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本編
迷い猫探し #前編
しおりを挟む*猫好きな人ごめんなさい、あまり好ましくない表現がございます。嫌な人はブラウザバック
では
↓↓↓
*
「ふが、これ絶対かぶりつける大きさじゃないよっ」
本屋通りのバーガーショップ。このあたりは書物を求めに来た人たちが昼飯をとるため、飲食店が点在している。オレも本は好きだし、久しぶりに古書店で小説でも見つくろって読もうかなと、シルフを誘って来た。本なんか読まなそうだけど。ふふ、今日はデートなのだ。
そんなわけで今は昼食の時間なんだけど、注文したハンバーガーが予想に反してでかい。横より縦の長さが断然長くて、上に刺してる串抜いたら絶対崩れる、これ。おまけにケチャップとタルタルソースがはみ出てて、垂れること垂れること。
「シルフー、これお前どうやって食べるの............ぷっ」
思わず笑ってしまう。向かい合った吸血鬼は既に、大きな一口を食したところだった。上手に上のバンズから下のバンズまで、食べられていると思いきや、口の周りが赤と白のソースまみれだ。パンくずもついて小汚い。
「?」
「良いねそれ、血みたいだよ......わはは、よし、オレもやろ」
ガブっ、思い切って噛み付くと、パン、肉、チーズ、野菜、ソースと全部が混ざってバランスの良い味が口に広がる。水気の多いトマトだけがつるんと滑ってバーガーからはみ出てしまう。水にさらしたタマネギのみじん切りがピリッと辛い。総じてすごく美味しいな。もぐもぐと食しながら窓の外を見る。ここは2階なので、ちょっと上から通りを俯瞰して見ることができた。本屋ばかりが所狭しと並んでいる様子は圧巻だ。
ふと向こう側の店の2階部分に取り付けられた看板の上に、1匹の猫がいるのが見えた。
「あ、シルフあれ。猫がいるよ」
器用に細い鉄板に足を載せている。すらりと伸びた前足。ちょうど見ているオレたちに気づいたように、こっちを向いた。
「ほんとだ」
一瞬にして猫はぷいと顔を背け、地面に降りて消えてしまった。
「行っちゃったね」
「みたいだな」
相棒とのゆったりした時間。シルフの口元にはまだ赤いソースがついたままだった。
*
「はぁーーーっ。うだつの上がらない探偵稼業かよってね。シルフもそう思うだろ?全く、ロロは何してんだか」
オレは大きな大きなため息をついた。あーあ、シルフがいるから退屈ではないんだけど、なんだか盛り上がらないなぁ。
「猫探しだと探偵なのか?なんでだ?」
「犬猫探しと不貞調査は探偵の仕事の代名詞なの。小説の探偵だって、普段はそういう仕事してるんだよ」
世間知らずだねぇうちの吸血鬼は。でも実際、世間を知れない所にいたらしいから、仕方ないか。
今日オレたちのボス、魔女ポロロッカから斡旋された仕事はズバリ、家出猫探しだった。猫又だとか猫の獣人だとかではない。動物の普通の猫だ。飼っているペットが逃げ出したらしい。どうもその飼い主がロロの知り合いの魔女だったので、安く引き受けたのだとか。
「張り合いないじゃーん、それこそ人間の探偵に回して欲しいよね」
「そうかもな。だけど......見つけて欲しいって人が居るんだ。ちゃんと探し出そう」
「うん、まあね」
オレは凛とした1匹の猫の写真付きの書類を読み上げた。
「3歳の雌、シャム、首に蝶ネクタイ型の赤いチョーカーを巻いてる。裏に名前が刺繍されてて......サロメ。好物は干したカタクチイワシで、臆病な性格です......先方から貰ってる情報は、このくらいだよ」
「そうか。ならさっそく探しに向かおう」
「いやいや、まだなんの情報も絞れてませんけど」
お前まさか、自分の嗅覚で見つけるとか言い出さないよね?呆れていると、迷いのない様子の吸血鬼は言った。
「シアン、3日くらい前。店の窓から見えた猫」
3日前......?顎に手を当てる。バーガーショップでの記憶が蘇る。ぼんやりと、通りの向こうにいた猫の様子が思い浮かんだ。あのときは純粋に楽しんでて、分厚いハンバーガーとデートの記憶しかない。猫のことなんて、忘れてた。
「確かに、猫いたね。でも、ええー、あれそうだったかな」
「間違いない。その写真のと同じ首輪だったし、柄もそんな感じだ」
「そうかぁ。うーんすごく自信ありそうだな。なら信じよう。さすが、目が良いねぇ」
嗅覚じゃなくて視力だったか。なんだか、ただの飼い猫探しのはずが、ちょっとだけ小説の探偵らしくなってきた。
*
「猫ちゃーん、サロメーー、出ておいでーっ」
この間行ったバーガーショップの周りを歩き回って探した。煮干しが好きだというから、スーパーで買ってきて、オレもちょっとつまみながら歩く。こっそり食べるたびに、ポリポリという咀嚼音を耳ざとく聞かれてしまい、
「シアン。猫にあげるんだから」
シルフに叱られてしまう。もう、オレの保護者かよこいつ。
いつの間にか書店通りのはずれまで来ていた。ここまで来ると本屋の雰囲気もなく、行き止まりの寂しさがつきまとう。一応路地の奥まで全部くまなく見ていってるので、ここも覗く。と......
「......臭いな」
シルフが急にそんなことを言い出した。やっぱり嗅覚も使うんだな、と感心しようとしたが、そんな場合ではなかった。路地の奥に踏み込むと、それが見えた。
「ねぇ、あれ......」
灰色の空を切り取った建物と建物の間。ちょっと高いところに渡された洗濯物干し用のロープに括り付けられて。
猫の死骸が風に揺れていた。
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