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昔の話 (※はR-18)

天使の加護 #1

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*【命の薬】の続き。前回がR-18なので、一応読まなくても分かるように補っています。
*嘔吐注意です



「お父様っ......どうして......」

 走る。走る。走り続ける。屋敷の大きな建物の影になって暗い庭を、精一杯の速さで石畳を蹴っていく。その間もなんども、さっき見た光景が頭の中に戻ってきて、胃の中のものがせり上がってくる。
 父様は、ずっとオレに薬を渡し続けてくれた。1週間くらいで全て尽きてしまう魔力を満たすための薬を。中身は昨日まで何かわからず、ただ薬だと言われていたから飲んだ。まずかったけれど、自分のためだからと我慢して飲んできた。
 6年くらい続けた、のだと思う。今日わかったことは、その「薬」と呼んでいたものは、父様がオレの裸の写真を見ながら、気持ちのわるいことをして、作ったものだった。オレにはよくわからなくて、今だって得体の知れないものでしかないけど、ただの薬じゃないことはわかる。
 父様がオレの写真を隠れてたくさん集めていたのも、ショックだった。父様や兄上たちと出掛けたときに、カメラを向けられることはあったけど。
 __これからも、あの「薬」を飲まなくちゃいけないの......?

「っ......ごほっ......うっ......」

 魔力がそろそろ本当になくなってきて、耐えきれず立ち止まる。咳き込むのと同時にまた吐き気を催して、ほとんど胃液だけの汁を吐き出した。

「げほっ......ぜぇ......ぜぇ...」

 顔はもう唾液と鼻水とあと涙とか、いろんなものでぐしょぐしょだった。一度立ち止まってしまうと、膝もがくがくしてくる。

「だめ......、逃げなきゃ」

 __でも、この屋敷から出てどうするの?
 建物を振り返った。色のない壁にたくさん並んだ窓のどれかから、父様がじっと見下ろしている気がして、身震いした。




 どうやって抜け出たのか、気がついたら地面に背中を預けていた。雲間に少しだけ、青空が覗いている。風に耳元でさわさわ揺れる、青々とした草がくすぐったい。

「はっ......に、逃げなきゃ!」

 オレは自分が屋敷から逃げようとしていたことを思い出し、勢いよく身体を起こした。
 ゴチン、と大きな音がした。
 頭にわんわんと響いている。オレは座りながらくらくらして、一瞬また意識が飛びそうになった。突然のことに驚きながら、おでこを押さえていると、近くでうめく声がした。

「ううっ......痛いぃ......」

 涙目になって、同じく顔を押さえている、天使がいた。今起き上がったときに頭をぶつけた相手だというのはわかった。だけど......

「......?」

「あっ!おはよう!ボクは天使、気分はどう?」

 その天使は、初めて会うオレに「天使」と名乗った。

「おはよう、じゃなくてはじめましてだよ......」

「そうだね、よろしく。それで、元気?」

「うん、普通だよ......。今頭ぶつけたけど。君、は痛かったんじゃないの......?」

 天使は身体に似合わず大きな白い翼をばさばさ動かして、力こぶを作る動作をした。

「ボクは大丈夫だよ」

 そう言う割には目がちょっとうるうるしている。オレも痛かったけど。

「ごめん......ぶつけちゃって」

「いいんだって。キミ、それで何か気づくこと、ない?」

 気づく、こと......。天使と名乗った通り、見た目もまさに天使だ。大きくてきれいで白い翼が真っ先に目につく。年はたぶんオレよりちょっと上。だけど喋り方は子供っぽい。髪も長めだから女の子かもしれないけど、さっき自分のこと「ボク」って言ってた。目はまんまるで、ガラスみたいにキラキラしている。
 気づくことなんて......。オレは分からなくて、うーんと口元に手を当てて。

「くるしく、ない!?」

 頑張って息をしようとしなくても、自然に息ができる。咳が出ない。薬は......、あの「薬」は飲んでないのに。

「ふふーん、やっと気づいたかぁ」

 天使が得意げに胸を反らせた。
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