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本編

小さく可愛いものには決まって棘がある #3

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 オレたちの上司ポロロッカ様は、得意げにふんぞり返っている。
 そんな得意げに「解決だ!」って言われてもね。でもなんだろう、シルフはさっきからなんかソワソワしている。

「ロロ、こいつとさっき出掛けてたのもその件?」

 そうだよとロロは言った。

「この話真っ先にするはずだったのに、なんだか賑やかそうだったからさ」

 すみませんとオルノが謝った。自分の上司でもないのに妙に丁寧だ。

「実は、この街で5件も起きてる吸血鬼騒動の犯人が特定できたの」

 えっ、とオレとオルノが声を揃える。やだな、同じ反応して。シルフは驚いていないようだ。それどころか更に表情を暗くしている。珍しい。

「ずっとブラックリストに載ってる奴だった。まぁそうか、って感じ。資料は可愛子ちゃんたちのお家から」

 さっきまで出掛けていたのは、可愛子ちゃん__リナリアとミュゲの2人が守っている家だったのか。そこはうちで集めている人外の資料がみんな収められている。大きな書斎があるのだ。
 ロロは持ってきたらしいファイルを広げた。いきなり犯人だという男__吸血鬼の画像が貼ってあるページが開かれた。大柄な体躯だ。大きいといってもシルフやオルノのそれとは違う。この双子はシュッと背が高いモデルのような体型なのだ。この犯人の方は......背はもちろん高いのだろうが、横にも大きい。がっしりとした筋肉質の身体に太い手足。血を吸って殺すというより、捻り潰されそうだ。おまけに凶悪犯の手本のような面構え。

「えっ、オレたちコレ相手にすんの?」

 シルフはともかくオレは勘弁して欲しいな......横を見るとしかし、シルフはもはや具合の悪そうな顔色になっている。本当にどうした。

「あのさ、シルフ大丈夫?......ロロ、どういうことなのこれ」

 ロロは何か知っているに違いない。シルフと何かあるんだろ、この犯人。それなのに仕事任せて平気か?
 すると、ロロやシルフが答えるより前に、ずっと静かにしていたオルノが口を開いた。

「こいつ、昔の僕たちを知ってる奴だよ」

 ぽつり。温度のない声のオルノというのは見たことがない。昔の。どういうこと?それはいつだ?2人とも、吸血鬼に成ってまだそう経っていないはずだ。昔なら、成る前か。オレはその頃の話を殆ど知らない。

「シルフは子供の時に、この吸血鬼に殺されかけているんだ」

 だから今日、資料を見に行ったのよ。ロロは眉根を寄せ、少し悲しそうな顔をした。まずリナリアとミュゲが気づいて、知らせてくれたそうだ。疑わしかったので、シルフ本人に見せると、明らかに動揺し始めた。

「間違いなく、昔見た顔だった」

 シルフは青い顔で、ちらっとオレの顔を見た。殺されかけたのなら、そのトラウマは相当だよな。そのとき死んでいたら、シルフは今ここにはいない。
 __心配そうにシルフを見つめている。シアンは気づかなかったが、オルノが後ろからじっと見ていた。




「なぁ、あいつ逃げられないって」

「黙りなさいオルノ」

 薄暗い。牢屋のような、動物の檻のような部屋に人影がふたつ。1人はまだ小柄な人間の少年。オルノと呼ばれ、きゅっと口をつぐむ。もう1人は、部屋の影になって男か女か、子供か大人かも判然としない。少年オルノと同じか、もう少し小柄で、静かに床で膝を抱えている。教師のような口調でオルノを諌めた声も、年齢や性別が分かりづらい。
 オルノは不安をいっぱいに浮かべて、窓に近づき外を覗いた。月明かりで僅かに照らされた景色が見えた。ちょうど、オルノとよく似た背格好の少年が走ってきたところだ。
 タッタッタ、駆け足で路地を駆けていく後ろ姿を窓から見下ろす。その後ろから、大柄な人影がそれを上回るスピードで追いかけ、みるみる距離を縮めていく。
 オルノはヒッ...と息を飲んで、部屋を振り返った。

「お願いだよ、僕も......」

「駄目よ。それではこっそり逃した意味がなくなるわ」

 床に座る、ひんやり冷えた横顔を見つめる。暗くて顔はほとんど見えない。

「あっ......」

 窓の下では、今まさに追いつかれた自分の弟が、大柄な男に身体を持ち上げられているところだった。

「ねぇ、死んじゃう......!」

 ほとんど悲鳴のよう。オルノが上げた声に、部屋の奥の人影は首を振った。

「私にはこれしかできない。......あとは希望が湧くのを、祈るだけよ」

「ねぇって......!」

 __希望ってなんだよ。淡々とした声に、少年オルノの顔は絶望に染まった。




「という訳で、過去の敵とケジメをつけたいシルフくんと、囮役のシアンで今回やって貰いまーす」

「え、オレ囮なの?」

 ケジメをつけたい......お前はヤクザかなんかか、という突っ込みは置いておく。

「事件の被害者を見てよ。全員、少年なの。いわゆるショタを標的とした犯行ね」

 成る程、確かにこれまで報道された被害者はどれも、小中学生と言える年齢の、しかも男子だ。えー、だからってオレは子供じゃないし。文句を言いたい。

「囮作戦で誘き寄せるのは百歩譲っていいとして、オレじゃない方がいいだろ」

 ミュゲとかリナとか......そっちの方が美少年の条件に合うだろう。

「だめよ。あの子たちだと本当に危ない。この中で一番小柄なのはあんただし」

 うーん。確かにシルフは背丈が少年のそれを越している。

「血なら吸われ慣れてるでしょ」

 や、それシルフの前で言ってもいいの?隣を向くとシルフはなんでもない顔だ。こ、こういうときに......。

「......ハイ、ワカリマシタ」

 危なくなったら、助けてくれよ?いつも囮なんだから......
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