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本編

やっぱり綺麗な色だなって思う

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__雪。
 この色何て表現したら良いんだろう、とは雪が降るたびに思う。雪のように真っ白な、の白?銀世界の銀?見ようによっては灰色にも青みがかっても見えるし、降ってくるときは殆ど透明だもんなぁ。
 静かな朝。窓の外には雪景色。今日は日曜で、まだ道を歩く人の姿はない。晴れていれば陽も差して眩しい時間帯だけれど、今日は雪を降らせる灰色の雲に遮られて、むしろ薄暗い。けれどオレはこういう日、晴れている時以上に気分が上がる。ひとつは雪が好きだからで、もう一つは__。

 キィ__。
 先ほどまで窓から雪を眺めていた自室を出て、隣のドアを静かに開く。部屋は窓を雨戸まで閉めて真っ暗で、朝も夜ももちろん雪も分からない。室内はほとんど何も見えないが、部屋の主がいる気配。まだすやすや眠っている。この、朝だというのに眠れる部屋の主こそ、オレの気分が上がるもう一つの理由なのだが......。

「おーーい。起きろって、シルフくん」

 気分が上がるもう一つの理由。普段朝起きないシルフが、曇りに限っては起きるチャンスがあること。達成条件はもちろん寝ているこいつを起こすことだが......
 頑として起きない。うーん、こうなるのはこれまでの付き合いで分かってるけどなあ。そもそも、どうしてこいつが部屋を真っ暗にして朝になっても眠りこんでいるかといえば、こいつが夜に生き陽光を恐れる吸血鬼だからで__とはいえ陽の光は眩しくて苦手って程度のはずなんだけどな__まあとにかく、昼と夜を逆にして生活してるから。オレも最近はこいつに合わせて夜起きたりしてるけどさ。
 ほんと、オレが歩み寄ってるんだから、こいつにも歩み寄ってきて欲しいんだけど。今までも昼間に起こそうとした事はある。だけど大体は失敗して、まぁ今日みたいになんでもない理由で起こすからなんだけど。
 あ、前に一度、オレから起こしに行った訳じゃないのに昼間に起きてきてくれた事があったっけ。まあその日のことは例外かな、それはまた別の話。

「まだ夢の中かよぉ、もしもーし」

 今日は曇ってて太陽も出てないから平気だよ、と言ってやりたいんだけど起きないなぁ。はぁ、オレのしたい事、分かる?大好きな雪を、だいすきな、おまえ、と......。う、恥ずかしいな......。まだ面と向かって言ったことないのに。
 あーあ、お前と歩きたかったな、今日は日曜だから、外もまだ誰も起きてなくて、雪に踏まれた足跡もまだないから、こんなに散歩に適した日はないよな。
 寝顔に手を伸ばす。警戒心なく瞼は閉じられ、触れた頬はひんやりと冷たい。呼吸に合わせて顔にかかった不思議な色の髪が揺れる。

「きれいな髪、雪の色」

 思わずぼそりと呟いた。髪と同じ色素の薄い睫毛に縁取られた切れ長の、緑色の瞳と目が合った。ん?

「ゆき?」

 温かい声音ではないが、耳に心地よいゆったりした声。問いかけられてようやく、シルフが目を覚ましてくれたことに気づく。と同時にボッと顔が赤くなる。聞かれてた?というか、聞こえたから起きたんだよな。うぅ、何が綺麗な雪色の髪、だ......あ......。ポエマーかよ、はずかしい......
 と、勝手に赤くなったり目を回したりしているオレの顔に指が添えられ、

「元気そうで、なにより」

ぱたんと腕が倒れてそのまま目を閉じてしまった。
 すぅすぅと寝息が聞こえる。おい、元気そうでってなんだ。脈絡ねえよ。何の夢見てたんだ。オレ今起こせたと思ったのに。雪の中、朝の散歩デートできると思ったのに......

「嘘だよ。起きたって。予報どおり、積もったのか?」

 うぇ?なに、起きてんの?雪降るかもって知ってたの?オレが、雪が好きってことは、うーん、まあ、知ってたかもしれない、けどぉ......
 こいつって、こういうとこあるよな。今もだけど基本クールな顔して、たまにこう、デレてんのかやけに優しいから、参ってしまう。うう、もういいや。こいつ今から引っ張り出して外行こう。

 さくさくと一番乗りで並んで雪を踏みながら歩く。足元の地面も、隣の背の高い頭も同じ色。この色なんて言ったら良いんだろう、とは思ったけど、シルフの色って思ったらすごく分かりやすくなった。両方オレのお気に入り。
 やっぱり、綺麗な色だなって思う。
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