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本編

夢遊病者の夢と目覚め

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*悪魔くんが熱出してるときにこんなシーンがあったらな、というもの






「うー、......うぅ、ずびっ」

 どろんと溶けたみたいな空気。熱に浮かされ、ざらざらした定まらない視界にずきりと頭が痛んで、よく眠れそうもないけどまた目を閉じた。




「あれ、ここは......なんだ、ベッドか」

 起き上がると、辺りは妙に静かだった。さっきまでベッドの横で見守ってくれていたはずのシルフの姿もない。どうしたんだろう、と思いながらベッドを降りる。なぜかもう熱が引いていたけど、さして不思議に思わなかった。

「おーい、シル......フ?」

 居間は電気が消えていた。手探りでスイッチを探して、点けた。

「なんだ、そこにいるじゃん」

 なぜか真っ暗な部屋のソファに相棒の横顔が見えた。随分姿勢がいいけど、眠ってるのかなと思い近づく。オレはどうやら寝相が悪い方だそうだけど、こいつは反対に寝てても背筋がぴんとしてるんだな。1人でくすりと笑う。

「起、き、てっ。シル......」

 それは、ソファに座ったポーズで、投げ出されていた。もっと言うとそれは、見慣れたシルフ、大好きな吸血鬼じゃなくて、人形だった。近寄ってみると、長い睫毛に覆われた深緑の瞳と、雪のような繊細な髪は、確かにシルフだった。でもよく見るとその瞳はよく出来たガラス玉だ。触ってみると無機質な冷たさがあった。本物だって冷たいけど、こんなにただ冷ややかなだけじゃないはずだった。

「人形に......なったの?」

 手を取ると球体関節がコキリ、と動いて身体が軋んだ。ツルツルした肌は硬く、手を握り返してはくれなかった。

「シルフ......血が、飲みたくないの?」

 口を覗いた。元々半開きになった陶器の唇からは、白い小さな牙が見えたけれど、口を開けて噛み付いてはくれなそうだった。
 顔を寄せて、口付けてみた。やっぱり冷たくて硬い気配がした。魔力も感じられなかった。

「シルフ......、オレの、シルフ」

 隣にもう一つ、扉付きの箱が置いてあったから、開けた。なんとそっちにも、シルフとそっくりな人形が入っていた。あっと思ったけど、瞳が青色だった。双子の兄も人形だったんだ。表情がないから、2体とも瞳の色を除けば同じに見えた。
 オレがずっと一緒にいて、楽しいと思っていた吸血鬼は、動かない人形だったのだ。やっと出会えたはずの、オレの相棒......

「オレも、人形だったらな......」

 陶器の肌に雫が垂れた。ごめんね、オレの涙で汚しちゃって。あまりに、温度も、質感もオレとは違っていて、悲しくなってしまったんだ。




 気がつくと、ベッドの上で普通に横になっていて、横には看病をしている間に寝てしまったらしく、シルフが突っ伏して寝ていた。
 熱は下がっていて、ちょっと身体が軽くなっていた。悪い夢を見たなと、さっきまでのちょっとかなしい気持ちを蹴散らすようにうーんと伸びをして身体を起こすと、隣から苦しそうな息が聞こえた。

「あっ、あれっシルフ......!?」

 顔に手を当ててみる。もちろん人形の冷ややかさはなくて、ましてやいつものひんやり気持ちいい体温の低さもなくて......
 大変だ、シルフが熱を出してる。
 オレはへんな夢を見ている間に、風邪を移してしまったみたいだ。
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