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本編
400ml献血しないと出られない部屋 #前編
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「おい......これどーなってんだよシルフ」
「シアン、とにかく方法を探そう」
数分前、オレたちは2人で部屋に入った。確かにオレたち以外には誰の気配もなかった。オレもシルフも、嵌められてるなんて全く思いもしなかった。
部屋の奥の貼り紙に気付いて歩み寄った途端に、入り口の扉が閉まるまでは。
《1人がもう1人から血液を200ml飲まないと、この扉は開きません》
「1人がってお前がオレのを、しかないじゃん」
「シアンが俺のを飲んだら......」
「馬ぁ鹿。そしたらオレが吸血鬼になっちゃうだろが」
むしろそれでもいいよ、お前と同種になれるんだし。冗談めかしてそう言うと、シルフは真面目な顔で今のままがいいからだめだと首を振った。そうして何か思いついたように、
「そうだ。このドア、俺が蹴破れば......」
ガンッッ。重そうな鉄のドアにシルフが蹴りを喰らわせる。すさまじい衝撃音が反響したが、扉はびくともしない。
オレはいそいそとシャツのボタンを2、3個外して、首元をさらけ出した。
「何も蹴って開けなくても。こうすればすぐじゃん。何てことないよ、ほら」
シルフの深い緑の瞳が不安そうに揺れている。
「お前はいつも、すぐ貧血になってしまうじゃないか......」
「大丈夫だって。こんなの、缶コーヒー1杯分もないでしょ」
「それは......そうなのかもしれないけど」
ホラ、とオレは一歩シルフに近づいて、背伸びをする。シルフの喉の凹凸が上下して、ごくりと唾を飲んだのが分かった。
「すげえ飲みたくなってるじゃん」
「ごめん」
「お前が血を吸ってくれないと、出られないんだから」
「うん」
「よし。そうと決まればシルフ」
また一歩、もうシルフに腕を回せるところまで近づく。
「めしあがれ」
「いただきます」
あれ、でも閉じ込めてる誰かはそれをどうやって知るんだろう。カメラで監視を?200ml飲んだかなんて分かるのか......まあいいや。
カプ。
シルフの牙がオレの肌を浅く傷つける。さっきも唾を飲んでいたが、吸血欲がそうとう高まっていたみたいで、傷口に触れる唾液が多い。切り口から溶け込むようにしてシルフの魔力がオレの中に入ってくる。
その感覚がなんともいえず気持ちよくて、うっとりと目を閉じてしまう。『シルフに血を吸われないと出られません』なんて、オレには苦行じゃないの。
*
どくんどくんと脈打って、あふれてくる甘い液を一口含んでは飲み込み、また一口含んで飲み込む。密かに血を渇望していた喉が潤っていく。
俺はシアン以外の血をまともに飲んだことがない。だから味の差とか、濃いとか薄いとか、全く分からないけど、シアンの血はすごく甘くて、口の中でとろけて、とても美味しいのだ。矛盾するけど、シアンの血が俺にとって一番だ。
どのくらいそうしていただろうか。一瞬だったようにも、味わっていたおかげで長かったようにも思える。シアンは痛かったり、苦しかったりするよな、きっと。せめて魔力を少しでももらってくれたらいい。
カチャン、鍵の回る音がした。俺は傷口からこぼれた一滴を舐めて、口を離した。シアンの目はちょっとぼうっとしている。
「動けるか」
「うん。全然平気だよ。いつもシルフ、オレからこのくらい吸ってたでしょ」
そうかも、と俺はシアンの手を取った。よかった、なんだかよく分からなかったけど、これで出られる。念のため背中も支えて解錠したドアに向かった。
それが、始まりに過ぎなかったとも知らずに。
__続く
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