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本編

明らかに置いといたのが悪いけども #1

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 ......眠れねーなぁ。
 現在の時間は午前10時。夜が明けるまでシルフと出掛けていたものだから、この時間になっている。シルフは太陽が出ていると生きにくい、そんな奴だから......だからオレまでそれに合わせて朝、日が昇ってからベッドに入っている訳だが。
 眩しい......。
 あいつの、窓がなく陽の差さない部屋とは違い、オレの部屋には窓がある。晴れた午前の陽光は眩しく、外を往来する人々の声もがやがやと聴こえて、寝付こうにも寝付けない。血の様な赤毛をぐしゃぐしゃと掻き混ぜ、目に手の甲で蓋をするが、一向に効き目はない。
 シルフの部屋を突撃するのが一番かな。
 うん、そうしよう。あいつは今もうぐっすり眠っているだろうし、気づかれず横で寝て、起きたらびっくりして慌ててる姿が見れるだろなぁ。
 思い立ったところで早速廊下に出ると、向かいの扉をそっと開けた。昼間なのに暗いこと。入り口から差す光が届かない所はもう、手探りでしか判らない。シルフが深い眠りについているのを確認して同じ布団に潜り込み、ふと喉が渇いたなと手探りで水差しを探す。ほどなくして小さめの瓶の様なものに手が触れた。軽く振ってみると水音がする。ラムネ瓶のような形だ。中身なんだろ。......ま、良いや、暗くてだんだん眠くなってきたし......これ飲んで寝よ。しっかしほんと体温低いなこいつ。温まってると思ったのに布団。オレが後ろから抱きつくと、少し身じろぎをした。ほどなくして寝息は2人分になった。




 ......ん?
 現在の時間は午後4時。日が傾いてきた気配を感じ、俺はぱちりと目を開ける。
 まずぽかぽかと暖かいのだ。ふだんの俺は体温が低く、シアンに言わせれば「夏は冷房より効く」のだそうだ。布団をどけて半身を起こそうとすると、布団が反対方向に引っ張られた。何者かに邪魔されている?そして横を見て、ぎょっとした。

「だっ......誰?」

 布団を離すまいとしている小さな手と、ほぼ埋もれて見えない小さな頭。俺の服まで掴んで引っ付き、大胆にもすぅすぅ寝ている。
 部屋が暗いため色は判りづらいが、よくよく見ると頭は赤毛。赤......寝覚めにも拘らず意識がはっきりしてしまう。ごく近くにこんな赤毛の奴がいたなぁ。髪質もそう、こんな具合に細くて柔らかくて寝起きはぐしゃぐしゃになってて...。
 まさか......!
 シアンには隠し子が......!?いやいやあいつに限ってそんな。布団を少しめくり、小さな顔を覗く。どう見ても子供。手や頭の大きさから考えるに7、8歳くらいだろうか。髪で顔も大半が隠れてしまっているので、髪を指で掬い上げる。閉じた瞼。大きな目が隠されていそうなそれは、長い赤みがかった睫毛で縁取られ、その上の眉毛も暗めの赤色。白い頬は普段見るあいつのよりすべすべしてぷっくりしている。鼻も口も小さくて、唇は薄い桃色。今は半開きで、呼吸と共に時折少し尖った犬歯がのぞく。口元は涎が垂れて、それを辿って首元を見ると......駄目だ、あいつの血を飲んでいる時を思い出してしまう。いやでもなぜ。この子はシアンじゃないだ......ろ......?
 子供が着ているシャツの襟に見覚えがある。シアンが寝る時よく着ていた...しかもどう見てもぶかぶか。寝台横の小さな机を見遣る。とそこにはラムネの瓶。しかし中身は炭酸飲料ではない。昨日の依頼者から引き取った、毒ではないが絶対に飲んではいけないと忠告された液体入りのその瓶の蓋が開いていて、しかも雑に転がっている。
 ......飲みやがった、こいつ。
 
「う......ん」

 あ!!ついに子供__薬でどうにかなってしまったシアンだと思われる__がむにゃむにゃ言って、目を擦り始めた。

「んー」

 薄っすらと目を開ける。かと思うとまた閉じ......しぱしぱ瞬きをして、完全に目を開けた。
 掴んだままの俺の服を辿って、視線が上に移動する。カチリ、目が合った。黄色い縦に裂けた瞳孔の瞳。あいつと全く同じだ。

「あ!驚いた!?」

 ......はい?

「慌てるかなって思ってぇ、オレシルフの隣に寝にきたの」

 驚いたといえば驚いてるけど、それはお前が隣で寝てるからじゃなくて......。

「ていうかオレなんで声高いの?ヘリウムガス吸ったっけ?」

 ヘリウムガスじゃなくて、飲んではいけないラムネ飲料だ。声まで幼くなって......。

「シアン......鏡」

「えええええええええっ!?」




「なんだよこれ!?オレどうなってんの?」

 本人はしきりに慌てている。

「はわぁぁあ......可愛いぃぃ」

 ポロロッカさんは目がハートだ。

「ポロロッカさん......俺が一番困ってるんですが」

 預けられた品物を空にされてしまった俺。

 叫び声に飛んできたポロロッカさんはさっきからひたすらシアンを愛でている。一応俺の部屋なんだし、少しは住人の部屋に入るのを躊躇ってくれないかな......。小さくなってしまったシアンは、どうやら中身の年齢までは変わらないようで、小さな自分の手を見て驚いたり、周りの大人の大きさに驚いたりしている。ぶかぶかの袖を振っている。......自然、頬が緩んでしまう。

「ねぇもっかい鏡見せて鏡」

「いいよほら見て」

 甥っ子に甘い叔母のようになって鏡を渡すポロロッカさん。

「......えっ、もうオレこのままで良いじゃん、すげえ可愛い」

 調子がいいことこの上ない。声はいつもの、顔にしちゃちょっと低めの聞き慣れたものじゃなく、性別の区別がつかないような、高くて澄んだ声。確かにその、可愛いはかわ、いいん、だけど......。
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