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本編※R-18
素顔
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*「俳優さん」を知らない人は先に「売れない俳優」などを読むことをおすすめします
(特に「決して見てはいけませんよ」)
*これ自体に描写はないですが、「俳優さん」シリーズのためR-18の章に入れています
では
↓↓↓
*
煙草のけむりが天井へと消えていく。あぁ、だいぶヤニで汚れたなと、染みのついた天井を見上げる。
「うぅ......ん」
ふと横から声とも音ともつかない何かが聞こえてきた。熟睡中のシアンだ。起きるのかと思ったが全然起きない。......幸せそうな顔して、警戒心のカケラもないな。むき出しの肩が見えていたから、毛布を掛け直してやる。
「うひひ、くすぐったい......」
......何をされているんだろう。彼は夢の中でとても楽しそうだ。俺もちょっといじってみたくなって、頬に手の甲を押し付けてみた。男のくせに柔い肌だ。
ふとシアンの赤い毛が流れて、隠れていた耳が覗いた。
......不思議とびっくりはしなかった。似合っていたからかな。それより、触ってみたくなった。
俺のより大きくて、上の方が尖っていて、美しい耳。今まで気づかなかったのは、俺の目の節穴か、彼の魔術的な何かか。下からふちをなぞっていくと、やがて尖った点に達して、そこにまでコリコリとした軟骨があるのが分かる。本物だ......なんというか、感動した。
シアンは今までこれを隠してきたのだろう。人間じゃないってことを、俺や他の人間に悟られないように。擬態して......苦労してんのかな。でも油断しちゃって、バレてんぞ。もう一度頬をつつくと、むにゃむにゃと何か言ったけど、聞き取れなかった。
俺は......知ったからって、何もしない。何も変わらない。今までどおり。こいつは人間だと思ったまま過ごすだけ。人外を排除したいって連中も居るらしいけど、そういうやつらに突き出すこともしない。人外を匿った、とかって通報されても、知ったこちゃない。だってこいつは......ここで生きたくて一生懸命に、人間のふりをしているんだから。
*
店に行ったがシアンはいなかった。どうやら、何かあって早退したらしい。何かってなんだ。俺はもやもやしながら、酒でも買って帰るかと引き返した。
......そういやあいつはどこに住んでいるんだろ。いつも泊まるとしたら俺の安アパートだ。尋ねたことはなかったが、シアンが自分からそういう情報を言ったこともなかった。
だから店からそう離れていない道端に座り込んでいるのを発見したとき、一瞬、ここに住んでいるのかと思ってしまった。
「......シアン?」
彼はものすごく具合が悪そうだった。肩で息をして、細い身体を震わせている。フードを被っていて見えづらいが、顎を汗が伝っている。
心配したんだぞ、と、だけどできるだけなんでもない風に喋りかけた。
「帰って」
シアンはか細い声を吐き出した。だけどなぁ......ここに置いていくんじゃ、こいつはもしかしたら死んでしまうかもとか、思うじゃんよ。
フードを押さえていやいやをするシアンを無理やり立たせて、ほとんど抱き抱えるようにして家に向かった。誘拐犯みたいだけど......置いていくより、いいよな?
あぁ......俺は人間だから、シアンとずっとは居られないんだな。こわごわとフードを取るシアンの方も、同じことを思っているのかもしれない。でも、彼にとって俺に正体を晒すのは、ここが初めてなのだ。
......あのときは眠っていたから、素顔の瞳を見るのは初めてだった。猫のような黄色の瞳はとてもきれいだ。
尖る八重歯を煌めかせて、彼はこう言った。
「悪魔、です」
(特に「決して見てはいけませんよ」)
*これ自体に描写はないですが、「俳優さん」シリーズのためR-18の章に入れています
では
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煙草のけむりが天井へと消えていく。あぁ、だいぶヤニで汚れたなと、染みのついた天井を見上げる。
「うぅ......ん」
ふと横から声とも音ともつかない何かが聞こえてきた。熟睡中のシアンだ。起きるのかと思ったが全然起きない。......幸せそうな顔して、警戒心のカケラもないな。むき出しの肩が見えていたから、毛布を掛け直してやる。
「うひひ、くすぐったい......」
......何をされているんだろう。彼は夢の中でとても楽しそうだ。俺もちょっといじってみたくなって、頬に手の甲を押し付けてみた。男のくせに柔い肌だ。
ふとシアンの赤い毛が流れて、隠れていた耳が覗いた。
......不思議とびっくりはしなかった。似合っていたからかな。それより、触ってみたくなった。
俺のより大きくて、上の方が尖っていて、美しい耳。今まで気づかなかったのは、俺の目の節穴か、彼の魔術的な何かか。下からふちをなぞっていくと、やがて尖った点に達して、そこにまでコリコリとした軟骨があるのが分かる。本物だ......なんというか、感動した。
シアンは今までこれを隠してきたのだろう。人間じゃないってことを、俺や他の人間に悟られないように。擬態して......苦労してんのかな。でも油断しちゃって、バレてんぞ。もう一度頬をつつくと、むにゃむにゃと何か言ったけど、聞き取れなかった。
俺は......知ったからって、何もしない。何も変わらない。今までどおり。こいつは人間だと思ったまま過ごすだけ。人外を排除したいって連中も居るらしいけど、そういうやつらに突き出すこともしない。人外を匿った、とかって通報されても、知ったこちゃない。だってこいつは......ここで生きたくて一生懸命に、人間のふりをしているんだから。
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店に行ったがシアンはいなかった。どうやら、何かあって早退したらしい。何かってなんだ。俺はもやもやしながら、酒でも買って帰るかと引き返した。
......そういやあいつはどこに住んでいるんだろ。いつも泊まるとしたら俺の安アパートだ。尋ねたことはなかったが、シアンが自分からそういう情報を言ったこともなかった。
だから店からそう離れていない道端に座り込んでいるのを発見したとき、一瞬、ここに住んでいるのかと思ってしまった。
「......シアン?」
彼はものすごく具合が悪そうだった。肩で息をして、細い身体を震わせている。フードを被っていて見えづらいが、顎を汗が伝っている。
心配したんだぞ、と、だけどできるだけなんでもない風に喋りかけた。
「帰って」
シアンはか細い声を吐き出した。だけどなぁ......ここに置いていくんじゃ、こいつはもしかしたら死んでしまうかもとか、思うじゃんよ。
フードを押さえていやいやをするシアンを無理やり立たせて、ほとんど抱き抱えるようにして家に向かった。誘拐犯みたいだけど......置いていくより、いいよな?
あぁ......俺は人間だから、シアンとずっとは居られないんだな。こわごわとフードを取るシアンの方も、同じことを思っているのかもしれない。でも、彼にとって俺に正体を晒すのは、ここが初めてなのだ。
......あのときは眠っていたから、素顔の瞳を見るのは初めてだった。猫のような黄色の瞳はとてもきれいだ。
尖る八重歯を煌めかせて、彼はこう言った。
「悪魔、です」
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