上 下
94 / 197
昔の話 (※はR-18)

君のキューピッドになりたい

しおりを挟む



 天使は毎日、可愛い悪魔のシアンと初めて出会った、屋敷の裏の林で待っていた。ここは本当に人気がなくて、シアンもあれからもう来ないのでずっと1人だった。来る日も来る日も待って、あぁ、あの兄様たちがシアンを閉じ込めちゃったのかなぁ...とか嫌な想像をしていた。
 ......の、だが。

「シアン!」

 並ぶ木立の合間から。息せき切って走ってくる小さな姿が見えた。あぁ、やっと抜け出してこられたんだ。

「天使、オレちゃんとがんばったよ」

 へへ、と笑う笑い方がちょっといたずらっ子っぽくて可愛い。なんだ、元気そうじゃん、と安心しかける。

「シアン、よかった......」

「がんばったの、それで......ううぅわぁぁん......」

 痛かったの、怖かったのと叫ぶ小さな悪魔は、ただの幼い子供でしかないのに、瞳は悲しみでいっぱいだった。天使はシアンが兄たちに受けさせられたことの意味を知っていたから、怒りさえ湧いた。けれど、この子にそんなこと言ってもしかたない。
 __ただ黙って抱きしめてあげよう。それが一番。




「すきな子ができれば良いんじゃない?」

 __そんなに長く生きてないこの子に言っても分かんないか。天使は三角座りをして目からぽろぽろ雫をこぼす、全然悪魔に見えない幼い悪魔に、自分なりに思い浮かんだ提案をしてみた。

「すきな......?」

 シアンは一瞬涙を止めて、だけどすごく怪訝な顔をした。天使はなぜかむきになって、そんなシアンを説得するように言った。

「うん。シアンがこの人好きだなーって思う人。いない?」

「......本を読ませてくれるときの兄上は、す、き......かな」

 小さな鼻声でつむぐ言葉は、途中からどんどん弱々しくなっていく。家でのことを思い出してしまったのか、また一粒、はらりと頬を伝った。

「うーん、ほらもっと、いつまでも一緒にいたいとか、その人しか見えなくなっちゃうくらい好きな人。難しいかな、横にいるだけで楽しい人、でもいいよ」

 ほら、ボクとか、と自分を指さして笑う。

「天使でも、いいの......?」

「ボクのこと、好き?」

「うん......!ずっと近くにいて」

「ふふっ、ボクもシアンのこと好きだよ」

 いい子いい子、頭を撫でてまだ自分よりだいぶ背の低いシアンを抱きしめる。ずっとそばにいられたら、本当にいいのにな。
 __ボクのいる意味は、いつもこの子の味方でいてあげること。でも、ずっとはね......だって、その後は?この子はいつまでもボクがいなきゃダメになっちゃう。
 誰かとシアンを射止めるキューピッドになりたいな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

誕生日会終了5分で義兄にハメられました。

天災
BL
 誕生日会の後のえっちなお話。

兄弟愛

まい
BL
4人兄弟の末っ子 冬馬が3人の兄に溺愛されています。※BL、無理矢理、監禁、近親相姦あります。 苦手な方はお気をつけください。

尻で卵育てて産む

高久 千(たかひさ せん)
BL
異世界転移、前立腺フルボッコ。 スパダリが快楽に負けるお。♡、濁点、汚喘ぎ。

【完結】もっと、孕ませて

ナツキ
BL
3Pのえちえち話です。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

嫌がる繊細くんを連続絶頂させる話

てけてとん
BL
同じクラスの人気者な繊細くんの弱みにつけこんで何度も絶頂させる話です。結構鬼畜です。長すぎたので2話に分割しています。

処理中です...