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本編

ハロウィーン

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「あ......おい、シアン」

 そろそろ日が暮れるのが早くなってきた。シアンが夕食に何か買ってこようと提案し、俺も行くことにした。こいつの料理のセンスが独特であることは知ったし、1人で買わせに行ってどうなるか分からないから。
 いつもなら外に出る時、容姿で人外と知られてしまうのを避けるために俺たちは帽子やフードで顔を隠す。俺はいつものようにパーカーのフードを被ったのだが。

「んー?どったのシルフ」

「お前...耳隠してないけど、いいのか?」

 相棒の顔の横には目立つ大きな耳がぴょこんと飛び出ていた。人間ならどんな人でも持っていないだろう、上向きに尖った先。左の耳たぶにはいつものように、青く光る宝石のピアスを挿している。
 それが帽子も何も被ってないから、どの角度からでもよく見えた。髪もそうだ。俺だって白いから、目立つ色ではあるけど、シアンのは染めてもいないのに血を被ったように真っ赤で、通りがかる人の目を惹きつけてしまう。
 普段であれば帽子にこれでもかと押し込み、隠してから家を出るはずだ。なのにそれをしないとは......

「シルフこそ何フード被ってんの?」

「ヒトじゃないって気づかれるから」

「今はいいの。取んなって」

 しゅっとフードを下ろされてしまった。静電気で髪が広がる。何故「今はいいの」か。ますます分からない。

「よくないだろ。よくない奴らに見つかるぞ」

「へへ、外見てみなってホラ」

「えっ、危ないって......。!?」

「ね?」

 外は、普段の夜6時半とはずいぶん違っていた。急いで家路に着く会社員の姿は見当たらず、そこかしこに溢れているのは、種族もさまざまな人外たちだった。

「......ん?」

「んふふ、思った通りいい反応。今はね、ハロウィーンってことだよ」

 なんだ、それは。言われてよく見ると、色とりどりな人外に見えたものの中には明らかに布を被った格好の人や、動物の毛皮を着たような人がいる。

「ちょうどこの家の周りが出店になるんだよね。この人たちは、仮装した人間だよ」

「人間......なぜ」

 ハロウィーンという単語は聞き覚えがなかった。たぶん俺が過ごしていた所では縁がなかったんだろう。この時期、人間たちのあいだでは、やってくる魔物に対抗するため自分たちも魔物に扮するという言い伝えがあるらしい。それが今では、人外を真似た格好をするイベントに変わっているのだ、とシアンは言った。

「オレたち、すでに仮装してるようなもんじゃない?」

「だから気づかれないって言うのか?」

「全然分からないよ。行こ」

 シアンはとっても生き生きしていた。俺の手を取って、ずんずん進んでいく。普段より人通りが多いからな、人間に揉まれて逸れてしまうかも。俺はシアンの腕を離してしまわないよう、ぎゅっと引き寄せた。





 次の日。

「は......!?」

 朝__いや正確には夕方起きると、俺の枕元に悪魔がいた。
 悪魔って言い方はおかしいな。シアンは悪魔だから。ただ......いつものこいつと違っていた。

「シルフくぅん?いたずらしちゃうぞ」

「!?!?!?」

 赤い髪の毛、黄色い瞳、大きな尖った耳。ここまでは同じだ。でも......
 額の上の方の髪の毛の合間からはにゅっと角が飛び出ていた。よく見ると目には黒いラインを引いてるのか......?俺は化粧には詳しくない。服はいつもと変わらないが......腰の下、尻のあたりから伸びているのは尻尾。付け根から細く黒いのが出ていて、その先は矢印の形が付いている。その尻尾がさっきから、つんつんと俺の顔をつついていた。

「お......お前、ほんとうの姿はそれ......」

「寝ぼけるな~!」

 ぎゅーっと頬を伸ばされ、やっと目が覚めると昨日説明されたあれに思い立った。あぁ、ハロウィーンなんだ。よく見ると背中にもコウモリを模した小さな翼が生えている。翼をばさばさとやりながら、悪魔ごっこをする姿は、か、かわいい......俺はそれが表情に出てしまわないよう耐えた。
 お前は本物なのに......人外でも仮装するのか。
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