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本編

子供になっても献血しないと出られない部屋 #前編

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*前の【400ml献血しないと出られない部屋】もぜひ見てね。
*【明らかに置いといたのが悪いけども】を読むと分かりやすいかもです。



では
↓↓↓





「シルフぅ、オレかわいくなっちゃったよ」

「!?!?!?」

 デジャヴュってこういうののこと言うんだな。オレとシルフは部屋に入ってまたまた出られなくなった。でも今回はちょっと違う。
 オレは部屋に一歩入って、何か踏んだような感触がした。靴の下で確かにカチッと小さく鳴った。あっと思った時にはもう遅くて、ボンッというマンガみたいな音と煙が広がって......
 子供の姿になっていた。

「えっ......シルフ、オレ......」

「......小さい」

「だよね!?」

 シルフは一見冷静そうに言っているが、理解の範疇を超えてしまっているらしい。夢でないことを確認するように、何度も瞬きをしている。
 自分の小さな手、足。近い地面。余計に大きく見えるシルフ。オレは今その長身のお腹あたりまでしかない。これは、いつの自分なんだろう。自我はどうやら元のままだ。オレは普通の子よりも身体の成長が遅くて__といって周りに子供は居なかったから、比較できるわけなかったけど__子供の頃は、いつまでたってもチビだったのだ。

「シアン、あっちに......」

 部屋を見回していたシルフが指を指した方を見ると、壁の一部が光っていた。オレからすると高い位置だからよく見えないけど、鏡かな。

「うぇ、届かな......」

「はい」

 急に脇の下に手を入れられ、実に軽々と持ち上げられる。子供にする高い高いじゃないんだから、やめてよね。ちょっとくすぐったいし。

 鏡の中の自分。ひょろひょろで、ひ弱そうな男の子。目だけ爛々と輝いて、こっちを蛇のように睨んでいる。
 これは......わかる。12歳くらいのときの自分だ。昔もこんな可愛げのない表情してたかもな。今なら、笑えるか。もっとにこにこすれば。歯を出して口角を上げて、手でほっぺたを押し上げて、目尻を下げて......。

「わっ............!な、なんでもない」

 突然、抱き上げて固定してくれていたのがぐらぐら揺れ、シルフは今までないくらい焦った声を出した。鏡の中でちょうど良い笑顔ができたところだったのでびっくりした。シルフはなんでもないと取り繕ったけど、どうもあやしい。

「何ぃ?なんでもないことはないでしょ」

「なんでもないって」

 耳の先がちょっと赤い。

「あれぇ?もしかしてオレに萌えた?」

「そんなわけ......!」

「シルフぅ」

 オレ可愛くなっちゃった??オレは幼い顔ににやにや笑いを浮かべて、相棒を煽りに煽った。そんな場合でないのはもちろんだったけど。




-----
 吸血鬼に200mlを飲ませてもらいます
 それまでは部屋も開きませんし、子供のままです
 吸血鬼が一口でも血を飲めば、精神まで子供になります
-----

 こんな3文だけの貼り紙。それがこの部屋にある情報だった。オレたちは気を取り直して、真面目な顔で考えた。

「考えるまでもないよ、お前がオレからまた血を飲めばいいだけだよ」

「そんな簡単なことじゃ......ほら、最後のここ精神まで子供になるって書いてある」

「本当か分からないだろ。それにべつに......大した、こと、じゃ......」

 なくはない。子供の頃のトラウマや嫌な記憶は、今でもその頃の記憶を悪夢に見るほどにはある。こいつにも、それは知られている。もしかしたら、一口噛みつかれた途端に泣き叫ぶことだってあるかもしれない。

「シルフ。オレお前とここから出たいから、我慢するよ、信じて」

「でも......」

 シルフの瞳が不安に揺れる。その深い森の木に芽吹く葉のように濃い緑の瞳が安心を与えてくれる。
 オレは一歩進んで、シルフにぴったりくっついた。

「シルフ......なにがあっても、オレがどうなっても、」

 シルフの背中を、いつもより大きな背中の服をぎゅっと掴む。頑張って手を伸ばさないと離してしまいそう。

「飲み続けて。ちゃんと最後まで飲んで、オレを外に出して。」
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