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昔の話 (※はR-18)
理想のお兄ちゃん #1
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悪魔一家の中に生まれ、悪魔なのに小さな白い翼の生えたシアンには、7人の兄がいた。
まだあの「薬」の真実を知る前、5歳の頃には、シアンは兄のことをそれはそれは慕っていた。
*
「うーん。お兄ちゃん、これってどういう意味?」
「ん?おれに見せてみな。あー、これはね......」
兄の部屋。シアンは7人いる兄たちの中では一番下、末の兄セプタから勉強を教わっていた。末の兄とはいっても5歳のシアンからすると大人で、背も高く身体も大きかった。部屋の中では、ゴツゴツした意匠の家具には似合わない、舌足らずな高い声が響いている。
「そうなんだ!セプ兄はそんなに簡単に読めちゃうんだね!オレもお兄ちゃんみたいに難しい本読めるようになりたいな」
「おれみたいに?」
「オレみたいに!」
「お兄ちゃんみたいに、だな。シアンは頭がいい子だから、すぐ読めるようになるよ」
ただし、たくさん頑張ったらだぞ、と七男は言った。よぉしがんばるぞ、とあどけない声で宣言をして、シアンが鼻息荒く本に向かい始めるのを、黙って見守っている。ときおり揺れるシアンの白い翼を、大きな手でこっそり触っている。
と、部屋の戸がノックされ、別の兄が入ってきた。6番目の兄のヘクス。彼は弟がシアンを独り占めしているのを知って、悔しそうに顔をしかめた。
「......おい」
「兄貴?シアンが勉強中だ」
「お兄ちゃんが増えればオレもっとかしこくなれるよ。ヘク兄も......」
「......お兄ちゃん、だと?」
六男は眉をぴくりと上げ、七男を睨んだ。シアンに見えないよう背を向けて、小声で話す。
「なぜそんな生ぬるい呼び方を許しているんだ?おれたちとあいつは違うんだ。兄上と呼ばせろと父上から仰せつかっているだろ」
「それは......そうだったな。悪い」
「忘れるなよ。このことは上の兄たちに報告しておく」
バタン、扉が閉まり、またシアンと七男 2人きりになった。
「あに......うえ。だよね」
「聞いてたのかー、なんかね、呼び方くらい良いだろって思うんだけど。ごめんね」
「いいよ。兄上って呼んだほうがなんだか頭よくなったみたいだもん」
「そうかもな。えらいぞ、シアン」
「うん、兄上!」
「こっそりなら、お兄ちゃんって呼んでもいいぞ」
「えー、怒られちゃうよ、兄上」
「いい子だなぁ」
七男はシアンの頭をくしゃくしゃに撫でた。赤い髪が逆立って、可愛いとさかのようになった。そう、この頃は少しだけ、確かにシアンも幸せだったのだ。
まだあの「薬」の真実を知る前、5歳の頃には、シアンは兄のことをそれはそれは慕っていた。
*
「うーん。お兄ちゃん、これってどういう意味?」
「ん?おれに見せてみな。あー、これはね......」
兄の部屋。シアンは7人いる兄たちの中では一番下、末の兄セプタから勉強を教わっていた。末の兄とはいっても5歳のシアンからすると大人で、背も高く身体も大きかった。部屋の中では、ゴツゴツした意匠の家具には似合わない、舌足らずな高い声が響いている。
「そうなんだ!セプ兄はそんなに簡単に読めちゃうんだね!オレもお兄ちゃんみたいに難しい本読めるようになりたいな」
「おれみたいに?」
「オレみたいに!」
「お兄ちゃんみたいに、だな。シアンは頭がいい子だから、すぐ読めるようになるよ」
ただし、たくさん頑張ったらだぞ、と七男は言った。よぉしがんばるぞ、とあどけない声で宣言をして、シアンが鼻息荒く本に向かい始めるのを、黙って見守っている。ときおり揺れるシアンの白い翼を、大きな手でこっそり触っている。
と、部屋の戸がノックされ、別の兄が入ってきた。6番目の兄のヘクス。彼は弟がシアンを独り占めしているのを知って、悔しそうに顔をしかめた。
「......おい」
「兄貴?シアンが勉強中だ」
「お兄ちゃんが増えればオレもっとかしこくなれるよ。ヘク兄も......」
「......お兄ちゃん、だと?」
六男は眉をぴくりと上げ、七男を睨んだ。シアンに見えないよう背を向けて、小声で話す。
「なぜそんな生ぬるい呼び方を許しているんだ?おれたちとあいつは違うんだ。兄上と呼ばせろと父上から仰せつかっているだろ」
「それは......そうだったな。悪い」
「忘れるなよ。このことは上の兄たちに報告しておく」
バタン、扉が閉まり、またシアンと七男 2人きりになった。
「あに......うえ。だよね」
「聞いてたのかー、なんかね、呼び方くらい良いだろって思うんだけど。ごめんね」
「いいよ。兄上って呼んだほうがなんだか頭よくなったみたいだもん」
「そうかもな。えらいぞ、シアン」
「うん、兄上!」
「こっそりなら、お兄ちゃんって呼んでもいいぞ」
「えー、怒られちゃうよ、兄上」
「いい子だなぁ」
七男はシアンの頭をくしゃくしゃに撫でた。赤い髪が逆立って、可愛いとさかのようになった。そう、この頃は少しだけ、確かにシアンも幸せだったのだ。
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