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昔の話 (※はR-18)
君のキューピッドになりたい
しおりを挟む天使は毎日、可愛い悪魔のシアンと初めて出会った、屋敷の裏の林で待っていた。ここは本当に人気がなくて、シアンもあれからもう来ないのでずっと1人だった。来る日も来る日も待って、あぁ、あの兄様たちがシアンを閉じ込めちゃったのかなぁ...とか嫌な想像をしていた。
......の、だが。
「シアン!」
並ぶ木立の合間から。息せき切って走ってくる小さな姿が見えた。あぁ、やっと抜け出してこられたんだ。
「天使、オレちゃんとがんばったよ」
へへ、と笑う笑い方がちょっといたずらっ子っぽくて可愛い。なんだ、元気そうじゃん、と安心しかける。
「シアン、よかった......」
「がんばったの、それで......ううぅわぁぁん......」
痛かったの、怖かったのと叫ぶ小さな悪魔は、ただの幼い子供でしかないのに、瞳は悲しみでいっぱいだった。天使はシアンが兄たちに受けさせられたことの意味を知っていたから、怒りさえ湧いた。けれど、この子にそんなこと言ってもしかたない。
__ただ黙って抱きしめてあげよう。それが一番。
*
「すきな子ができれば良いんじゃない?」
__そんなに長く生きてないこの子に言っても分かんないか。天使は三角座りをして目からぽろぽろ雫をこぼす、全然悪魔に見えない幼い悪魔に、自分なりに思い浮かんだ提案をしてみた。
「すきな......?」
シアンは一瞬涙を止めて、だけどすごく怪訝な顔をした。天使はなぜかむきになって、そんなシアンを説得するように言った。
「うん。シアンがこの人好きだなーって思う人。いない?」
「......本を読ませてくれるときの兄上は、す、き......かな」
小さな鼻声でつむぐ言葉は、途中からどんどん弱々しくなっていく。家でのことを思い出してしまったのか、また一粒、はらりと頬を伝った。
「うーん、ほらもっと、いつまでも一緒にいたいとか、その人しか見えなくなっちゃうくらい好きな人。難しいかな、横にいるだけで楽しい人、でもいいよ」
ほら、ボクとか、と自分を指さして笑う。
「天使でも、いいの......?」
「ボクのこと、好き?」
「うん......!ずっと近くにいて」
「ふふっ、ボクもシアンのこと好きだよ」
いい子いい子、頭を撫でてまだ自分よりだいぶ背の低いシアンを抱きしめる。ずっとそばにいられたら、本当にいいのにな。
__ボクのいる意味は、いつもこの子の味方でいてあげること。でも、ずっとはね......だって、その後は?この子はいつまでもボクがいなきゃダメになっちゃう。
誰かとシアンを射止めるキューピッドになりたいな。
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