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短めな話

ふわりと香る

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「ごちそうさま」

 シルフがさっと顔を上げる。吸い終わりはいつもあっさりだ。オレが貧血でふらつかないよう、肩を押さえてくれる。

「......うん」

 吸われるときも向かい合っていたので、自然と目が合う。今飲みこんだものがそのまま表面に出てきたように、赤に変わった瞳。虹彩には元の緑が残っていて、きらきらと宝石みたいだ。
 アレキサンドライトっていう宝石がある。昼間はエメラルドのように、夜中はルビーのように色が変わって、まるで今のシルフそのもの。

「じゃ、行こっか」

 今日もオレたちは人外が主役を占める夜へと出かけていく。街のみんなを見守るために。その、はずだったのに......

「......ん?」

「なんだシアン」

「ああいや何でもない」

 オレは首に違和感を持った。今しがた噛ませた、肩に近いあたり。シルフには悟られないように、さりげなく首を触ると......
 べたっ、と手が真っ赤に汚れた。...嘘だろ。止血に失敗してる!いつもはシルフがちょーっと舐めるくらいであっさり瘡蓋になるし、次の日には治ってるのに。こいつさては手抜きしたな?
 ......まぁでも言ったら変に心配されるか。痛みはないんだけど。ここはもう人が多いし、人間に変な目で見られてしまいかねない。オレの服は黒いから、きっとよく見えないよな。
 そのとき......

「ん?なんだろこの匂い」

「何ってクレープが?いや甘いじゃん」

「んー、鉄?」

「ああー、なんか機械工事でもしてんじゃない?」

「そっか」

 ちょうどすれ違った女性2人連れの会話が聞こえて、オレはどきっとした。違う違う。多分それ鉄じゃなくてオレの血。風に乗って香った?やばいなぁ、匂いがするってことはヒトより鼻がいいこいつは......

「......シアン」

 あーあー。

「やっぱり何でもなくないよな?傷を見せてくれ」

「うう......はい。なるべく目立たないトコで...」

「文句言わない」

「ハイ......」

 この後、過保護モードのシルフにしっかり手当てされた。
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