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短めな話

鉄分をあげます

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「はい、今日もお疲れさま。これ、お前のな」

 ソファに並んで座り、半分に割った板チョコを手渡す。オレはほんとはあんまり甘くないビターのとかが好きなんだけど、シルフが好きな甘いやつを一緒に食べるのもたまにはいい。
 外は雨がしとしと降り続いていた。静かな夜だった。

「ん、ありがと」

「いつも思うけどさ、板チョコじゃシンプル過ぎないか?中にナッツ入ってるやつとか、クッキーに掛かってるやつとか......ね?」

「チョコが食べたいだけ、だから」

「ふぅん」

 それにしてもこの味は甘すぎだけどな。オレがそんなに甘党じゃないってことを差し引いても、これは甘いだろ。

「チョコレートを食べると、血を飲みたいって欲が少し、抑えられる気がするんだ」

「タバコ依存者のニコチンパッチかよ」

 カリッ、小気味良い音を立てて吸血鬼の鋭い犬歯がチョコレートの板を噛み砕くのを見つめる。オレも割った板チョコを口に運ぶ。

「ていうか、チョコいっぱい食べさせちゃったらオレ、血ぃ吸って貰えないってことじゃん」

「別に良いんじゃないか」

「他人事!?やだよオレ、これからも美味しい血液の提供者でいたい」

「血を飲まなくても良いってことにはならないから......」

 なんだよぅ、お菓子ごときににシルフを取られたような気がしてきた...オレはそのときふと、割れた板チョコの破片を見て思いついた。

「ね、シルフ。一旦それ食べるのやめてこっち向いて」

「?」

 シルフはにやにや笑うオレを見て明らかに怪訝な顔をしている。オレは板チョコの欠片を口に咥えると、端っこにちょっと溶けた茶色い染みのついたシルフの唇に、えいっと押し込んだ。

「は、ひっ?」

「んふふふふ...」

 反応がおかしくって笑ってしまう。突然チョコレートをねじ込まれて困惑しているシルフに、舌を器用に使ってぐいぐい押し込んでいく。最初から熱で溶けかかっていた甘い欠片は、2人分の唾液と混ざって更に溶け、原型を失っていく。

「......ぅ」

 シルフの吐息が聞こえた。ちょっと余裕なさげ?急にこんなことされて。たまにこういう不意打ちをすると、この若い吸血鬼は絶妙な色気を垣間見せるのだ。
 頬が熱くなってくるが、気にしない。オレの舌からシルフの舌へと移っていくチョコレートがだんだん邪魔に思えてくる。べとべとして、口の端から垂れて来ちゃうし。

「......ん。ど?美味しかった?」

「............やめてくれよ、急に」

 口の周りの汚れを拭うふりして顔を覆うのは、赤くなってるのを誤魔化してるのかな?
 いつになく慌ててるシルフに、オレは満足した。
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