54 / 197
本編
夢遊病者の夢と目覚め
しおりを挟む*悪魔くんが熱出してるときにこんなシーンがあったらな、というもの
*
「うー、......うぅ、ずびっ」
どろんと溶けたみたいな空気。熱に浮かされ、ざらざらした定まらない視界にずきりと頭が痛んで、よく眠れそうもないけどまた目を閉じた。
*
「あれ、ここは......なんだ、ベッドか」
起き上がると、辺りは妙に静かだった。さっきまでベッドの横で見守ってくれていたはずのシルフの姿もない。どうしたんだろう、と思いながらベッドを降りる。なぜかもう熱が引いていたけど、さして不思議に思わなかった。
「おーい、シル......フ?」
居間は電気が消えていた。手探りでスイッチを探して、点けた。
「なんだ、そこにいるじゃん」
なぜか真っ暗な部屋のソファに相棒の横顔が見えた。随分姿勢がいいけど、眠ってるのかなと思い近づく。オレはどうやら寝相が悪い方だそうだけど、こいつは反対に寝てても背筋がぴんとしてるんだな。1人でくすりと笑う。
「起、き、てっ。シル......」
それは、ソファに座ったポーズで、投げ出されていた。もっと言うとそれは、見慣れたシルフ、大好きな吸血鬼じゃなくて、人形だった。近寄ってみると、長い睫毛に覆われた深緑の瞳と、雪のような繊細な髪は、確かにシルフだった。でもよく見るとその瞳はよく出来たガラス玉だ。触ってみると無機質な冷たさがあった。本物だって冷たいけど、こんなにただ冷ややかなだけじゃないはずだった。
「人形に......なったの?」
手を取ると球体関節がコキリ、と動いて身体が軋んだ。ツルツルした肌は硬く、手を握り返してはくれなかった。
「シルフ......血が、飲みたくないの?」
口を覗いた。元々半開きになった陶器の唇からは、白い小さな牙が見えたけれど、口を開けて噛み付いてはくれなそうだった。
顔を寄せて、口付けてみた。やっぱり冷たくて硬い気配がした。魔力も感じられなかった。
「シルフ......、オレの、シルフ」
隣にもう一つ、扉付きの箱が置いてあったから、開けた。なんとそっちにも、シルフとそっくりな人形が入っていた。あっと思ったけど、瞳が青色だった。双子の兄も人形だったんだ。表情がないから、2体とも瞳の色を除けば同じに見えた。
オレがずっと一緒にいて、楽しいと思っていた吸血鬼は、動かない人形だったのだ。やっと出会えたはずの、オレの相棒......
「オレも、人形だったらな......」
陶器の肌に雫が垂れた。ごめんね、オレの涙で汚しちゃって。あまりに、温度も、質感もオレとは違っていて、悲しくなってしまったんだ。
*
気がつくと、ベッドの上で普通に横になっていて、横には看病をしている間に寝てしまったらしく、シルフが突っ伏して寝ていた。
熱は下がっていて、ちょっと身体が軽くなっていた。悪い夢を見たなと、さっきまでのちょっとかなしい気持ちを蹴散らすようにうーんと伸びをして身体を起こすと、隣から苦しそうな息が聞こえた。
「あっ、あれっシルフ......!?」
顔に手を当ててみる。もちろん人形の冷ややかさはなくて、ましてやいつものひんやり気持ちいい体温の低さもなくて......
大変だ、シルフが熱を出してる。
オレはへんな夢を見ている間に、風邪を移してしまったみたいだ。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる