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本編※R-18

オークション #1

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*いかがわしいオークションです。後編R-18になります





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「た、大変だよぉ......!」

 あのドールハウスのような家、紅茶の香りがする本だらけの家でしか見ないミュゲが突然駆け込んできたものだから、オレは一瞬思考停止した。アンティークショップで1人、暇な店番をしていたところだったのだ。彼はすごく青ざめた顔をして、

「シアン、たすけて......!」

 うるうるした大きな目で、華奢な手でオレの服を掴んで訴えた。

「ちょっと......何事?」

 というかミュゲ1人だけなのか、と思った。もう1人、リナリアと2人でいることが多く、外でも家でも、こいつだけでいるところなどほとんど見たことがない。

「うぅ......ずびっ」

 ミュゲは、洟をすすりあげ、話しだした。

「あのね、リナが......」




「えっ......と?オーク、ション?」

「んううぅ......」

 オレが問い返すと、ミュゲは顔を覆って泣いてしまった。とりあえずのこと、あらましはこんな感じらしい。
 ミュゲとリナリアは街に買い物に出た。しょっちゅうやっている、2人だけのデートだ。......2人とも恋人だという意識はないが。そこで新しくできたという服屋に、店で出すパンフレットのモデルをしないかと言われたのだ。

「リナだけね......」

 そう言うとき、ミュゲはなぜか少しだけ悔しそうだった。2人連れの片方だけスカウトするというのはまぁたしかに、ちょっともう片方が可哀想な気もするけど。

「じゃあリナリアは、それを引き受けた訳ね」

「あぁいや......」

 むしろミュゲはすごいすごいと乗り気で勧めたのだそうだが、リナリアは一度、断ろうとしたらしい。自分はそういう写真に載るほどじゃない、そんなに嬉しいとは思わない、と......
 でもミュゲは引き下がった。しかも、断りそうなリナリアに店員は、特典にここの店の好きな服を持っていって良いと言った。......内心その店の服は、リナリアの好みだった。でも少し割高で、くれるというのなら良いかと......

「引き受けたの。モデルのお仕事」

 その日一度きりかと思いきや、その後も何回か、依頼が来てそのたびに、リナリアは快く了承した。ミュゲも出来上がったパンフレットに載るリナリアを見て、目を輝かせた。リナリアのクローゼットには、好みの服が増えていった......

「えっと......どこで雲行きが怪しくなるの?」

 既に服をあげるから写真に映れとか、報酬が服以外に見当たらないとか、色々突っ込みたいところがあった。ミュゲもリナリアもそこは無知なのだ、何も不思議がっていない。

「えっとね、その後、リナがあるモデル事務所に入ることになったの」

 ......んん?
 そんな話は初めて聞いたぞ。それに、話し方的にかなりの日数経ってるじゃないか。......その写真載ってるパンフレット、オレにも見せてくれてたっていいのに。
 小さい雑誌だけれどモデルデビューしたリナリアは、やっと報酬をもらって写真に映るようになった。初めは恥ずかしがっていた彼も、だんだんとやりがいを感じてきたらしい。
 しかし、事件は起きた。

「そのモデル事務所が突然、つぶれてしまったの」

「ええっ!?じゃ、じゃあその事務所がクロってことではないの?」

「うん......」

 刊行されていた雑誌は会社の倒産とともに消滅、そして、リナリアも忽然と姿を消したらしい。それが、おととい。

「だって、リナ急に何日かいなくなること、よくあるからぁぁ......」

「ああぁ......泣かないでってば」

 まぁ確かに、ミュゲは基本1人では行動しないが、リナリアは放浪癖があるようで、時たま1人で旅行したりする。彼は本物のエルフで、以前は1人で森に住んでいた、そのことが影響しているのかもしれない。

「リナ、きっとまたどこかで羽を伸ばしてるんだろうって思ってたの。......でも違った」

 昨日のこと。突然知らないところから手紙が届いた。やけに豪華な封筒と蝋の封印がしてあって、中には招待状があったという。

「オークションを開催します、あなたのご友人も商品として出席します......って」

 随分と大胆な、はっきりと犯罪臭のする予告状。オレは眉根を寄せて、名も知らない送り主に憎悪を向けた。

「......ミュゲ、よく聞いて」

「ん......?」

 ミュゲの手を取り、目を合わせる。泣いて腫れた目には不安がうずまく。

「取り返しに行こう。リナリアのこと」

「ほんと......!?」

「ああ。絶対」

 頼ってくれたんだから。やってやろうじゃないの。
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