85 / 197
昔の話 (※はR-18)
天使の加護 #1
しおりを挟む*【命の薬】の続き。前回がR-18なので、一応読まなくても分かるように補っています。
*嘔吐注意です
「お父様っ......どうして......」
走る。走る。走り続ける。屋敷の大きな建物の影になって暗い庭を、精一杯の速さで石畳を蹴っていく。その間もなんども、さっき見た光景が頭の中に戻ってきて、胃の中のものがせり上がってくる。
父様は、ずっとオレに薬を渡し続けてくれた。1週間くらいで全て尽きてしまう魔力を満たすための薬を。中身は昨日まで何かわからず、ただ薬だと言われていたから飲んだ。まずかったけれど、自分のためだからと我慢して飲んできた。
6年くらい続けた、のだと思う。今日わかったことは、その「薬」と呼んでいたものは、父様がオレの裸の写真を見ながら、気持ちのわるいことをして、作ったものだった。オレにはよくわからなくて、今だって得体の知れないものでしかないけど、ただの薬じゃないことはわかる。
父様がオレの写真を隠れてたくさん集めていたのも、ショックだった。父様や兄上たちと出掛けたときに、カメラを向けられることはあったけど。
__これからも、あの「薬」を飲まなくちゃいけないの......?
「っ......ごほっ......うっ......」
魔力がそろそろ本当になくなってきて、耐えきれず立ち止まる。咳き込むのと同時にまた吐き気を催して、ほとんど胃液だけの汁を吐き出した。
「げほっ......ぜぇ......ぜぇ...」
顔はもう唾液と鼻水とあと涙とか、いろんなものでぐしょぐしょだった。一度立ち止まってしまうと、膝もがくがくしてくる。
「だめ......、逃げなきゃ」
__でも、この屋敷から出てどうするの?
建物を振り返った。色のない壁にたくさん並んだ窓のどれかから、父様がじっと見下ろしている気がして、身震いした。
*
どうやって抜け出たのか、気がついたら地面に背中を預けていた。雲間に少しだけ、青空が覗いている。風に耳元でさわさわ揺れる、青々とした草がくすぐったい。
「はっ......に、逃げなきゃ!」
オレは自分が屋敷から逃げようとしていたことを思い出し、勢いよく身体を起こした。
ゴチン、と大きな音がした。
頭にわんわんと響いている。オレは座りながらくらくらして、一瞬また意識が飛びそうになった。突然のことに驚きながら、おでこを押さえていると、近くでうめく声がした。
「ううっ......痛いぃ......」
涙目になって、同じく顔を押さえている、天使がいた。今起き上がったときに頭をぶつけた相手だというのはわかった。だけど......
「......?」
「あっ!おはよう!ボクは天使、気分はどう?」
その天使は、初めて会うオレに「天使」と名乗った。
「おはよう、じゃなくてはじめましてだよ......」
「そうだね、よろしく。それで、元気?」
「うん、普通だよ......。今頭ぶつけたけど。君、は痛かったんじゃないの......?」
天使は身体に似合わず大きな白い翼をばさばさ動かして、力こぶを作る動作をした。
「ボクは大丈夫だよ」
そう言う割には目がちょっとうるうるしている。オレも痛かったけど。
「ごめん......ぶつけちゃって」
「いいんだって。キミ、それで何か気づくこと、ない?」
気づく、こと......。天使と名乗った通り、見た目もまさに天使だ。大きくてきれいで白い翼が真っ先に目につく。年はたぶんオレよりちょっと上。だけど喋り方は子供っぽい。髪も長めだから女の子かもしれないけど、さっき自分のこと「ボク」って言ってた。目はまんまるで、ガラスみたいにキラキラしている。
気づくことなんて......。オレは分からなくて、うーんと口元に手を当てて。
「くるしく、ない!?」
頑張って息をしようとしなくても、自然に息ができる。咳が出ない。薬は......、あの「薬」は飲んでないのに。
「ふふーん、やっと気づいたかぁ」
天使が得意げに胸を反らせた。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
からっぽを満たせ
ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。
そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。
しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。
そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので
こじらせた処女
BL
大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
『僕は肉便器です』
眠りん
BL
「僕は肉便器です。どうぞ僕を使って精液や聖水をおかけください」その言葉で肉便器へと変貌する青年、河中悠璃。
彼は週に一度の乱交パーティーを楽しんでいた。
そんな時、肉便器となる悦びを悠璃に与えた原因の男が現れて肉便器をやめるよう脅してきた。
便器でなければ射精が出来ない身体となってしまっている悠璃は、彼の要求を拒むが……。
※小スカあり
2020.5.26
表紙イラストを描いていただきました。
イラスト:右京 梓様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる