってたらね、身体も成長しないけど、気持ちが『大人になろう!』って思ったら、身体も成長できるんだって」

「気持ちが、成長......」

「難しいことは、ぼくも分かんないけど。シアンが『成長したい!』って思ったら、きっと大きくなれるよ」

 そう言って笑うニコの笑顔は、とても眩しい。オレもニコくらい大きくなれたらな、見上げなくて済むようになるな。シアンはそう思った。

「あ、猫」

「猫?」

「シアン、手元!クレープが」

「えっ」

 猫、というには大きな影。目で追えないほどのスピードで何かが目の前を通り過ぎ、気づくとシアンの食べていたクレープは消えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄弟愛

まい
BL
4人兄弟の末っ子 冬馬が3人の兄に溺愛されています。※BL、無理矢理、監禁、近親相姦あります。 苦手な方はお気をつけください。

誕生日会終了5分で義兄にハメられました。

天災
BL
 誕生日会の後のえっちなお話。

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

上の階のおにいちゃん

らーゆ
BL
マンションの上階に住むおにいちゃんにエッチなことをされたショタがあんあん♡言ってるだけ

尻で卵育てて産む

高久 千(たかひさ せん)
BL
異世界転移、前立腺フルボッコ。 スパダリが快楽に負けるお。♡、濁点、汚喘ぎ。

嫌がる繊細くんを連続絶頂させる話

てけてとん
BL
同じクラスの人気者な繊細くんの弱みにつけこんで何度も絶頂させる話です。結構鬼畜です。長すぎたので2話に分割しています。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

処理中です...